バイク呉服屋の忙しい日々

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十年先の呉服屋は、どうなっているのか  危惧される職人仕事の継承

2019.05 14

早いもので、このコラムブログもこの5月で、8年目を迎えます。53歳から書き始めた私は、今年で還暦。この7年の間、呉服屋としての自分の仕事に大きな変化はほとんどなく、淡々と時間が過ぎてきたような気がします。

地方の小さな呉服屋が、毎回必要以上に長い文面で書く雑文。それは特別なことではなく、題材は、毎日の仕事の中にあります。つまりは、「リアルな呉服屋の日常」と言うべきものでしょう。

そんなとりとめのない、このページを訪ねて来られた方は、昨日現在で、90万人を越えています。ブログ上には掲載していませんが、記事の購読数は、約142万。これは当初、まったく予想していなかった数なので、もちろん嬉しく有難いことではありますが、正直なところ少し当惑しております。

 

私がこのブログを始めたきっかけは、呉服屋の仕事とは何かを、とにかく多くの人に伝えたかったからです。読まれた方が、「何をしているのか」を知ることで、和装に関心を持って頂いたり、理解を深めて頂く。これが、このブログを書く目的の「全て」なのです。

文章を書くことは、あまり苦にしませんが、文才がある訳ではないので、不調法なところが多々あり、読者の方々には、さぞご迷惑をおかけしていることでしょう。けれども、当初より更新回数は減りましたが、私の「伝えたい気持ち」は変わることなく、何とか7年間、ブログを維持することが出来ました。

そこで節目にあたる今日は、残り時間が少なくなってきた私の呉服屋としての仕事が、これからどのようになっていくのかを、お話してみようと思います。漠然としたテーマなので、まとまりが付かないかもしれませんが、その点はお許し下さい。

 

今日のウインド。鶸色葡萄模様・絽小紋、薄ピンク縞・夏牛首紬、水色桔梗模様・絹紅梅、菜の花色鉄線に兎模様・麻九寸染帯。浴衣は、瓢箪柄の褐色コーマ、雪輪に波千鳥とほおずき柄の綿紬二点。浴衣に合わせた帯は、ミンサー綿半巾帯。

竺仙の浴衣や博多・琉球の半巾帯が、店内で巾を利かせています。

店内の小ウインドは、小千谷の絣縮と型染めの絽麻帯

昨日、薄物へと衣替えをしたので、店内はすっかり夏らしくなりました。

 

最近、家内とよく話すことは、何歳まで呉服屋を続けるかということ。私としては、とりあえず70歳までは、何とか今のスタイルのまま仕事を続けたいと考えています。無論、大きな病気を患うことなく、健康を維持することが条件となるでしょうが。

とすると、残り時間は10年余り。なぜ70歳か、それは後継者が無いので、店を閉じる準備をする必要が生じるから。長い間続けてきた商いを仕舞うというのは、予想以上に労力が掛かり、体力も消耗します。お付き合いを頂いているお客様、取引先、仕事を請け負ってもらっている職人の方々。この誰にも迷惑をかけないように、店を閉めることは、やはり大変なことだと思います。時間も最低2~3年はかかるでしょう。

この「暖簾をたたむための時間」を考慮に入れると、完全に仕事を終えるのが、75歳頃。人間、元気であれば年齢に関係なく働けますが、私はあまり仕事に執着したくありません。引き際を自分で弁えなければ、年老いて思わぬ間違いを起こすことになりかねません。やはり、「終わり良ければ、全て良し」だと思います。

 

そして10年と時間を区切ったことには、理由があります。それは、呉服屋を続けるために必要な環境が、10年先に見通せなくなると見込まれること。これは、需要が無くなるという懸念ではありません。私は、どんな時代になっても、良質な品物を求める消費者や、手直しを依頼される方がいなくなるとは思いません。むしろこだわりを持って、和装を嗜まれる方は増えてくる気がします。

では、商いの継続を阻害する要因とは何でしょう。一つは、良質な品物が生まれなくなること。もう一つは、加工(縫い手である和裁士や、直し手である補正職人など)に関わる職人がいなくなること。呉服屋の仕事の両輪とも言うべき、この二つが消えることは、致命的です。これを考えれば、たとえ受け継ぐ者がいたとしても、簡単に「後を継げ」などとは言えません。

 

今年2月、長い間うちの主力取引先となっていたメーカー問屋・菱一が店を閉めました。この廃業に象徴されるように、モノ作りの環境は年々悪化し、質の良い品物や個性的な品物が、市場に出てこなくなっています。

染モノにせよ織物にせよ、商品となるまでに多くの人の手がかかります。分業であるから、どこか一つの工程で技術者がいなくなれば、たちまち行き詰ってしまいます。需要の後退による生産量の減少は、職人の仕事を減らし、ついには生活が成り立たなくなります。これでは、誰かに自分の技術を託して、仕事を繋げようとは、決して思わないでしょう。

 

そして、加工職人。構図は作り手職人と同じです。和裁士を例にとれば、安価な海外やミシン縫製が蔓延したことで、仕事が無くなり、技術はあってもそれを生かす場所がありません。また、手直しに対する意識の低い店の増加は、直し仕事の減少にも繋がっています。加工の仕事内容こそ、呉服屋が消費者に知らしめるべきことと思いますが、一向に省みられる気配がありません。

うちの仕事を請け負っている和裁士は、三人。年齢は私より7、8歳下なので、50代前半。あと10年経つと、65歳に近くなります。彼女たちに話を聞くと、どうやら70歳頃までには、仕事に目途を付けたいようです。

補正職人のぬりやのおやじさんは、今70歳半ば。あと10年経てば、85歳くらいになります。それまで頑張って頂きたいが、どうなるのでしょう。紋章上絵師の西さんは、現在65歳なので70代半ばとなりますが、仕事は続けているでしょうか。洗張り職人の太田屋・加藤くんは、10年経っても60歳そこそこなので、何とか大丈夫でしょう。

つまりうちの職人さん達も、10年経つと、私と同じように、自分の仕事を仕舞う年齢に差し掛かってきます。そして、それぞれの仕事に後継者は育っておらず、次の時代の担い手はいません。だから、もし私に後継者がいたとしても、先の時代に職人を探すことは容易なことではないのです。

 

質にこだわった品物を供給することと、誂えの名に相応しい加工を施すことは、伝統衣装の名に恥じぬ和装文化を継承することと同義で、絶対に欠かすことは出来ません。しかし現状では、最も大切な「後継者の育成」には、何の手も打たれていません。

もちろん、良識のある業界関係者は、「このままでは、大変なことになる」と認識されてはいますが、もはや誰もが「手の打ちようもなく」、ただ時間だけが過ぎています。

 

諸々のことを考えてみると、今のように、「何とか専門店らしく店が構えていられる」のが、10年程度と私は見込んでいます。それが自分の年齢ともリンクして、店を閉じる時期を70~75歳と想定出来るのです。

先ほど、上質な品物を求める方と、手直しをしながら大切に品物を扱おうと考える方は、時代が進んでも無くならないと書きました。仕事を求める消費者がいるというのに、請け負う職人や店が無くなれば、結果としてお客様を路頭に迷わせることになってしまいます。これは、何としても避けなければなりません。

今、うちの店にお見えになっている若い方々に対して、将来に不安を持たせてはならないのですが、一体どうしたら良いのでしょう。本来ならば、うちの近くに信頼のおける店があり、そこを紹介して後を託すのがベスト。けれども今現在、県内にそんな店は見当たらないし、そもそも前述したように職人が育っていないので、根本的に無理があります。

 

そこで必要となるのが、良質な品物を求める消費者に対して、作り手と直接取引出来るシステムの構築。さらにお客様個人が、直接和裁士に誂えを依頼できたり、補正職人に手直しを求めることが出来る環境作り。無論、ITの力を借りなければならないでしょうが、問屋や小売を通さないことは、前提になるのでしょう。

人とモノを繋いできた呉服専門店や問屋の役割は、時代と共に終わってしまうかも知れません。けれども、最終的には、作り手と着手が残れば良い訳で、介在者はただ消えるのみだと思います。

呉服屋として堂々と看板を掲げているのは、品物の質や、加工を理解しない店ばかり。そんな時代が、10年先に訪れるのではないかと、危惧しています。もしかしたら、「良いモノが欲しければ、リサイクル店へ走れ」となっているかも知れませんね。

10年経って、この稿を読んだ時に、こんな私の懸念が外れていることを、切に願いたいです。ブログ8年目を迎える節目の稿が、不安を煽るような内容になってしまい、読者の皆様には申し訳なく思っています。ただそれは、現状に対する私の率直な思いであり、危機感を抱いていることを、知って頂きたかった。そこをご理解頂ければ、有難いです。

 

このブログの冒頭には、「モノを作る職人とモノを直す職人、その心意気を伝えたい」と記してあります。

職人がいなくなれば、私が紹介出来る品物も、手直しの方法も、無くなってしまいます。つまり、「伝えようが無い」ということになります。その時こそ、私が仕事に見切りを付ける時なのでしょう。今は、そんな日がすぐにやって来ないことを、願うばかりです。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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