バイク呉服屋の忙しい日々

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2023年・卯の年を送るにあたり

2023.12 28

もうここ何年も、一年の仕事を終える日は28日と決まっている。毎年この日を目途に、納品や売掛金の回収を終え、大掃除を済まそうと計画を立てるが、師走の仕事は年々前倒しになる傾向があり、それほど慌ただしくはならない。

こうして締めくくりのブログ稿を書いていると、今年も変わることなく暖簾をかけて商いが出来たことに、感慨を覚える。年の終わり、職人と取引先へ支払いを済ませると、手元にはほとんど残らない。ある程度儲けが出ていれば、自分で自分に「賞与」を出すこともできるのだが、そんなモノを貰った試しはほとんど無い。毎年末の収支がほぼトントンということは、自分の身の丈にあった商いをして、利益は思うように出ないながらも、一年の生活は何とか出来ていることになる。

「無事是名馬」という言葉があるが、派手な商いは出来ずとも、自分のポリシーを変えずに、自分らしい商いを続けられるなら、それだけでもう十分。だがこれは、仕事を依頼される方がおられて、初めて出来ることである。無事一年を終えるに当たり、今年お声を掛けて頂いたお客様方には、改めて感謝を申し上げたい。

 

さて28日は、官公庁の仕事終わり・御用納めの日でもある。江戸時代、幕府や宮中の仕事を「御用」と称したことから、公の仕事終わりにこの名前が付いた。現在、暮れの28日から新年3日までと決まっている公務員の休みだが、調べてみると、この休暇日程の規定は相当古い。1873(明治6)年・1月7日に発令された、太政官布告第二号「休暇日ヲ定ム」がこれに当たる。この年は、暦が旧暦から新暦へと変更されたが、新政府はそれに伴い、休日や祭日の指定を新たに行ったのである。

江戸時代、庶民から「お上」と称されていた役所や役人。そこから受ける仕事が御用であり、役人に取り入って仕事を貰い受ける者を「御用商人」と呼んだ。今でも、政府や政権与党に食い込んで仕事をする事業者には、この名称を付ける。さらに、御用には警察という意味もある。よく時代劇では、「御用だ御用だ」と連呼して犯人を追い詰める場面を見かけるが、これは、「警察だ警察だ」とアピールしているのだ。これも、警察=お上という発想から来ている。

 

年の暮れだというのに、連日「御用」になりそうな政治家のことが、報道されている。それもついこの間まで、政権の中枢にいて我が世の春を謳歌していた「元首相の派閥幹部」ばかり。まさに、奢れる者久しからず。今年の世相を表す漢字は「税」であるが、国民には防衛費を増やすための増税や、インボイス制度の導入を始めとする税の厳格化を求めながら、政治家たちは、「御用商人」に売ったパーティ券代を懐に入れて、私腹を肥やす。そして連中は、もしかすると「脱税」をしているかも知れぬ。もう本当に、こういう連中は片っ端から「お縄」になって頂きたい。

怒りは尽きないが、これが最後のブログ稿ではあまりにもつまらない。例年では、その年の干支をテーマにした内容で一年を締めくくっているが、今年もこれに倣い、これからうさぎをモチーフにした文様をご覧頂きながら、楽しくブログ納めをしたいと思う。

 

(三つ兎文様 九寸織名古屋帯)

干支に採用されている12種の動物のうち、兎は最も愛らしい。そして兎にまつわる言い伝えも多く、様々なモチーフを組み合わせて、古くから意匠化されてきた。そもそも兎のイメージは穏やかで優しいので、写実的に描いても、また図案化されても、その姿は絵になる。動物文様の中では、おそらく一番使い勝手の良い素材であろう。

月に兎が棲む伝説から、秋草と組み合わせて仲秋を意識した模様にしたり、出雲神話に登場する白兎が海を走って渡ることから、波と一緒に描かれたりもする。そして、兎は子を沢山産むので、子孫繁栄や豊かさを象徴する動物として、縁起文としての意味合いも持っている。

三匹の兎が肩を寄せ合い、ひそひそ話をしているかのような、三つ兎文様。同じ図案が、和泉流狂言方の野村万蔵家の子方肩衣(かたぎぬ)にみられるので、おそらくこの帯は、ここから題材を得ていると思われる。なお肩衣とは、肩が張った袖の無い上着のことで、狂言の代表的な装束。そして子方とあるので、これは子どもの衣装にあしらわれた図案。なるほど、子役にふさわしい可愛い兎さんの姿になっている。

菊の飛び柄小紋とのコーディネート。帯の前姿は、上目使いで見つめる一匹の兎。赤い小物を使いたくなるのは、特徴的な赤い目のせい。(2021.9.26の稿より)

 

(円盤兎模様 綴れ袋帯)

何と表現してよいか解らないほど、図案された兎。砂子地の綴れ帯に織り出されたのは、円盤に乗っているかのような兎。星空の下で飛ぶのは、兎が操縦する未確認飛行物体。宇宙がイメージされているのは、やはり月に棲むという伝説からだろうか。

横並びの円盤兎。これほどユニークな兎図案は、あまりお目にかからない。しかも品物は、機械機ながらも綴れの袋帯。柄行きからフォーマルには使い難いが、さりとてこの形式だとカジュアルでも難しい。唯一使えるのは、パーティ着的なキモノだろうか。肩の凝らない集まりなら、この兎さんの帯姿は受けるはず。

個性的な連続菊模様小紋とのコーディネート。最初の三つ兎同様、菊キモノとのコラボだが、これでも少し秋への意識がある。

図案化された大菊の飛び小紋とのコーディネート。上下四機ずつ並ぶ兎円盤は、優しい色のキモノにもよく合う。(2020.10.26の稿より)

 

(兎梅花模様 九寸染名古屋帯)

丸い体の兎は、それ自体が図案の輪郭として使われることもある。この帯は、五匹の兎を梅の花びらに見立ててあしらわれている。兎の赤い目を花の蕊に使うところなど、作り手の発想の豊かさを感じさせ、とてもセンスの良いデザインになっている。二つのモチーフを組み合わせ、一つの模様を表現する「複合文」は、否応なく目を惹く。

黒い地から、くっきりと浮かび上がる兎梅花。兎の体は白と金で、目が赤。配色が絶妙で、模様からはどことなく目出度さも感じられる。年初めの装いとして、締めたい帯。

小花の丸刺繍の飛び柄小紋とのコーディネート。優しい兎柄は、可愛いピンク系のキモノと相性が良い。ここでも帯〆は赤。(2022.1.30の稿より)

 

偶然かもしれないが、三点の兎模様の帯に合わせたキモノは、いずれも小紋である。そしてこの兎コーディネートの稿は、コロナ禍に見舞われていた、ここ三年の間に記したもの。今にして思えば、可愛い兎文で、少しでも明るい気分になるようにと、選んだ品物だったのだろう。

こうして各々の兎の姿を見ると、いずれも兎の愛らしさが存分に図案に生かされている。どれも大変個性的であり、同時に微笑ましい模様。特に、小紋のようなカジュアルモノでは、合わせる帯次第で、かなり雰囲気が変わってくる。デザイン性の優れた帯は、必ず見る者の目を惹く。それは同時に、装う方のセンスの良さを感じさせる瞬間でもある。

兎の年は終わってしまうが、兎柄は、いつでも店先に飾りたくなるモチーフの一つ。近頃は、かなり品物を探し難くなっているのだが、思わず笑顔になるような、そんな可愛いうさぎさんの品物を、またいつかご紹介出来たらと思っている。

 

さて、今年も月に4回・計48回のブログ稿を、無事に書き終えることが出来ました。同じペースで同じ量の原稿を書くというのは、まずは健康でなければ実現できません。そして、話のテーマになるような仕事を頂戴しなければ、ネタが切れてしまい、行き詰ってしまいます。

けれども、おかげさまで元気に一年を過ごすことが出来、そして、皆様に紹介したくなるような、誂えや悉皆の仕事を幾つも請け負うことが出来ました。毎年同じことが、同じように出来ることは、本当に感謝すべきことです。関りを頂いた皆様には、この場を借りてお礼を申し上げます。

そして幸いなことに、私を支えてくれる職人さんたちは、今年も変わりなく仕事をこなしてくれました。年齢的には、私と同年代かそれ以上の方ばかりなので、一年ごとが勝負になります。ただ一人でも欠けてしまえば、うちの仕事に大きな影響が及ぶことは間違いなく、職人さんの存在そのものが、この先の店のあり方を左右すると言っても、言い過ぎではないでしょう。

 

来年のことを言えば、鬼が笑うかもしれませんが、私自身は変わりなく、そして淡々と仕事をしつつ、また自然に年の暮れが迎えられるよう、頑張っていきたいと思います。最後になりましたが、今年店にいらした方、そしてお宅へお邪魔をさせて頂いた方、さらに拙いブログを読んで下さった全ての方々、本当にありがとうございました。来る辰の年も、どうぞよろしくお願い致します。どうか皆様、良い年をお迎えください。

なお来年の営業は、8日・月曜日頃から始める予定です。ブログの更新も、その辺りを考えております。なお、年末年始に際して、頂いたメールの返事が少し遅れてしまうことを、何卒お許しください。今年も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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