バイク呉服屋の忙しい日々

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娘たちが選んだ浴衣  三人三様、それぞれの夏姿

2020.07 09

「カエルの子は、カエル」とよく言われるが、今でも、親と同じ職業を選ぶ子供は結構いるように思う。特に目立つのが政治家。現在衆参両院の議員世襲率は、優に過半数を超えている。議員になるために必要な三つの条件、「地盤・看板・鞄」が最初から備わっているのだから、やはり恵まれている。もしかすると、政治家としての当人の資質に関わりなく、親の代からの支援者に求められれば、継がずにはおられないというケースもあるのだろうか。能力のある者なら良いが、そうでなければ、これは勘弁願いたい。

スポーツや芸能の世界でも、二世や三世の存在は目立つが、実力の世界なので、政治家のような親の威光はまったく通用しない。そのため、大成しないまま終わる者も多い。親が偉大であればあるほど、比較される。だから安易に同じ道を歩くと、後悔することにもなりかねない。

 

その昔商家でも、子どもが家の跡を継ぐことは当たり前だった。当主である親は、子どもの資質を考えながら、後継者を決める。最初から長男と決めることも多いが、あえて男の子には家を取らせず、女の子に婿を選んで跡継ぎにするケースもあった。商家には不文律の家訓があり、それに従って大切な後継者を選んでいた。商いを継続するため、そして一家の繁栄を維持するためには、きちんとした跡継ぎを育てなければならない。これは当主に課せられた、最も重要な任務だった。

この「家の後継問題」は、家父長制度が深く関わっていたと考えられるが、戦後は次第にそれが薄れ、現代のように家よりも個人が尊重される時代になるにつれ、完全に変容した。子どもの未来は、子ども自身が決めることが、当たり前。親が決めることなど、何一つない。また、口を出してはいけない時代になったとも思える。

 

我が家にも、三人の女の子がいた(皆、社会人として家から離れて働いているので、過去形になる)のだが、家業に目を留める者は、誰もいなかった。うちの場合は徹底しており、就活の時さえ何の関心も示さない。もちろん、それぞれに就きたい仕事があったので、それはそれで結構なことである。

手前みそにはなるが、我が家の人間関係は非常に良好で、私や家内と娘たち三人の仲は良い方だと思う。だが親の仕事に関心を持つか否かは、別の話だ。そして彼女らに、家を継ぐとか、家を守るという意識はほとんどない。このような経過を辿っているので、この先誰かが、帰ってきて呉服屋を継ぐことはほぼ絶望的、と言っても良かろう。

昔なら、跡継ぎを作れなかった当主(バイク呉服屋)の責任は重大であり、世間から咎めを受けていただろう。けれども、今は令和の時代である。多くの人が、「仕方がない」と許してくれると思う。

 

さて、後は継がない娘たちではあるが、キモノを着ることは嫌いではないらしい。そして、「門前の小僧、習わぬ経を読む」のたとえの通り、教えもしないのに、ある程度質の良し悪しを理解し、コーディネートにも自分らしさを出そうとする。

今日は、そんな三人の娘が選んだ浴衣姿をご紹介しよう。それぞれの個性に合わせて、品物をどのようにコーディネートしているのか、ご覧頂くことにする。

 

三姉妹の浴衣姿。画像左から、長女・次女・三女。浴衣はすべて、竺仙の品物。

ブログで紹介してきた「娘たちのキモノ」シリーズ。七歳祝着・振袖・小紋に次ぎ、今回で四回目となる。これまで娘たちが着用してきた品物は、ほとんどが古い品を手直ししたモノだったが、今回は、全て新しく誂えている。私としても、浴衣くらいなら、新しく作っても許せる。

 

それぞれの娘が、何を選ぶか。それはまず、家内がコーディネーターとなって、気に入りそうな品物を選ぶところから始まる。彼女は、娘の好みを理解しており、そこに各々の顔立ちや体形を考えつつ、どのような着姿にすれば良いかを考えていく。

そして、一人ずつ浴衣と帯の組み合わせを数パターン用意し、画像をスマホで送る。もとより三人とも離れて暮らしており、会う機会も限られているので、実際に品物を見て選ぶことは、難しい。うちでは、お客様との商いは必ず対面だが、娘の品物となると、「リモート」になってしまう。

ただ娘たちも、店で扱っている品物の質は理解しているので、画像だけで判断できる。そして、母親のセンスも認めているので、送られてきた品物の中から十分選ぶことが出来る。では、それぞれにどんな着姿になったか。長女の姿から、ご紹介しよう。

 

(浴衣:藍地コーマ・揚羽蝶模様 帯:水色と白無地・リバーシブル麻半巾帯)

三人の身長は、いずれも163~4cmくらいで変わらないが、長女が一番華奢で線が細い。洋服でも、ビビッドな色とシンプルな図案を好むが、その傾向がこの浴衣と帯にも表れている。

浴衣には珍しい揚羽蝶模様だが、上背があるので、このくらい一つ一つの図案が大きい方が着映えがする。爽やかな藍地に、白く抜いた蝶。色を挿さない浴衣は、よりシンプルで涼やかに見える。生地は、最もポピュラーなコーマを使っている。

帯は、優しい水色の麻無地。浴衣が藍なので、同系の柔らかい帯色を使うと、着姿全体も和らぐ。この麻半巾帯は、表が水色で裏が白地のリバーシブル仕様。こうして結んだ姿を見ると、少し覗いた裏の白がアクセントになっている。

全体を紺や青だけでまとめると、夏らしさの中にも落ち着きが見られる。藍に白抜きや紺に白抜き、また逆の、白地に藍や紺抜きの浴衣は、合わせる帯により印象がかなり変わる。伝統的な浴衣は、着用する人の年齢や好みに合わせて、バリエーションが付けやすいと言えよう。

蛇足だが画像をよく見ると、浴衣の色とリンクした水色のぺディキュアを塗っている。「コガネムシみたいな変な色」と長女に言ったら、「別にいいでしょ」と怒られてしまった。こうした趣味は、とても私には理解できない。

 

(浴衣:生成色綿紬・クローバーに蜻蛉模様 帯:ピンク色無地暈し・麻半巾帯)

次女も細身だが、顔が割とふくよかなので、ギスギスした印象を受けない。濃い地色もパステル系の色も、彼女は上手く着こなす。色白なので、こうした生成地色を使うと、なお優しく見える。

モチーフは大きなクローバーと蜻蛉。配色も淡く、暈しを多用しているため、全体的にふんわりとした着姿になっている。長女の姿はキリリとしているが、次女の姿には女の子らしさが出ている。

帯は、長女と同じ麻半巾だが、こちらは暈しが入っていて両面同じ。通常より少し広い帯巾(4寸3分)には、若々しく見せる効果がある。クローバー配色の中のピンクを、帯色に使う。着姿として、一番可愛くなる色を選んでいるところが、次女らしい。

大学に入ってまもなく、この娘はピアス用の穴を耳に開けた。その時「親に貰った大切な体に、勝手に穴なんぞ開けて」と嗜めると、「ほっとけ」と一喝されてしまった。一見おとなしそうに見えるが、なかなかのクセモノ。父親が苦手な数学と理科を得意とするこのリケジョには、理解不能なところが多々ある。

 

(浴衣:藍地コーマ・撫子模様 帯:山吹色・首里道屯木綿半巾帯)

末っ子は、長年スポーツで体を鍛えているので、肩幅が広くガッチリとした体格。身長は二人の姉とほぼ同じだが、胸元が広いだけに衿がピタリと収まり、恰好が良い着姿に映っている。

選んだ浴衣は長女と同じ、藍コーマの白抜き。図案も大きめな撫子だけのシンプルなもの。すっきりとした姿になるのは、先の蝶模様と同様。ということは、合わせる帯が重要になる。

藍色と相性の良い黄色を使うと、着姿が引き締まり、若さも出せる。同じ藍白抜きでも、長女のように同系色でまとめた姿とは、まったく雰囲気が異なる。撫子柄の浴衣なので、花の色・ピンクの帯を使っても可愛いが、末娘は体型的に黄色の方が似合う。

人当たりが良く、いわゆる愛されキャラなのだが、計画性というものがまるで身に付いていない。小さい時から机に向かうことがほとんどなく、体だけを動かし続けてきたので、考えるより先に行動に走るのは仕方ないことか。こんな野放図な性格は、どうやら私に似たらしい。

三人三様の娘たちの後姿。偶然だが、帯が信号機のように三色に分かれている。こうして三様の着姿を見てくると、色、図案ともにシンプルであっさりした品物を選んでいることが判る。特に帯は、三人とも色は違えど、ほとんど無地に近い。

長女は、同系合わせで、少し大人っぽく。次女は、浴衣配色のピンクで、可愛く。三女は、黄色い帯で引き締めて。それぞれが、自分の好みや体形に合わせて、間違いのない選択をしている。これも、最初に品物を提案した家内の力が大きい。やはり娘のことを一番理解しているのは、母親かと思う。

 

今日ご覧頂いた浴衣画像は、昨年9月初旬に椿山荘の庭で撮影したもの。三人の娘たちは、毎年揃って母の日のプレゼントを家内に贈るのだが、昨年は「椿山荘一泊ご招待」だった。家内は、この日の思い出として、みんなで浴衣を着ようと計画。庭が美しいことで知られる椿山荘だけに、三姉妹の浴衣もそれなりにきれいに写っている。

なお、父親のバイク呉服屋は、週末に店を閉めることが出来ないので、不参加だった。家内や娘たちからは、「来れば良いのに」と誘われたけれども、どうにも面倒である。一年に一度くらい、女子だけが楽しむ時間があって良いと、私は思っている。

 

うちの娘たちは、小学校まで店の上に住んでいたので、毎日品物を見て育ちました。しかし物心がついてからでも、キモノや帯について、私や家内と話をしたことはありません。もちろん今も、呉服屋の仕事については、ほぼ何も知りません。けれども、「自分が似合うモノ」は、きちんと理解しているように思います。

環境が感性を育てることは、確かにあるでしょう。人には、理屈抜きで備わる「モノの見方」があるようです。誰も後は継がなくても、娘たちには自分らしくキモノを嗜む心を、持ち続けてもらいたいものですね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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