バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

サクラ色、オールインワン(前編) 春ならではの、共色合わせを試す

2018.03 11

58歳にして初めて、花粉症を罹った。鼻水は出るわ、くしゃみは止まらないわ、喉はイガイガするわ、涙で目がくしゃくしゃするわで、もう顔中無茶苦茶である。おかげで、人相の悪さが、いっそう際立ってしまっている。

そして間が悪いことに、数日前から腰が痛い。バイク呉服屋は、もともと腰痛持ちだが、長い時間の坐り仕事が続くと、腰の蝶つがいの調子がおかしくなる。一週間ほど前に、大量の手直し品を預かり、その汚れを確認して職人に預けるために、続けて5時間以上は坐っていた。おそらく、これが原因であろう。

 

くしゃみをするたびに、腰がギクリと疼き、飛び上がるほど痛い。そして、この状態でのバイク使用は、やはり最悪である。まず、サドルにまたがって運転する、その前傾姿勢そのものが、まずい。また、交差点を曲がる時には当然腰が動き、そこでくしゃみが重なろうものなら、まさに悶絶。

長い冬が終わりに近づき、バイク仕事には良い季節になるというのに、これでは情けない。アレルギーなど自分には関係ないと、信じきっていただけに、不意打ちをくらったようで、ただ呆然とするばかりだ。

 

そんなバイク呉服屋の醜態については、ひとまず置いておき、今日は、着姿で表現される色について、注目してみたい。

キモノと帯をコーディネートするときには、まず、それぞれを引き立てるコントラストを考えながら、双方を組み合わせるのがほとんどだが、これをひと色に限定することで、こだわりの着姿とする。キモノと帯の色目に差を付けないことで、全体をひと色に染める。まさに、オールインワンと呼べるような合わせ方である。

最近、この共色合わせを、はんなりとしたサクラ春色で試みたお客様が、何人かおられた。そこでこの品物を見ながら、どのような映りになるのか、ご覧頂きたい。

 

(薄桜鼠色 小花菱・飛柄小紋  薄ベージュピンク色 小水玉模様・織名古屋帯)

このブログでも度々書いているように、バイク呉服屋は、柔らかいパステル色を好む。従って、店に置く品物の地色にも、この傾向が反映される。紅でも緑でも黄でも、色の主張を前に出さず、白を含んだ少しくぐもった色を選ぶ。一見、ぼやけて見えるものも多いが、この系統の色は着る方の顔映りを優しくすると、私は理解している。

そして、来店されるお客様も、この雰囲気を好まれる方が多い。その方々は、店に置く品物が自分の好みと合致するからこそ、やって来られる。広く薄く消費者を取り込もうとすれば、自分が好まない色目や柄行きの品物も置く必要があるだろうが、そうすると、仕入れる数が違ってくる。

自分の意に沿わぬ品物を置いて、売り先を増やすよりは、好む品物だけを置き、それに心を留めてくれる方がいてくれるだけで良しとする。もともと手元資金は青天井ではないので、仕入数は限定される。これは、小さな専門店の、自己防衛的な経営方法とも言えようが、それが店としての個性を生むことにもなる。

これから御紹介するサクラ色・オールインワンの組み合わせを選ばれた方は、30~40代の若い方。現在、この世代が、バイク呉服屋の顧客の中心となっている。

 

(小菱地紋織 薄桜鼠色 小花菱取 飛模様小紋・松寿苑)

淡い桜色に、僅かに鼠色をくぐらせたような、微妙な色。こんな色が、灰桜あるいは墨染桜と呼ぶ色になろうか。基調となる桜そのもののピンク色も、極めて薄く、ほのかに感じられる程度である。

この小紋のように、松寿苑が染め出す地色は、主張の少ない淡色系が多いため、仕入れに行くと、ツボに入る品物が必ずある。モチーフは古典模様を使い、斬新なアレンジと位置取りでモダンな姿を表現する。ここへ行くと、手持ちの資金に関係なく仕入れを起こしてしまうことがよくあるので、慎重にお付き合いをしている。

デザイン化された「小花のポット」が、対角線上に4つ並び、菱を形作る。そして、模様の真ん中には白い花弁をあしらう。これが一組となって、地を空けながら不規則に飛んでいる。挿し色は、薄グレーと萌黄だが、色の主張は無く、地色の中に埋没している。また、小菱連ねの変わり地紋を生地に使っているが、模様が極めて細かく、僅かに表面に表れるくらいであり、品物全体の表情には影響を及ぼさない。

 

(極薄ベージュピンク地 木目に小水玉模様 織九寸名古屋帯・織屋不明)

画像からは判り難いが、白地に極めて近いが、僅かながらサーモンピンクの色を含ませた微妙な色が付いている。縦にランダムに付いた織が、木目のような姿となって表れているが、他に浮き出ているのは、不揃いな水玉だけなので、帯としての主張がほとんど感じられない。

皆様には、模様を拡大した方が、ほのかなピンク色を感じて頂けると思う。生地表面の不規則な波紋も、白ではない。また、金糸で囲む小さな水玉も、それぞれには、僅かに濃淡を付けた薄サーモン色が配してある。この帯は、買い継問屋のやまくまさんから仕入れたものだが、西陣の証紙番号を確認し忘れてしまったので、実際の織屋は不明だ。

 

さて、お客様はこのキモノと帯を組み合わせて選ばれたのだが、どうなったのか、見てみよう。

仕立てる前に、二つを組み合わせた姿。どちらも、地色・模様とも限りなく控えめ。帯とキモノの間には、色の差がほとんどない。

前の合わせを見ると、主張しない品物同士の組み合わせであることが、よく判る。そして、遠目から着姿を見た時、小紋の菱図案や帯の水玉図案は、判別出来ないだろう。

キモノとして仕上がった姿。小花ポットの菱文は、星々のようにも見える。花の萌黄色が、僅かなアクセントになっているものの、やはり地の中に埋もれている。

 

このコーディネートは、キモノと帯それぞれのコントラストを考えたものではなく、双方を一体化して着姿に映すことを、コンセプトにしている。

もし、この姿を見たとしたら、キモノ・帯それぞれには目が向かず、着姿から受ける色の印象だけが残るだろう。サクラ色で染まった、オールインワンの着姿は、誰の目にも春の訪れを感じさせる。それこそが、このコーディネートを選んだ方の、最大の目的なのだ。

そして、着姿で色を感じさせると言えども、無地モノ同士を合わせる単純な姿ではない。このキモノ・帯ともに、よくよく見ればモダンで洒落た施しが見える。そこには、控えめながらしっかりとお洒落を意識した、お客様の隠れた主張をかいま見ることが出来る。

 

八掛には、小花の萌黄色を一回り明るくした若草系のぼかしを使う。着姿からチラリとこの色が覗けば、なお春の印象が強くなる。

帯〆は、やや濃いサーモン色の無地ゆるぎ紐。帯揚げは、薄クリーム地に薄橙と萌黄で配色された丸紋。(帯〆・龍工房 帯揚げ・加藤萬)

完全に着姿を、ひと色で染め上げてしまうのなら、帯〆の色は同じサーモンでも薄くし、目立たせなければ良い。だが、キモノの着姿としては、どこかにアクセントを付けなければ、ぼんやりとした印象しか残らないだろう。この少し濃い帯〆を使うからこそ、このサクラ・オールインワンの着姿イメージが、引き締まるように思える。

 

このように、キモノと帯との間に色の差を持たせず、見る人に一つの色を印象付ける「オールインワン コーディネート」は、どんな色でも可能では無いように思う。これは、品の良さと明るさを持ち合わしている「パステル系の色」だからこそ、こんな表現が出来るのでは無いか。

そして、パステル系・オールインワンは、春から初夏にかけて、着姿の色で旬を映し出す。3月のサクラ色、4月の菜の花色、5月の若葉色や空色。少し考えただけで、様々な色が思い浮かぶ。

今回の組み合わせが、少しでも皆様のコーディネートを考える時の参考になれば、嬉しく思う。なお今日の稿で、もう一つサクラ・オールインワンの組み合わせを御紹介する予定にしていたが、書いていてどうにも体調がすぐれない。あまりに変なので、熱を測ってみたところ、38度4分もある。もしかすると、花粉症ではなく、インフルなのかも知れぬ。これで明日は、病院行き確定だ。そんな訳で、この続きの稿は、次回に持ち越したい。

最後に、今日のサクラ・オールインワンの品物を、もう一度ご覧頂こう。

 

今日は、3月11日。この世の現実とはとても思えなかった、あの大災害から、7年。私には、この期間があっと言う間だったように思えます。

廃炉に向けて苦闘する、福島第一原発の周辺住民には、帰還の目途さえ立たない方々が数多く存在し、復興の遅れが目立ちます。この現状を見れば、今はまだ災害の延長線上にあり、解決の道筋が立っていないと、理解しなければなりません。

地震や火山噴火はもとより、昨今の温暖化の影響で起こる激しい気象変化などは、日本のどこにいても起こることで、誰もが災害に巻き込まれる可能性を持ちます。

ですので、今日という日は、災害に対する普段の心構えや、時々の対応策を再確認する日にしなければなりません。そして、今だ困難を極める被災地に心を寄せると同時に、「何事も無く日常を過ごせることの有難さ」を、心からかみしめる必要があるように思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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