バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

7月のコーディネート  清楚な白百合で、潔い夏の装いを

2017.07 19

どの時代にも「アイドル」は存在する。現代では、AKBとかHKT、さらに桃色クローバーZなどのように、グループ化されているものがほとんどだ。バイク呉服屋のような50代のおじさんにとっては、どのグループにどんな女の子が何人所属していて、どんな歌を歌っているのか、さっぱりわからない。

そもそも私が、アルファベット三文字で思い出すものなど、DDT(戦後アメリカ進駐軍が、シラミ対策として撒いた農薬)とか、KGB(ソビエトの国家秘密警察)とか、BCG(結核のワクチン予防接種)など、全く可愛げなど無いものばかりだ。

 

我々50代のアイドルは、「花の中3トリオ」と言われた森昌子・桜田淳子・山口百恵や、松田聖子・小泉今日子あたりだろうか。さらにもう少し上の世代・いわゆる「団塊の世代」の人たちにとっては、女優・吉永小百合や栗原小巻なのだろう。

この二人はまさに、昭和30年代後半から40年代前半、高度経済成長まっただ中のアイドルであった。それぞれのファンは、「サユリスト・コマキスト」と呼ばれ、その人気は二分されていた。私には、清純で少し古風な吉永小百合に対して、栗原小巻は、現代的なイメージが強い。無論、その美しさは甲乙付け難い。

 

ヨーロッパでは、白い百合を「マドンナリリー」と呼ぶ。キリストの母、聖母マリアに処女懐胎を告げるため降臨した、天使・ガブリエル。その時の姿を描いたレオナルド・ダ・ヴィンチの作品・受胎告知には、白百合の花が添えられている。だから、この花は聖母マリアの純潔、あるいは処女性を象徴する特別な花と認識されるのである。

純潔を表す百合、美を表現するバラ、そして謙虚さを表すスミレは、欧州では「花のトリオ」として、特別に意識されている。吉永小百合さんは、本名をそのまま芸名にしているが、年を経た現在でも、百合のような清潔なイメージは変わらない。まさに、名は体を表しているように思う。

 

さて、この清々しく潔い百合は、夏の花でもある。こんな清楚で美しいモチーフを、キモノの文様として使わない手は無い。ということで、今日はこの花を図案に取り込んだ夏のフォーマルを、ご紹介することにしよう。

 

(裾水色ぼかし 百合に秋草模様 絽訪問着  白地 市松唐草模様 絽袋帯)

キモノや帯の図案として百合の花を使うことは、案外少ない。それは、多種多様な花が見られる紋章の中に、「百合紋」が無いことからも判る。また夏花なので、あしらわれる品物が、絽などの薄物に自然と限定されるからであろう。

江戸期のキモノにも、百合図案を見ることはほとんど無いが、絵画には、代表的なものがある。江戸琳派の祖・酒井抱一(さかいほういつ)が描いた風雨草花図(夏秋草図屏風)だ。浮世絵師だった抱一が、琳派の雄・尾形光琳に師事したことで作風が変わり、文化文政期には、琳派を代表する絵師となっていた。

現在、国の重要文化財として、国立博物館に所蔵されているこの絵は、金箔の背景の下部につゆ芝を密生させ、その中にひそませるように、山百合の白い花を描いている。他に、朝顔や女郎花も見えるが、百合の存在感は際立っている。

この絵の影響もあるのか、訪問着や付下げにあしらわれる百合は、大概小さな夏花と一緒に使われ、図案の中で一際目立つように描かれる場合が多い。百合を模様の中心に据えることで、品物に清楚なイメージを持たせる。そんな目途があるからだろう。

 

(裾水色ぼかし 百合に秋草模様・京友禅絽訪問着  菱一)

夏のフォーマルに使うキモノの地色は、やはり薄地が中心となる。色は、水色や青磁色、また白やベージュ系。このキモノ地も、僅かにグレーが掛かった薄い露草色だが、裾に割とはっきりした水色を付けている。裾ぼかしを施す場合、このように、同系色で濃淡を付けることが多い。おそらくこれは、全体の雰囲気を変えずに、模様を強調する狙いがあると思われる。

模様の中心、上前おくみと身頃の模様。裾からすっと伸びるように、白百合の花が三輪。その間をぬうように、小菊と萩のような小花が見える。きっちりと、百合の花を際立たせる役割を果たしているようだ。

百合を拡大してみた。不思議なことに、キモノのモチーフとなる百合は、写実的な姿をそのまま描いているものばかりで、デザイン化したものはほぼ無い。これは、この花が持つ清楚な姿を表現するのであれば、何も手を加えず、リアルに描くことが全てと考えられているからだろう。純潔なイメージを持つ百合は、図案化をも拒ませる威厳があると言うことか。

百合の花弁は通常6枚だが、この図案もそれに忠実に従っている。花弁の橙色の筋と、花弁の周囲の一部が刺繍。また、花の中心にある花柱の先端部・柱頭にも、若草色の繍を使っている。そして百合の白さは、胡粉で表現してある。

百合以外の小花。萩のように見えた部分を良く見ると、花の形は桔梗に似ている。型糸目を使って作られたと考えられるが、色は手挿しで、細工も丁寧。小花の挿し色も控えめな色を使い、あっさりと仕上げている。目立つのは、一部の葉の濃緑色くらい。

キモノ全体を見ると、百合の白さが目立つ、きわめて上品で清楚な夏の訪問着。百合の花が持つ清楚なイメージを、そのまま生かしたキモノになっているように思う。では、この姿をより引き立てるようにするためには、どのような帯を合わせればよいのか、考えてみよう。

 

(白地 唐草瑞彫文 絽袋帯・龍村美術織物)

キモノの雰囲気をそのまま生かし、涼やかな姿としてまとめるには、やはり白地の帯が無難かと思う。その上、着姿として控えめな印象を残すためには、主張の強い帯模様や配色は避けるべき。だがそうかといって、おとなしすぎても駄目で、その辺りの按配が難しい。

この龍村の夏帯は、唐花を市松模様のように繋いでいる。花は、薄紫・水色・青磁の三色だけの配色で、いかにも薄物に合わせる帯らしい色合い。

一見して、唐花には見え難い抽象的な図案。この帯には、12%もの和紙が使われていることから、本金引き箔糸を使用していることが判る。

帯巾いっぱいに広がる石畳のような文様が浮き上がり、帯姿を立体的に見せる。では、キモノと合わせてみよう。

 

白地の帯と、キモノの薄露草地の色の差は僅か。薄物では、帯の色を強く出さない方が、上品な佇まいとなりやすい。この組み合わせでは、白百合と白の帯地がリンクして、なお清々しくなる。また、写実的な模様のキモノに対して、帯は抽象柄なので、双方の図案のバランスも取れている。

前の合わせ。帯とキモノの図案に配してある色合いが、よく似ている。薄紫や薄若草などの色は、双方に共通したもの。これも、全体の雰囲気を一つの方向でまとめる役割を果たしている。

 

小物に、少しはっきりした水色を使う。キモノ地色と同系色でまとめた合わせ。

こちらは、帯模様の中の若草色を使った合わせ。キモノ図案の葉の色ともリンク。 (双方の小物共に、帯揚げ・加藤萬 帯〆・龍工房)

水色を合わせると引き締まり、若草色だと和らぐ。どちらを使っても、清楚で潔い着姿を壊すことはないだろう。この辺りは、着る方の好みにもよる。

 

今日は、清楚な夏の装いには欠かせない植物文様・百合をテーマにして、コーディネートしてみた。百合は、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と称されるように、動きながら見ると、より美しく映る花である。キモノの中にそんな百合の姿を見つければ、誰もが一瞬、目に止まる着姿となるだろう。

最後に、今日御紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

バイク呉服屋が若かりし頃、ファンだったのが、壇ふみさん。NHKの連想ゲームなどで姿を拝見するたびに、清楚で理知的な姿にあこがれたものです。今でも、たまにお見受けしますが、その印象は変わりません。

作家・壇一雄の娘さんで、慶応大学経済学部卒という経歴もさることながら、控えめでおとなしそうでいながら、芯が強そうなところも、実に魅力的。もちろん、美しい黒髪と品の良いお顔立ちも、大変素敵な方です。

もう一人、最近まで気になっていた方が、クローズアップ現代で長くキャスターを務めた国谷裕子さん。自分を律しながら、問題点を引き出し、番組を進めていく姿に、独特の知性と才能を感じました。

 

どうやら、バイク呉服屋が好む女性のツボは、知性的な方にあるようです。家内曰く、「あなたには痴性と野生しか無いから、知性と品性に弱い」。完全に当たっています。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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