バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート 江戸の涼風・竺仙の夏姿(1) 綿絽編

2016.06 07

浚い(さらい)とか、浚うという語句は、片付けるとか、まとめて整理するという意味である。「どぶ浚い」は、どぶ=側溝の大掃除であり、「棚浚え」は、商店の棚に残っている古い品物を、まとめて安く売って片付けてしまうこと。よく使われる言葉、「洗い浚い」は、残らず全部ということになる。

 

和のお稽古事で、今の季節からよく開かれる「浴衣浚い」は、少しニュアンスが変わってくる。「まとめる」には違いないが、いままでやってきたことの総復習・総まとめの意味になる。

これは、いわば練習発表会のようなもので、日本舞踊やお琴、三味線、さらに長唄や小唄、清元の社中では、普段のお稽古の成果を確認するため、師匠が弟子達を集めて行う。大概、場所は特別な会場を借りず、普段の稽古場を使う。

本番では、きちんとした衣装を身に付けるのだが、「おさらい会」ならば、気軽な格好でよくなる。特に、暑くなり始める6月から夏の間では、「浴衣」で十分という訳だ。だから、「浴衣ざらい」と呼ばれる。

 

ということで、今年も、浴衣のコーディネートを考える季節になった。都会のデパートなどでは、早いところでは5月の連休前後に、浴衣売り場を開設している。

委託(浮き貸し)で商いをする百貨店の方に、早く品物が入荷し、しっかり買い取る専門店の方が後になると言うのは、何となく腑に落ちない気がするが、売れる数が違うのだから、仕方あるまい。

ツマラナイ話は横に置き、早速、2016年版・バイク呉服屋・竺仙浴衣コーディネートを始めることにしよう。今年も昨年と同様に、綿絽・綿紬・コーマと、生地別に3回に分けて品物を見て頂こう。また、少し上質な品物・絹紅梅や綿紅梅については、稿を変えてお話してみたい。

 

(綿絽白地・市松に浮き島模様  橙色・麻市松半巾帯)

今年も、竺仙のポスター柄には、白地の綿絽を使われている。ここ何年か、白綿絽の品物が続いているが、やはり一番涼やかに見える生地ということで、採用されているのだろう。

模様は、東京オリンピック・エンブレムのモチーフにもなった「市松」。今年のポスター柄に使う品物は、かなり前から決まっていたので、偶然時期を得た、タイミングの良い図柄とも言える。

今年の竺仙のポスター。モデルさんも昨年と同じ方なので、白綿絽を使うと同じようなイメージになる。この方の年齢は、20代後半あたりと思えるが、少し落ち着きを感じさせる印象があるため、それに従って品物を選んでいるのだろう。

この市松模様の綿絽浴衣だけを見れば、すこし地味に思えるが、柔らかい橙色の麻半巾帯を使うことで、若々しさが出てくる。また、この半巾帯の帯巾が、通常より2,3分広めに作られているため、より着姿に若さが印象付けられる。

良く見ると、帯地紋にも市松が織り出されている。若い方でも、帯の使い方次第で、小粋な浴衣を楽しめるコーディネートになっている。やはり、竺仙がお客様に表現してもらいたいのは、どこかに「粋」を感じさせる着姿なのであろう。

 

(綿絽白地・麦の穂模様  薄鼠色地・首里道屯綿半巾帯)

目の覚めるような藍色に、白抜きの麦の穂。ビールのCMで、女優に着用させると映えそうな模様。柄のモチーフに麦の穂を使うことは珍しいが、挿し色が入っていない分、爽やかさな着姿になる。やはり、縁側で夕涼みをしながら、ビールを飲む姿が浮かぶ。

帯は、グレー地の横縞に、亀甲のような織り出しの首里綿半巾帯。少し地味な気もするが、大人の装いにしてみた。色の入らない浴衣は、帯の使い方で着姿が変わる。最初の市松模様に使った帯のような、明るい無地帯を使えば、印象が変わる。

 

(綿絽褐色地・大萩模様  白地・博多献上八寸帯)

もう一つ、色の入らない品物をご紹介しよう。褐色に白抜きという、もっともポピュラーな浴衣。模様は、大きな萩だけを大胆に使っている。シンプルな図案だが、意外と目立つ。ほとんどの人が、多色使いの浴衣を着ている中に入ると、こんな浴衣姿は、ひときわ引き立つ。

萩の模様を拡大してみた。褐色地に白抜きのものは、はっきりと絽目が浮き立つ。生地の表情からも、涼やかさを感じ取れる。

同じ献上博多帯でも、羅織の八寸帯を合わせてみた。こちらは帯にも透け感があり、より涼しげ。伝統的な褐色と羅献上の組み合わせは、まさに江戸に吹き抜ける涼風を思わせる。

 

(綿絽白地・大雪輪模様  白地・ミンサー綿半巾帯)

雪輪は、涼やかさを感じ取れる模様として、昔から夏モノの意匠に使われてきた。暑い時だからこその冬の模様で、着姿をみた人にも、涼やかさを感じてもらう。粋でお洒落な江戸っ子ならではの、模様の使い方である。

普通、白地の浴衣に白地の帯を使うことはほとんどない。だが、この浴衣の場合、あまりにも雪輪が大きくて大胆であり、その上、挿し色の紺と水色が前に出てくるため、白地の帯を使っても違和感がない。むしろ、他の色では涼感が出せず、合わせ難い。

この雪輪柄は、竺仙のHPに掲載されている浴衣ランキングで、昨年の第8位にランクインしている。そこでコーディネートされている帯を見ると、やはり白地になっている。

 

(綿絽白地・蜻蛉模様  薄橙色・ミンサー綿半巾帯)

蜻蛉の羽だけに橙色を配し、少しだけ秋の気配を感じさせている。浴衣の模様を良く見ると、夏の初めが旬と思われるものと、立秋を過ぎて、秋風が立つ頃に着たいものに分かれる。この蜻蛉のほか、撫子、桔梗、薄など「秋の七草」に入るものは、立秋後の模様となり、紫陽花や向日葵、朝顔などは、立秋前の盛夏模様と言えそうだ。

帯合わせは、蜻蛉の橙色に合わせてみた。ほぼ同じ色で、濃淡の表情のあるミンサー帯。この浴衣に関しては、橙系の色以外は考え難いが、最初の品物でご紹介した、麻市松無地帯のような濃さだと少し暑苦しくなる。このミンサー帯のように、蜻蛉の羽先の色より、わずかに控えめな同系色を使うと、すっきりまとまる気がする。

 

(綿絽白地・蔓桔梗模様  抹茶色地・ミンサー綿半巾帯)

一昨年、サントリーのCMで、石原さとみさんが着用していた蔓桔梗。この年に発表した竺仙の浴衣の中では、一番の人気柄だったようだ。確かに、図案化された大きめの桔梗がモダンであり、若い方なら着てみたくなるだろう。

微妙な緑系の色の使い方も、やはりあか抜けている。バイク呉服屋はへそ曲がりなので、流行が過ぎた今年になって、初めて仕入れてみた。

やはり帯は、桔梗の挿し色・グリーン系のものがしっくりと合うが、今日は少しくすませた抹茶色を使ってみた。帯の真ん中にある茶色が、アクセントになる。緑系の色でも、それぞれの桔梗に付けられている、常盤色(濃くくすんだ緑色)や、柔らかい萌黄色を使うと、また違った表情になるだろう。

 

(綿絽レモン色・檸檬模様)

さて、今日最後にご紹介する綿絽浴衣は、鮮やかなレモン地色の上に、レモンの輪切り模様という、強烈なもの。クセのある品物のことを、キワモノと言うが、この浴衣はまさにそれに当たる。

うちにやってくる竺仙の担当者は、近藤くんという若手の社員。「インパクトのあるキワモノを扱うのも、専門店らしいですよ」とけしかける彼の甘言に誘われて、思わず仕入れてしまった。

果たして、こんな浴衣の貰い手があるかどうか、全くわからず、半ば諦めていた。けれども最近、お客様方にこれを見せると、案外良いと言う。まだ買い手は付いていないが、そのうちに、個性的な方に見初められるのではないかと、思い始めている。

帯び合わせは、ミント色の紗献上帯を考えてみた。レモンをミントでクールダウンさせようとする試みである。爽快な着姿になるかは、実際に着用してみないとわからない。

 

市松・麦の穂・萩・雪輪・蜻蛉・桔梗・レモンと、伝統を感じさせる模様からキワモノまで、7点の綿絽浴衣をご紹介してみた。楽しんで頂けただろうか。

浴衣の図案には、他のキモノにはない、浴衣ならではの模様がある。浴衣こそ、自分が着たいと思えるものを着れば良いと思う。皆様も、そんな一枚を探して、ぜひ個性的な着姿を作って欲しい。

次回は、綿紬浴衣のコーディネートを予定しているので、こちらもご覧頂きたい。

 

ここ数年、年齢による色や模様の垣根が、ほとんど無くなっているように思えます。一つの品物を見て、派手と感じるか、地味に思えるかは、人それぞれであり、それが個性ではないでしょうか。

着たいモノを着るというのが、ごく自然なことであり、一番尊重されることでもあります。「理屈抜きに着てみたい」と思えるような個性的な品物を、たくさん扱いたいものですね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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