バイク呉服屋の忙しい日々

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バイク呉服屋女房の仕事着   オムニバス特別編

2024.05 02

皆様の家の家計は、どなたが管理されておられるだろうか。ある調査によれば、妻が管理している家庭は50%近くで、夫の管理が20%ほど。残りが別々の管理と共同管理である。共稼世帯が1200万、専業主婦世帯が600万と、すでに全世帯の三分の二が、夫婦共に働いて家計を支えているのが現状だが、まだ多くの家庭では、家でのお金のやりくりが妻の仕事になっているようだ。

お金を妻に任せるというのは、「夫は外で働き、妻が家を守る」という昭和の名残のように思えるのだが、夫の立場からすれば、すごく楽をさせてもらっていることに他ならない。家庭生活の基礎・衣食住に関わることはもとより、子どもがいれば、教育費やその他の出費を毎月切り回さねばならず、その上将来を見据えて、ある程度の貯蓄も考えなければならない。家計を預かるというのは、相当に大変なことで、本当なら妻だけに背負わせて良い仕事では無い。

 

だが結婚当初から「給料の丸投げ」が続いていると、簡単には改められない。私なんぞ、何をどのように管理しているのかさっぱりわからず、キャッシュカードの暗証番号さえわからない。娘たちが大学に通っている頃は、それこそやりくりが大変だったと思う。申し訳ないとは思いつつ、これまで何となく過ぎて来てしまった。

そして、家の家計を任せきりにするならまだしも、私の場合、店の家計=経理も任せきりにしてしまっていた。店の金銭の出入りに関わることは、全て妻の仕事にしていたのである。取引先や職人への支払いはもちろん、税金や保険料のこと、そして店で使うコピー紙、ボールペン一本の購入に至るまで、すべて彼女が担っていた。もちろん、帳簿等の記載も当然である。だから私の仕事は、店の商いに関わることだけであった。

けれども5年ほど前から、妻は父親の介護のために、月のほとんどを実家で過ごすようになり、状況が一変した。家の家計も店の経営管理も、全て自分の手で行う必要が生じたのである。これまで何もやって来なかったツケが、一気に回ってきたと言って良いだろう。最近は少しは慣れてきたものの、未だに毎月末になると、ラインで妻にやり方を聞きながら、家と店のお金のやりくりをしている。

 

という訳で、ここしばらくは、妻が店にいることはほとんどなく、従って彼女が仕事着であるキモノに手を通すこともない。キモノがとても好きな人なので、何ともはがゆい思いをしているかと思う。しかし、他に頼る人もいないので、介護の手を緩めることは出来ない。それが、現状である。来店するお客様の中には、妻のキモノ姿を楽しみにされる方もおられるようで、不在を残念がる。

毎年連休中の稿は、以前の「まとめ記事」で手を抜いているが、今年はこれまでご紹介してきた「バイク呉服屋女房の仕事着」を、一挙にご覧頂くことにする。昨日妻にこのことを話したら、「私の着物姿を、ブログ仕事のダシに使わないで」と言われてしまったが、何とか許してもらえるだろう。

細かい説明は抜きにして、画像と着用している品物の名称だけを記し、ブログに記事がある品物では、その稿を起こした日を書いておく。もしよろしければ、前の記事を改めて読み返して頂ければと思う。それでは、始めることにしよう。

 

(クリーム地 型絵染小紋・蔓唐草 花喰鳥模様染帯 2016.4.3)

今は無き菱一が、銀座の某ギャラリーで開催した新作発表会の時の装い。

 

(譲り品 鏡模様 結城紬・ペルシャ模様 型絵紬帯 2014.11.18)

(帯・クリーム地格子大島紬 誂え帯)

この結城紬は、私の叔母・母が40年にわたり着用した品物を仕立直したもの。

 

(譲り品 唐草模様 結城紬・譲り品 横段真綿紬 八寸帯 2018.12.4)

真綿帯は、二点共に藤田織物の品物で、私の母からの譲り品。

これも、私の母が30年以上仕事着として使った70亀甲の結城紬。

紋図を作らず、自由な発想で織り出されている独創的な藤田の名古屋帯。

 

(持参品 藍地 椿模様大島・山吹色 無地朱珍帯 2015.2.20)

(羽織・グレー地 鬼シボちりめん栗山紅型小紋)

紅型の小紋着尺を、長い羽織に誂えた。椿柄の大島は、家内がお嫁に持ってきた品物。

 

(持参品 龍郷模様 村山大島紬・店晒品 芥子色 花束模様染帯 2016.11.25)

村山大島は、実家から持ってきた品物。帯は、店の棚に長く残っていた店晒品。

 

(レモン色 小格子大島紬・エーデルワイス模様 手描友禅染帯 2023.4.18)

帯のモチーフは、エーデルワイス(雪割草)。作者は、友禅作家の四ッ井健さん。

バッグは、唐草や象をモチーフに採ることが多い、友禅メーカー・岡重の品物。

 

(濃紺地 風車格子 十日町絣・譲受品 漆画龍雲文 龍村光波帯 2015.11.11)

(帯・譲受品 獅子狩文錦 龍村光波帯)

この龍村光波帯は二点共に、家内の母が使っていた品物。

 

(譲受品 浅紫色 細縞 十日町紬・青海波模様 絞り名古屋帯 2021.3.7)

この立体的な青海波帯は、売れ残った絞りの絵羽織を、帯として誂えたもの。

このキモノもまた、私の母が仕事着として長く使っていた。八掛も変えずにそのまま。

 

(店晒品 白地 クローバー模様単衣紬・山吹色 朝顔模様 麻染帯 2019.6.28)

このキモノは、実家の倉庫の隅で眠っていた品物。当初は、カビ臭が酷かった。

 

(竺仙 桔梗模様 藍綿紬浴衣・市松模様 博多紗八寸帯 2015.7.8)

 

(紺地 雨絣模様アイスコットン・白地 枡重ね模様 夏八寸帯 2020.9.15)

 

(譲受品 山鳩色 夏琉球絣・生成色 朝顔縞 紗博多八寸帯)

珍しい夏琉球絣のキモノは、家内が母から譲り受けた品物。少し地味と気にしていた。

中川政七商店の奈良上布のバッグも、母の品物。草履は自前で、カレンブロッソ。

 

(唐草模様 白大島紬・店晒品 紺地 椿模様・染帯 ブログ未掲載)

あまり見かけない、この鮮やかな紺地の染帯は、長く売れずに残っていた店晒品。

 

(薄グレー地 井桁小絣 米沢紬単衣・借り品 朱地 辻が花模様 染帯 ブログ未掲載)

この帯は、私の妹の誂え品。作者の小山保家は、芹沢銈介の弟子で日本工芸会理事。

 

最後に、第一礼装・江戸褄姿をご覧頂こう。

(譲受品 御所車模様 京友禅 黒留袖・七宝繋ぎ文 金引箔 袋帯)

この留袖は、家内の母が家内の結婚式用にと、うちの店で誂えた品物。長女が結婚して、マリッジフォトを写した際に、初めて家内が着用した。帯は、紫紘の手機袋帯。(2021.7.5に稿があるので、良ければそちらもお読み下さい)

 

振袖姿の長女のお化粧を直す、留袖姿の家内。この振袖も、自分の結婚式で着用。

家内を挟んで、右の枝垂れ桜振袖姿が次女 左の黒地松竹梅振袖姿が三女。

 

全部で15組の品物をご覧頂いたが、如何だっただろうか。キモノの内訳を見ると、結城紬が2点、大島紬系(村山大島を含む)が4点、十日町紬他の産地紬が4点。薄物は、夏琉球絣・アイスコットン・竺仙綿紬浴衣の3点。後は、型染小紋と江戸褄。  「仕事着」として紹介している稿なので、やはり普段着・織物が中心になっている。

そしてお気づきの方もおられるだろうが、多くのキモノ、合わせている帯が、譲受品とか借り品、あるいは嫁入りの時に実家から持参した品物である。私の母や叔母、妹の品物を洗張りして誂え直したり、汚れを補正して使ったりする。また自分の母の品物も、きちんと手を入れて受け継ぐ。さらに、本文中に度々登場する店晒品(たなざらしひん)は、長く棚に売れ残ったもの(中には棚ではなく、倉庫へ追放されていた品物もある)だが、これは店で売ることを諦めて、家内の着用とした品物。いわば、誰も手を出さなかった品物である。

いずれにせよ、家内が自分用として新しい品物を誂えることは、極めて珍しいと言って良いだろう。呉服屋女房の仕事着の多くは、様々な工夫をし、先人たちの品物が使い回される。そのために、時々の誂え直しの場面では、知恵を働かせながら手を入れることになる。こうした古い品物を大切に受け継ぐことこそが、呉服屋の女房の正しい在り様かと思う。新しい高価な品物を、お構いなしに身に付けているようでは、失格だろう。

いつになるかはわからないが、いずれ家内が店に戻ってきたら、また日常の装い姿を皆様に紹介したいと考えているので、しばらくお待ち頂きたい。

 

93歳になる家内の父は、体は弱くなりましたが、頭はまだしっかりしています。私が会いに行くと、「シゲル君、○○○(家内の名前)をこちらへ引き留めてしまって、申し訳ない」などと謝ってくれます。私としては、家内が納得がいくまで世話が出来れば、それで良いと思っているだけなので、おやじさんにそんな風に言ってもらうと、かえって恐縮してしまいます。

いつ終わるかわからない、介護。家内は本当に大変かと思いますが、悔いを残さぬように頑張って欲しいと思います。そのためには、私の方もこの先何とか一人で、仕事を切り回さなければなりません。このような事情ですので、定休日以外に店を休むことも多く、お客様にはご迷惑をおかけすることもあると思いますが、その節は何卒お許し願いたいと存じます。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

なお、5月2日~6日まではゴールデンウイーク休業、そして7日~11日までは県外での出張仕事のため、店が閉まっております。開店は12日(日曜日)以降になりますので、よろしくお願い致します。メールは普通に出して頂いて結構ですが、少しお返事が遅れるかもしれません。どうかお許し下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付から

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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