バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート・2 竺仙の江戸染 粋ひとがら 玉むし浴衣編

2017.06 13

先週の土曜日、以前から江戸小紋の誂を依頼されていた千葉在住のお客様を、竺仙へ案内した。浴衣販売盛りの今の時期(4~7月)は、土曜日も営業をしている。この会社は、モノ作りをするメーカー問屋でありながら、小売もしている。商いの主流は、デパートや小売屋へ品物を卸す問屋としての立ち位置なのだが、消費者とも接点を持つ。

流通段階が枝分かれし、外からは判り難い呉服業界にあって、小売をするメーカーは、珍しい。私が思い浮かぶのは、竺仙と龍村くらいのものだ。けれども、この両メーカーとも、扱う全ての品物を小売する訳ではない。竺仙は、浴衣の他は手ぬぐいなどの小物類であり、龍村も小物が中心で、帯では比較的廉価な光波・元妙帯あたりまでである。

 

これは、メーカー問屋としての役割を認識しているためで、値が張る看板商品は、小売をせずに卸しに回す。このすみ分けがはっきりしているから、我々小売屋も、問屋と認めて取引することが出来るのだ。

竺仙や龍村が小売で扱う品物は、価格が決まっている。そして、値崩れすることがほぼ無い。例えば、消費者が竺仙の浴衣を求めようとして、小舟町の店を訪ねたとしよう。その価格は、デパートや扱いのある小売、さらにネットで売っているものと、変わらないはずだ。

小売屋は、卸価格で品物を仕入れるが、直接売っているメーカーよりも高い価格を付ける訳にはいかない。なぜなら、同じ品質のモノをメーカーが小売しているのだから、それより高ければ売り難くなってしまう。当然の原理である。一部の商品とはいえ、竺仙や龍村が小売を出来るということは、やはり製造する品物の質に自信があり、それが、世間からも認知されているからだろう。これは、他のメーカーではなかなか真似が出来ない。

 

今回、私がお連れしたお客様のように、希望する図案と色で「誂の江戸小紋を作る」というような仕事は、普段から取引のある小売屋が介在しないと難しい。

誂を作るというのは、沢山の型紙見本の中から、ひと柄を選び、その上どんな地色にするのか、色も決めなければならないということ。すでに染上がった完成品から選ぶ訳ではないので、自分に何がふさわしいのか決めるまでが難しく、当然手間はかかる。だが、お客様自らがモノ作りに参加し、自分だけの一点に出来たというオリジナル感は、強く残る。

染め上がりまでに、二ヶ月ほど掛かるということだが、いずれこのブログで、どんな品物を誂え得たのか、御紹介したい。

さてこの江戸小紋と同様に、型紙が品物のいのちである竺仙浴衣。前回に引き続き、今日は多色使いの玉むし浴衣をご覧頂こう。

 

(白コーマ地玉むし・葡萄模様  葡萄色・八重山ミンサー綿半巾帯)

竺仙では、多色使いの浴衣のことを「玉むし」と名付けて、区分けしている。本来玉虫色とは、光の当たり方で変化する玉虫の羽の色のように、見方により変わるあいまいな色という意味だが、竺仙は挿し色を多色にすること=変化に富む模様姿と言う意味で、この名前を付けたのだろう。

玉むし浴衣は、モチーフとなる図案に挿す色により、イメージが変わる。だから合わせる帯は、どうしてもその色と関連するものに偏る。今日御紹介するコーディネートにも、その傾向が表れていると思う。

白地に葡萄だけのすっきりとした図案。毎年竺仙では、葡萄をモチーフにしたものを幾つか作るが、中でもこれは「リアルな葡萄」といった感が増している。葉と蔓は藍色の濃淡、実は葡萄色の濃淡。模様は割と密だが、地の白を生かした配色で、くどく無い。

この浴衣の葡萄模様を意識すれば、もうこの色の帯しかないということで、選んだのが、葡萄色濃淡のミンサー帯。絣模様が入っている色が一番濃く、帯のポイントになっている。

ミンサー帯の模様の特徴は、四つ(四玉)と五つ(五玉)の長方形で構成される絣。この模様には、「いつまでも一緒にいる」という願いが込められている。また、細い段々縞(この帯では、葡萄色の濃淡部分)は、別名・百足(むかで)文様とも呼ばれ、足繁く通うという意味がある。だからこそ、八重山諸島の女性は、このミンサー帯を、嫁ぐ家や恋人への贈り物として使ったのである。

 

(ぼかし藍色地染コーマ玉むし・宝相花模様  黄色ぼかし・麻市松半巾帯)

昨年も、このぼかし地染の品物を取り上げたが、その時は「ローケツ」として御紹介したはず。けれども、ローケツ染めではなく、地入れの時にぼかしを入れて染めているとのこと。あまりにも上手くぼかされているので、ローケツと見間違えてしまった。

模様は、正倉院の代表的な唐花文様・宝相華を図案化したもの。先日竺仙へ伺った時、通された部屋にはずらりと図案資料が並んでいたが、正倉院収蔵品の文様に関わるものが沢山あった。浴衣のモチーフには、どうしても季節感のある草花模様が多くなるが、文様をデザイン化した品物もきちんと作っている。この図案も、そうしたものの一つ。

模様の挿し色は、黄色と緑。どちらを使うかといえば、やはり藍ぼかしの地色と相性の良い黄色であろう。着姿が明るくなり、見た目にも若々しい印象が残る。

竺仙のHPには、浴衣と帯をコーディネートしたものが沢山載せられているが、バイク呉服屋の考える組み合わせとは、いつも少し異なる。けれども、この浴衣に関しては、珍しく一致したようだ。公式オンラインショップに載っているコーデでは、やはり同じ黄色の麻帯(黄色と浅緑色のリバーシブル)を使っている。

 

多色使いの玉むし浴衣ならではの、色を意識した着姿。帯の色はある程度限定されると思うが、単色浴衣には無い、華やかさが演出出来る。

 

(生成色地染玉むし・クローバーと撫子・梅模様  ピンク色ぼかし・麻市松半巾帯)

今年仕入れた品物の中でも、一番若々しくかわいい図案の一つ。若草色で大きく染め出されたクローバーと、小さな撫子と小梅は絶妙の組み合わせ。花火大会や夜祭など、暗い場所で着用すると、この明るさが一際目立つだろう。

地色は、ほんの少しベージュを感じる生成色。散らされた撫子と梅は、柔らかいピンク系の濃淡で挿されている。大胆なクローバーの葉を置くことで、着姿にインパクトが出てくる。これが小花だけでは平板になり、子どもの浴衣に限定するような図案になってしまうだろう。

帯は、小花の色とリンクさせて、単純明快にピンクひといろで模様の入らないもの。竺仙が扱うこの麻帯は、市松の地紋が付いている。画像から見れば僅かな変化だが、光の当たり方により、市松が浮き上がってくる。密な模様には、やはり無地帯の方が収まりが良いようだ。

 

(薄ミント色地染玉むし・撫子模様  ミント色細縞浮織・首里道屯半巾帯)

こちらも小さな撫子模様だが、規則的に立並びで付けられた図案は、同じ花でもかなり印象が異なる。地色はごく薄い爽やかなミント色。前の浴衣よりも、少し大人っぽい。

このように上に立ち上がる模様は、スラリとした着姿を表現出来る。そして模様配置を見ると、市松のように左右互い違いに付けられていて、仕立て上がると、こういう図案は面白くなる。仕立ての際の模様の位置取りに工夫が必要だが、反物で見た時と、仕上がった時では、印象が変わる品物かと思う。

浴衣地色の薄ミント色に合わせ、濃いミント色の帯を使う。玉むしは、模様の中の色で合わせることが多いが、地色との濃淡合わせは珍しい。何より、ミントの爽やかさを優先したコーディネート。こんなミント色の帯地は、やはり沖縄の帯ならではのもの。そして、黄色の縞も効果的。

 

最初の二点と比べると、地色、挿し色どちらもおとなしく、優しい着姿になる玉むし。

 

(サーモンピンク地染玉むし・菊模様  ベージュ地波に細縞・博多半巾帯)

最後の二点は、少し変わった地色の玉むしを見て頂こう。元々、竺仙の地染モノの色数は、そう多くはない。しかも、藍やベージュなど、おとなしく穏やかな色が中心である。浴衣の涼やかさを意識させる地色を考えれば、やはりある程度限定され、暖色系や濃地は使い難くなる。また、極端な地色だと、中の挿し色を難しくさせるという側面がある。

その中で、こんなサーモンピンク地ならば、雰囲気に柔らかさがあり、若い方に向く地色となりそうだ。

赤、橙、空色の三色で挿された大きい菊の花びらが、若々しい。蔓のように伸びる葉が所々にあることで、模様のバランスが取れているように思う。花火のように大きく開いた花が、印象的。

波と細縞が並ぶ面白い博多帯を使ってみたが、無地帯の方がすっきりするかも知れない。花びらに挿されている赤や濃い橙、空色の中のひといろを使うと、より着姿が締まるようにも思える。今日のコーディネートの中で、一番帯選びに悩んだ浴衣。

 

(黒地染コーマ玉むし・楓模様  ベージュ地源氏香模様・博多半巾帯)

黒地というのも珍しいが、大胆な楓の模様付けが、さらにこの浴衣を個性的にしている。赤と白抜きの大楓と、三色の小楓が交互に配されているが、仕立時の模様の取り方を、少し悩むかも知れない。ポイントは赤い楓で、この色が入らなければ、かなり雰囲気が違ってくる。

楓は秋の図案だが、こんなデザインだと季節感も関係なくなる。黒地なので、秋口に使うと良いかも知れない。一見して、浴衣には見えない着姿になる。

濃朱の楓に合わせて、橙色の源氏香の帯にしてみた。浴衣の大胆な図案を生かすため、帯はシンプルにする。もう少し強い朱色の無地帯を使えば、なお個性的な着姿となるだろう。クセのある柄行きだけに、どなたでも似合うものではないが、浴衣という意識をあまり持たずに使える品物と言えよう。

 

菊・楓という、単純なモチーフであるにも関わらず、大変個性的な浴衣。特に黒地楓は、この上なく目立つ。

 

今日は、前回の単色系浴衣とは異なる、挿し色を意識した品物を使ってみた。竺仙の基本、白と藍と褐色を組み合わせたシンプルな浴衣だと、帯次第で変化が付けやすく、組み合わせる色の範囲も広がる。それが玉むしだと、帯の色にある程度の制約が掛かるように思える。

涼やかさや江戸っぽさは、藍に白抜きとか、白地に一色だけを使ったものなど、単純な色合いの組み合わせほど、表現しやすい。けれども、華やかさや可愛さを求めるならば、玉むしは良い品物である。

どちらを選ぶかは、お客様のお好み次第で。次回は、浴衣コーディネートの最後として、綿紬と綿絽の品物を御紹介したい。

 

浴衣にせよ、江戸小紋にせよ、型紙が無くては、品物が作れません。江戸小紋では、一枚の型紙で染めることが出来るのは30反ほど。竺仙の担当者によれば、染工程の途中で型紙が破れてしまい、二度と同じ模様を染めることが出来ないこともあるそうです。

浴衣では、生地を変えたり配色を変えたりしながら、一つの図案を使いまわしています。同じ模様でも、コーマ生地と紬地では質感が変わり、また挿し色の有無でも、雰囲気が全く違ってきます。これも、型紙染めだからこそ、出来ることですね。

インクジェットなどの印刷染が全盛の現代ですが、皆様にはこんな型紙の存在を、少しでも知って欲しいと思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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