バイク呉服屋の忙しい日々

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娘たちの卒業式(後編) 白地枝垂れ桜模様振袖と茄子紺無地ウール袴

2017.03 24

昨年くらいから、小学校の卒業式に袴姿で参列することが、流行っているようだ。このことに対しては、ネットの中でも、賛否様々な意見が出ている。

ほとんどの中学や高校には、制服があるので、卒業式の衣装を自由に選べるとなると、小学校と大学しかない。大学は、かなり前から、袴姿が定着しているが、これまで女子小学生の定番スタイルは、ブレザーとスカートだったはずだ。

 

問題になっているのは、この袴姿が「華美に過ぎる」ということで、着用を認めない学校があり、親の間でも着用に賛否が分かれていること。

確かに、中学校や高校の制服にも採用されているブレザーに比べれば、和装はかなり目立つ。袴の上に着用するキモノの色や模様も、それぞれ違いがあり、着用する子の個性が出せる。

思春期の入り口に立つ女の子にすれば、個性的な袴姿は、ブレザーよりも華やかで目立ち、「卒業式という特別な場所」で着用するには、魅力的な衣装に思えるのだろう。もしも、前の年に、上級生の袴姿を見ていたら、自分も同じように着用してみたくなるに違いない。だから、年々増えてきたのだろう。

 

「子ども達が和装に関心を持つ」ことは、我々にとってはもちろん嬉しいことで、袴姿で卒業式に臨むことがあっても良いように思う。それを「華美に過ぎる」という理由だけで、規制してしまうのはかわいそうな気がする。

けれども、学校側が危惧しているのは、和装が流行ることにより、子ども達の間で式服の格差が生まれてしまうことかと思う。もとより、小学校は義務教育の場であり、公立ならば、子どもそれぞれの家庭環境や経済状態も、様々である。

自前のキモノや袴を持っているような子は稀であり、ほとんどの場合、衣装は借りてくる。一般に、袴とキモノ(化繊)を借りると2~3万円ほど掛かり、着付けや髪型を整える代金も必要になる。

 

今のうちは、流行っているだけだが、これが定着することになれば、肩身の狭い思いをする子どもも、きっと出てくる。今でも、うらやましく思う子がいるだろう。学校側は、この「格差」を危惧するのだ。

また、義務教育の場である小学校の卒業式で、子どもの衣装に差があってはならないと考える親も多いと思う。これも一面、理解出来る。上級学校の中学や高校は、制服一律で式に臨むことを考えれば、小学校の式だけ差が付くことに、違和感を感じるだろう。

これまで、式に臨む子ども達の衣装が、ブレザーにスカート(男子はズボン)という、全体を見渡しても統一のとれた姿だったところに、袴と言う目立つ衣装が入ることで、協調性が失われてしまう。式としての、「一体感」が無くなることへの懸念も、学校側にはあるのではないか。

そして、今の社会のモノの見方として、「和装は洋装より華美」という意識がある。本質的には、卒業式の袴着用には、何ら問題は無いのだが、世間の、和装に対する過度な評価が、「着用への違和感」の根底にあるのだろう。

 

様々なことを思い巡らすと、袴姿は、本来立派な式服であり、卒業式に着用するにふさわしい衣装に間違いないが、こと「小学校の卒業式」での着用を、「諸手を挙げて、賛成」とは言い切れない。私は、和装を扱う者ではあるが、この流行が、業界にとって「良い傾向」と言うだけでは済まない問題が、あるようにも感じられる。

私としては、袴姿の卒業式は、大学まで待っても良いと思うのだが、如何なものだろうか。やはり、義務教育の場だと、これから先にも、「着用する子、しない子の衣装の差」を、認め合う空気が生まれ難い気がするが。

 

小学生の卒業式袴の話が、長くなってしまったが、今日は、前回の続きで、大学卒業式における娘の袴姿をご紹介しよう。

 

(白地 霞朱ぼかし 枝垂れ桜模様友禅中振袖・北秀  茄子紺ウール行灯女袴)

末娘が着用したキモノは、これまで三人の成人式や、長女の大学卒業式に使っていた品物。私の妹が使っていたもので、約30年前に誂えた振袖である。

当時の袖丈は、今よりも5寸ほど短い中振袖。娘達の方が私の妹よりも7cmほど背が高いので、一旦生地を解き、仕立直しをした。袖丈は、縫込みを目一杯出しても、2尺6寸ほどにしかならず、今の3尺袖丈の大振袖と比較すれば、短い気がする。

 

この中振袖は、次女が着用した黒地の振袖とは少し雰囲気が違い、愛らしさがある。キモノ全体に、大小の桜の花びらが散っている総模様。上から下へ枝が流れ、そこに花が付いているので、枝垂れ桜になる。

所々に、濃朱の霞が切り込まれ、地色に変化をつけている。桜花の配色は、主花は赤と紺の二色で、そこに小さな黄花が入っているが、型疋田や輪郭に駒刺繍を用いたものが数多く組み合わされ、バリエーションに富んだ花の姿になっている。

このキモノも、黒地・松竹梅文様の振袖と同様に、型友禅の品物だが、中のあしらいはこの振袖の方が、手が掛かっている。

上前を合わせたところ。小紋のように、キモノ全体に均等に模様が流れている。そのため、袴を着用することで上半身の模様しか見えなくても、この振袖が持つ華やかさは、十分に感じられる。前回の黒地振袖は、袴を着用すると、肝心な上前身頃とおくみの模様が隠れてしまい、その上、襟元と胸に模様が少ない。前から見ると、本来持っている華やかさが、削がれてしまう気がした。

 

緞子生地に唐織という、半巾帯としては大変凝った品物。帯地色は、落ち着いたモスグリーンで、雪輪とうさぎ、月の間に、桜の花が散っている。花びらには、キモノと同じように疋田模様が見られる。

帯は、キモノと袴の間で、僅かに見えるだけだが、着姿では案外目立つ。半巾帯の色の使い方一つで、全体の印象が少し変わるように思う。

前回の海老茶色袴と同様、素材はウールで無地。模様が密で明るい配色の振袖に合わせるため、引き締まった濃い茄子紺色を使い、キリリとした袴姿になるように考えた。

 

伊達衿は、キモノの葉の色とリンクさせて、紗綾型地紋のある若草色。刺繍衿は、キモノが白地なので、襟元を印象付けるために、茜地色で桜模様のものを使う。

襟と胸にある、赤・紺・白抜きの大きな桜の花びらが、若さを強調している。前姿は、黒地の振袖を使った袴姿とは、対照的。左の肩から袖にかけて見える、地の濃朱色が効いている。模様は密だが、すっきりとしたイメージもある。全体の中でアクセントになる色は、キモノの桜葉と伊達衿、そして帯地色で使った緑系の色。

今日ご紹介してきた、末娘が着用した袴一式。襦袢は、薄ピンクのぼかし。

 

二人が持っているちりめん地のバッグは、家内が手作りしたオリジナル品。がま口金具は、ネットで探した京都の金具材料屋から取り寄せたもの。生地は、うちの倉庫の隅に残されていた古いハギレ。かなり年代モノの裂と思われる。

左は、桐唐草模様。右は、菊水と梅模様が片面ずつ付いていて、持ち手も共布。大きさが少し違う。色々探してはみたものの、ありきたりなバッグしか見つからなかったので、思い切って作ったとのこと。

家内からは、下手くそなので、あまり近接した画像を載せないで欲しいと言われている。出来映えはともかくとして、皆様には、手作り品の雰囲気だけを感じて頂きたい。

 

二回に分けて、今年の春に二人の娘が着用した袴姿をご覧頂いたが、如何だっただろうか。今回は、キモノに振袖を使ったが、無地や小紋、また付下げや訪問着ならば、また違う着姿になる。

総模様、飛び柄、無地、絵羽と、どんな模様のキモノでも、袴姿は演出出来る。学生生活の最後を彩る特別な衣装だからこそ、皆様がそれぞれ工夫しながら楽しまれ、心に残る卒業式にして頂きたい。

 

本日、家内の方から、卒業式に掛かった費用の請求書を頂きました。

内容は、本文でご紹介したバッグの材料費を含めた製作代、家内の手による着付けと髪のまとめ代、いずれも二人分。〆て?万円だそうです。店の経費から落とすことは許されず、支払いは全て、バイク呉服屋のポケットマネーに限るとのこと。当分の間、私の小遣いは無しということになりそうです。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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