バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

9月のコーディネート 慎ましやかに初秋を装う 薄鼠地京繍付下げ

2015.09 20

現在ある祝日の中で、もっとも古くから始まったものは何か。2月11日の建国記念日・11月3日の文化の日・11月23日の勤労感謝の日である。この日は、1873(明治6)年の太政官(だじょうかん)布告・年中祭日祝日ノ休暇を定ムで、祝日と定められている。

当時の祝日名は、建国記念日が紀元節(神武天皇の即位日)、文化の日が天長節(明治天皇の誕生日)、そして勤労感謝の日が新嘗祭(にいなめさい)だった。明治憲法公布以前では、太政官が最高官庁であり、その布告は法律同様の役割を果たしていた。太政官という官名は、681(天智天皇10)年に制定された、日本初の体系的な律令・飛鳥浄御原(あすかきよみはら)令にはすでに存在しているのだから、何とも古めかしい名前である。

最初に定められた祝日は、8日。三年後の1878(明治11)年には、さらに2日が追加された。春季皇霊祭と秋季皇霊祭である。これが現在の春分の日と秋分の日ということになる。

そもそも戦前までの祝日は、ほとんどが宮中でとり行われる祭祀・大祭に基づいて制定されていた。皇霊祭とは、歴代の天皇・皇后の霊を祭る日である。先に挙げた新嘗祭の他に、10月17日の神嘗祭(かんなめさい)も戦前までは祝日だった。両日ともに、五穀豊穣に感謝する日であり、宮中祭祀の中では大祭として位置づけられる重要な日であった。

この「大祭」というのは、天皇が自ら祭典をとりしきり、御告文を奏上するという、とりわけ重い祭祀。これとは別に宮中の掌典職(しょうてんしょく)が祭典を司り、天皇がそれに拝礼するという「小祭」がある。歴代天皇が崩御された「例祭」と呼ばれる日がそれに当たる。

 

春分と秋分は、暦の上では彼岸にあたる。仏教における彼岸会(ひがんえ)として、先祖に感謝して供養する。この意味するところは、宮中の皇霊祭と同じであり、一般の人々も彼岸の中日には、墓参りをする。

そして、この彼岸を境にして、季節が移り変る。「暑さ寒さも彼岸迄」と言われるように、夏と冬の厳しい気候が少し和らぐように感じられる。

さて、今月のコーディネートでは、そんな秋へと移り行く季節を、控えめな色と模様で表現した品物をご紹介してみよう。

 

白鼠色・七宝花菱文様 京繍付下げ  白地・変わり花菱文様 紗袋帯

このブログを、続けてお読み頂いている方はお気付きかと思うが、バイク呉服屋のコーディネートには、薄地色のキモノと帯を組み合わせたものが多い。

最近のお客様は、色や模様がはっきり目立つものよりも、洋装の中に入っても、自然と溶け込むような雰囲気になるものを好む傾向がある。キモノを着ていると、それだけで回りから注目されてしまうので、なるべく控えめで、それでいて上品さが保てるもの、ということになるようだ。もちろん合わせる帯も、そんなコンセプトを考えた上で選ばれる。今日御紹介するの品物もそれに準じたものである。

9月というのは、その日の気候により温度差があり、使う品物が大変難しい。晴れると気温が上がり、雨でも降れば肌寒くもなる。原則はもちろん単衣なのだが、紗や絽のような薄物を使いたくなったり、裏の付いた袷を着たい日もある。体温調節とともに、キモノの調節も厄介であろう。

単衣を使う季節は6月と9月なのだが、夏に向かう6月と秋に向かう9月では、使う色や模様に若干の変化がある。また帯の使い方も、夏帯を合わせる場合と、冬帯を使う場合に分かれる。

昨今は、暑い時期が昔より長くなったと感じられるため、単衣に合わせる帯として、夏帯の紗や絽を使う期間が広がっている。今日コーディネートに使った帯も、そんな意味で紗袋帯を使ってみた。

 

(白鼠地色 四つ割菱七宝模様・京縫い取り付下げ  松寿苑・別誂)

別誂とあるように、この品物は、地色と模様の数、それに刺繍の糸の色までを、お客様と相談しながら作ったものである。これを製作した松寿苑には、この品物に準じた付下げがあった。それを見たお客様から、自分の好む地色と刺繍の糸の色で、同様の品物を作って欲しいと依頼を受けた。

コンセプトは、あくまで慎ましい薄地色と、控えめに付けられている模様の色がはっきり区別されず、同系色のわずかなコントラストとして見えるように、とのこと。

画像でお判りのように、模様は上前のおくみに二つ、同じく上前身頃に三つの合計五つの七宝花菱文様があるだけだ。ここでは見えないが、左前袖と右後袖にも、一つずつ付けられている。

後身頃には模様が何も無いので、後姿を見れば無地モノに見えるだろう。画像で見ると模様は大きく見えるが、実際は小さいもので、色使いが単色のように見えるため、柄としてのインパクトはほとんどない。

地色そのものも、極めて薄く白に近い鼠色だが、模様にあしらわれている刺繍糸の色がそれに輪をかけて薄いために、地色の中に模様が埋没しているような印象を受ける。この地色と模様の境界を付けないというのが、この品物を作る時のコンセプトである。

模様は全て縫い取りであしらわれている。注意してみると模様の周囲の四つ割の花と、七宝の中の花菱の色とが、ほんのわずかだが違っている。どちらも白に見間違えるほどの薄い色。地色と同系色の濃淡が微妙に工夫され、付けられている。

刺繍を拡大したところ。こちらの方が微妙な配色がわかりやすいだろう。縫い技法は「菅繍い(すがぬい)」。生地の緯目にそって糸を渡しておいて、それを細い糸で止めるという、京縫いの技法の一つ。画像を見て頂ければ、生地の緯目に並んでいる刺繍の目がわかるように思う。

友禅の中で表現される京繍の技法は、15種類。染・箔・絞りなどの他の技法と併用されて使われることが多く、刺繍の技法は、模様をどのように表現するかということで、変わってくる。もちろん技法ばかりではなく、どのような色の糸を使うかということで、模様の雰囲気が変わる。

この品物のように、縫いだけで模様を表現しようとするものは、技法と糸の色は特に重要であり、あしらう刺繍職人の技が全てなのである。この品物を誂える時に考えられた「慎ましやかで上品に」というコンセプトは、達成されているように思う。

 

この品物は、2年ほど前に「袷のキモノ」として製作されたが、先日手直しのために戻ってきた。品物の雰囲気を見れば、袷ではなく単衣として使うにも相応しく思えたので、今日のコーディネートは、単衣として使った場合を考えて帯を合わせてみた。

 

(白地 変わり花菱文様・紗唐織袋帯  西陣・りょうこう織物)

単衣に夏帯を使う場合は、やはり気温が30℃前後に上がっている暑い日。6月では20日過ぎ、9月は10日頃までということになろうが、一概に何日から何日までと決まっている訳ではない。要するに単衣を装う日の朝、その日の気温や天候状態を予測して、使い分けるということになろう。

この帯は紗なので、当然暑い日バージョンである。帯地色は白で、織り出されている菱文様に使われている色は、淡い色ばかり。涼やかな印象が残る品。

図案をご覧になれば、様々な「菱文様」にバリエーションを付けて表していることがわかる。花菱あり、菱の中に唐花のような花が組み込まれているものありで、菱という幾何学文様が花弁に姿を変えて、図案化されている。帯地紋には波文様がほどこされていて、模様はシンプルだが、夏らしく感じられる帯である。

この帯は、緯糸を浮かせて織り出す唐織(からおり)なので、模様が立体的に見え、織なのに刺繍をほどこしたようにも見える。使われている糸の色がおとなしいため、帯としてのインパクトに欠けるようだが、こうして帯の形に作ってみると、様々に工夫が凝らされている菱文様のせいか、思うより華やかさがある。

さて、この帯をコーディネートした時、繍取りの付下げがどのような着姿になるか、見ていくことにしよう。

 

見る人には、少しぼやけたような印象を与えるかもしれない。しかし、この合わせのコンセプトは、慎ましやかなこと。

控えめな上品さを着姿で表現しようとすると、キモノと帯のどちらか一方が主張しすぎてはいけない。双方が一体となって、全体の雰囲気をかもし出す工夫が必要になる。この組み合わせは、あえて色や模様を主張しない品物同士を使い、表現したものである。

 

薄地の品物同士でも、使われている色の傾向が離れると、雰囲気が変わる。キモノは白鼠系統の色でまとめられているので、帯の色も出来るだけそこから離れない色を使いたい。

帯地色ばかりでなく、中の模様に配されている色にも、気を配る。この組み合わせでも、もし帯の中の模様の中に、一つでも強い色(濃い色)が使われていれば、このようには見えない。キモノと帯のバランスは、僅かな色の使い方でも印象が変わってしまい、難しいものだ。特に薄物同士の合わせは、その傾向が強い。

 

前の合わせ。今日の組み合わせは、文様繋がりということも考えてみた。おわかりのように、キモノも帯も「菱」という文様だけで表現されている。図案化されているため、同じものをモチーフにしていたとしても、決して単純な合わせには見えない。

旬を表現する時に、同じ植物をモチーフにしたキモノと帯を同時に使うことがあるが(例えば、桜の花が散らされたキモノに桜が描かれた帯などを使う場合)、あまりに旬が前面に出すぎてしまうと、かえってくどくなってしまう。

同時に同じモチーフを使うときには、それぞれの模様にどれだけのアレンジが加えられているか、ということに注意を払う必要があるだろう。

さらに、今日のコーディネートでは、「模様の見え方」という点にも考えを及ぼしてみた。キモノは刺繍だけのほどこしなので、地から少し浮き上がったように見える。帯も唐織なので、糸が浮き上がり一見縫取りのようにも見える。双方ともに、模様に立体感が出ているという共通性に注目してみた。

 

小物合わせ。帯の菱文様の一つに付けられている、ほんのりピンクが掛かったベージュ色を使ってみた。画像で見ると、一番上部の菱花模様の色。着姿全体を引き締めるために、少し濃い目の帯〆を使うことも考えられるが、あえて小物も優しい色でまとめてみた。なお、帯揚げ・帯〆ともに夏モノである(共に加藤萬の品物)。

 

単衣のコーディネートというのは、使うときの気候変動の幅が大きいこともあり、なかなか難しい。その日の気温などにより、着る方がどのような着姿にするかという意識が変わるからだ。

ただ、「慎ましやかになるように」とか「出来るだけ上品になるように」という考え方は、当日の気候とはあまり関係しないと思える。むしろこれは、どのような場所に着ていくかとか、自分のキモノ姿はこうありたいという、人それぞれの考え方に左右される。

単衣モノに限らず、袷でも薄物でも、どのような色や模様のものを選び、どのようにコーディネートするかということは、自分の着姿にどのようなコンセプトを持つかということが、鍵になると思う。

 

家内は、私のコーディネートはミス・マッチだと良く指摘する。これは、キモノと帯の組み合わせが違うと言っているのではない。どちらかと言えば、薄地の品同士を合わせて上品さを表現することが多い、その私の趣味と、私の容貌が合っていないと言うのだ。

失礼極まりない言い様である。人相の悪い者が、品の良さを好んでいけないことはないだろう。人は自分には備わってないものに惹かれると言う。悪役顔のバイク呉服屋は、言われずとも十分それを自覚している。

これからも、上品な組み合わせの品々を、数多く御紹介したい。皆様のご参考に、少しでもなって頂ければ幸いである。

 

 

自由民主党の党是は、憲法改正にあるようです。その草案を読むと、自衛隊を国防軍として規定したり、基本的人権や個人の権利を制限するような、いわば「制限憲法」を目指すことが伺えます。

「特定秘密保護法」や「国旗・国歌法」、そして今度の「安保法の改正」など、一連の流れを見ると、それが明らかです。先頃、言論を封じるような発言がなされたのも、一つの表れでしょう。

敗戦を教訓として作られた、国民を主権者とする民主的な憲法からは、どうも逆行するように見えて仕方ありません。以前の自民党というのは、ハト派からタカ派まで、非常に幅の広い考え方の人達が集まり、多様な考え方が尊重されてきた政党だと思うのですが、今はタカ一色に染まり、異論が聞こえてきません。

政党名に、「自由」と「民主」を掲げておきながら、少しも体現されていない、むしろ戦前の「大政翼賛会」を彷彿とさせるような有り様です。いわゆるこれは、小林旭現象(昔の名前で出ています)と言うべきものですね。

いずれ、建国記念日が紀元節に、勤労感謝の日が新嘗祭に、天皇誕生日が天長節に戻る日がくるかもしれませんね。

 

世間さまは連休なので、いつもより長い稿を書いてみました。お休みの暇つぶしにでもなって頂けたでしょうか。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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