バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

続・6月のコーディネート 『江戸の粋を繋ぐ竺仙浴衣』・2 小粋編

2014.06 15

「小股の切れ上がった女」という言葉をご存知だろうか。たまに、時代劇の台詞の中で、「あそこの飲み屋の女将は、ちょっと『小股の切れ上がったいい女』でしてね。」などと使われることがある。

どんな女性のことをいうのか、調べてみたのだが、単純に「キモノの似合う粋な女性のこと」とか、具体的に「スラリと背が高く、膝から腿あたりに色気を感じる女のこと」とか、また、まるで自分が見たことがあるが如く、「女性が内股で歩いている時、キモノの裾が少し捲れた時に、チラッと見えた腿が切れ上がるように見えるさまのこと」など、様々な答えがあるようだが、どうもこれといった確かなものがない。

いずれにせよ、江戸の街で見かけられた、細身で足がスラリとして、キモノ姿が板に付いた女性の姿は、想像することができる。

私が考えるのに、『小股の切れ上がった女』=「小粋な女」ということで、間違いないように思う。「小粋」とは、さりげなく気が利いた「男あしらい」が出来る女という意味であり、そういう女性は艶っぽく、男の心を捉えて放さなかったのであろう。

そんな「小粋な女」に好まれた、着姿や、色、柄行きはどんなものだったのだろう。それは、「縞」や「小さい絣」あるいは「無地っぽいもの」などが思い浮かべられる。

そして、竺仙が大事にする江戸から続く文様も、そんな女性達に愛され、日常の着姿の中で見られたものばかりであろう。今日は、「小粋さ」を感じられるような、浴衣のコーディネートを考えてみよう。

但し、「芸者遊び」などしたことのない、「バイク呉服屋」のイメージなので、それが本当に「小粋な姿」に映るかどうかは、あまり自信がない。

 

(綿絽紺地染め・傘菊   生成地一弦華皿献上半巾帯・織屋にしむら)

今年の竺仙浴衣で、もっとも人気のある柄がこの「傘菊(竺仙では万寿菊と名付けている)」の柄。生地目は、先染糸の綿紬を使ったものだが、当店でも毎年この品を定番として扱っている。今年は、「綿紬」ではなく、「綿絽」の生地にしてみた。

紺(褐色)地なので、綿紬を使った生地のものよりも、柄がくっきり浮かびあがる。ご覧のように、「菊文様」の連続柄だが、見方によっては「唐傘」のようにも見える。

総模様の菊に対して、帯はやはりすっきりまとめる方がよい。しかも、粋な浴衣の模様が生きるような、小粋な柄を考える。

ということで、選んでみたのが博多の献上半巾帯。帯の柄は「華皿」。博多帯の代表的な柄は、この「華皿」と「独鈷」、それに「縞」である。もともとこの図案は、真言密教で使う「法具」(いわゆる仏具)からとられている。この「華皿」は、仏を供養する際に、花を散らすのに使われた器である。

シンプルに一弦(一本)だけを帯の中心よりやや上に柄付けしている。柄の糸の色も、浴衣の紺よりやや薄い色であり、締めた時にキリッと見える。それこそ、「小股の切れ上がった」、40代くらいの方の組み合わせということになろうか。

 

(白地コーマ・花篭に菖蒲   白鼠地麻八寸帯・小千谷 小田島克明)

篭と菖蒲を墨色であしらい、わずかに菖蒲の花の先端だけに、芥子色が付けられている。白地と墨色を組み合わせることで、すっきりした大人の浴衣になっている。

菖蒲の花といえば、紫系なのだが、あえてそこにこだわらないことで、清涼感が出せるようだ。竺仙は「菖蒲」をモチーフにしたものが多く見受けられるが、この品のように色の挿し方がそれぞれ工夫されている。

小千谷の小田島克明さんによる、手織りの麻帯を組み合わせてみた。ごく薄いグレー地に、横段二本の縞柄だけのシンプルなもの。あえて、地色同士がコントラストの付かない「白」と「グレー」を組み合わせ、涼感を出してみる。帯の柄がモダンなので、少し若い方にも向くと思える。

二つ並べてみたところ。やはり右の「傘菊」の柄は、「粋」そのものという感じだ。

 

(藍地染コーマ・福良雀   白地変わり菱に縞半巾帯・大倉織物)

丸々と太った雀が、白、あるいは藍で型抜きされた個性的な柄行き。「白抜き」された雀がアクセントになっている。この太った雀を「福良雀」といい、縁起の良い文様とされている。なお、帯結びの一つである「福良雀」とは、この形に似せたものから取られている。

すっきりした浴衣の藍地を生かすために、帯も白を基調にしたものを選んだ。縞の間に「ダイヤ柄」のようなモダンな菱文様。涼感を出すためには、あまり帯の柄が主張しすぎない方がよいと思われる。

 

(藍地綿紬・千鳥に観世流水  からむし八寸手織り帯・織屋にしむら)

流水文様の中の「観世水」を使うことで、文様としての意識が強い柄行きである。千鳥と流水を使ったものは、いくつかパターンがあるが、これが一番「伝統」を感じられる図案だ。

竺仙の綿紬の地色は、この藍の他に「生成色」と「薄鼠色」があるが、一番涼感が出ているのは、やはりこの藍色。最初の品「傘菊」も、この生地で染められているものがあり、綿絽の生地を使ったものとは雰囲気が違ってくる。綿紬生地の自然な織節もアクセントになっている。

「からむし」は「芋麻(ちょま)」と言い、イラクサ科の多年草のこと。糸は、強い繊維質を持つ、この草の皮から取られている。越後上布や宮古上布の原料としても知られており、大変貴重なものである。今、主に生産されているのは会津の昭和村である。只見線の会津川口からバスで40分ほどのところにある、素朴な山里。もうかなり昔、真冬に訪ねたことがあるが、雪深さに驚かされた。村には天然の温泉もあり、都会暮らしに疲れた方にはお勧めの「癒しの村」である。

藍とよく合う、ベージュ系の変わり格子柄の帯を合わせてみた。細い縦縞があることで、落ち着いた帯になる。浴衣というよりも、街着として使える組み合わせ。

ついでなので、綿紬の「鼠色地」のものも一点、簡単に紹介しておこう。

(鼠色地綿紬・ほおずき   青磁地色源氏香文様半巾帯・織屋にしむら)

鼠紬地は、かなり地味になるが、大きなほおずきをモチーフにすることでそれを補っている。若い方にも十分使える柄。帯は、ほおずきにあしらわれている色の中の青磁色を使ってみた。

からむしの博多帯は、どちらの浴衣にも使えそうである。

 

(藍地染コーマ・みじん縞   薄鼠色蜻蛉模様博多角帯・大倉織物)

さて、最後の品は、江戸の粋をもっとも感じることが出来る「縞」。藍色に「みじん縞」のようなごく細い縞。いわゆる「万筋」だ。全体を写すと「藍の無地」にしか見えないので、まず最初に「縞」がわかる画像を出して見た。

このみじん縞の浴衣は、男女どちらでも使うことが出来る。そして男モノとしても、女モノとしても、「粋」な着姿になる。

すこし光の当たり方で「藍」の色が違って見えるが、「縞の細かさ」はこんな具合。

(女性モノとしての合わせ 白五弦献上八寸博多帯・黒木織物)

男モノとして、グレーに蜻蛉柄の角帯を合わせた。「蜻蛉」は、古来から武士の間で「勝虫」として縁起の良い図案とされてきた。「甲冑」や「刀のつば」の文様になっているものがあるくらいで、角帯の柄としてはふさわしいもの。

女モノでは、白の五弦献上帯で、すっきりとした着姿になるようにしてみた。さきほど「華皿柄半巾帯」を使ったところで、少しお話したが、この帯は細い三本の「華皿柄」と太い二本の「独鈷柄」が交互に付けられ、その間に中子持(親子縞)とよばれる「縞柄」が配されている。博多献上帯の定番、「平地織」の品。

遠目に写すと、やはり無地モノのようだが、「江戸小紋」における「万筋」同様、他人にはわかり難い文様だからこそ、身につける方自身が、「粋」を意識することの出来る浴衣である。

竺仙は、「江戸小紋」のメーカーでもある。浴衣と共通するのは、その「型紙」の精緻さにある。特にこの「万筋」のような品物には、その技術が如何なく発揮されている。

 

竺仙のHPの冒頭に記されている、「竺仙のこだわり」がある。少しここで抜粋してみよう。

「竺仙」は実に所謂志ぶい物の総本家にして、其染出せる中形の浴衣地手拭地を始め、凡て染模様色合の風流古雅にして渋みある、斬新奇抜にして意気なる、到底類と真似の出来得べからざる者にて、通人社会の垂涎措く能はざる所なり・・・」

この文章は、明治34年に松本道別(まつもとちわき)という人物が著した、「東京名物志」の中の一節である。この本は、明治期の東京、特に日本橋界隈などの名店が数多く紹介されている、いわば「ガイドブック」的なもの。松本道別は、東京専門学校を出て、自由民権運動などにも関った人物であり、のちには、「霊術師」となるなど、かなり「わかり難い」経歴の持ち主である。このような「店舗紹介」を詳しく書き記した人物には、そぐわないように思える。

上の竺仙に関する松本の記述は、今でもそのまま当てはまる。染める柄や色合いは、「風雅」であり、「斬新」でもある。それは、「到底真似の出来ない」もので、「通好み」の人にとっては、「あこがれ」の品物。

この会社は、明治の人から持ち続けてられている「竺仙らしさ」というものを、もっとも大切にしていることがわかる。その基本は、やはり「粋」というものが持つ「美しさ」、ということになるのではないだろうか。二回に分けて、13点の浴衣をコーディネートしてみたが、改めて、このことを強く感じさせてもらえたように思う。

 

江戸から繋がれた竺仙の浴衣の魅力、感じていただけるようなコーディネートになっているでしょうか。皆様も一度は、「小粋な、小股の切れ上がった女」の着姿に挑戦してみたら如何ですか。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

   

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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