バイク呉服屋の忙しい日々

その他

2017年 酉の年を迎えて

2017.01 06

あけましておめでとうございます。

年末・年始の休みを少し長く頂きましたので、今日からがバイク呉服屋の仕事始めとなります。すでに店には、暮れから持ち越しになっている手直しの品物が積みあがっているので、まずはこれを職人さんのところへ送ることから、始めなければなりません。

 

さて、2013年の5月から書き始めたこのブログも、5年目を迎えます。開設当初の目標として掲げたのは、同じようなリズムでまず5年間は書き続けること。そもそも、地方の小さな呉服屋が書くような文章ですので、初めから読者の数を意識することは、ほとんどありませんでした。

けれども、現在一日に500人以上の方が、このページを訪ねて下さることを考えると、驚きでしかありません。何故、読者数が増えてきたのか、私なりに考えてみると、それは「リアルな呉服屋の仕事」を、そのまま題材にしているからではないでしょうか。

品物が、どこでどのように産みだされ、どんな形で流通してきたのか。そして扱う呉服屋が、どのような思いで品物を買い入れ、消費者に提案しているのか。さらに、求められたモノは、どのような技術を持つ職人の手で、加工されているのか。生産者・流通者・小売・加工と、今まで見え難かったそれぞれの仕事の情報を伝えているからこそ、皆様が読んで下さるのだと。

ただ最近は、どうしても「読まれていること」を意識してしまい、文章が硬くなっています。最初の頃の稿を読み直すと、もう少しのびのび書いているような気がしますね。今年は初心に戻って、自由にゆったりと取り組んでいこうと思います。

皆様、本年も、どうぞよろしくお付き合いくださいますよう、お願い致します。

 

新年のウインドは、芹沢銈介のいろは文様訪問着。店先に飾るのは、一昨年のお正月以来。良い状態で保管するためには、たまには外気に触れ、風を入れ直すことも大切。

店の入り口の小ウインドは、雪輪と新春の縁起花・千両をモチーフにした、白地の織名古屋帯。ガラスを磨きすぎたのて、店内の様子が画像に写ってしまっている。

今年最初の稿なので、改めてバイク呉服屋が考える「小売専門店の果たす役割」について、少しお話してみたい。

 

近頃、仕事で東京へ行くたびに、以前より和服姿が増えたと感じる。特に、日本橋や銀座界隈では、さりげないキモノで街歩きや買い物を楽しまれる方を必ず見かける。また、地下鉄・銀座線や日比谷線のホームや車内などでも、和装を目にすることが多い。

10年ほど前までは、出張で東京にいる間、キモノ姿を一人も見かけないことがあったことを考えれば、様変わりであり、改めて今、和装が見直されていると考えても良いだろう。

 

このカジュアルキモノ復活の大きな原動力の一つには、間違いなく意識の変化(特に若い方の)がある。もちろん、洋服とはまったく異なる和装の美しさについては、以前から認識されており、多くの方が魅力的なものと感じていた。

だがこの30年というもの、すっかり日常から姿を消していた。この原因は、日本人の生活様式の変化、女性の社会進出など、様々なことがあるが、それにも増して妨げとなっていたのは、「自分で着てみたくても、容易に着ることが出来ない」こと。これが「現実感の薄さ」に繋がっていた。

何よりもまず、自分で着用することを覚えなくてはならない。そして、キモノや帯は「高価なもの」という意識があり、求めることに躊躇がある。この二つは、とても大きなハードルだった。さらに、和装のTPO(場面ごとに着用するものが変わることなど)を覚えることも難しく、その情報を得ることも容易ではない。

若い方なら、すでに自分の親世代にはキモノに馴染みは無く、周囲に知識を持つ人も少ない。では呉服屋でと考えようにも、敷居が高く、入って聞くにはかなりの勇気が必要になる。特に若い方には、難しいことであった。

 

こんな厄介な和装へのハードルを下げたのは、まぎれもなくITの力であろう。着用に関しては、リアルな教室で習う人もいれば、ネット動画を参考にしながら独習し、覚えてしまう人もいる。また、着装以外の情報も、ネットには溢れていて、何をどこでどのように使えば良いのかなども、簡単に理解出来る。

そして、決定的なことは、品物がたやすく手に入るようになり、しかも安価なモノを探すことが可能になったこと。IT以前は、一部のリサイクル品を除き、デパートや専門店、それに大手のNC(ナショナルチェーン)などで購入するほかは無く、価格や品質を比較することさえ、難しかった。

それが今や、多くの呉服屋がネット販売を使っており、消費者は入り難い暖簾をくぐらずとも、モノを買うことが出来る。また、どこの店で、どんな品物を扱っているのかも判り、モノ選びの検討もすぐに出来る。

また、リサイクル店やオークションで出品されているものには、1万円以下のも山ほどある。自分の寸法に近いものを探しながら選べば、直すこともなく、そのまま使える。

 

こう考えると、品物や店の選択というものが、今や、全て消費者の手の内に入ったことが判る。とすれば、おのずと店側の仕事も変わらざるを得ない。情報が限られていた時代のような、「店側主導の商い」では、到底対応することが出来なくなっている。

では、これから「リアル店舗」を持つ専門店として、どのような生き方をすれば良いのか、それを考えてみよう。

 

キモノを着てみたいという若い方や、日本の文化に触れてみたいという訪日外国人が増えたこともあり、キモノレンタル店の数はかなり増えた。特に京都などでは、どの店も活況を呈しているとも聞く。品物を持たず、自分で着付けができなくとも、気軽に街歩きを楽しむことが出来るので、便利な存在である。

もちろん、このような店を使って、キモノを楽しまれる方は、それでいいと思う。単純にキモノを経験してみたいだけなのであれば、最初はこれで十分なのかも知れない。ただ、これで終わってしまう方と、そうではない方とでは、和装との向き合い方は大きく異なる。これは、振袖をその場限りの「成人式の衣装」として考える方と、そうではない方の違いに良く似ている。

 

おそらく、このブログを読んでいる方々は、「キモノや帯に関わる情報を、もっと知りたい」と思われている方ばかりであろう。つまり、人任せによるその場限りの衣装ではなく、自分で工夫して身につけ、自分なりの着姿を楽しみたい。だからこそ、知識を持ちたいと考えている方である。

自分で、様々なことを覚えれば覚えるほど、世界は無限に広がっていく。例えば、自分で着装出来るようになれば、キモノで出掛ける機会は格段に増え、自分でも積極的に「着る時」を探すだろう。そして、着慣れてくると、本当の自分の寸法を、理解出来るようになる。

また、品物の質を知ることにより、より確かなモノを手にする機会も増える。今は、ネットで自由にモノが買える時代なので、知識を持てば持つほど、思うモノを探すことが出来、価格を比較して、無理の無い買い物も出来る。その上、自分の寸法が判っていれば、オークションなどで出品されているリサイクル品からも、見つけることが可能だ。

自分で着装することで、自分の着やすい寸法を把握する。さらに品物に関する知識を豊富に持つ。そして、一つの品物を、良い状態で長く使うことが出来るような、手入れに関わる智恵を理解する。ここまで出来ていれば、ほぼ怖いものなしで、あとは、自分なりの着姿をどのように作り上げるか、それを楽しむばかりとなる。そうすれば、季節により素材が代わることが判り、旬への意識も生まれ、ふさわしい模様や色も気に留めるようになる。

 

専門店としての大きな役割は、「いかにお客様に知識をもって頂くか」ということ。品物のことだけではなく、寸法のこと、扱い方、加工のされ方など、お客様一人一人が、自分でキモノライフを楽しんでいけるような、智恵と知識を提供すること、これに尽きると思う。

もちろん呉服屋も、モノを売ったり、直したりする代金で、飯を食べている。けれども、その前にしておかなければいけないことが、ありはしないか。店側が様々な情報を伝えることで、お客様自身が自分の求めたいモノや、直したいことを理解し、店に求めることを、的確に把握出来るようになる。つまりは、店との向き合い方が変わっていくことに繋がる。商いにおいては、あくまで、主人公はお客様であり、店はその希望にどのように答えていくかが、仕事だ。

こうなれば、店側の思惑で、勝手にモノを売りつけたり、加工をないがしろにしたりは、出来ない。知識を得た消費者は、いい加減な呉服屋の仕事を、見抜くことが出来るようになるからだ。

専門店として暖簾を掲げるのであれば、モノを売る前に、まずお客様に必要な情報を伝えること。これまで、このことを怠ってきたばかりに、商いが不透明となり、ひいては消費者にそっぽを向かれてしまい、結果として、現実味の乏しい民族衣装となってしまった。だが、和装が若い方に見直され始めた今こそ、お客様ときちんとした関係を再構築するチャンスである。

 

知識を得たお客様が、どこの店を選ぶかは、自由だ。うちの店にも、ネット販売や、オークションを利用している方も、沢山来られる。そこで購入した品物の仕立や、寸法直しを依頼されることも多い。

私は、そんな仕事も喜んで引き受けている。品物は、自分の判断だけで選んだが、自分の寸法通りに、着心地良く使おうと考えたからこそ、きちんとした職人を持つ専門店に加工仕事を依頼したのだ。これも店として信頼されている証である。

品物を購入して頂くことだけが、専門店の仕事ではない。これからは、なお、加工に関わる依頼は増えてくるように思う。納得のいく仕立や手直しを求めている方は、やはり自分で知識を持っている方。自分でキモノライフを楽しまれている方に、どれほどのお手伝いが出来るかが、これからの専門店に求められる課題と言えよう。

 

そして、ネットで品物を購入される方は、専門店の品物は見ないかといえば、決してそんなことはない。うちに来る方々はどなたも、いつも興味津々である。話をしているうちに、品物探しを依頼されることもよくある。

若い方々は、リアル店舗と仮想店舗の両方を、実に上手に使い分けている。本来品物は、手にとって実物を見るのが一番、と考えている人も多い。そして、扱う店主とじっくり向き合い、言葉を交わしながらモノを選ぶ時間が、何より楽しいと話す。

これから求められるのは、この、品物を間に挟んでお客様とゆっくり向き合う時間だと思う。これは、ネットでは絶対持つことが出来ない、リアルな気持ちの通い合いである。

 

情報の発信はブログで、現実の仕事はリアルで。この両方をすみ分けながら、今年も充実した仕事をしたいと思う。店舗に来て頂ければ有難く、また依頼ごとを頂けば、どんな遠方でも伺うことは厭わない。バイク呉服屋にとって、多くの方と、楽しい時間を共有できれば、こんな嬉しいことはない。

キモノ文化を未来に繋げていくためには、モノ作りをする職人や、加工を請け負う職人、そして流通に携わる呉服屋の役割は大きい。しかし、伝承するという意味で、もっとも大切な立場にいるのは、お客様自身だと思う。

知識を身につけ、身を持ってキモノライフを実践されている方こそが、次世代に、民族衣装たる和服の素晴らしさを伝えていくことが出来る、「よき伝達者」となる。そんな方々の知識の一助になるように、今年も、情報発信をしていきたい。

 

少し長いお正月休みを頂いたので、年明け早々、久しぶりに「人間ドッグ」に入ってきました。個人で店を経営する者は、自分で時間を作らない限り、検診を受けることはないので、良い機会だったと思います。

検査の進歩は著しく、以前なら、苦痛を伴うような「胃カメラ」も、麻酔を使い楽に受けられました。これなら、毎年でも大丈夫ですね。私には、早喰いや爆喰いの習性があるので、胃の負担は相当かと思われますが、どうやら影響は最小限に抑えられているようです。

定期的にブログが更新出来るのも、健康であればこそ。50代も後半にさしかかるので、この一年、体に無理なく仕事を続けていけるように心掛けたいと思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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