「そばかす美人」とか「あばたもエクボ」という言葉がある。好きになってしまえば、相手の欠点と思えるところも含めて、愛おしいと思えることの例えだ。
普通では、自分が気になるようなところでも、相手はナチュラルな姿として認める。これは男女の仲だけではなく、一般の人間関係の中でもこうありたいものである。
では、品物の中に見られる自然な擦れや染めの滲みなどは、どこまで許されるだろうか。これを手仕事の痕として肯定的に見るか、それとも失敗した部分として否定的に見るか、人により考え方は違うだろう。それは、どのように作られているものかということの、理解度の違いでも、感じ方に差が出来るように思う。
先日、うちを担当している竺仙の若い社員と話す機会があったのだが、そこで聞いたところによれば、今、形紙の僅かな痕跡や、小さな染料の擦れなどを、「不良品ではないか」とクレームを付けられることがあるらしい。竺仙では小売もしているので、直接消費者と話す機会があるため、このようなケースに何度か遭遇する。
前回のブログでお話したように、人の手を使って染められる浴衣には、形紙の継ぎ痕や染料の僅かなムラが残ることがある。もちろん職人は、出来る限り痕跡を残さないように努力する。しかし、どうしても僅かな痕が付いてしまうことがある。
これを、手仕事の証拠=自然についた痕と見ないで、職人のミスと見てしまう。もちろん極端な痕や染ムラならば失敗なのだが、竺仙が検品して出荷した品物に、許容できないような汚れやムラがあるはずはない。「自然に付いた手仕事の痕」として、容認できると判断されたからこそ、売り場に出されたのである。
竺仙では、このようなクレームに対して、どうやって染められているのかを詳しく説明することで、消費者の納得が得られているようだ。手仕事に対する認識を持ってもらえば、理解して頂けることだ。これはメーカーだけでなく、それを扱う我々小売屋にも同じことが求められるだろう。モノ作りの過程を知って頂くことは、商いの第一歩である。
さて今日は、久しぶりに女房の仕事着をお見せしよう。最近のブログで浴衣についてお話することが多かったので、仕事着として使っている姿を見て頂き、皆様のご参考になればとも思う。
(竺仙藍地綿紬浴衣・桔梗模様 紗博多八寸帯・鶸とクリーム色市松模様)
ネップ糸を織り込んだ綿紬素材なので、所々に白い折節が見られる。模様は桔梗だけで、所々に薄紫と薄グレーのぼかしが入っている。模様の大きさ、挿し色の色調共に、家内の年齢相応の浴衣。(年齢は、私より二歳下ということでお許し頂きたい。)
年齢が深まると、次第に柄行きのおとなしいものを選ぶ方が多いが、浴衣の場合は、普通のキモノよりも大胆で良いと思う。体格のよい方は、少し大きめではっきり模様の出た品物の方が、着映えがする。家内は166cmと大柄なので、あまりに細かい柄だと地味に見える。
画像の裄の長さを見て頂きたい。手を下げた時には、くるぶし部分が見えている。家内が仕事着として使っているモノは、だいたいがこの寸法である。事務をする時、掃除をする時、運転する時など、長い裄丈だと仕事の邪魔になる。それを勘案すると、この程度の寸法(1尺7寸5分)なのだ。フォーマル系の裄丈はこれより1寸ほど長い。日常着としてキモノを使っていた時代の裄丈は、使い勝手を考えて、このように短いものが多かった。
(帯揚げ 絽白地に飛び絞り桔梗模様・加藤萬 帯〆 平織水色無地・龍工房)
浴衣が落ち着いた印象なので、帯は明るく柔らかい色を使っている。薄いクリームと鶸色だけという、二色の淡色を使い、市松模様の織柄を出している。このような無地系の帯は、浴衣の模様の大きさを問わず、合わせやすい。紬地浴衣は、名古屋帯を使えば街着としても十分使えそうである。
画像から、帯揚げの模様は分かり難いが、絽の白地に濃紺の桔梗模様が、絞りで飛び飛びに付けられている。帯〆は、浴衣地の藍色より薄い水色で、三角に隙間のある夏紐。帯、小物共に浴衣地色より薄い色を基調にしている。
後姿を写したところ。背が高いので、お太鼓を少し大きめに出して締めている。クリームと鶸色の配色が若々しい。帯だけをみれば派手のように見えるものも、暗い挿し色の浴衣に合わせれば、印象が変わる。
紗の透け感がよくわかる帯の織り出し。市松模様の中で、クリームと鶸色の濃淡が微妙に付けられているところが、アクセントになっている。どちらかと言えば、モダンな印象を残す帯である。帯の横から帯揚げの桔梗模様が覗き見える。控えめながら、小物の存在感を見せているということになろうか。
同じ名古屋帯でも、伝統柄の献上縞の博多帯を使えば、雰囲気は変わるだろうし、半巾帯ならば浴衣本来の着姿となる。また、長襦袢を使うことにより衿を出し、より夏キモノらしく使うこともできる。皆様も工夫を凝らしながら、一枚の浴衣を多目的に使って頂きたいと思う。
ブログをお読みの方はお気づきかもしれませんが、この帯は紅梅小紋のコーディネートの時に使ったもの。どうしても帯を新調したいというので、仕方なく譲ることにしました。彼女が、仕入れたばかりの品物を欲しがることはかなり珍しいことなのです。
しかし、女房が使うモノでも、バイク呉服屋は容赦なく代金を徴収します。もちろん小売価格ではなく、仕入価格なのですが、しっかり消費税も頂きます。品物は、あくまでもお客様のためのものなので、この辺のケジメは、はっきり付けなければなりません。
このように書くと、なんと融通の利かない意地悪な主人と思われるかもしれませんが、給料はすべて家内に丸投げであり、家計はすべて彼女が握っています。おそらく日常のやりくりの中から、捻出されているのでしょう。ちなみに私の仕事着は、自分の小遣いの中からやりくりして購入しています。不公平感は、どうしても否めません。
今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。