バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

飛び柄小紋を、染・織双方の名古屋帯で合わせてみる  織帯編 

2019.10 18

17日の夕方現在で、68河川・125ヶ所で堤防が決壊、そして越水して氾濫した河川はのべ250以上にも上る。その範囲は、関東から長野、東北までの1都7県に及ぶが、これだけ多くの河川が同時に氾濫したことは、今まで記憶に無い。

19号台風は、接近前から強大な勢力を持っていると、周知されてはいたものの、一日で500ミリを越すような雨が各地に降るとは、予想できなかった。源流部で降った膨大な雨が、一挙に川に流れ込み、中流や下流の堤防を押し流してしまったのである。もちろんこれまでに、ある程度の治水対策は施されていたのだが、今回のあまりの暴威には抗しきれなかった。

中でも、千曲川(信濃川)や阿武隈川のような、日本の河川を代表する長大な川が氾濫するとは、誰も予想出来まい。大河だけに、どこかで水が溢れると被害は広範囲にわたり、甚大となってしまう。そして、その被害の全容は、まだはっきり判っていない。

 

バイク呉服屋が住む山梨県は、幸いにして氾濫した河川は無かったが、これは僥倖であり、台風の進路が少し違っていれば、結果は違っていただろう。ほんの僅かな雨雲の位置や動きで、人々の運命が変わってしまう。自然は非情である。

県内には、生活を脅かす大きな被害は少なかったものの、影響が全く無い訳ではない。今、最も困っているのは、東京へのアクセスが難しいこと。普段東京方面へは、電車なら中央線の特急、車なら中央高速を使うが、どちらも新宿までは1時間半ほどで着く。けれども、線路も道路も、途中の小仏峠付近で土砂崩れが起こり、復旧の目途すら立っていない。

今、東京へ行く手段は、静岡まで行って、そこから新幹線か東名高速に乗るしかない。これだと3時間以上は十分に掛かる。「陸の孤島化」した数年前の大雪の時を思い出すが、今回はまだ、方策があるだけましだろう。被災された多くの方々のことを思えば、これくらいのことは、我慢のうちには入らない。

 

東日本大震災の時もそうだったが、何不自由なく普通に暮らしていることが、とても後ろめたく思える。呉服屋など、平和で穏やかな日常があってこそ、成り立つ商売。こんな時に、趣味的なブログを書くのはとても気が引けるが、これもやるべき仕事と覚悟を決めて、稿を起こすことにした。この場を借りて、今回被災された方々には、心からのお見舞いを申し上げたい。

 

以前にもブログの中で書いたが、飛び柄の小紋は、キモノのアイテムとして微妙な位置にある品物かと思う。一応カジュアルの範疇に入るが、時として気軽なフォーマルな場での装いともなり、お茶席で使うこともある。特に、模様が小さく、地の無地場が大きく広がっているものは、時に応じて、晴れと褻どちらにも使うことが出来よう。

また名古屋帯も、その図案や作り方によって、フォーマル的な使い方をすることがある。無論、畏まった礼装の席では駄目だが、少しカジュアル化したパーティなどでは、袋帯ではなく名古屋帯で代用することも可能だろう。例えば、昨今では郊外のレストランなどで、ごく親しい人だけを集めて簡素に行う「カジュアル的な結婚式」が増えているが、そんな式の招待状には、「平服でお越し下さい」と書かれている。こうした席では、飛び柄小紋と名古屋帯の組み合わせでも良いように思える。

こう考えると、飛び柄小紋と名古屋帯は、どちらも着用の場を見極めながら使う難しい品物と言えるが、だからこその面白さもある。そこで今日から二回に分けて、飛び柄小紋に、染・織それぞれの名古屋帯を使い、どのような着姿を表現出来るのか試すことにしよう。

名古屋帯は、品物によっても着姿の雰囲気が微妙に変わるので、その辺りを見極めながら話を進めてみたい。今日はまず、織名古屋帯から。

 

今回コーディネートに使う三点の飛び柄小紋。いずれも模様が小さく、地が大きく空いている。飛び柄小紋と言っても、模様の大きさや配置により、その印象は大きく異なるが、この三点は、小紋と無地の中間的な品物と位置付けることが出来るだろう。では、一点ずつ名古屋帯を合わせてみよう。

 

(桜色 小丸文 飛び柄小紋・菱一)

僅かに灰色が掛かった淡い桜色の地に、中に小花をあしらった小さな丸を散りばめた飛び柄小紋。小丸の配色は、黄と青疋田で花はごく小さい。三点の小紋の中に限れば、模様の配色が一番目立ち、また図案の数も多いことから、カジュアルの方に少し傾いた飛び柄と言えよう。

小紋の図案。花をよく見ると、葉と実の形状から葡萄のようにも見える。模様に、地色より目立つ配色をすると、柄が強調されて無地っぽさが消え、小紋らしくなる。一見、同じように見える飛び柄小紋でも、あしらいの違いで雰囲気が変わる。

(白地 杜若・撫子立花文様 九寸織名古屋帯・川島織物)

清潔感のある白地、そしてパステル色を基調とする模様の配色。小紋の桜地色を優しく印象付けられる帯を選んでみた。帯模様のモチーフは杜若と撫子で、春秋仕様になっていると判るが、どちらの花も立花になっており、しかも図案化されているために、それほど季節感が前に出て来ない。

織帯は染帯よりも、写実性が少ない分、使い勝手が良くなる。また、織りで模様を表現していることで、染よりも帯感が強く出てくる。だから、その分フォーマルぽくなる。

前は、杜若と撫子の立花が横たわる姿となる。画像から見ても、桜色地のキモノと白地の帯の組み合わせは、優しい上品な姿に映るようだ。帯〆を、少し濃い目のピンクか空色系にすると、着姿がぼやけずに引き締まるように思う。

 

(藍鼠色 小花の丸文 飛び柄小紋・菱一)

鼠色の中に僅かな青みを感じる落ち着きのある地色。図案は花の丸だが、モチーフの花は特定できない。前の小紋と比べても、模様の数はかなり少なく、その上挿し色もほとんど目立たない。三点の中で、最も無地的要素の強い小紋。

模様には、ほんの申し訳程度に芥子とピンク色が付いているが、これでは着用しても、模様から色の気配はほとんど感じられないだろう。地も大きく空いていて、配色も目立たないとなれば、無地とほぼ同じ感覚で着用出来ることになる。

(黒地 立涌唐花文様 九寸織名古屋帯・藤原織物)

立涌の中に二種類の唐花を配置し、モダンな印象を残す黒地。無地に近い小紋姿なので、使う帯次第でどのようにも変化が付く。模様を区切る立涌が、図案全体に流れを作っている。小花主体の唐花は、可愛いイメージを残す。

唐花の配色は薄い色が主体。これだと、色よりも黒地に浮き上がる図案が、着姿からは目立つ。おとなしい飛び柄小紋では、こうした密な図案の帯を使うことで、インパクトが出せる。模様配色の中のひと色を帯〆に使い、少し色の気配を出したいところ。

 

(サーモンピンク色 菊手鞠文 飛び柄小紋・千切屋治兵衛)

柔らかなサーモンピンク地色に、赤と鶸二色の丸い菊。三点の中で、最も季節感があり、図案を凝らした小紋。この図案は、花弁が中心に向かって盛り上がる「厚物」と呼ぶ大菊をイメージしたもの。遠目からは、手鞠にも見える。

ほとんど目立たないが、花芯には銀をあしらう。配色の割合は、赤1に対して鶸色は4。そして赤菊は一種類だが、鶸色菊は大小二種類。色と大きさの違う菊手鞠が絶妙に配置されており、それが優しいサーモンピンクの地色と複合して、可愛い小紋となっている。

(鶸色地 剣菱花文様 九寸織名古屋帯・斉木織物)

菊手鞠の色・鶸色と同系色の帯を合わせてみた。花菱の配色にもサーモンピンクがあり、キモノと帯の色がリンクする。花菱文のような有職系の文様は、袋帯の意匠としても頻繁に使われている格調の高い図案。このような名古屋帯を使うと、少しフォーマルに近くなる。

色の傾向が重なるキモノと帯。全体がはんなりとしているので、帯〆には濃い橙系を使って、着姿にアクセントを付けたい。

 

見て頂いたように、小さな飛び柄小紋と一口にいっても、それぞれに違いがあり、着姿にも違う印象を残す。合わせる帯は、各々の小紋の特徴を見極めて選ぶことになるが、今日御紹介したような「織名古屋帯」を使うと、少し改まった装いになると思う。ご覧になった皆様は、どのように感じられただろうか。

もちろん、帯を変えることで、逆にカジュアル化することもあるが、果たして染名古屋帯ではどのようになるのか。次回も、今日と同じ三点の飛び柄小紋を使って、今度は染帯との組み合わせを試すことにしたい。                     最後に、今日御紹介した織名古屋帯との合わせを、もう一度どうぞ。

 

ここ数年は、毎年どこかの地域が、激甚な災害に見舞われています。「備えあれば憂い無し」とは言うものの、想定を超えた雨と風は、凌ぎようもないほど強大化し、人智を超えた被害をもたらしています。

自然は人に多くの恵みを与えてくれますが、時として牙を向き、根こそぎ生活を奪い取ってしまいます。どうしたら、共生することが出来るのでしょうか。これこそ、人が地球規模で考えなければならない、最大の課題と言えましょう。

悲しい経験を糧にし、未来を生きる礎としなければ、犠牲になられた方々に顔向けが出来ません。「万が一」のことは、どこでも誰にでも起こりうる時代なのだと、常に心に留めておかなければなりませんね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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