バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

和装の脇役、長襦袢と半衿に注目してみる  フォーマル編

2017.12 03

うちの奥さんは、毎年今頃大根を漬ける。糠と一緒に、鷹の爪や乾燥させた柿の皮を混ぜ、そこに塩とカルピスを入れる。漬物にカルピスとは、何とも不思議な取り合わせだが、使うことにより、発酵を促進すると同時に、甘酸っぱい独特の風味をも醸し出す。

一冬の間、夫婦二人だけで食べるので、漬ける大根は全部で20本ほどと少ない。だが、毎年同じレシピで作っても、同じ味にならない。気温や湿度の違いもあるが、大きな要因は、素材である大根そのものの出来なのだろう。

 

大根は、11月中旬に明野という村(現在は北杜市)へ、買いに出掛ける。ここは、甲府から車で西へ30分ほど、茅が岳(かやがたけ)という山の麓に広がる高原。日照時間が長く、朝晩の気温に寒暖差があるため、野菜栽培の適地である。特に、浅尾という地区は、昔から大根生産が盛んで、県内では、大きくて甘みが強いことで知られている。11月の収穫最盛期には、「浅尾大根まつり」を開催し、大勢の人で賑わう。

今年も例年のように、大根を買いに行ったところ、いつもの年と様子が違う。沢庵用には、干して乾燥させたものを使うが、それがほとんど入荷していないのだ。JA(農協)の直売所で聞いたところ、今年は夏の長雨が原因で日照不足、それにより生育が遅れているとのこと。販売している生の大根も、小ぶりなものが多い。

生産量が少なく、大きさも期待出来ないということで、仕方なく一週間後に、いつもよりかなり小さいもので、漬け込みをした。家内は、小さいと硬さも残り、味に深みも出ないから、今年の沢庵は期待しないでと話す。やはり、素材の不作は、味の如何に大きく関わっている。

 

今年の冬は、夏の天候不順の影響を受けて、大根に限らず、白菜やレタス、ほうれん草など葉物野菜の価格が、急騰している。特に白菜と大根は、鍋物には欠かすことの出来ない脇役であり、これが無いと間が抜けてしまう。

鍋物の野菜に限らず、バイプレイヤーの存在は、どんなことでも重要だろう。映画やドラマでは、脇役にキラリと光る役者を配すると、作品に深みが増すし、野球でも、バントのうまい打者の存在は、打線に繋がりを持たす。

和装の中でも、そんな脇役のような存在の品物がある。主役である帯やキモノを、着姿の中でより引きたて、印象を深める役割を果たす。それが、帯〆や帯揚げ、半衿、長襦袢、草履やバッグなどの和装小物である。今日は、この中から、長襦袢と半衿に注目して、その使い方や素材、色の取り合わせなどの話をしてみたい。

 

色とりどりの長襦袢。右・カジュアル向き  左・フォーマル向き

長襦袢は、着姿からほとんど見えることがなく、僅かに振りやみやつ口からちらりと覗く程度である。無論、着装には欠かせない品物であるが、素材はもとより、色や模様を、他人が窺い知ることは出来ない。

とは言えども、着用する人にとって長襦袢は、こだわり甲斐のあるアイテムであろう。見えない所に凝ることは、一つの自己主張でもある。また、襦袢には、色や模様のあしらい方によって、使うキモノ(場所)が決められているものもある。キモノの常識として、誰もが知っていることとは思うが、まずは、フォーマルの中でも、第一礼装の中で使う襦袢から、御紹介してみよう。

 

紋綸子 白長襦袢  画像左から、小桜・道長取りに有職文様・光琳菊(加藤萬)

第一礼装と位置付けられる代表的な品物は、黒留袖、色留袖と喪服。勲章授与式などは別にして、ほとんどの人は、結婚式とお葬式で着用する。この慶弔で使うキモノの襦袢の色は、白と決まっていて、色モノは使わない。

小さな桜の花びらを一面に織り出した、綸子の長襦袢。フォーマル用襦袢の生地は、画像のような、地に文様を織り出した・地紋の付いているものがほとんど。

紋綸子(りんず)とは、地紋織物の一種で、地と文様の双方を繻子織を使って織り上げた生地のこと。繻子(しゅす)は、経糸と緯糸が交わる所を一定の間隔で置く織り方により、糸の浮きが多い織物組織となる。この織物の特徴は、生地に強い光沢を持ち、表面が滑らかですべるような感触を持つ。英語名ではSatin(サティン)。シルクのドレスによく使うサティン生地を思い出して頂く方が、皆様には判りやすいかも知れない。

この紋綸子生地は、光沢のある生地そのものと、多様にあしらわれる地紋の美しさにより、江戸期の上流社会では、色に染めることなく、白生地のまま、襲(かさね)や夜具に用いた。現在でも、重めの紋綸子は、振袖や訪問着などのフォーマルモノの生地として使うことが多い。この長襦袢や帯揚げなどに使用するものは、軽めの生地である。

では、この第一礼装用の白長襦袢に付ける半衿を何か、考えてみる。

葬儀の際、喪服着用時の衿は、白の無地衿と決まっている。生地の素材は塩瀬。蛇足だが、塩瀬(しおぜ)というのは、密になっている経糸に、比較的太い緯糸を打ち込んで織り上げた、厚い羽二重生地のこと。半衿の他によく使われるのが、帯生地。「塩瀬の染め帯」という名前に、聞き覚えのある方も多いだろう。

結婚式・黒留袖着用の際には、上の画像のような、白地に金銀糸を使って模様を縫い取った、刺縫半衿を使うことがある。無論、無地の白い塩瀬衿でも良いが、裾以外に模様が無い黒留袖の襟元を、少し華やかにしようとする試みである。ただ、この刺縫衿の地は必ず白地であり、縫糸には白・金・銀以外の色が入ったものは、使わない。

金銀糸の入らない、白糸だけで縫い取られた花扇模様の刺縫半衿。金銀糸が入ると、仰々しくなりすぎるのが嫌な方は、白糸だけを使う縫衿を付けることもある。金糸・銀糸を使わないものだと、豪華さは消えて、かなり大人しい雰囲気になる。

左から、無地塩瀬半衿・桜花弁(かなり図案化されていて、特定出来ない)・花扇。着用される方の好みや、年齢に応じて、使う半衿の模様の嵩や、金銀糸の有無などを考える。また、縫模様に季節感があるもの(例えば、桜や梅だけであしらわれているもの)などは、着用する季節を考え合わせながら、選ぶこともある。

慶弔兼用で使う白い長襦袢だけに、襦袢の模様も無難な図案が多い。桜や菊のような、日本を代表する花のほか、有職文様や流水、紗綾型などが、ポピュラーな襦袢模様になっている。

 

紋綸子 振袖用長襦袢 サーモンピンクぼかし・大梅花模様(加藤萬)

振袖も、未婚女性の第一礼装として使う品物であるが、黒や色留袖のような、白長襦袢とは限定されることはない。多くは、華やかな色モノを使う。上の画像の品物は、白地に薄いサーモンピンクのぼかしが入った、どちらかと言えば、大人しく上品なもの。

これも紋綸子だが、白襦袢のよりも大胆な模様の付け方をしている。振袖用は、総じて模様は大きく、図案が若々しい。では、半衿を選んでみよう。

白地に花の丸刺縫半衿。赤とピンクを基調にした、華やかでかわいい図案の半衿。振袖に使う衿は、キモノの地色や模様の配色、そして着姿全体の雰囲気を考えながら選ぶ。また、伊達衿を使うことがほとんどなので、伊達衿の色目との調和も考える必要がある。振袖の襟元は目立つところなので、ここに不釣合いなものを選ぶと、着姿のバランスを崩すことになりかねない。コーディネートの際、半衿選びは慎重になるところだ。

振袖着用時には、半衿をあまり出し過ぎないように注意したいもの。あまりに衿を見せ過ぎると、花魁のようになってしまい、品がなくなる。やはり二十歳のキモノ姿は、優しく、若々しく、上品であるべきと私は思うのだが。

 

同じ梅模様でも、こちらは真紅の地色に、桶出し絞りの光琳梅がモチーフの長襦袢。刺縫衿は多色糸を使った、花枝垂れ模様。

これは、以前当店のお客様に求めて頂いた振袖用の長襦袢。紋綸子ではなく、一越生地に模様を染め出して作ったもの。優しいクリーム地で、生地いっぱいに菊花が散りばめてあり、とても襦袢には見えない。愛らしい小紋のような品物。

刺縫衿は、図案化した小花散し。着姿に、大人っぽさよりも、可愛さを求めたことで、この襦袢と半衿を選んだ。

 

紋綸子色ぼかし長襦袢 サーモンピンク・ライラック色・山吹・コバルトブルー・鶸色(加藤萬)

この各種色ぼかしの入った紋綸子襦袢は、第一礼装以外のフォーマルキモノの下で使うことが多い。訪問着や付下げ、色無地などが主だが、カジュアルの中では、小紋のような染めモノに使うことがよくある。また、紬類など織物の下で使っていけないことも全くなく、襦袢の中ではもっとも使い勝手の良い品物と言えよう。

紋織図案は、白長襦袢と同様に、小花や有職系の古典的な模様が多い。加藤萬の作る品物は、ご覧のように薄い色ぼかしで、上品なものばかり。襦袢そのものが主張することはなく、あくまで控えめ。

画像でも判るように、生地に光沢があり、滑るような着心地が想像出来ると思う。この生地質の良さこそが、加藤萬の襦袢の真骨頂であり、そこに徹底的にこだわってモノ作りをしている。襦袢だけではなく、帯揚げや風呂敷類にも、心地良い質感がある。ではまた、半衿を選んでみよう。

 

サーモンピンク小花散しの襦袢に、白地で南天と水仙模様の縫衿を選んでみた。ピンクやベージュ系地色の、付下げや無地モノに合わせると良いだろうか。襦袢のぼかし色は何を使おうと、合わせるキモノの地色に添う必要は無いが、半衿の色や模様は、キモノとの調和が必要となる。品物を選ぶ時は、襦袢よりもむしろ、衿の方が慎重になる。

衿の選び方は、白い襦袢の時と同様に、着用する方の好みや、着姿の雰囲気をどのようにするかということが、考慮される。また、刺縫衿を使わずに、白い塩瀬衿ですっきりした印象を持たせたい、という方もおられる。これはこれで良い。

ただ、これはバイク呉服屋の好みだが、刺縫衿を使う時には、伊達衿を使いたくない。白い比翼衿が付く留袖と、華やかさを出したい振袖は別にして、他のアイテムであまり襟元を重ねると、くどくなるのではないか。キモノの地色と縫い衿の二枚重ねで、十分のような気がする。

山吹色・熨斗模様の襦袢には、桜と楓、藤に沢潟(おもだか)の四季小花模様縫衿。ここでは、襦袢のぼかし色に合わせて、刺縫衿の色目を選んでいるが、本来は、襦袢と衿の色目をリンクさせる必要は無い。

薄水色・正倉院華文様の襦袢と薄桜色・桐模様の縫衿。時により、刺縫衿の地色には、白以外の色を使うことがある。縫衿には、真紅や芥子などかなり濃くて強い地色のモノもあるが、使い方次第では、襟元だけが強調されかねない。これも好みの問題だが、上品なフォーマルの装いを考えた時には、ことさら衿だけが目立つようだと、それが着姿全体に影響するように、私には思える。

 

左から、南天と水仙・藤、楓、沢潟小花・薄桜色に桐小花。いずれも、バイク呉服屋好みの「薄色合わせコーディネート」で活躍している縫衿ばかり。

ぼかしの入れ方は、全て同じだが、織り出してある文様が異なる。襦袢と衿、それぞれの色や模様を、キモノに合わせて考えながら選ぶのは、楽しい。皆様には、和装の脇役である、着姿からは見えない襦袢や、襟元から少し覗く半衿にこだわりながら、ご自分のキモノライフを充実させて頂きたいと思う。

次回は、フォーマルモノよりもっと自由に楽しめる、カジュアル襦袢と半衿を御紹介することにしたい。

 

沢庵は、最初の頃は味のバランスが取れていて大変美味しいのですが、日が経つにつれて酸味が増し、味が落ちてきます。

家内は、そんな沢庵を千切りにして、ちりめん干と一緒にごま油で炒めます。これが、白いご飯に合うの何の、私はこれだけで、飯三合はいけます。千切り沢庵をボリボリ言わせながら、ひたすら米を喰い込む私を見て、「明日からもうご飯は炊きませんから」と一言。

30年も一緒に暮らしている夫婦で、飯を喰いすぎて、心底妻から怒られているのは、私くらいのものでしょう。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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