バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

10月のコーディネート  紬の茜色に、深まりゆく秋色を映す

2023.10 28

今年は、葉の色付きがかなり遅れている。原因は言うまでもなく、暑さが長く続いたこと。9月中はほとんど夏、そして10月に入ってからも、中旬まで秋とは程遠い陽気が続いた。ようやくこのところ、朝夕の気温が10℃以下に下がり、昼間とはかなり寒暖の差が付くようになったが、日照時間の変化に気温の降下が伴わなければ、葉の色はなかなか変化しない。

葉の色づく過程をひどく雑駁に説明すると、まず日照時間が少なくなると、光合成をする働きが衰える。そこで、緑色を司る色素・クロロフィルに代わり、カロチノイドという黄色の色素が優勢になる。これにより、銀杏などの葉は黄色く色づくことになる。また、赤く色づく楓などは、新たにアントシアニンという色素が生成されることによるものだが、この色素の主成分は昼間の光合成により生まれる糖分なので、その色付きは寒暖差があるほど鮮やかさを増す。

赤や黄色に変わる落葉広葉樹と、緑の色を変えない常緑樹が混ざることで、山や森に美しい色のコントラストが広がり、見る者の目を楽しませる。特に楓葉が、緑から黄色、赤へと変わりゆくと、人々はそこに秋の深まりを感じる。だが進んでいく温暖化によって、季節は遅れ続け、冬との境界が年々判り難くなっている。

 

さて、そこで今月のコーディネートだが、赤く色づいた葉色をイメージした紬を取り上げて、深まる秋を感じさせるカジュアルな装いを考えてみたい。大人の日常着として、赤が主体のキモノはほとんど見かけることがない。けれども奥深い日本の色には、ちゃんと季節に相応しい色目があり、それを意識した品物がある。

北海道や東北の一部を除いて、多くの場所ではこれからが紅葉の本番。そんな季節に相応しい色で、街歩きを楽しむ姿を思い浮かべながら、キモノと帯、そして小物合わせを試すことにしよう。

 

(茜色 横段縞・米沢草木染紬  生成色 小花散し・読谷花織紬帯)

一般的に、秋を印象付ける装いとする場合には、「季節に相応しい図案」を使ったキモノや帯を選ぶことが基本。そこで、秋らしいモチーフとは何かと言うことだが、それは季節の後先で変わってくる。まだ暑さが残る9月では、薄物の文様にも併用される撫子や女郎花、萩などの、いわゆる「秋の七草」に属する植物を使うが、季節が進んで、葉の色づきが始まる頃には、紅葉の代名詞となる楓や銀杏が主役となる。

また植物だけでなく、秋の図案に使う鳥や動物にも、各々に旬が存在する。例えば、萩と一緒にあしらわれることが多い蜻蛉は初秋で、菊と兎の組み合わせは、十三夜や十五夜の中秋の頃、さらに楓と鹿で深山の様子を表せば、それは晩秋となる。こうした季節の僅かなズレを、各々の図案の中で感じさせてくれるのは、和の装いだけであろう。

このようにタイムリーな模様を使えば、判りやすい秋姿になる。だから楓や銀杏を用い、葉の色づく様子を模様に映し出すことなど、極めてオーソドックスな秋の意匠になる。けれども、それではあまりにありきたりになってしまい、つまらない。そこで、主題となる植物を抜きにして、色の濃淡・グラデーションだけで、秋を感じさせる品物を探すことにした。そこで見つけたのが、これからご紹介する茜染の米沢紬。この品物を使い、バイク呉服屋流に深まる秋を演出してみたい。

 

(茜色 横段縞浮織 米沢草木紬 茜・桜・五倍子 野々花染工房)

秋の紅葉と言えば、まず思い浮かぶのが楓の赤。しかしこの赤の色は単純ではなく、黄から赤へと変わり、それが季節が進むにつれてくすんだ褐色となり、最後は落葉する。そして同じ木に付いた葉でも、日の当たり方によって色の様子が違う。場所によっては、まだ黄色いままの葉があり、中にはすでに沈み込むような深い赤色の葉も見える。つまり、紅葉は均一ではないから、美しいのだ。この色相の相違をキモノで表現すると、こうなるのではないかと思われるのが、上の草木紬である。

こうして少し遠目から画像を写すと、その複雑な色がよく判る。基調とする色は無論赤なのだが、その表情は様々な色が重なり合って、何色とは特定できない。基本的には、細い横段縞が並ぶ紬だが、不規則な間隔で浮織されている段があり、より変化のある織姿になっている。そしてそれがなお、色を不均一化させる役割を果たしている。

 

近接して写すと、色の変化が殊の外付いていることが見て取れる。そして横に並ぶ縞の細さや間隔がまちまちで、およそ不均一。また、緯糸を浮かせて織った部分は、光に当たって輝き、この品物独特の表情を見せている。この紬糸に用いられる植物染料は、茜と桜、五倍子。それぞれは、どんな発色になって織姿として表れているのか、少し類推してみよう。

こうして写すと、光の当たり方や角度によって、各々の画像が全く違う色に見えてしまう。この辺りが、品物を紹介する時の一番の悩みで、どのように撮っても上手くはいかない。本当は現物を見て頂くのが一番なのだが、本当に難しい。申し訳ないが、それを承知で品物の画像はご覧頂きたいと思う。

さてこの紬の染色だが、赤ではなく、赤紫系色のグラデーションで構成されているように思われる。そして微妙な縞の空き方が、色の見え方に大きく関わっている。さらに先述したように、浮織があることで、色の気配が複雑化している。

この紬の染め表情から考えて、一番多く使われている植物材料は、茜草だろう。茜は、乾燥させた根を熱して煎じた汁を染液に使い、これにツバキや姫榊(ひさかき)などの灰で作った媒染剤を用いて、発色させる。ツバキなどのアルミニウム塩では、鮮やかな橙や柔らかな紅系の色になるが、鉄媒染をすると深い赤紫になる。おそらくこの紬糸では、アルミやアルカリ、鉄など、仲立ちをする金属塩を替えながら、様々に色を発色させた茜染液を使っているはず。

また、所々に見える柔らかい桜色は、やはり桜か。桜染の場合も枝の煎液を用いるが、アルミ媒染でほんのりした桜色の発色となり、鉄だと薄いグレー色が現れる。よく見ると、細縞にはグレー色の部分があり、桜もアルミと鉄双方を併用して、各々の色に染めたと考えられよう。

最後に五倍子(ごばいし)だが、これはウルシ科の落葉樹・白膠木(ぬるで)の葉に出来るコブのことで、木附子(きぶし)とも呼ぶ。このコブは、虫が付けたキズが原因で出来るものだが、染材料とするには、蒸して乾燥させたものを使う。これは媒染剤に鉄を使い、墨色から黒に近いグレーに発色させる。よくよく見ると、縞の中に黒や深いグレーが使われているので、ここが五倍子による糸ではないだろうか。

伝産品マークを付けた置賜紬証紙と共に貼られている、野々花工房の品書き。使っている材料は、ごばいし、あかね、さくら。そしてこの紬を「みなも」と名付けている。浮織と縞を並列した織姿は、確かに「水面」のように見える。

それでは、三種類の植物染料によってもたらされた秋色グラデーションの紬には、どのような帯を使えば、より季節感が前に出るのか考えてみよう。

 

(生成色地 小花散し模様 読谷手花織紬帯・知花勝子)

ごく薄く柔らかい茶色で、自然そのままの生地や糸の色を感じさせるのが、この生成(きなり)色。白ではなく、ほんのりと色の気配があることで、模様の表情が優しくなる。植物染料のシイを使って発色させた地色には、素朴な温かさを覚える。

品物は読谷花織だが、このように小花を散らしたような、地空きの織姿は珍しい。多くは、縫取織の手花織(ティバナ)と、模様の裏に糸を通す綜絖花織(ヒャイバナ)を併用して織り成したものか、あるいは途中に絣柄を配した花結い(ハナユイ)と言われる様式を採るものが多い。しかし、この小花を散らした模様は、手花織だけを用いて製織されている。なので、あまり読谷らしくない意匠の花織と言えよう。

図案は、四枚の花弁を重ねたものを一つの単位とし、これを上下に繋げたり、周囲に散らしたりしている。模様の配置は規則性があり、お太鼓を作ってみると、全体が一つの図案のようになっている。花の配色は赤・ピンク・黄色。赤とピンクの花が少し多いが、黄色があることでバランスの取れた色合いになる。いずれにせよ、可愛さを感じさせる帯姿だ。

図案を拡大すると、小さな花弁一つずつに糸を通し、丁寧に織り込まれていることが見て取れる。手花織は、綾竹と称する竹のヘラを経糸の間に割り込ませ、それを手で持ち上げて開口し、花の色となる様々な色の緯糸(花糸)を通して織り成す。この手花織は、居座機(いざりばた)の時代から行われていた、花織としては最も原始的な技法に当たる。

裏から帯を覗くと、模様部分だけに糸が通っている。綜絖花織は手で開口せずに紋綜絖(杼の道を開ける道具)を使うので、手花織の方が数段手間が掛かる。図案は、飛び柄で嵩が少なく、一見単純に見えるが、こちらの方がより織り手の技術を必要とされる。

読谷山花織の証紙と伝産マーク。そして、織手・知花勝子さんの名前と糸の染料が記されている。図らずも、双方ともに植物染料を使って手織をしたキモノと帯になったが、コーディネートをすると、果たしてどのような姿になるだろうか。

 

グラデーションの付いた紬の茜色を、帯の生成地色が上手く抑えて、着姿を落ち着かせる。こうして合わせてみると、どちらも自然の色を感じさせる、品の良い色合いになっている。帯図案がデザイン化された浮織の小花なので、特定の秋植物をリアルに用いるより、しゃれ感が前に出てくる。街歩きの姿として、季節の色と図案のセンスを同時に感じさせる組み合わせになるだろう。

浮織だけに、刺繍を散らしたように見える帯の花姿。紬の茜色と花の小花の赤色がリンクし、秋の印象を深めている。この帯の雰囲気だと、合わせるキモノの色合いによって、季節を変えることが出来そう。赤系の色を大人が使いまわすのは、なかなか難しいが、これなら納得して頂けるのではないか。

この帯は、お太鼓と前模様が同じ図案・送り柄の構成で織られている。なので、小花文といえども巾全体に模様が表れ、そこに赤や黄色の花配色も伴って、結構華やかで可愛い姿になる。これが大きい図案の帯模様だと、それだけが着姿から目立ってしまうが、この浮織になった小花は、キモノの茜色とのバランスを上手くとっている。

葉の赤い色付きをテーマにした組み合わせだけに、小物は赤系以外は考えにくい。但し、単純に赤を使うと言っても、明度や色の気配を変えると雰囲気は変わってくるはず。今回は鮮やかな紅色の帯〆でポイントを作り、キリリと着姿を引き締めてみた。(冠帯〆・今河織物 朱色暈し帯揚げ・龍工房)

 

今日は、深まる秋の中での装いを、色づく葉の赤をテーマにしてご紹介してきた。秋というと、どうしても落ち着きのある深い色が中心となるが、日一日と変わりゆく葉の赤や黄色も、ぜひ取り入れて頂き、季節に寄り添う着姿を試して欲しい。日本各地では、これからが紅葉の本番。京都、金沢、鎌倉、東京。皆様は、何処へ、秋を探しにお出かけになりますか。最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

読者の方の中には、お気づきの方もおられるでしょうが、今年も先週一週間休みを取り、北海道の山歩きをしてきました。やはり北海道も他の地域同様に、秋の訪れが遅くなっていましたが、そのおかげで、例年では葉が落ちている場所でも、鮮やかに色づく葉姿を愛でることが出来ました。ただ今年は山や森で木の実の成育が悪いので、ヒグマの出没がより以上に危惧されています。連日のように、各地でクマの被害が伝えられていますが、様々な理由から、年々獣と人との境界が判り難くなりつつあるようです。

そんなこともあり、今年はクマ撃退スプレーはもちろんのこと、クマ鈴、爆竹、ホイッスルなどを携帯すると同時に、クマとタイマンで戦う最終手段として「鉈」を準備しました。とにかく、最悪の事態に備えて、万全の支度をしなければ、とても北海道の野山を歩けるものではありません。しかし危ない思いをしながら、辿り着いたその場所には、リスクを忘れさせてくれる風景が待っています。今日はそんな画像を二つご覧に入れながら、終わることにしましょう。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

 

(北海道道611号 豊富町 上勇知ー兜沼線  サロベツ原野)

(北斗1号幹線林道 足寄町 茂喜登牛-上利別線  町営草地牧場付近)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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