バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

8月のコーディネート(前編) 「縞×縞」を試す  アイスコットン編

2023.08 21

呉服屋では、欠かすことの出来ない道具として、数種類の帳面が用意してある。それが、紋を確認する紋帳であり、キモノの地色や八掛を染める時に使う色見本帳である。さらに小紋の注文を受けた時には、染メーカーから、柄の見本帳を借り入れることもある。そして浴衣を仕入れる時などは、現品では無く、メーカーが持参する柄の見本帳の中から選んで、その年の染め出しを依頼している。

留袖類や色無地など、紋入れを必要とするフォーマルモノの誂え依頼が、すっかり少なくなったとはいえ、それでも紋帳を持たない訳にはいかない。近頃は、自分の家紋を理解されていないお客様もおられるので、きちんと紋を確かめるまでは、誂えの仕事には掛れない。紋帳は、そんな時に大いに役立つ。

 

そして色見本帳は、普段の仕事に一番密接な帳面と言っても良いだろう。特に、袷の誂えには欠かせない八掛については、以前は有力な染メーカー問屋が、自ら色を決めて染め出しをしており、その色見本帳を取引先に送って、注文を受けていた。キモノが多く売れた時代には、当然裏地である八掛の需要も多く、問屋としてはある程度の色数を染めて、在庫として抱えていても、十分ペイ出来た。

だが、需要が低迷するに従い、八掛を染めるメーカーは少なくなり、その会社自体無くなってしまう事態にもなる。うちに残る八掛見本帳・秀美と芳美は、北秀と菱一がそれぞれ制作したものだが、今でも時折、この両社の見本帳から色を選び、近藤染工さんに染め出し依頼をする。会社は無いが、見本帳は仕事の上で生きているのだ。

 

型紙を使って染めている小紋や浴衣は、型紙が破損しない限り、品物を作り続けることが出来る。そして、地色や配色替えも自由に出来る。なので幾つかの染メーカーでは、小売屋が注文を受けた時のことを考えて、過去に染めた柄の一部を切り取って、見本帳にしている。この帳面があれば、お客様の品物選びがスムーズに行くばかりか、現品に無い品物も注文を受けることが出来る。つまり、メーカーにとっても、小売屋にとっても、依頼するお客様にとっても、実に便利な道具なのである。

こうした「柄の見本帳」は、染モノばかりではなく織物にもある。その代表的なものが、「縞帳(しまちょう)」だ。これは、織り終えた縞文様の端切れを、紙に貼りつけて作った、縞柄の見本帳である。江戸中期から明治あたりまで、農村では女性たちが自家用の綿織物を織ったが、彼女らは、自ら織った柄を覚え置くために、縞帳を作った。

しかし、明治から大正、そして昭和の初期と綿織物の需要が高まると、この縞帳は商いの道具として使われるようになる。流通業者がこの帳面を使って客から注文を取り、それを職人に織らせて売り捌いたのである。室町時代、南蛮貿易によって南の島からもたらされた「島モノ=縞モノ」は、庶民の日常着・木綿の代名詞でもある。だからこそ、多種多様の「名も知れぬ縞文様」が生まれたともいえよう。

 

単純でありながら、バリエーションに富む縞モノ。そこで今日から二回に分け、夏終わりのコーディネートとして、縞のキモノと縞の帯の組み合わせを考えてみたい。普通、同じ文様をキモノと帯に重ねて装うのは、くどさが際立ってしまうので、ほとんど奨めることは無いのだが、果たして「縞×縞」だと、どうなるのか。このコーデで、縞という文様の不思議な魅力を、上手く引き出せると良いのだが。

 

縞を楽しむ、夏の気軽なカジュアル。左の二点が小千谷縮、右がアイスコットン。

夏に装いたくなる街着の大きな条件は、自分で手入れが出来るか否か。着用すれば、どうしたって汗をかくことは避けられない。しかし着用のたびに、外部に汗洗いやしみ抜きを依頼するとなると、それはとても面倒で、おそらく頻繁に手を通すことは、躊躇されるだろう。だが、家で簡単に自分で洗うことが可能な品物なら話は全く別で、着用の自由度は格段にあがる。そう、着たい時にいつでも、着れるようになるのだ。

そこで洗える素材で、着心地に関わる通気性や速乾性に優れるとなれば、やはり第一に麻、そして次に木綿となる。単純に洗えるだけなら化繊もそうだが、如何せんパフォーマンスが良くない。また夏の普段着と言えば、まず浴衣が思い浮かぶが、これは街着になりそうなものと、そうでないものとがありそうだ。例えば絹紅梅や綿紅梅、さらに中型小紋あたりだと、カジュアル着として考えられるが、コーマ地だと、外出先はせいぜいお祭りや花火見物くらいで、どうしても湯上り着のイメージから離れていかない。

となると、やはり気軽に夏キモノを楽しむのであれば、麻あるいは、浴衣以外の木綿や綿麻混紡になりそう。そして着用条件として、求めやすさを考慮に入れるとすれば、価格の安い無地や縞、格子などの幾何学模様が真っ先に挙げられる。その中でも縞モノは、模様も配色も豊富なバリエーションを持つので、選ぶ楽しさがある。今日はまず、綿麻混紡・アイスコットンの縞キモノで、縞合わせを考えてみよう。

 

涼し気な着姿を演出する白と水色の「縞×縞」。キモノは、接触冷感を持つ綿麻のアイスコットン。帯は紗の博多献上。これなら、着る本人はもちろんのこと、着姿を見た人にも、夏の和装の爽やかさが印象付けられるだろう。

(白地 矢鱈縞 綿麻アイスコットン・近江川口織物)

緯糸にスイス・スポエリー社が開発した特殊紡績糸・アイスコットン糸を使っているので、布に触れた時にヒヤッとした冷たさを感じる。これが、アイスコットン特有の心地良さ。素材の比率は、麻15%・綿85%。生地のシボ感と綿のしなやかさが融合して、独特の風合いを生み出している。

縞の太さは各々に違い、縞の間隔もバラバラ。このような不規則な縞柄を、矢鱈(やたら)縞とか勝手縞と呼ぶ。これはやたらに、あるいは勝手に付けてしまった「いい加減な縞模様」なのである。配色は水色の濃淡、グレーの濃淡、そして白とベージュ。この矢鱈な縞を眺めていると、川の清流が思い浮かぶ。素材にも模様にも、涼感が溢れ出る綿麻混紡のキモノ。

 

(水色地 五献立紗献上 博多八寸名古屋帯・西村織物)

浴衣やカジュアルな夏薄物に合わせる帯として、最もポピュラーな博多献上帯。密度の高い経糸に太い緯糸を強く打ち込んで織りあげるため、他の帯と比べれば、明らかに硬い生地質を持つ。だが、この硬さがあるゆえに、締め込んだ時に形が崩れず、ピタリと収まる。

献上帯は、菩薩を表す密教の法具・独鈷文と、仏を供養する時に用いる皿・華皿文を融合した「独鈷華皿文」に、縞を二筋以上組み合わせて、模様が構成されている。独鈷華皿が三筋あれば三献立、五筋あれば五献立。この帯は、独鈷が二筋に華皿が三筋なので、双方を合わせて五献立となる。

帯表面に隙間があるので、これは紗。隙間の無い平献上なら、一年を通して締められるが、紗献上は薄物や単衣モノに使用が限られる。献上の帯文様には、二筋以上の縞が必要とされるが、この帯にも、異なる二つの縞模様が見られる。太い縞を真ん中に細い縞が二本並ぶのが、両子持(孝行縞)で、太縞二本の中に、細縞二本が入るのが、中子持(親子縞)。献上の縞は、必ずこの二つの模様で構成されている。

1600(慶長5)年、筑前の領主となった黒田長政が、この織物を幕府への献上品としたことから、「献上博多織」の名前が付いた。図案は、独鈷と華皿。そして色は赤・紫・黄色・紺・青の五色と決まっていて、「五色献上」とも呼ばれた。黒田藩では、献上織の品質や価値を維持するために、藩外への販売ばかりか、織職人の移住も禁じた。それでは、矢鱈縞のアイスコットンと、五献立の献上縞帯を合わせるとどうなるのか。

 

まさしく縞×縞のコーディネートなのだが、画像から見る限りでは、重なった縞の違和感がなく、すっきりと伸びやかな印象を受ける。そして、キモノ縞の水色と帯地色がリンクしているために、涼やかさが前に出て、見た目にも爽やかな縞合わせになった。

前の合わせは、キモノの矢鱈縞が縦、帯の献上縞が横になる。縞の方向が変わるだけで、きちんとアクセントが付く。豊かなデザイン性を持つ縞だからこそ、縞×縞を可能にする。そして、あしらわれた縞の配色が、キモノと帯双方にリンクされていれば、より以上に着姿がピタリとハマる。

帯〆と帯揚げも、ブルーを基調としたものを使い、全体を統一した色でまとめる。冷たい手触りのアイスコットンと、風が通り抜ける紗の博多献上帯。双方の素材を生かすように、白と青の二色が縞の中で効果的に使われている。(レース畝打組帯〆・メッシュ銀彩帯揚げ 共に渡敬)

 

今日は縞×縞をテーマに、夏カジュアルのコーディネートを考えてみた。縞は、文様の中で最も単純なデザイン。それだけに多種多様な姿となって、キモノや帯の上で表現される。一つのモチーフだけでデザインブックが作られているのは、縞をおいて他には無い。色も構成も、自由自在。だからこそ奥が深く、楽しい。ぜひ皆様も、一度は「縞モノ」に手を通して頂きたい。次回は続きとして、麻素材の小千谷縮を使った縞コーデを試すことにしよう。最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

ある図案を織った時、また染めた時に、その端切れを帳面に張り付けて、見本として残す。こんな資料の残し方は、それこそ時代掛った「アナログの極み」と言えましょう。しかしながら、実際に仕事を施した生地でなければ、本当の模様姿や色の出具合は判りません。単純にパソコンに画像を残しておいても、それは何の役にも立たないのです。

縞帳に残されたデザインをヒントに、縞の色、縞の幅、縞の配列を考え、また新しい縞模様が生まれる。先人たちのセンスは、今も受け継がれています。ホンモノに勝る見本は無い、ということですね。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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