バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

9月のコーディネート(前編) 付下げに三本立の帯を試す・絽綴れ編

2022.09 20

きちんと映画館へ足を運んで、上映されている作品を見たのはいつのことだったか。その時何を見たのかも覚えていないので、相当以前のことに違いない。娯楽の少ない昭和の時代は、話題作は封切りを待ちかねて、多くの人が映画館に駆け付けたものだが、そんな時代も、もはや相当に過去のこととなった。

平成の時代は、映画館へ行かずとも、少し待てばレンタルショップにビデオやDVDが並んだが、令和になると、インターネットを利用したNetFlixなるものが普及し、手軽なひと月の定額料金で映画やドラマ、アニメなどが見放題になっている。結果として、映画館もレンタルビデオ店も世の中の趨勢には逆らえず、斜陽の一途を辿っている。

 

我々が学生だった70年代には、ロードショーで見逃した映画は、各地に存在していた名画座で少し遅れて鑑賞することが出来た。この名画座と言うのは、旧作品を上映する映画館のことで、ロードショーが終わって時間が経過した映画を、二本三本とまとめて、格安な値段で上映していた。ここは金の無い貧乏学生にとって、話題作をまとめて鑑賞できる有難い映画館だった。

名画座では、旧作品だけでなく、テーマ別に作品を揃えて上映するところも多かった。諸外国の話題作に特化したり、製作会社のシリーズモノをまとめて上映したりと、それぞれの映画館ごとに、趣向をこらしたラインナップで集客していた。

こうした名画座に限らず、昔の映画館興行は、二本あるいは三本立ての興行が多かった気がするが、最近はあまり聞かない。例えば、山口百恵や松田聖子など昭和のアイドルが主役の東宝系映画は、必ず二本立てだったし、任侠映画を得意とする東映系では、網走番外地と昭和残侠伝、それに緋牡丹博徒を三本まとめて上映するような名画座もあった。この場合スクリーンは、数時間の間ほぼ血の海ということになるのだろう。また同じ東映系でも、春休みや夏休みには東映まんが祭りと称して、こども向け漫画を一挙五本立てで上映することもあった。バイク呉服屋も、娘たちが小さい頃に連れて行った記憶があるが、どれも30分ほどの短編で、子どもを飽きさせないように作られていた。

 

さて話の前振りとして、何故三本立て映画の話をしたかと言うと、今月のコーディネートでは、一枚の付下げに対して三本の帯を用意する・三本立コーデを試みようと思ったから。無理強引なこじつけで申し訳ないが、キモノを単衣に誂えた時の夏帯を使った合わせ、冬帯を使う合わせ、そして袷に誂えた時の冬帯合わせと、帯三本立て・三通りのコーディネートを、これからご覧頂くことにしよう。

話が長くなりそうなので、今回はまず、単衣仕立のキモノに夏帯を合わせた装いを考えてみたい。そして次回に、単衣の場合と袷の場合に分けて、それぞれ違う冬袋帯を選ぶことにする。では、名画座ならぬバイク呉服屋で、三本立て帯合わせを始めてみよう。

 

(鴇浅葱色 正倉院宝飾文様・付下げ  胡桃色 霞暈し模様・絽綴れ帯)

ここ何年か9月のコーディネートとして、単衣のキモノに夏冬双方の帯を使った、季節の狭間ならではの複数の組み合わせをご紹介してきた。この時期に使う帯は、その日の気温や湿度、また着用する場所や時間によっても変わって来るので、夏帯冬帯どちらかを特定することが難しい。カジュアルモノはあまり深く悩まずに、自分の思うがままに、帯合わせをすれば良いのだが、フォーマルモノになると、どうしても正解を求めたくなる。これは、これまでのしきたりや人の目を意識してのことであろう。

しかし、6月と9月が単衣で7、8月が薄物という、単純な月ごとの決めは、現在の気候状況を考えれば、すでにかなり無理がある。例えば単衣に関しては、ゴールデンウイークが明ける5月上旬には、使い始めても良いだろうし、10月半ばでも25℃以上の夏日があるので、この辺りまでは着用したい。そして絽や紗、麻などの薄物に関しては、6月中旬~9月中旬くらいが目途になりそうだ。

 

何より、装う人が心地よく着用できること。当然これを最優先に考えるべきで、もういい加減、この時期にはこの装いという固定観念は、取り払って然るべきである。誰だって、この月は半袖、この月からはノースリーブも可能、などと決めつけられたら、そんなこと自分で決めると怒り出すだろう。この当たり前のことが、これまで和装では制限されていたのである。

今回コーディネートを考えるのは、付下げの装い。フォーマルな場面を想定しながら、三通りの帯を考えることにする。微妙な季節をどのように勘案するかは難しいが、相応しい品物を各々に選んでみたい。

 

(一越ちりめん 鴇浅葱色 正倉院唐花宝飾文様 京友禅付下げ・松寿苑)

今回、三本の帯を合わせるキモノとして選んだのは、上品な薄色の付下げ。模様もほぼ相互に繋がりの無い、丸みを帯びた宝飾文を散らす。フォーマルモノではあるが、それほど仰々しさを感じさせず、モダンな印象を受ける。地色は暖色系であるものの、憂いのある薄地色なので、単衣として誂えても違和感は無い。無論袷としても着用出来る。

地色とした「鴇浅葱(ときあさぎ)色」は、朱鷺の羽色・鴇色の淡い紅色の中に、薄藍の浅葱色を僅かに含ませた色の気配。見たところは、灰色味のあるピンク色であり、灰桜色にも近い気がする。こうしたくぐもった地色は、何か含みを持たせたような曖昧さが、色の特徴となる。それが、品物に上品な印象をもたらしているように思える。

 

着姿のメインとなる上前衽と身頃には、五つの唐花宝飾文があしらわれている。どの図案も基本の輪郭は丸文で、鏡や円形花文のデザイン。パステル色が中心の模様配色は、地色と相まって、全体に優しい雰囲気をもたらす。こうして見ると、図案一つ一つは小さくはないのだが、控えめな印象が強い。

六弁の花を三重に重ねた、典型的な唐花文。挿し色が浅く、地色の中に埋没しそう。

五枚の葉っぱを丸めて円を作り、蔓を繋げた唐草を巻き付けている。蔓草は糸目だけで表現されているので、すっきりとした図案になっている。

こちらは、四枚の蔓草で構成された縁の中に、三枚の花弁を一組とする花を四枚並べ、中心に小さな四弁花を置いた図案。宝飾的な鏡のようにも見えるが、放射状に花弁を重ねる唐花文の場合、構成している花弁の数は四・六・八など、偶数であることが多い。

衽との境には、二つの図案。画像からも判るように、上の図案は花菱文で、下の図案は七宝文をアレンジしたもの。正倉院的でありながら、有職文も取り込んだ折衷型の文様と言えよう。この付下げを構成する模様は、この五つの丸文。袖には、大きめな六弁花と蔓草の二つ、胸には、小さめの六弁花と七宝文が描かれている。何れも模様が独立していて、それほどインパクトが出ていない。

今回主役として選んだ正倉院装飾文の付下げ、映画で言えばこれが主役・ヒロインに当たる。ではどのような帯を合わせれば、主役を引き立たせることが出来るか。これから、帯を三本立てで考えてみることにする。まずは、キモノを単衣に誂えた時の想定。9月の上・中旬あたり、まだ暑さの残る日の装いを、夏帯で軽やかに演出してみよう。

 

(胡桃色地 杏色霞ぼかし 紋絽綴れ帯・川島織物)

綴れ帯となると、紋図を使わず、爪先で一本ずつ糸を掻き寄せて文様を織りなす「爪掻綴れ」を思い起こすが、綴れには、この爪綴れを織る織機・綴織織機を使うものと、通常の帯と同様に、紋図を使ってジャガード機で織る「紋綴れ」がある。手が掛かって高価なのは、当然爪掻きの方で一本ずつしか織れないが、紋綴れは紋図があるので量産できる。この帯も紋綴れだが、手機でしか織れないので、それなりに手間はかかる。

この絽綴れは織模様ではなく、単純な織糸のグラデーションが「霞」のようになって、帯面に表れている。ほぼ無地感覚に近い帯姿だけに、目立つことなくキモノに寄り添う感じで、装うことが出来る。薄い胡桃色の地に対して、霞は薄い杏のような色。色の差があまり無く、変化には乏しい。だがこの存在感の薄さが、キモノを引きたてる要素にもなり得る。

 

拡大すると、絽目の間隔がよく判る。大きい方は4分、小さい方は2分間隔を空けて、絽を通している。こうして織りなされる規則的な横段が、帯の表情として出てくる。

決して目立つことのないこの絽綴れが、宝飾文付下げと合わせた時に、どのような効果を生み出すのか。そして、帯を強調しない、さりげない着姿を演出することが出来るだろうか、試すことにしよう。

 

絽綴れ帯を、丸巻のままキモノの上に置いて見ると、色が重なり、帯の暈しがぼやけて見える。薄地同士の合わせは、インパクトに欠ける。しかしながら、着姿を通して「優しさ」を醸し出す。この付下げのおとなしい雰囲気、そしてまだ暑い9月初旬に単衣で装うことを考えれば、目立たない夏帯でさりげなく装う方が、似つかわしく思える。

お太鼓を作って、模様合わせをした付下げの上に置いてみた。単衣の時期だと、キモノも帯も寒色系を使いたくなるが、暖色基調の品物でも、使い方によってそれほど暑苦しくはならない。こうして見ると、すっきりとした着姿が目に浮かぶのだが。

前姿も、極めてシンプル。お太鼓も前も、帯の見え方は同じ。大概、帯模様の出方が前と後では異なるので、見る位置によって印象が異なるのだが、この組み合わせの場合、どこからみても同じ印象が残る。無地感覚の帯ならではの、着姿の映り方。

合わせる小物の色も、下手に違う色を使うと、全体の雰囲気が壊れてしまうので、同色のピンク系を使う。帯〆の色で、あえて着姿を引き締める必要はなく、あくまで全体を一つの色でまとめることが大切。小物の色は、最後に装いを決める重要な要素。キモノや帯とどのようにバランスを取るのか、いつも悩ましい。(高麗組夏帯〆・龍工房 絽暈し帯揚げ・加藤萬)

 

三本立ての帯合わせの最初として、夏帯で単衣合わせを試みたが、如何だっただろうか。フォーマルの場合、何時、何処で、どのような立場で列席するかで、装いが変わってくる。さらに、そこに自分の好みや個性をどう生かして、着姿に反映させるか。コーディネートにおいて、カジュアルとの違いは、やはり人の目を意識すること、場の空気を意識することかと思う。

次回は、単衣に冬の袋帯を選ぶ場合、そして袷に誂えた時に選ぶ帯を考えて、一枚のキモノに帯三本立てのコーディネート完結させてみよう。なお冬帯の図案は、付下げの正倉院装飾文にリンクした、天平文様の中から選ぶ予定にしている。最後に、今日ご紹介した組み合わせを、もう一度ご覧頂こう。

 

私が若い頃を過ごした東京・西荻窪の街にも、一軒だけ映画館がありました。その名も、西荻名画座。ですが、ここで上映される作品は、「男女の営みにまつわるもの」に特化されており、いわゆる男性専門の映画館でした。西荻名画座では、土曜日の夜はオールナイト興行と称して、入れ替え無しの三本立て、あるいは四本立ての上映を行っていました。入れ替え無しとは、三本見終わっても退席する必要は無く、繰り返し作品を見ることが出来る上映制度です。

私も男ですから、この「18歳未満お断り」の館には興味があり、ある日友人と誘い合わせて出かけてみました。確か料金は、学割で700円。これでも、貧乏をしていた私にとっては、かなりの出費でした。ただ、実際に見るとかなり飽きるシロモノで、一本見ただけでもう満腹。筋書きなど無い等しく、ひたすら行為を繰り返すだけなのですから、ツマラナイのは当たり前ですね。そして肝心なところには、暈しがかけられていたのは、言うまでもありません。

 

三本立てのタイトルは、例えば「悶絶!昇天夫人」「下半身症候群」「愛欲のエクスタシー」等々で、今考えれば「何だかなぁ~」と思えるような、あからさまな文言が並んでいます。製作会社にとって、このタイトルこそが重要で、過激な言葉で男性の欲望を刺激し、「営みを見たい気持ち」を増幅させ、映画館へ誘いこまなければなりません。

私は途中で寝てしまったのですが、友人は目を皿のようにして鑑賞しており、時折私を起こして、途中経過を説明します。そして眠い目でスクリーンを見ると、一本目で若妻を演じていた主役の方がセーラー服を着ており、詰襟を着用して営みに励んでいる相手方は、前の作品ではネクタイを締めていたのでした。要するにこの当時、この業界は人手不足だったのです。

入れ替え無しだから、三本立てを二回繰り返してみれば、一本100円少々。せっかくのオールナイトを無駄にしたくない。そう言って、スクリーンを食い入るように見つめていた彼の姿が、今も目に浮かびます。そう、まさに彼自身が、「悶絶!昇天男子学生」でしたね。

 

ネットの中に、あからさまな画像や映像が氾濫している現代と比べ、昭和は何と牧歌的な時代でしょうか。やはり肝心なところは見えない、見せない方が、青少年が正しく育つように思います。つまらぬ余話が、長くなってしまいました。申し訳ありません。   今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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