全くお金を持たなくても済む時代が、すぐそこに来ている。すでにクレジットカードや電子マネーを使った決済は一般化し、現金が無くても買い物の支障がほとんどない。
今年10月、消費税が10%に引き上げられるのに伴い、政府は電子マネー決済を前提にとして、そのポイント還元で税率アップの穴埋めをしようとしている。消費者にしてみれば、やはり、恩恵を受けられる電子マネー決済を選ぶことは当然で、これを契機に、現金払いの消費者はますます少なくなるだろう。
こうした状況下なので、現金から電子マネーへと舵を切る店が、このところ一段と増えている。政府は、決済に必要な機械の導入にも補助金を出す。おそらく国は、この先も、お金を持たずに生活できる便利な社会の構築を、躍起になって推進するだろう。そのうち、「リアルにお金を持つ感覚」が、人々から消え去るに違いない。
今から350年前、江戸の庶民達も、日常生活の中でお金は持っていなかった。何故ならば、現代のサラリーマン・月給社会とは違い、定期的な収入を得ている人が、ほとんどいなかったからである。
では、お金を持っていないのに、どうしてモノを買い、暮らすことが出来たのか。それはこの時代、品物を先に買って支払いは後からという「掛売り」があったからだ。
普段お金の無い人々は、ある期限を区切って、支払いの約束をする。そして店側も、それぞれの客の事情を理解し、この条件を踏まえた上で商いをする。つまり、一定期間決済を猶予することを、始めから店が承知していたのだ。この「目には見えない店と客との信頼関係」こそが、「決済の柱」になっていた。
店と客で交していた決済日の中で、最も多かったのが、盆と暮れ。いわゆる「盆暮れ勘定・節季払い」である。この、一年の節目にあたる時期に合わせて、客も支払いの準備をする。そして店側も、この支払いを当てにして商いをする。だから昔の商家では、盆と暮れは、何よりも大切な節目になっていた。
実態のないお金・電子マネーが流通する現代では、「盆勘定」などほとんど無い。そしてこの意味を理解する人も、少なくなっているだろう。そしてバイク呉服屋なんぞは、この時期一週間も店を閉めている。江戸時代の呉服屋では、あり得ないことである。
そんな訳で、何もせずに休んでいることも気が引ける。そこで皆様には、これまでブログで御紹介した品物を、もう一度まとめてご覧頂くことにしよう。5月の連休に見て頂いたのが、今年の2月に廃業した菱一のフォーマル・絵羽モノだったが、今日はその続きとして、付下げを選んでみた。
呉服札に付く菱一のマーク。この菱に一文字の品物も、いつまで店の棚に残るのか。 なお、これまでと同じように、画像の下には記載した日付けを記しておくので、個々の内容をお知りになりたい方は、この日の稿をお読み頂きたい。
(濃紫根色 波に千鳥模様・型友禅絽付下げ 2013.6.21)
(藤袴色 秋草模様・型友禅絽付下げ 2013.8.23)
(水色 蔭雪輪に秋草模様・型友禅絽付下げ 2013.8.23)
(茄子紺色 楓模様・京友禅付下げ 2013.10.6)
(銀鼠色 花篭流水模様・型友禅付下げ 2013.12.1)
(クリーム色 幕に四季花模様・型友禅付下げ 2013.12.4)
(黒地 霞に松模様・金彩友禅付下げ 2014.1.7)
(桜色 吹き寄せ模様・型友禅付下げ 2014.4.20)
(サーモンピンク色 八橋模様・ドロンワーク絽付下げ 2014.7.21)
(水浅葱色 流水に筏秋草模様・型友禅単衣付下げ 2014.9.14)
(甕覗藍色 菊花弁模様・型友禅単衣付下げ 2014.9.14)
(白鼠色 葡萄に沢潟模様 型友禅単衣付下げ 2014.9.26)
(白鼠色 宝相華模様・型友禅単衣付下げ 2014・9・26)
(江戸紫色 波に更紗花の丸模様・型友禅付下げ 2015.4.26)
(薄ベージュ色 唐花模様・刺繍付下げ 2015.9.25)
(生成色 宝輪模様・刺繍付下げ 2015.9.25)
(宍色 御所解模様 手描江戸友禅付下げ 2016.4.17)
(薄鶸色 七宝に宝尽し模様・型友禅付下げ 2017.1.24)
(グレー地 縦菱に唐花模様・京友禅付下げ 2017.10.22)
今日は、全部で19点の品物をご覧頂いた。こうした稿を書く時は、これまでに撮した膨大な画像の中から、それぞれの品物を探さなくてはならないので、予想以上に時間がかかる。日頃、PCの画像整理を怠っているので、これは自業自得なのだが、結果として、手を抜くつもりが、逆に手間取ってしまう。これも、ブログを書き始めて、7年という時間が流れた証なのであろう。
御紹介した付下げのうち、店の棚に残っているものは、4点だけ。付下げに限らず、菱一の品物が店から姿を消すのは、いつになるだろうか。最後の一点まで、丁寧に扱い続けたいものである。
電子マネーどころか、カードやローン扱いの無いバイク呉服屋は、それこそ時代離れした「化石」のような店といえましょう。
そして、盆暮れ勘定こそ少なくなりましたが、ほとんどの商いは今も「掛売り」です。店とお客様の信頼関係だけで、取引が成り立つ。それこそが、商いの原点だと私は思っています。「品代を頂く時の有難さ」は、リアルなやり取りの中でこそ、感じられるものではないでしょうか。
電子マネーも、QRコードも、ポイント還元も、彼岸のことですね。
今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。