バイク呉服屋の忙しい日々

その他

2015・未の年を迎えて

2015.01 05

あけまして、おめでとうございます。

年末の29日よりお休みを頂いていたので、今日が仕事初めになりました。多くのデパートや量販店からすれば、何とも遅い開店になるでしょうが、昨秋よりほとんど休みが取れなかったこともあり、休養の意味も含めて、少し長い休暇を頂きました。

このコラムブログも3年目を迎えました。思いのほか、沢山の方々に読んで頂いていることを感謝するとともに、自分の文章に対する責任を感じています。

呉服屋の仕事には、一般には馴染みの無い言葉が沢山出てきます。今年はそれを噛み砕いて、出来る限りわかりやすく読むことが出来るように、心がけていきたいと思います。

このブログの内容そのものは、これまでと変わりなく、呉服屋を取り巻く職人さんたちのことや、日々依頼される仕事のことなどを中心に、品物の施し、業界のことなども織り交ぜながら、書き進めていきます。

また読む方に、遠くなった昭和という時代の雰囲気を、どこかで感じることができるようなブログにして行きたいとも思っています。今年もよろしく、お付き合い下さい。

 

(年の始まりのウインド。 芹沢銈介・いろは文様キモノ)

正月ということもあり、型絵染の無形文化財保持者(人間国宝)芹沢銈介の作品を飾ってみた。普段は店の奥の院に仕舞われていて、表に出ることはほとんど無いのだが、大事に保管するには、外に出して品物に風を入れることも大切なことだ。

人通りの少なくなった商店街では、何人この価値ある品物に気付いてくれるかと思う。

 

芹沢銈介が人間国宝に指定されたのが、1956(昭和31)年、没したのは1984(昭和59)年である。上のいろは文様のキモノが当店にやってきたのは、70年代半ばなので、すでに40年近く保管していることになる。

ブログ最初のノスタルジアの稿で芹沢銈介についてご紹介した時(2013・5・26の稿)、この作家がどんなことを大切にして品物を世に送り出していたのか、作家自身の言葉を引用する形で書いた。

目的地へ行くのには、自動車やバスを使わず、自分の足で歩きたい。作品を作ることも同じで、途中で思考錯誤し、迷い悩みながら完成させる。仕上がった品物の出来云々よりも、それを作る過程がどのようなものであったかが大切になる。

つまりは、自分の思い描くものに辿りつくまでには、紆余曲折があるのは当然で、モノ作りを通してどのようにそれと向き合うかという、結果よりも過程に重きをおく姿勢を伺い知ることが出来る。

 

改めて芹沢の言葉を、今の社会の風潮に照らし合わせてみると、いかに乖離した世の中になっているか感じざるを得ない。

現代は、とにかく結果を出すことが求められる。より早く、より効率的に、次から次へとモノが作られる。それが消費者から受け入れられるかどうか、が全てであり、結果の出ないものは、消えていくだけである。

モノばかりではなく、人もそうだ。どんな企業や会社でも、成果の上がらない人間は評価されない。どんなに努力をしたところで結果が伴わない人は排除されていく。成果主義という給料体系を見れば一目瞭然である。

しかも、常に成長し続けることが求められ、立ち止まり悩んでいる時間はない。追い立てられて競わされて生きているのが、現代人なのだ。

 

もちろん結果は大切だと思う。しかし、それ以上に過程は大切で、結果さえ良ければよい訳はない。偏った成果主義になると、弊害も大きい。勝つためには手段を選ばずということも多くなる。また、追われるように生きることに耐えられなくなり、途中で脱落する者もいる。

会社という組織を飛び出し、自分らしく生きられる者はいい。だが、社会との狭間に落ちて精神的に追い込まれる者は、立ち直りが難しい。

 

日本という国の価値が、経済が成長することだけで測れるとするならば、それは今までこの国で培ってきた何かを失うことになりはしないだろうか。人それぞれの価値観に従い、多様な生き方が出来る社会こそが、豊かな国であり、独自の文化や意識を形作ることが出来るように思う。経済最優先=GNPの成長、「この道しかない」などという為政者の言葉には傲慢な響きがある。

戦後70年の節目を迎える今年。改めて、国としての有り方を考える年にもなるだろう。戦前の日本は、多様性を認めず、「戦争に勝つ道しかない」と国民を鼓舞してきた。それに従わざるを得なかった人々とこの国の結末がどうなったのか、改めて検証する必要がある。

政府が説く「道」なるものが、70年前は戦争で、現代は経済とするならば、その本質は、武器を持つか持たないかの違いだけのような気がしてならない。

 

時代を超えて受け継がれる品物には、作り手の心が宿っているように思えます。そして品物としての最終形よりも、その間にある長い道のりのことを、何よりも理解して欲しいのではないでしょうか。

おそらく芹沢銈介の言葉には、そんな思いが込められているのでしょう。これは、芹沢一人だけではなく、我々が関わるどんな職人にも同じ思いがあるはずです。今年のブログの中で、品物が生まれるまでの「過程」について、より多くのことを伝えて行ければと思います。

 

今年一年、お客様とゆっくり向き合うという、「仕事の過程」をより大切にしながら、過ごしたいと考えています。ひつじのように、ゆっくりと穏やかに。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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