バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

10月のコーディネート 「さりげなく、上品に」 薄地色の濃淡合わせ

2014.10 19

昨今では、「キモノ」というものが、「着ているだけ」で目立つ存在になってしまったようだ。世間的には、「手の届かない高価なモノ」とか、「居ずまいを正した、堅苦しいモノ」という評価がある一方、フォーマルの席では、「どんなブランドモノの洋服やドレスを着ていても、キモノ姿の方には敵わない」という、「民族衣装」ならではの、肯定的評価もある。

「キモノ姿」が、人から注視されるのは、無意識のうちに、「にっぽんそのもの」をそこに感じるからだと思える。これは男女や年齢を問わずである。キモノや帯の「色や文様」は、日本人の心の内に、「自然と入りこんでいる」和の心であろう。だからこそ、その着姿には、自然と目が行くのだ。

 

着姿というのは、当然「キモノ」と「帯」の組み合わせ如何で、印象が決まるのだが、大切なのは、「着ていく場」と「着姿」がマッチしているかどうかである。「フォーマル」と一言で言っても、どんな立場で出席するのか、どんな場所に招かれているのか、集まる人たちはどんな方たちなのか、などでも変わってくる。

つまり、その場の空気を読み取って、「着姿」を考えなければならないということだ。今は、「キモノ」というだけで目立ってしまうということも念頭におきながら、その上で、「コーディネート」を考えていく。

もちろん「主賓」となれば、少し「目立つ」組み合わせを考えてもよいが、そうでなければ、あえて「目立たない着姿」、キモノ姿を他の人に意識させにくいような「合わせ」があって良い。

「キモノ」と「帯」のコントラストをはっきり付けないこと、それは「微妙な濃淡」や「控えめな柄行き」などを工夫することにより、表現することが出来る。これで、「キモノ姿」なのに「さりげなさ」を出すことにつながり、ひいては「上品さ」をかもし出すことも出来る。

今月のコーディネートでは、この「微妙な濃淡」を「薄地色」の品物を使って考えてみたい。

 

「付下げ」と「袋帯」を使い、「薄地色の濃淡」で、さりげない「フォーマル」を演出してみよう。

 

(白鼠色 花七宝繋ぎ有職文様 京友禅付下げ・松寿苑)

 

まず、キモノの方からご覧頂こう。地色は、わずかに鼠が入った白で、どちらかといえば「銀色」に近い色。「白」に限りなく近いが、微妙に色を感じるものは、入る色がどのような色でも、「上品で優しい色」となる。

ほどこされた文様は、「花七宝繋ぎ」。これは、「七宝」の中に「花」を入れて形作られたもので、「有職文様」の中の「花輪違い文様」の一つに入る。この品の「花の形」は、「花菱」のようになっていて、見ようによれば「菊菱」のようにも見える。

「花菱」文様は、花弁を「菱形」に見せることにより図案化されたもので、「有職文様」の中で、一緒に使われることも多い。この品物のように、「七宝繋ぎ」の中にあしらわれる場合や、鳥が襷のように連なる「鳥襷文様」の中で、配されるものもある。

「有職」とは、「国風文化」が根付いた平安中期、摂関家藤原氏の時代に研究された、朝廷や公家の行事や習慣、また儀礼とそれにまつわる装束の「先例」や「知識」のことだが、この時代に貴族の服装が、男性が「束帯」、女性が「十二単」に変化したことで、「文様」が生まれた。

これらの、「公家」や「貴族」が使う衣装は、すべて「単色」であり、生地の「織り模様」で変化を付ける以外にはなかった。「有職文様」は、この「織り模様」から始まっており、上の品物のような「七宝」や「立枠」、「鶴の丸」、「藤の丸」など様々な文様が生まれた。この文様は、衣装ばかりでなく、調度品にも使われており、それぞれの文様によって、家の格や人の階層が決まっていた。

上の画像は、柄のポイントとなる上前のおくみ。ご覧のように薄紫と明るい縹色(はなだいろ)の刺繍で花弁を表している。左下に七宝図案の一部が抜けている模様が見られるが、このような七宝を「破れ七宝」と呼ぶ。また、それぞれの七宝を繋いでいる「繋ぎ目」は、桜色の割菱模様で留められている。

「七宝」というのは、仏教における「七つの宝」を指す。それは、金・銀・珊瑚・瑪瑙(めのう)・瑠璃(るり)などであるが、この品物の地色が「銀」に近い色であることから、「色と文様」の両方から、「七宝」を意識することも出来よう。

品物全体を通して見れば、柄の「嵩(かさ)」がなく、あっさりとした印象であり、模様の挿し色も、極力柔らかい色に抑えて施されている。地色の「白鼠色」には「胡粉の白」が品よく映り、「有職文様」という古典的な文様を使いながらも、モダンさのある品物になっている。

「松寿苑」の作る品物には、この品のように、伝統的な模様を使いながらも、その図案の組み合わせや配置、また挿し色や、縫い糸の色の使い方により、現代的な感覚を意識した「垢抜けた」ものが多い。使う地色も、ごく薄いものが多用され、「薄地の濃淡合わせ」で「さりげなさ」を出すという感覚を表現しやすい。

では、合わせる「帯」に話を移そう。

 

(銀地 光吉装華文 袋帯 龍村美術織物)

 

今日のテーマである、「さりげなく、上品な着姿」にするためには、「帯」は重要なポイントと言える。キモノはご紹介したように、「上品」な色と柄行きである。この雰囲気を壊さず、しかも「帯」としての主張もさせなければならない。「さりげなさ」を意識するあまり、帯の存在感を無くしてしまったら、「平板」な印象になってしまう。この辺りが難しいところである。

上の画像でもわかるように、「龍村の糸」は光の当たり具合で色が変化する。「影」になっている部分は落ち着き、「当たる」ところは、輝きを放つ。この特徴を「帯の存在感」として生かすことを考えた。

生地の地色は「銀」なのだが、それを感じさせないほど、柄が「密」になっている帯。「光吉装華文」と名付けられているように、「光と織り糸」でかもし出される帯の表情に重きがおかれて、織り出されたものと言えよう。

柄は、龍村得意の「正倉院文様」で、「唐花と花喰い鳥」が自由に伸びやかに織り出されている。使われている糸により、全体が「パステル調」のように見えるが、その中で「唐花」だけが金糸で施され、アクセントになっている。

 

では、合わせてみよう。今日コーディネートした品物は、先頃、東京都内のお客様に提案して、すでにお求め頂いたものなので、ここからは、「仕立て上がり」の画像を使わせて頂く。

裾の方から、合わせを写したところ。光に映し出される帯の表情が、上品なキモノをより引き立たせる役割を果たさなければならない。地色が、「白鼠」と「銀」という、近しいもの同士の組み合わせだが、双方とも、「主張しすぎず、主張している」ように思える。

前の合わせは、こんな感じになる。帯の図案が、細かな総模様のように付けられているため、帯としての主張が抑えられている。帯もキモノも「パステル色」が基調であり、おとなしく、モダンな印象は共通している。

 

二組用意した、帯〆と帯揚げの小物合わせを見て頂こう。

(「空色」唐草模様と「鴇色」霞模様帯揚げ・加藤萬  同色平織り帯〆・龍工房)

それぞれの組み合わせを使った、「合わせ」。「鴇(とき)色」も「空色」も帯の模様に施されている糸の色を使った。全体の「パステル色調」を小物にもそのまま生かした組み合わせ。このような「濃淡合わせ」の場合、小物の色に「きつい色」を使ってしまうと、全体のバランスが崩れてしまうので、注意する。

 

最後に、合わせた「バック」もご紹介しよう。

(黒地ちりめん 更紗文様バック・岡重「OKAJIMA」ブランド)

「岡重」の創業は、江戸末期の安政年間。精緻な友禅で羽裏を作るなど、裏地メーカーとして、知らせた存在であり、後には「京友禅」のメーカーとして、その地位を確保していく。この技術を生かして、30年ほど前よりバッグ作りを始める。

普通、このようなメーカーがバッグなどを製作する場合、「和装」というところから離れられないのだが、岡重は違う。施される「更紗」文様にこだわりを持ち、様々な図案が考案され、中には「象」をあしらったものも多く見られる。つまり、「和」ではあるが、「洋」の場面でも使うことが出来るのだ。上の画像を見れば、そのことがわかって頂けるように思う。

バッグの形にも工夫を凝らし、単純に「フォーマル」なものというところから一歩抜け出し、モダンでおしゃれに、「さりげなく」使えるものということを、コンセプトにしている。

今日のコーディネートのような、「さりげなく」キモノを使うような席、いわゆる「パーティバッグ」としては、ふさわしいものであろう。もちろん作り方も、一つ一つが手作りであり、「友禅」の技法が生かされているものである。そこを外さずにもの作りをすることは、大変難しいことだ。

 

最後に、今日ご紹介した品物を、ご覧頂こう。

この組み合わせをお求め頂いたお客様は、先日ある「パーティ」の席でお召しになり、満足されたとのこと。「前へ出すぎず」、「さりげなく目立って」いたそうである。この「さりげなく目立つ」ということが、「品の良さ」ということになろう。

お召しになるお客様が、どのような立場で、どのような場所や場面で、キモノをお使いになるのか、そのことまで伺わなければ、「ふさわしいコーディネート」は、出来ないものである。そして「着姿」がお客様の「イメージ」を作るものならば、なお心して掛からなければならないと再認識させられた。

 

今日は、「薄地の濃淡」ということにこだわり、話を進めてきましたが、例えば、今日の「キモノ」で「濃地の帯」を組み合わせたり、今日の「帯」を「濃地のキモノ」に使うと、また全く印象の異なる「着姿」になると思います。

「フォーマル」という場面でも、帯とキモノの組み合わせを変えることで、また違う形で使うことが出来るのです。単純に「フォーマル」と言っても、出席する場所、立場、またどんな雰囲気になるのか、など違いがあり、その時の「空気を察して」、お召し物に変化を付けることが、「ふさわしい着姿」に繋がると言えましょう。

皆様も、一度はこのような「薄地色のキモノと帯」を組み合わせて、「上品な装い」をお試し下さい。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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