バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート 『江戸の粋を繋ぐ竺仙浴衣』・1 若い方編

2014.06 10

前回、「取引先散歩」の稿でお約束したように、今日から二回に分けて、竺仙の浴衣コーディネートをしてみたい。

竺仙の地色は、「白」・「紺(褐・かちん)」・「藍」の三色が基本である。柄行きは、夏という季節を強く意識した「旬の和花」と、江戸から続く「役者文様」を始めとする伝統文様、さらに「団扇」や「花火」など、夏を演出する「季節の小道具」などが使われている。

品物に息づいているのは、「粋」というものが意識されていることだ。天保の昔から脈々と繋ぎ続けてられいたこの伝統が、品物一点一点に感じられる。それは、作り手の「心意気」がそのまま商品に伝わっているということに他ならない。

もちろん時代とともに、使い手であるお客様達の意識や好みも変化していく。しかし、日本人が美しいと感じる色や伝統柄は、普遍なのだということを、竺仙の品物は教えてくれている。

すこしでも多くのコーディネートをご紹介したいので、さっそく本題に入ろう。今日はどちらかと言えば「若い方」に向く品を見てゆく。

 

(コーマ白地・朝顔   桃色ぼかし・麻市松半巾帯)

10~20代の方にお召しいただきたい、優しくかわいらしい朝顔柄。白地だからこその清潔感と、柔らかい色ばかりを使い、「ぼかし」で表現された花により、いっそう優しさを引き立てる柄行き。

帯は、半巾帯でもすこし広めの巾のある、桃色のぼかしの麻素材の品を合わせてみた。浴衣の中に使われている、桃色の花の色とほぼ同系。

帯の織模様が「市松」になっているのがわかる。「桃色」の濃淡ぼかしが効果的。この帯も竺仙の品物。

この浴衣生地の「コーマ」というのは、綿の短い繊維を除いて長いものだけを取り、「けば」を徹底的に除去することで、目の詰まった織にすることが出来た、「細い番手糸」のこと。竺仙は「着心地」を大切にするメーカーなので、独自の開発で、強度もあり、つやのある肌触りのよい生地に仕上げている。

色や柄も大切だが、やはり基本はお客様が手を通した時に、体にどのように馴染むかということが重要である。また「生地」の良し悪しは、後の染めの仕上がりにも影響を及ぼす。

 

(玉むし綿紬・鉄線   生成地格子に桃淵取り・博多小袋帯)

生成色の綿紬地に、鉄線(てっせん)の花とその図案化された模様があしらわれている。柄の色使いは、錆び朱と薄桃色が基本だが、全体的には落ち着いた印象がある。前の朝顔と比べると、大人の柄行き。

帯は、すこしおとなしいものを選んでみた。淵の桃無地色がアクセントになっている博多の半巾帯。帯巾は、前の品のぼかし麻半巾帯より少し狭い。帯巾の広さというのは、たとえ1,2分の違いでも印象が違う。「広い方」がより若さを感じさせることが出来るが、狭くなると大人っぽくもなる。

「玉むし」というのは、「竺仙」では多色使いの浴衣のことを言う。また独特の生成色の紬生地は、肌離れがよく抜群の着心地。この地色の生地を使う場合は、柄に施す色が難しい。この「鉄線」に使われている色も、くどくならないように工夫されている。

この浴衣の帯合わせは、少し迷った。もう少しアクセントをつけるなら「錆び朱の鉄線」に合わせた、濃い目の帯地色の品を持ってくる手もある。このコーディネートは、あえてコントラストを付けず、優しい雰囲気になるように考えてみた。

二つ並べてみたところ。少し大きめで、巾着も入る「かごバック」も添えて。

 

(コーマ白地・千鳥に流水   藍色・琉球ミンサー半巾帯)

竺仙浴衣では定番ともいえる「千鳥と流水」の組み合わせ。この柄使いには、色々なバリエーションがあり、様々な図案のものを様々な生地で作っている。白コーマに藍ひといろで染められた、少し太めの千鳥が愛らしい印象だ。

この浴衣の白と藍のコントラストを生かし、清涼感のある着姿にするため、帯も「藍」の濃淡を基調にするものを選んでみた。このミンサー半巾帯は綿生地、柄は以前琉球絣をご紹介した時に取り上げた「ヒチサギー(引き下げ)」柄。

半巾帯だけを見ると地味な色使いなのだが、組み合わせ次第で若い方の合わせにも使うことができる。白と藍だけを使ってコーディネートした、夏らしく爽やかな印象が残る組み合わせ。若い方だけでなく、少し上の方にも使えるように思える。

 

(玉むし綿紬・朝顔   鶸色・琉球ミンサー半巾帯) 

生成地の綿紬に、大ぶりな朝顔の花弁をあしらった大胆な模様。同じ「朝顔」でも最初に取り上げた「朝顔」とは、まるで印象の違う品になっている。柄は折り重なるように付けられており、仕立て上ると「花をまとった」ようになる。

帯は、朝顔に使われている色のうち、一番目立たない「鶸色」を基調とするミンサー帯を使ってみた。真ん中に茶の縞が入っていることがアクセント。

竺仙のHPで、毎年の売れ筋柄ランキングが発表されているが、この柄は今年の第6位になっている。模様の大胆さから考えると、少し背丈のある方に向くと思われる。人気の理由は、竺仙にはめずらしい、目をみはるような総模様の朝顔と、挿し色のセンスの良さからだろう。

柄も雰囲気も対称的な二柄。チェック柄のポーチは、草履メーカー菱屋が今年浴衣用として作ったもの。

 

(コーマ藍地染め・桔梗   芥子色・首里道屯花織半巾帯)

伸びやかな桔梗だけをモチーフにした、目のさめるような藍地の浴衣。見るものを「スカッと」させてくれる涼感あふれた品。一番夏らしさを感じさせてくれるのは、やはり「藍と白」あるいは「紺と白」の組み合わせであろう。

帯は藍色系と相性のよい芥子色の首里織。芥子に限らず「黄色系」の帯の応用範囲は広い。「道屯(ロートン)織」というのは、経糸と経糸の間に緯糸を挟んで紋織りされている、つまり表裏両面に経糸が浮き上がらせる織り方。これにより、表裏が同じように柄が浮き上がり、両面使いの品物となる。

ロートン織の浮き柄がよくわかる。シンプルな色使いの浴衣には、やはりシンプルな色の帯がよく合う。多色使いの「玉むし浴衣」よりも、コーディネートが決まりやすく、はっきりとした着姿になるように思う。単純な色使いの組み合わせほど、印象付けやすい。

 

(白地コーマ男物・三枡文様   櫨色三枡文様・博多角帯)

最後に男モノを一枚。まさに江戸の伝統を受け継ぐ「役者文様」のひとつ「三枡」。竺仙の男モノ浴衣の図案には、様々な役者にまつわるものが使われている。

この「三枡文様」は、初代市川団十郎以来使われている、「成田屋」の定紋。歌舞伎役者の家には、その家を代表する紋がそれぞれ定まっている。この文様は、元禄歌舞伎の立役者、初代団十郎が、初舞台の時に贔屓から贈られた「三つの枡」に由来している。

この三枡文様は、大きさの違う三つの枡を入れ越しにし、それを上から見たところを図案にしている。合わせた櫨(はぜ)色の角帯にも、「三枡」が織り出されている。まさに、「三枡合わせ」の男モノは、江戸の風情を感じさせてくれる。

役者文様には、三代目坂東三津五郎が考案した、三・五・六の縞を交差させた「三津五郎縞」や、三代目尾上菊五郎が用いた、縞の目の中に「キ」と「呂」を交互に組み合わせた「菊五郎格子」などがあり、いずれも、自分の名前などにちなんでデザインされたものだ。そしてそれは、今でも「役者の家」に脈々と伝わっている。

この男女二点の合わせは、20代から30代の若々しいご夫婦やカップルが一緒に使っていただきたいような、「江戸の粋」を感じる品。どちらも、シンプルな色、柄でありながら、大人のよそおいを感じさせてくれる。これこそ、伝統にこだわる、竺仙の浴衣にふさわしいコーディネートだと思える。

 

今日は、六点の浴衣コーディネートを考えてみた。一度で、「帯び合わせ」が決まった品がある一方、何度も迷った組み合わせもある。少し時間を要したが、やはり楽しかった。

選ぶ人により、この組み合わせは違うだろうし、ご覧になった方も、「私なら他の帯を合わせる」と思う品もあっただろう。浴衣などは、着る方それぞれが楽しめばよいのであって、「こうあらねばならない」などと言うことは無い。

自由な発想で、「自分らしさ」を演出しながら、夏の一日を楽しめるアイテムとして、「浴衣」を着ていただきたい。ブログを見て頂いている方に、今日の合わせ方が、少しでも、選ぶ時の参考になってくれれば、と思う。

次回は、「小粋な着姿」というものを考えながら、もう少し大人の方のための「浴衣コーディネート」をお目にかけよう。。帯も半巾帯ばかりではなく、名古屋帯などを使って合わせてみたい。

 

170年も続く伝統を守りながら、モノ作りをするということは、非常に難しいことです。しかし、変わらぬ柄、美しい色、こだわった生地、そして守り続けられた染めの技術に込められた竺仙の品物は、他にはない力を感じさせてくれるものです。

凄い速さで変化する今の生活においても、日本人が伝統的なものに美しさや粋を感じることは、どんな時代になっても変わらないものだと思えます。

浴衣を着るだけで、日本の心に触れることが出来るとすれば、もっと見直されてもよいでしょう。自分が着て見たい一点を探して、夏を楽しんで頂きたいと思います。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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