バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

4月のコーディネート 『春をよそおう』 桜地色と桜文様

2014.04 20

結婚前後の若い人のキモノの地色と言えば、一昔前までは、いわゆるピンク系統の色が多かった。時代と共に、振袖や訪問着・付下げ・無地あたりの「よそ行き」モノの地色傾向は、少しずつ変化してきている。

当店の若い方向けの品物の地色も、クリーム色(生成色)や水色、あるいは若草色系統の薄地色が中心になっている。もちろんそれぞれの店に置かれる品物は、「仕入れをする主人の好み」に依るところが大きいが、私自身、「明るく優しい地色」を着て頂きたいという気持ちが強い。

だが、先日お話した「桜色」や「退紅色」のような、「ピンク系統」の地色のものは、作られる品物自体、今はかなり少ない。そして、この色が「敬遠」されてきたのは、それなりの理由がある。

「振袖」の後で作る若い人のキモノといえば、「付下げ・訪問着」か「無地モノ」だが、もちろん今、この需要はかなり少ない。また、稀に「作る方」でも、一枚のキモノを長く使おうとする。

最近では、20代後半に作ったものを、40代半ばまで使いたいと考えている方が多い。昔と違い、複数枚のフォーマルモノを持つことはない。「ピンク系」の地色では、「キモノの寿命」が短いと感じる。だから、作るときに、無難な「クリーム」や明るい「水色」などの地色であれば、将来安心して使えると考えるため、このような色の選択になるのだ。つまり、「先を見越して」地色を選んでいるということになる。

「桜色」や「退紅色」また「桃色系統」の色は、やはり「若々しい印象」を受ける。色には、その年齢にふさわしいものがあるように思えるが、この色を使うことなく過ぎてしまうのは、なんとも勿体無いような気がする。

そんな訳で、今月のコーディネートは、「桜」にちなむ色と文様をとりあげてみよう。

 

「春のよそおい」ともいえる、桜地色の付下げと桜模様の黒地袋帯

 

(小菊地紋綸子 桜色吹き寄せ模様 型友禅付け下げ 菱一)

地色は「桜色」にほんの少しだけ鼠色を含んでいるような色。上の画像は、柄の中心である、上前おくみと前身頃、後身頃に続く部分を合わせたところ。柄が施されたところは、「流水文様」のように「白くぼかし」が入れられている。

「吹き寄せ」は、元々は、秋の風に「吹き寄せられた」様々な草花(楓や菊の葉、松葉など)をイメージされて付けられていたものだが、この品物のように、梅や桜、橘などの「春の花」が使われているものもある。今では、この文様も、「秋」ばかりでなく、「春」の図案としても使えるということになろうか。

「吹き寄せ」のほどこし。白い銀杏、楓や菊の一部、牡丹は刺繍で柄付けされており、桜は型疋田が使われている。「型」による友禅だが、それなりに丁寧に手が入っている品物と言えよう。

ご覧の通り、地色の「桜色」を生かすように、控えめに柄が付けられた付下げであり、若い方の着姿が「上品」に見え、いかにも「春らしい」雰囲気。

 

(黒地桜模様袋帯 紫紘)

「彩桜」と名前が付いている帯。古典のカッチリした図案を得意にしている「紫紘」の品物にしては、遊び心があるモダンな「桜」の表現になっている。

「桜」を近接したところ。花の輪郭を様々な色糸で織り出すことで、地色の黒が生かされる。花は少し大きく、連続した模様になっていることで、「咲きほこるような」華やかさになる。

 

(クリーム・鶸色半ぼかし帯揚げ・加藤萬 橙色ぼかし平組帯〆・平田紐)

帯揚げは、薄い鶸とクリームのぼかしで「はんなり」感を出し、帯〆は、帯に付けられた桜の一色、「橙色」を使ってみる。小物も「春」を意識した選び方。

キモノの桜地色と帯に小物を合わせてみたところ。帯の地色が黒だけに、帯〆と帯揚げの色がよく映るように思える。小物は両方とも意識して「ぼかし」を使うことで、着姿全体に「柔らかい雰囲気」が出るように工夫してみた。

 

小物まで合わせて、全体を写してみた。「春」を感じ取っていただけるだろうか。

 

キモノにも帯にも、その図案には「重厚さ」はないが、「軽やか」に季節を感じながらお召しいただける組み合わせだと思う。キモノの着姿というのは、キモノと帯それぞれ単独で色や柄を選ぶのではなく、常に一対のものとして、一体感のある組み合わせを考える必要がある。

特に「旬」ということを意識するのであれば、帯〆や帯揚げまで含め、「色を対処」する。小物の色一つでも、全体から見て「違和感」があるようでは、それだけで印象が変わってきてしまう。コーディネートは本当に難しい。

「正しい答え」がないというのは、選び方で「個性」が表れるということでもある。誰もが納得する「合わせ」というものはないが、自分なりのセンスというものは、常に持ち続けていきたいものだ。これこそ「呉服屋の力」が試される仕事ではないだろうか。

 

キモノにも帯にも、その色や柄の付け方により、「ふさわしい年齢」というものが確かにあります。今日ご紹介した組み合わせでは、20代から30代半ばあたりの方になるでしょうか。

「帯」を変えれば、この「桜色」のキモノで30代いっぱいは使えるかとも思いますが、やはり初々しい20代女性が「振袖」の次に使うもの、あるいは、新婚ミセスの方までに、向くようなコーディネートだと思います。

今の時代、「長いスパン」でモノ選びを考えるということは、当然であり、フォーマル向きの品であれば、なおその意識が強くなるのは仕方ありません。ただ、キモノや帯には、使うその時々(年齢や着る場所)において、「一番ふさわしい色、柄」が存在していることも確かで、ほんの少しでもそこに目を向けて、モノ選びをして頂けたらと思っています。

にっぽんの春を代表する「桜色」と「桜柄」。一度は身につけて頂きたいですね。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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