バイク呉服屋の忙しい日々

にっぽんの色と文様

「松の内」にちなむ 松文様

2014.01 07

キモノの文様の中で、「松」ほど、様々に取り入れられているものはない。「松」そのものだけの文様でも、樹木全体を描いたもの、松林を描いたもの、枝や松葉にモチーフを絞ったものなど多様である。

「松」の形も、「三階松」や「老松」、「唐松」、「光琳松」など図案のアレンジを変えて用いられ、また、他の文様と組み合わせる時になくてはならない存在にもなっている。

「松竹梅文様」や「松喰い鶴文様」などの、いわゆる「吉祥文様(おめでたいもの)」として使われる文様には、欠かすことの出来ないものであり、「州浜(すはま)文様」や「海賦(かいふ)文様」など、砂州や海岸風景を表すような、いわゆる「水辺文様」にも、必ずといってよいほど用いられる。

 

正月にはどの家でも、大概「松飾」を付ける。昔は大きな門松を立てる家も見受けられたが、今は、「形」だけのものを玄関先に飾る家がほとんどである。この松飾をつけている期間は「松の内」と呼ばれる。

松飾は正月の年神祭りの象徴であり、松は年神の拠り所だ。だから、この飾りを付けている間は「お祭り」が続いているという訳である。では、これを「取り外す」のはいつなのか、ということだが、地域により違いがあるようだ。

旧来は、小正月(15日)までを「松の内」とするところが多かったが、最近では七草・大正月(7日)までとするところが多いようである。「松飾」の意味がわからない若い人達の中には、三が日が過ぎたら外してしまう方もあるらしい。

もともと「大正月」の期間は、「年神」を祭るのが最大の行事である。それに対して「小正月」は「農事にまつわること」や「家庭の中の行事(成人を祝う「元服」の儀など)が行事の中心であった。このことから、正月の終わり(松の内)は7日あるいは15日と考えられてきたのである。

祝日の意味を考えれば、成人の日を第二月曜日などと勝手に取り決めてしまうのは間違いであり、正しく「元服」の儀をとり行ってきた1月15日の小正月に戻すべきであろう。祝日の持つ意味も考えず、ただ曜日の並びだけで日を変えてしまうことは、古来から続く日本の風習や伝統的意味をないがしろにしているような気がする。

またまた余計な前置きが長くなってしまったが、年初めにふさわしいテーマとして、「松」文様について話を進めてみることにしよう。

 

(ちりめん黒地 霞に松模様金線描き友禅付下げ 菱一)

今日取り上げるのは、「松」だけをシンプルに図案としたもの。上の品も、「霞」を間に入れる他は、松とその枝、そして周囲に散らされた松葉だけで表現されている。しかも、色は金のみが使われた「金彩友禅」である。

画像が悪くて申し訳ないが、「黒と金」だけの取り合わせの単純さが、斬新であり、いかにも、「新春」にふさわしい柄行きになっている。余計なものを一切排除しており、まさに「シンプル イズ ベスト」という感じだ。

(上前の松模様を近接して写したところ)

遠目の画像ではわからなかったが、模様をよく見ると仕事の丁寧さがわかる。流れるような枝ぶりと、松かさ、また松の一本一本が写実的である。これは、「糸目」に沿い、筒描きすることで、「絵を描く」ように模様を付けていく「金線描き友禅」と呼ばれる技法である。

(さらに近接したところ)

松の一本一本が、微妙に異なり、葉の先端の「かすれ」具合などは、「人の手」によるもののため、僅かに不揃いである。「手仕事」は、同じように描こうとも「わずかなズレ」を生じる。枝や松かさの金のあしらいも丁寧に付けられている。

また、よく見ていただくと、松の葉の一部に金で刺繍が施されている。数は少ないのだが、ここが光に当たると反射して「濃い色」に映り、染めた部分の金とのコントラストを出している。わずかな施しだが、「キラリと光る」あしらいになっている。

 

もう一つ松模様だけの品を取り上げよう。黒地に連続した松を配した袋帯。製作は紬問屋の「加納」から、戦後に分かれた帯メーカーの「加納幸」である。色使いも先ほどの付下げほどではないが、シンプルな組み合わせである。

(黒地 松模様袋帯 西陣 加納幸)

金銀と珊瑚色、桃色で松が表現されていて、地が黒地であることが、その模様を引き立たせている。「松の枝」がなければ、遠目には「扇面」のようにも見える。

シンプルな松ながらも、どことなくモダンさも感じられる。振袖や若い方の訪問着に合わせたい帯。黒地で単純な模様なだけに、使われるキモノの地色の幅は広く、使い勝手の良い品と言えそうだ。

 

「松の内」ということで、「松」だけでシンプルに表現されている文様を見てきた。また風景の中にせよ、他の草花と一緒につけられたものにせよ、「松」が入るだけで、全体の柄行きの重みが増すような気がする。

松は「常緑樹」なので、通常では「緑」のイメージが強いが、キモノや帯では、多彩な色使いがされて使われているものが多い。どんなイメージで松を描くのか、また柄の中において「松」にどのくらい重きをおくのかでも、挿す色は変わってくるようだ。

「松」というものが、古来より身近にあった樹木であり、「松飾」に代表されるように、「神が宿る場所」という神聖な意味合いもあった。そのことが、文様において「松」が多用されてきた理由であろう。

 

今日は七草、大正月も終わりで、「松飾」をはずす家も多いと思います。「七草かゆ」で、正月に酷使した体を優しくいたわる方も多いのではないでしょうか。

「松文様」ということで、まさにうちの「松木」という名字に相応しいテーマでした。「松」は文様に多用されていることでもわかるように、「日本的」な樹木であり、少し威厳が感じられ、人に依れば「古臭い」と感じられるかもしれません。

「庭の松の木」は、重厚な日本家屋には似つかわしいものですが、今風の洋建築の住宅には合いません。「畳」のない住宅が増え続けている現代では、日常からは消え行く「樹木」になりつつあります。

せめて、年の始めくらいは、「松」が見直されてもよいと思います。私も「松木」なので、「松」と同じように、「古くさい」考え方しかできず、なかなか変わることがないようです。但し、「松」と違うところは全く「威厳」が感じられないところですが。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
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