バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

気取らない、夏のおうちキモノ(後編)  アイスコットン・綿麻混紡

2021.07 18

我が家は、夫婦二人きりの生活となって久しいが、夕餉のかたずけを共同で行うことが、暗黙のルールになっている。私が食卓を片付け、家内が洗う。私には、使った食器を洗い、そのまま乾燥機に入れるという作業が、どうしてもスムーズに出来ないので、こうした仕事のすみ分けになる。奥さんからは、「何故、こんな簡単なことを覚えようとしないの。理解出来ない」と言われ続けている。

こうした毎日の台所仕事の中では、ふきんや食器洗いで使うスポンジ類が、どうしも汚れてくる。そこで布類は、たまに漂白剤に浸してきれいにする必要があるのだが、手肌が弱い家内は、漂白剤入りの水に直接触れることが出来ない。そんな時は私の出番で、平気で薬剤の入った水に手を突っ込み、布を引き上げたり、汚れを揉み落としたりしている。これを見て、「どうして手が大丈夫なの」と、半ば呆れたように言うが、たとえ塩酸に浸したところで、私の手は何ともないと彼女は思っていることだろう。

 

さて、そんな漂白剤のボトルの側面には、「混ぜるな危険」の文字がある。それは、塩素系漂白剤と酸性洗剤が混ざると、有毒な塩素ガスが発生してしまうからで、実際に家庭で誤って混ぜてしまい、死に至った重大な事故も起きている。だから、キッチンで使うクエン酸系洗剤と漂白剤、またトイレで使う酸性系汚れ落とし剤と塩素系カビ落とし剤は、決して同時に使用してはならず、保管場所も分けて置く必要がある。

だが、こうした「絶対混ぜてはいけないもの」がある一方、混ぜることが推奨されるケースもある。その代表が、料理のおける「隠し味」であろう。中でもカレーは、同じ市販のルーを使っていても、家により味が違う。ケチャップやソース、すりおろしたリンゴやチョコレートなど、作る人それぞれが、隠し味に趣向を凝らす。もしかしたら、カレーほど作り手の個性が表れる家庭料理は、無いかも知れない。

 

混ぜて良くする工夫は、料理だけでなく、キモノの素材にもある。特に着用が避けられる夏の時期には、少しでも心地よく着て頂くことを考え、使用する繊維にも様々な工夫を凝らす。それは、何気ない日常着として使うものであれば、なおのこと重要になる。

そのためには、異なる材質の繊維を混ぜ合わせ、生地とする。前回のウールポーラは、毛と絹の組み合わせだったが、今日は綿と麻をコラボさせたアイスコットンをご紹介しよう。この素材については、これまで何回かブログの稿でも取り上げてきたが、自分で始末が出来て求めやすい価格と言う、日常着としての条件を満たしている品物なので、再び登場させることにした。

 

三点のアイスコットン着尺。いずれも大格子模様。綿85%・麻15%の混紡品。

浴衣に代表される木綿、そして小千谷縮や近江縮、さらに能登や越後、八重山、宮古など各地の上布に用いられている麻。この二つが、夏織物の中心となる素材であることは、皆様ご承知の通りである。もちろん綿、麻と一口にいっても、糸の細さや撚り方などで質が異なってくるので、同じ素材でも風合いは変わり、従って着心地も違う。

 

けれども、麻と木綿それぞれには、持って生まれた素材の特徴がある。そしてそれは、時には長所となり、時には短所にもなる。麻には、他の繊維には見られない優れた通気性と速乾性があり、シャリっとした生地感は、サラリと軽い着心地をもたらす。しかし、肌にまとわりつかないが、時にはごわつきや、ちくちくした違和感を覚えることがあり、人によってはこれが、麻素材を敬遠する理由にもなっている。

一方木綿は、しなやかで柔らかい質感が、着用する人に優しい着心地をもたらす。けれども麻と比較すれば、涼やかさは若干落ちる。通気性や水分を発散させる力が劣るので、着ていて暑く感じたり、時には生地が肌に張り付くような、気持ち悪さを覚えることもある。

つまり、綿にも麻にも一長一短があるため、これを補完、つまり補い合えるような素材の開発が、これまで求められてきた。結果として考えられてきたのが、綿麻混紡の品物である。麻の涼やかさと綿の柔らかさ、双方の素材の「いいとこ取り」をした生地こそ、夏の普段着として最も相応しく、使い勝手の良いものとなる。そんな中で生まれたのが、アイスコットンである。

 

アイスコットン着尺に付いているタグ。スポイリー社製作の糸で製織した証明。

アイスコットンの生地は、経糸には綿70%・麻30%の混紡糸、緯糸には100%のアイスコットン超撚糸を使っている。アイスコットンは、スイス・スポイリー社が特殊紡績技術を使って開発したもので、触れると冷たい「接触冷感」を得られる素材。

このアイスコットン糸に大きく撚りを掛け、超撚糸として平織すると、繊維に空気を含ませない構造となる。そして経糸に使う綿麻混紡の糸は、元々優れた速乾性と吸湿性を持つ。この二つの特徴を併せ持つ、経緯双方の糸を使って織りなす生地は、涼やかであると同時に、心地よい柔らかな生地感が得られ、さらには触ると冷たい気持ちの良さまでも、感じることが出来る。これはまさに、心地よく夏の日常を過ごすための「一石三鳥」の素材と言えよう。

今日は、そんなアイスコットン素材のキモノの中から、格子(チェック)模様の品物を選んでみた。現代のおうちキモノとしては、こんな洋服感覚に近い図案の品物が、とても相応しいように思える。

 

洋服のブラウスやスカートの模様に見られるような、少し大きめの格子・チェック柄。明るく爽やかなパステル系の配色にも、日常っぽさを感じる。

縞や格子は、直線で表現される幾何学文になるが、他の文様と異なることは、これが織という技法の中で生まれてきたこと。経糸の差配と緯糸の通し方により、縞は形成される。格子は、縦縞と横縞を組み合わせたもので、基本的には縞の延長線上にある図案である。

縞・格子の別名は間道(かんとう)で、「広東」「漢島」「邯鄲(かんたん)」とも書く。この種の織物は古来より製織され、魏志倭人伝の中に記載がある「斑布(まだらふ)」は、縞モノの範疇に入ると考えられている。飛鳥期には、絣の錦織物「太子間道」が伝来し、天平期になると「長斑錦(ちょうはんにしき)」や「繧繝錦(うんげんにしき)」などの縞柄夾纈(きょうけち)裂も存在することから、すでに奈良時代には、多くの人が縞図案を好んでいたと理解できる。

その後、本格的に文様として縞柄が伝わったのは、室町期から。中国の宋や明からもたらされた「名物裂(めいぶつぎれ)」の中に、多くの縞モノが見られ、桃山期から江戸初期にかけては、南蛮貿易などにより、沢山の木綿縞がやってきた。これが「唐桟(とうざん)」として流行し、綿花栽培の発展と同時に、各地で綿織物生産が盛んとなって、様々な個性ある縞モノや格子柄が生まれた。時代劇の中で町娘が着用する黄や茶、黒の格子模様・黄八丈は、唐桟と並んでこの時代に大流行した「格子モノ」である。

 

少し太い縦横縞で構成されている大格子。こちらも、白とピンクの優しい色目。

このアイスコットンの配色や格子の大きさ、組み方からは、日本の伝統的な「間道縞」ではなく、スコットランドの氏族が用いた、「タータンチェック」が連想される。

タータンの発祥は13世紀。スコットランド高地人が、各々の氏族ごとに格子柄を持ち、男子はキルト(腰衣・巻スカート的な衣)や肩掛、女子はスカートやドレスの模様として使用し、その図案は、所属している部族の象徴にもなっていた。この氏族タータンの格子柄は、約130種類もあり、衣服以外の持物にも使用。当然のことながら、他の部族の使用は許されなかった。

また、領主とその一族は、「チーフ・タータン」と呼ぶ特別な格子柄を使用して区別し、部族タータンを使用できない低い身分の人々のためには、地域ごとの「ディストリクト・タータン」が用意されていた。

 

スコットランド政府は、「スコットランド・タータン登記所」という機関を設置し、そこで伝統的なタータンの格子図案を登録、一括して管理もしている。「タータンチェック」という模様を、この国がいかに大切にしてきたかが判る。

格子模様の形式は、それぞれ和名・英語名が付いていて、面白い。例えば日本では、小さな格子模様のことを「微塵格子」と呼ぶが、海の向こうでは「ピン・チェック」、あるいは「タイニー・チェック」となる。ヨーロッパでの格子模様のすみ分けは、大きさや形成するブロックの形状、あるいは色合いの変化や模様の構成により、様々に細分化され、呼び名も分かれている。

さて「格子」の話がつい長くなってしまったが、このチェックアイスコットンに合わせる帯を選んでみた。おうちで着用するキモノなので、気軽な半巾帯は如何だろうか。

清々しいグリーン系パステル格子には、菱文を浮織した首里道屯の木綿半巾帯。

明るいレモン格子には、黒とピーコックグリーンの横縞紗半巾帯で、個性的に。

柔らかなピンクの色が目立つ大きな格子には、小菱を浮かせた風通紗半巾帯。

 

最後にもう一点、あまり見かけない横段縞のアイスコットンをご紹介しよう。アイスコットンや綿麻着尺、また小千谷縮などもそうだが、縞の太細や間隔の空き方に違いはあれど、その縞のほとんどが縦縞で、上の画像に見られるような横段縞は珍しい。

こうした横縞は、仕立を行う際の模様の取り方によって、全体の姿が変わってくる。この品物は求める方がおられて、先ごろキモノとして仕上がってきた。実際に、どのような構図になったのかを、見て頂こう。こんな模様だと、反物から仕上がった姿を想像することが難しい。

後から見た、横段縞アイスコットン。後身頃は、背縫いを中心として縞と白い無地場が互い違いになるよう、仕立てがされている。着姿の中心となる上前身頃と衽も同様、縞は交互に出されている。この模様配置だと、全体が統一された市松格子のように見えてくる。これは横段縞ならではの、面白さだ。

捨松の紗八寸帯を合せてみた。模様は「雪持ち柳」で、冬を連想させる。これは、雪輪文が浴衣のモチーフに採用されているのと同様、冷え冷えとした模様は、見ただけで「涼やかさ」が想像出来るという発想がある。だからこんな冬図案が、夏帯の意匠として使われる。

先ほどの格子アイスコットンは、半巾帯を合せて「おうち使い」を強調してみたが、少ししゃれたこんな夏名古屋帯を使うと、街着としても十分使える姿となる。

 

なおアイスコットンは、強い撚り糸を使用しているため、麻や他の木綿同様に縮みやすい性質を持つ。そのため、仕立てをする前に必ず水通しをして、予め生地を縮めておく必要がある。そして、それでもまだ縮む可能性があるので、それに備えて誂える方の寸法を、従来より少し大きくしておく。その方が安心出来る。

もちろん自分で手を入れることが出来るが、洗濯は手洗いか、洗濯機の手洗いコースを使う。そして洗った後、手で経緯方向に生地を伸ばしつつ、形を整えながら陰干しをする。仕上げをする際、多少のシワがあれば、霧吹きなどで湿気を与えて伸ばし、アイロンをかける際には中温で、当て布の上から軽く押さえる程度。

おうちで気軽に使うキモノは、自分で手入れをすることが、肝要となる。特に夏の間に着用する品物は、いかに空調が行き届いていたとしても、汗ばむことは避けられない。気軽に洗えれば、気軽に着用できる。Tシャツを着るように、自由にキモノを使い回すことが出来る。やはりそんな人こそが、「和装の上級者」なのだろう。

 

気取らずに使えるおうちでの日常着として、前回の毛絹、今回の綿麻と混紡素材の品物をご紹介しました。二点ともに、各々の素材の特徴を生かしつつ、着用する方の「心地よさ」を念頭に置き、作られた品物と言えましょう。

夏こそ、様々な素材の品物を試すことが出来る季節。求めやすく、また自分で手入れ扱いの出来る品物もあります。とすれば今は、手軽におうちキモノを楽しむ絶好の機会ではないでしょうか。閉塞感が漂い続ける世の中ですが、皆様にはぜひ着用の場を作って欲しいですね。呉服屋としては、着て頂けることが、何より嬉しいことですから。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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