バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

2月のコーディネート  蝋梅と菊の加賀訪問着で、凛とした冬姿を

2021.02 21

学問の神様・菅原道真公が、雷様の成り変わりであることをご存じだろうか。道真公を祀っている社を天神社と呼ぶが、「天神」とは「雷神」を意味し、この神を畏怖して祈願の対象とすることを「天神信仰」と言う。

では何故、道真公は雷神となったのか。ご存じの通り、菅原道真は宇多天皇に重用され、官位の最高位である右大臣にまで上り詰めながら、左大臣・藤原時平の陰謀により失脚する。そして大宰府に左遷され、その地で非業の死を遂げてしまう。そして彼の死後、都では天災が相次ぎ、疫病も発生。極めつけは、930(延長8)年6月に起きた宮中・清涼殿への落雷事件で、この時居合わせた公家や貴族から多数の死傷者が出た。

人々は、雷が道真の化身であり、起こり続ける天変地異は、恨みを抱く者への彼の復讐と捉えた。そこで、雷神となった道真公を鎮め、社の御霊とすることで、この祟りを諫めようとする。こうして御霊信仰と天神信仰が結び付き、天満宮が建立された。だから、天神社とか天満宮と名前が付く社の神様は、菅原道真公なのである。

 

京都の天満宮と言えば、西陣の近くにある北野天満宮。この社では、毎年2月25日に梅花祭が行われる。道真公の命日にあたるこの日は、蒸した米を大小二つの台に盛り、紅白梅の小枝を指した紙立(こうだち)という特殊なお供えをして、その徳を偲ぶ。

境内には、50種類1500本もの梅の木があり、丁度この祭りの頃には、見頃となる。そして門前では、野点の茶会も開催される。1587(天正15)年には、ここで豊臣秀吉が大茶会を催しているが、毎年この会は、近くの上七軒の芸͡妓たちの手で、賑やかに行われる。しかし今年は、コロナ禍により茶会は中止となり、祭祀だけを本殿で執り行う。ただ梅園は公開され、夜にはライトアップもされるようだ。

ということで、今月のコーディネートは、今が旬の梅をモチーフにした訪問着を取り上げる。楚々とした梅の姿を、写実的な意匠で描いた加賀友禅。そこに幾何学文の帯を組合せて、控えめながら凛とした着姿にしてみたい。

 

(柳鼠色地 蝋梅に菊模様・加賀友禅訪問着  横段草色 源氏花菱文様・袋帯)

フォーマルモノとして使い勝手が良いのは、季節を問わずして着用できる意匠であること。例えば、山水の風景に四季の花々と家屋や折戸を組み合わせた茶屋辻・御所解文様などが、それに該当するだろうか。また植物だけを組み合わせた図案でも、松竹梅文や四君子文のような代表的な吉祥文は、季節を意識せずに使うことが出来る。

植物をモチーフにとる場合、桜や梅をメインとして使うと、やはり春の気配が前に出るが、撫子や菊、女郎花のような秋草を使えば、自然に秋を想起させる。そのため、春秋それぞれの花を融合させ、図案とすることが多い。中でも、最もポピュラーな組み合わせが桜と楓で、それは「桜楓(おうふう)文」という形で文様化もされている。

今日ご紹介する訪問着は、蝋梅と菊の組み合わせ。これも、春秋を代表する植物を並立させて図案としたものだが、桜と楓のタッグが「レギュラー」なら、この梅と菊は「控え組」だろう。けれども、この「渋い組み合わせ」だからこそ生まれる、楚々とした姿もある。その上絵画的な加賀友禅の作風が、二つの花の特徴を上手く引き出しているように思う。ではその辺りに注目しながら、品物を見ていくことにしよう。

 

(裾ぼかし柳鼠色地 蝋梅と菊模様 加賀友禅訪問着・金丸明広)

図案は、白菊と蝋梅だけを写実的に描いたもの。地色にやや緑が掛かった渋い鼠色・柳鼠を使っているので、模様のおとなしさがより以上に強調されて、少し素っ気ない印象を受ける。だがそれは箔や刺繍を使わず、染だけでモチーフを絵画的に描く、加賀友禅の特徴がよく表れているとも言えよう。

挿し色が極めて淡いことから、全体的に「もやもやとした雰囲気」を醸し出す。菊花の白と葉の緑、蝋梅の黄色。どれもがさりげなく、しかも加賀特有の暈しが随所に施されている。そのために、より柔らかみのある意匠となっている。

模様の中心・上前身頃の図案。菊の花色はほとんどが白。葉先の所々に色が挿され、加賀特有の「虫喰い」の施しも見える。梅の色は黄色なので、これは蝋梅と考えられる。こうして近接して見ると、繊細な糸目の姿がはっきりと判り、花弁や葉にあしらわれた丁寧な色挿しと巧みな暈かしが見て取れる。

菊の花弁。遠目からは白だけに見える挿し色も、よく見ると花弁一枚一枚に淡い赤紫の暈しが施され、その花の姿はより写生的でリアルに描かれている。こうして見ていると、本当に絵画のようだ。

葉の虫喰いと葉先の多色使い。全体から見れば僅かな葉色の変化だが、地色がおとなしいため、一定のアクセントになっている。加賀らしい上品さを象徴する施し。

梅の花弁は五枚だが、蝋梅はこの図案のように多数花弁。花びらが蝋細工のように見えることから、「蝋梅(ろうばい)」の名が付いたと言われている。梅と付いているものの、実は梅の種族には属していない。けれども、その花姿や枝ぶりは梅と酷似し、梅園では他の梅種と並んで植えられることが多い。

 

この訪問着の作者・金丸明広の落款。名前の「明」の文字を草書にして使っている。

菊は上に立ち上がる姿で、蝋梅は横に枝を広げる姿で描かれている。一見寂しげに見えるものの、還ってそれが優しい姿に映る。この加賀友禅の特徴を生かした訪問着には、どのような帯合わせをすべきか。試すことにしよう。

 

(草色横段 源氏花菱連ね文様 六通袋帯・紫紘)

菱文の中に花菱を入れ込んだ、いわば「菱重ね」の図案。菱という文様は、模様を割り付ける役割を持ちながら、メインの図案としても使われる。この帯のように菱を連続させて、地を埋め尽くすような意匠は、江戸小紋の中にも見える。

この帯の面白さは、白と草色の二段に分かれた地の色。この色の段差があることで、帯姿に変化が現れる。またそれぞれの花菱は、橙・鶸・藤・紫・青など多彩な色を使って織り込まれ、それを帯全体にバランス良く散りばめている。

オーソドックスな菱文の羅列だが、シンプルで使い勝手の良さそうな帯。お太鼓を作ってみると、やはり白と草色の横段が、模様の表情として一定の役割を果たしている。花菱に明るい色が多いので、思うより華やかな帯姿になる気がする。では、加賀訪問着とコーディネートしてみよう。

 

写実的なキモノに対しては、幾何学文の帯を合せることで、格段にバランスが良くなる。モチーフは蝋梅と菊だけの、極めてシンプルな絵画的加賀友禅。それだけになお、帯図案には抽象的なものを求めたくなる。

画像で見ると、キモノ地の柳鼠色と帯の横段草色は、色の気配が近い。そのため僅かに濃い帯色が、キモノを引き締める役割を上手く果たしている。だが帯のインパクトがそれほど強くないので、全体的に見れば、はんなりとおとなしい雰囲気が保たれている。

帯の前姿。こうして見ると、帯の白と草色の色分けが無ければ、平板な印象になってしまっただろう。花菱は一つ一つが小さいので、着姿に可愛い印象を残す。

小物は花菱の色が多彩なので、様々に考えられるが、今回は今の季節に合わせて、蝋梅の色を使ってみた。フォーマルだが、あえて金銀糸の入らない冠帯〆を使ったが、仰々しさの無いキモノと帯のコーディネートなので、これで良いと思う。(楊梅色暈し帯揚げ 加藤萬・刈安色冠帯〆 龍工房)

 

今日は、二月の寒空の下で、凛として装う姿を考えてみた。その主役はやはり、春を待ちわびて咲く梅の花。密やかな花姿。寒風に耐えて揺れる小枝。そして芳しき薫り。日本人にとって梅は、季節の標となってきた花である。今なお疫病は収まらず、先の見通しが立たない日々が続くが、せめて旬の梅花を愛でながら、その「耐えて咲く姿」を見習いたいと思う。最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度ご覧頂こう。

 

昨年5月、北野天満宮と天台宗・延暦寺は合同で、疫病や災害をもたらす御霊の怨霊を鎮める祭礼・北野御霊会(ごりょうえ)を執り行いました。これは応仁の乱で途絶えていた以来、実に550年ぶりのことです。

明治以降は神仏分離令により、僧侶と神職が席を共にすることは無かったのですが、平安中期には、神道と仏教を融合した信仰(神仏習合)が、体系化されていました。今回、国の緊急事態・コロナの蔓延を受け、ここはどうしても神と仏が共同戦線を組まなければ疫病は収まらないと考え、「令和の神仏習合」が実現したのです。

ワクチンの接種が始まり、ほのかな灯が見えたようにも思いますが、もう暫くは耐え忍んで、当たり前の日常が戻る日を待ちたいと思います。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付から

  • 総訪問者数:1380758
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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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