バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート(前編) 祭り止むとも、浴衣掛・伝統模様編

2020.06 09

今年の夏、日本で開催される祭りや花火大会は、果たしてあるのだろうか。すでに東北の三大祭・青森ねぶた、秋田竿燈、仙台七夕を始め、徳島阿波踊りや高知のソーラン祭りなど、地方の主だった夏祭りは軒並み中止が決まっている。首都圏でも、隅田川花火大会や平塚七夕、高円寺阿波踊りなど、夏の大きな祭りイベントはほぼ開催されない。

多くの祭りは、非常事態が宣言された4月の段階で、すでに開催中止を決めていた。どうしても三密を伴う祭りは、ウイルスを蔓延させる温床となりやすく、主催者としても、クラスターが発生しかねないリスクは、何としても回避しなければならなかった。

 

もちろん、夏祭りや大きなイベントを中止することは、観光で生きる地方都市として大きな痛手となり、その経済的損失は計り知れない。けれども、こうしたことを勘案した上で、こぞっていち早く中止を決めた理由は、とにかく「封じ込めること」であった。

それはつまり、感染の中心地・首都圏からの人の流入を止めること。日本では、外出自粛に強制力がなく、海外のように完全な都市封鎖が出来ない。そこで、地方都市の方が「ウイルスを持ち込ませない」方策に舵を切ったのである。それは産業としての観光よりも、地域住民の安全を優先させたことに他ならない。

政府は、「アフターコロナ」を見据え、疲弊した観光需要を喚起させようと、国内旅行の費用の半分を補助する「Go To travelキャンペーン」を実施しようと考えたが、不透明な実施方法が問題となり、従来予定していた7月からの開始が怪しくなっている。しかし、この国内観光に対するカンフル剤も、地方の行事そのものが軒並み中止になっていることを考えれば、効果は疑問視される。そしてウイルスの二次感染が危惧されている今、この政策がまだ「時期尚早」であることは否めない。

 

夏祭りや花火大会の中止は、様々な業種に影響を来たす。我々呉服屋もその一つで、浴衣を始め、夏キモノ全般の今年の需要は、もはや絶望的と言っても良い。祭りどころか、ちょっとした街歩きさえ憚られるようでは、手の打ちようも無い。

だが、呉服屋の夏の店先では、色とりどりの浴衣や夏薄物を飾る。季節に相応しくウインドを装うことは、専門店としての義務であり、需要の有無には関わらない。長く商いを続けていると、予期せぬ様々なことが起こる。それは、ある意味仕方のないことだ。ということで、今年もこの6月のコーディネートでは、浴衣を取り上げてみる。多くの方は、今年着用する予定は無いと思われるが、来年いやもっと先のために、ぜひ参考にご覧になって頂きたい。

 

(綿絽 白地・雪輪模様  山吹色・無地麻半巾帯)

夏に扱う薄物は、毎年1~3月の間に開かれる問屋の新作発表会などで仕入れをし、浴衣は各メーカーの型紙見本の中から扱う品物を決め、染の依頼をする。予約した品物が店に送られてくるのが、4月中旬から5月の連休明けにかけて。店ではそれに合わせて、冬から夏へと模様替えを行う。

夏の売れ筋商品として最も扱いが多い竺仙の浴衣だが、今年品物を選んだのは3月の初旬だった。毎年ほぼ同じ時期に、竺仙の担当者が型紙や商品を持って店にやって来るが、まだこの時は、今回のウイルス禍がこれほどの事態になるとは想定しておらず、仕入れは例年と同程度になった。

うちの浴衣の仕入れは、前年売れた反数を参考に決める。言うまでもなく、呉服屋の品物は回転率が悪く、その年に仕入れた品物がきれいに売れてしまうことは無い。毎年何点か残り、それが何年も積み重なる。だが、きちんと管理して汚れやヤケを防いでいれば、いつまでも商品としての価値は変わらない。ここが、呉服という商いの大きな利点である。だから、今年売れなければその分、来年の仕入れを抑えれば良いだけである。

こうした小売屋と作り手の取引の内幕は、あまり消費者には関係ないことなので、そろそろ本題の品物のことに移ろう。今年も、新しく仕入れた品物を中心に、二回に分けてコーディネートを考えてみるが、少し趣向を変えて、同じモチーフを使った品物を二点ずつ選び、その雰囲気の違いを比べてみることにしよう。今日はまず、江戸浴衣らしい伝統模様をあしらった品物をご紹介してみる。

 

今年の竺仙のポスター。テーマは、「ゆかたも今や、夏きもの」。毎年扱い店舗には、きちんとポスターを送って来るのだが、今年はWeb上だけの公開。この画像も竺仙に依頼して、メールで送ってもらった。

今年ポスター柄に採用している模様は、雪輪。昨年のモチーフは瓢箪で、一昨年は杜若。色の入らないシンプルな白地に紺抜き、あるいはその逆で紺地に白抜きで、コーマ生地か綿絽を使う。この傾向は、竺仙の浴衣が「江戸伝統模様」を強く意識して製作されていることを表している。

夏に雪を想起させて、涼やかさを醸し出す。円に凹凸を付けたこの雪輪文は、江戸期になって数多くの品物にあしらわれた。暑い夏にわざと雪の図案を使い、見た目だけでも涼しさを感じさせる。これは、なかなか粋な計らいだ。雪輪はこの図案が様式化され、現在では季節に関係なく表現されるスタンダードな文様となっている。

少し大きい紺と白抜きの雪輪が。反物いっぱいに重なる。こうした図案はシンプルだが、インパクトのある浴衣姿になる。帯に無地一色のものを使うと、雪輪の模様がなお強調され、すっきりとまとまる気がする。

もう一つのパターンは、若草色を基調とした首里帯に帯留を使い、着姿を引き締めている。最初の山吹一色の帯より、大人っぽくなるだろうか。

こちらが、ポスターで使っている首里道屯半巾帯。目の覚めるような黄緑色は、青りんごの色とも捉えられ、「アップルグリーン」とも呼ばれる。

 

(かげろう地染 水色・雪華文様)

今度は同じ雪の文様でも、結晶を図案化した雪華文。これも江戸後期に出現した模様だが、顕微鏡を覗いた時に見える六角形の雪結晶を、多彩にデザイン化している。雪輪には伝統的な匂いがするが、雪華はモダンで現代的。

画像でも、縦の筋目が地の表面に付いていることが判る。これは今年竺仙が開発した新しい生地だが、この縦のすかし目に模様をあしらうと、ぼんやりとしたシルエットになる。ということで、竺仙ではこれを「かげろう染め」と呼んでいる。

(紺色濃淡鰹縞 八重山ミンサー・綿半巾帯)

合わせる帯は、浴衣と同系・紺水色グラデーションの付いた半巾帯。この雪華文浴衣の涼やかさをそのまま生かすには、やはり寒色系同系帯の合わせになろうか。模様も、シンプルな方が良いだろう。

雪輪と雪華。どちらも雪をテーマにした文様だが、雰囲気はかなり違う。こうして並んで眺めてみると、夏の雪姿も良い。

 

(綿絽 褐色地・大むじな菊文様)

次は、菊をテーマにした浴衣。むじな菊とは、大ぶりな八重菊のことだが、反巾いっぱいにあしらわれた図案は、相当インパクトがある。私には、菊というより夜空に打ちあがった花火に見える。そして、雫のような流線型菊花弁が印象的。ここまで大胆にアレンジした菊模様は、浴衣と言えども珍しい。

模様をよく見ると、花弁の一枚一枚に動きがある。仕立て上がると、かなり目立つ浴衣になる。褐色に白抜きのシンプルな色目だけに、かえって目を惹く。少し上背のある方でないと、着こなしが難しいだろうか。いずれにせよ、思わず着姿を見たくなる浴衣である。

バイク呉服屋は、「花火」をイメージして橙色無地の半巾帯を合わせてみた。浴衣の模様が大ぶりなので、帯は無地モノが良い。竺仙のHPにも、同じ浴衣のコーディネートが掲載されているが、紺暈しの麻半巾帯を使っている。いずれの色も使えるが、無地か暈し無地が最適であろう。

 

(綿絽 白地・市松格子に菊模様)

これも菊がモチーフだが、市松格子の中に規則的に収まる面白いデザイン。キモノの意匠らしからぬモダンさがあり、上のむじな菊とは違った意味で、仕立てた姿が楽しみになる浴衣であろう。

ポイントになっているのは、花芯の所々に付けられた赤い点。これがあることで、着姿が可愛くなる。浴衣は、ほんの少しの配色や施しの違いで、イメージが変わる。それは、品物の選び手・世代を代える手がかりともなってくる。

(真紅色 琉球ミンサー・綿半巾帯)

バイク呉服屋が選ぶと、この浴衣に赤い帯は外せない。どんなコーディネートでも言えることだが、キモノにはポイントとなる挿し色があり、この色を基準に帯合せを考えると、間違いは少ない。この浴衣に限れば、赤によって可愛さが倍増すると思える。

流線(花火)菊と市松菊。キモノの文様としては極めてオーソドックスな菊でも、これだけ違いが出てくる。そして、こうした大胆な図案化は、浴衣だからこそ出来たのであろう。

 

(コーマ地 藍色・カモメに絣模様)

ここから三点は、伝統模様を少しアレンジした面白い浴衣をご紹介しよう。最初は、スカッとした藍色に白抜きの品物。カモメと一緒に模様付けされているのは、帯の製織に使う道具・杼(ひ)にも似ている絣のような図案。しかしカモメが飛んでいるので、これは波なのだろう。

波文の曲線は、絣足のようにギザギザに描かれている。波頭をイメージしていると思うが、ちょっと不思議な図案である。ただ色的に言えば、こんな藍に白抜きの浴衣は、着姿を見る人に、最も夏らしく爽やかな印象を残す。

(白地矢絣 琉球ミンサー・綿半巾帯)

藍浴衣に白地帯は、見た目の涼やかさという点で、ほぼ鉄板の組み合わせ。今回は、絣っぽい浴衣図案に合わせて、帯にも絣的な模様を選んでみた。

 

(コーマ 白地・福良雀模様)

お馴染み福良雀が、反物いっぱいに乱舞している。季節を問わず、一年中どこででも見ることが出来る雀は、浴衣のモチーフにもなる。ふっくらとした愛らしい姿は、浴衣で着用しても可愛い姿に映る。

向かい合わせ、あるいは横並びと、不規則に密集した福良雀の姿が面白い。そして、所々に見える紺色雀の配置が絶妙で、この浴衣のポイントとなり、品物をより引き立てている。

(濃紺鱗模様 首里ミンサー 綿半巾帯)

こちらも、先ほどの絽白地・菊市松浴衣の赤花芯と同様、浴衣でポイントとなっている雀の紺色で合わせたもの。この場合には、薄い色より雀より深い紺でなければ、しっかりと締まらないだろう。

 

(レンガ色 コーマ地・組菱松模様)

最後は、松葉菱が組細工のように連なった、いかにも江戸っぽい小粋な浴衣。私は毎年浴衣を仕入れる際、男女双方が着用出来そうな雰囲気の品物を何点か選んでいるが、これもその一つ。

男モノの浴衣は、くるわ繋ぎや菱繋ぎ、菊五郎格子などの役者柄に代表されるように、そのほとんどが幾何学文の連続文様になっている。図案だけ見ると、この組松菱も男モノに思えるが、染め色は珍しい臙脂色。これなら女性が着用しても、粋な姿に映る。

(むじな菊模様 白地・博多半巾帯)

まずは、女性の合わせ。白地に、薄黄色のむじな菊模様を織り込んだ博多半巾帯。キモノが単純な連続模様なので、帯には植物や鳥などのリアルな模様を使い、女性らしく。

(井桁小市松模様 黒地刺子・米沢織角帯)

男性ならば、キモノの臙脂色を男らしく引き締めるために、濃地のすっきりした帯を合わせたい。この市松の中に見える井桁文は、刺子であしらわれている。布を重ね合わせ、細かく刺し繍いを施す刺子は、元々衣類の摩擦を予防する、ある意味で布を補強するための技法だった。

男性でも女性でも、「江戸っぽく」着こなすことの出来る菱松葉。こうした楽しみ方が出来るのは、浴衣ならではだろう。

 

今日は7点の浴衣を使い、それぞれのコーディネートを考えてみた。同じモチーフを使っても、意匠としてかなり隔たりがあり、配置や配色の妙により、それぞれに個性が出る。浴衣に限らず、和装で表現される文様には、無限の広がりがある。だからこそ、面白い。

次回は、伝統の中に現代感覚を含ませた「江戸モダン」な浴衣を使い、帯との組み合わせを考えてみよう。「今は無理だが、いつかは着てみたい」と思って頂ける姿を、出来るだけ作りたいと思う。

 

着用する場面が無くなる、あるいは制限されるということは、和装にとっては致命的なことです。けれども、未来永劫、今の状態が続くことはありません。いつか必ずまた、多くの人が装う時が来ます。

それまでは売り手も作り手も、何としても、この仕事を続けていかなければなりません。有史以来続く美しい日本の民族衣装が、こんなウイルス如きで廃れたら、悔しいですから。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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