バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

新しい年に向けて、優しくモダンな小紋で、個性的な長羽織を作る

2019.12 04

一昨日、京都日帰り出張を敢行した。呉服を扱う問屋やメーカーでは、月初めに売り出しや新作発表会を行うが、師走には、一年を締めくくる「歳の市」と銘打って、バーゲンを行うところも多い。

今回の仕入れ目的は、紫紘の帯。この老舗帯メーカーでは、通常ほとんどバーゲンをしないが、年にたった一度、それも一日だけセールを実施する。それが、毎年12月最初の月曜日なのである。例年だとバイク呉服屋は、この時期納品に忙しく、これまで一度も行ったことは無かったが、今年は運よく時間が出来た。店の棚に、紫紘の帯在庫が少なくなっていたこともあり、思い切って出掛けてきた。

東京発朝7時の新幹線に乗ると、京都には9時半に着く。三条通の紫紘展示会場に直行し、6本ほど品物を見分けたが、まだ午前中だ。京都まで来て、他の取引先に挨拶無しというのも、愛想がない。そこで午後から、松寿苑、トキワ商事と室町の染問屋を廻り、さらに北山にある帯の買継ぎ問屋・やまくまでカジュアルモノを少し仕入れ、最後に東洞院通の紬問屋・廣田紬に寄って、白大島を二点仕入れた。

最初は紫紘のフォーマル帯だけを数本買う予定が、結局少しずつだが、立ち寄った問屋全てで仕入れをしてしまう。これだから、何時まで経っても、問屋の支払いとは縁が切れない。

 

この日は朝から雨が降っていたが、意外に暖かい。コート無しでも十分に外歩きが出来る。西陣から今出川の駅に出たところ、烏丸通り沿いの銀杏には、まだ葉が多く残っている。特に、同志社大学付近の並木は、色鮮やかで美しかった。今年は全国的に10月の気温が高く、各地で紅葉の見頃が二週間ほど遅れた。温暖化の影響は、こんな季節のうつろいをも変えつつある。

一般的に、コートが欲しくなる気温は15℃以下とされ、10℃以下になると厚手のものが必要になる。キモノの場合でも、コートや羽織を使う目安は、やはり15℃くらいだろうか。帯付きで街を歩く姿が寒々しく感じられるのが、凡そ、このくらいの気温ということか。東京の11月の平均気温は17℃、それが12月になると12℃に下がる。それを考えると、例年では丁度今頃からが、上に羽織るモノの出番となる。

そこで今日は、新年に向けて誂えて頂いた二点の羽織を、皆様にご覧頂こう。どのような品物を使い、それをどのようなキモノに合わせて選んだのか。皆様が、羽織を考える上で、少しでも参考になれば良いのだが。

 

今回、長い羽織として誂えた二点の小紋。

日常生活の中にキモノが溶け込んでいた昭和の頃には、羽織は無くてはならないアイテムだった。現代のように、気密性が高い住宅環境ではなく、暖房設備も不十分だった当時の家々において、羽織は防寒の役割を担っていた。またコート類とは違い、家の中でも脱ぐ必要がないので、近所への買い物やちょっとした外出の際も、家での羽織姿そのままで出掛けていた。

この時代、お客様が普段使いのウールや紬を求める際には、同時に、それに見合う羽織を選ぶことが多かった。今、多くの家の箪笥に、祖母が着尽した羽織が数多く残されているのは、こんな理由からである。

 

女モノ羽織丈の長さは、時代によって変化しており、明治から大正期には、竹久夢二が描いた女性の姿にも見られるように、かなりの長丈であった。その長さは、裾から2~3寸上がった膝下くらいが多く、だいたい7~8分丈になっていた。

この傾向は戦前まで続くが、戦後になって急速に短くなる。特に、一般家庭の日常着として、キモノが広く普及していた昭和40年代では、長さは腰が隠れるか否かくらい。鯨尺で言えば、2尺から2尺2寸くらいが目安だった。

日常の中からキモノが消えると共に、羽織も姿を消していたが、平成の中頃になってから、その存在を見直す方が少しずつ現われた。もちろん防寒の意味もあろうが、多くは、羽織姿に格好良さや美しさを感じたからと思われる。

 

そして今、新しく羽織を誂える方は、ほとんどが丈を長くされる。戦前ほどの長丈ではないものの、膝上あたりの長さを希望される人が多い。これだと、羽織やコート専用の反物・羽尺では長さが足りず、キモノ用の反物・着尺で作らなければならない。昭和の頃に流行した短い丈の羽織ならば、要尺の短い反物で十分間に合ったため、専用の羽尺という反物があったが、現在はほとんど生産されていない。

ということで、現在羽織に使っているアイテムは、ほとんどが小紋になる。けれども小紋ほど、模様や色が多様な品物も無い。薄地あり濃地あり、総柄あり飛び柄あり、図案に使う意匠も大きさも、品物によりまちまちである。

誂える方にとって、どのような小紋を選ぶかは悩ましいが、選択肢が広いだけに、選ぶ楽しさもある。合わせるキモノの色や図案を考えて選ぶ方、季節感を前に出した品物を選ぶ方、自分の体型を重視して見合うモノを選ぶ方など、様々な選び方がある。もちろん、「こうでなければ」というルールはなく、自分の好みで自由に選べば良い。

今日はその中から、柔らかい地色の総柄小紋を長い羽織とした品物を、御紹介しよう。

 

(浅緑色 市松ぼかし松葉菱模様 小紋・松寿苑)

ブログの読者には、この小紋に見覚えのある方もおられるだろうが、この品物は今年1月のコーディネートで、一度御紹介している。松の葉を使った菱市松は、全体を見ると井桁を組んだように見える。松は、堅い植物文の代表格なのだが、一見してそれと判らないほど、図案化されている。もちろん、キモノとして使ってもモダンな姿になるが、これをあえて羽織として使った。

この小紋図案のモチーフ・松葉菱

お客様が、この小紋を羽織に選んだ理由は、幾つかある。それはまず、合わせるキモノとして、白大島を考えたことであろう。清潔感のある白地のキモノに、浅緑色のようなパステル色の羽織を羽織ると、柔らかくはんなりと映る。おそらく、着姿にそんなイメージを膨らませたからかと思う。また、最初に使う予定がお正月だったこと。羽織の図案・松葉菱は、新年の装いとしても相応しいと考えられたからではないか。

羽織として仕立て上がった松葉菱小紋・後姿

総柄の幾何学模様だが、所々に配されている黄色暈しの松葉菱がアクセントになり、平板さを消している。また、仕立てをしてみると、松の実を表現したターコイズブルーが、案外目立つ。地色の柔らかさを生かした、極めて上品な羽織姿になっている。

羽織として仕上がった松葉菱小紋・前姿

この小紋は、このように羽織として使っても、またキモノとする場合も、模様全体が、「井桁菱」になるように仕立てを工夫する。つまり、小紋でありながら、柄合わせをしなければならないのだ。

画像を見て頂くと、羽織の身頃と衿、袖の模様が、それぞれ斜めに一直線で繋がっているのが判ると思う。これは前姿だけでなく、後姿も同様。仕立において図案の規則性を崩してしまうと、この小紋の雰囲気は大きく変わってしまい、品物そのものの魅力を損ねる。

羽織紐は、羽織の優しいイメージを崩さないように、同じパステル系のサーモンピンク色を使う。また、着姿からは隠れているが、羽裏も柄モノではなく、柔らかい若草色の無地ぼかしにする。

着用されるお客様は、小柄な方。だから羽織として、あまり重々しくならないことが大切になる。この羽織ならば、「ふんわりと優しく羽織っている」イメージを、見る人にも与えるように思う。

 

(黄土色 クローバー模様 小紋・松寿苑)

キモノのモチーフとしては珍しい、クローバー模様。和名では、白詰草。三枚葉が基本だが、稀に葉形が変異して四枚になる。この四つ葉クローバーを見つけた人には、幸運が訪れると言い伝えられていることは、皆様もよくご存知のこと。地色の黄土色は、先ほどの浅緑色小紋と同様に、柔らかく優しい色。また、ランダムに横たわったクローバーの姿が自然で、模様そのものが可愛い。

この小紋図案のモチーフ・クローバー

この小紋を羽織として選んだお客様は、合わせるキモノに薄グレー地の与那国紬と、深い紫地色の大島を想定した。着姿を考えれば、与那国だと、薄い色同士の組み合わせでなお優しくなり、大島に使うと、キモノの色を抑えて着姿に柔らか味が生まれてくる。模様のクローバーは、白詰草の名に相応しく、白だけで表現されていて、地色の黄土色が前に出ている。このシンプルな姿が、合わせるキモノの範囲を広げている。黄土色に限らず、ベージュ系の色は、どんな色と合わせても自然に馴染む特性を持つ。

羽織として仕上がったクローバー小紋・後姿

松葉菱小紋も、黄色暈しを配して、模様に変化を付けていたが、このクローバー小紋でも、丸く白抜きした箇所が所々にあり、それが羽織になった時に、飛び柄のような姿として浮かび上がっている。挿し色の無いシンプルな小紋でも、こうした工夫で個性的な品物となる。

羽織として仕上がったクローバー小紋・前姿

白く地を抜いた箇所のクローバーには、金を使っている。ほんの僅かな施しだが、暈しを印象付ける役割を果たしている。こうしたセンスが、図案を考える上では必要で、それが品物を面白くする。

羽織紐は、地色の黄土色より少し濃い、橙色を使う。紐を地色と同系でまとめると、羽織全体の雰囲気を、そのまま着姿に反映出来るように思える。見えない羽裏も、クリーム色で優しく。

こちらの羽織を着用される方も、小柄な方。挿し色は入らなくても、モダンで可愛いクローバーの特徴を生かし、優しく、品良く、しかも使い勝手の良い羽織として仕上がっているように思う。

 

羽織にした二点の小紋は、いずれも「バイク呉服屋好み」のパステル色で、明るくモダンな雰囲気を持つ品物。無論、羽織として使う小紋は、こうしたものばかりでなく、重厚感のある大柄や、鮮やかな色を持つ紅型、また旬を意識した植物をモチーフにしたものなど、多種多彩な品物がある。

羽織を選ぶ基本となるのは、キモノや帯を選ぶ時と同じく、着姿としてどのようなイメージをお客様が想定するのかということになるだろう。皆様も自分らしい羽織を探して、ぜひ手を通して頂きたい。カジュアルの装いは、自分が好きなものを、自由に着る。ただそれだけで良いのだから。

最後に、今日御紹介した二点の羽織を、もう一度どうぞ。

 

呉服屋の棚に並ぶ品物には、店主の好みが如実に表れますが、カジュアルモノでは、それがより顕著になってきます。経営的なことを優先すれば、本来仕入れの際には、売れる可能性が高いモノを選ばなければなりませんが、そんなことは二の次で、単純に「自分が好きか嫌いか」だけが、基準になっています。

ですが、そもそも呉服屋の商いなど、何が売れ筋かを見極めることなど無理で、自ずと自分の感覚頼みになるのは、どうにも仕方がありません。

年々、自分の趣に合う品物を見つけることが難しくなっていますが、出来るだけ足繁く取引先を歩き、探す努力を怠らないようにしたいと思っています。しかしそうは言っても、「京都日帰り仕入れ」は、さすがにキツイですね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。なお、次回のブログ更新は、パソコンの入れ替え作業により、通常より少し遅れるかも知れません。何卒、ご了承頂きたく思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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