バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

飛び柄小紋を、染・織双方の名古屋帯で合わせてみる  染帯編

2019.10 23

毎年、その芳しい香りは突然やってくる。朝、玄関のドアを開けると、甘く優しい花の匂いが漂い、鼻腔をくすぐる。香りを放つ花は、金木犀。言わずと知れた、秋を告げる香木だ。

金木犀は、柊やオリーブと同じモクセイ科の常緑樹だが、同じ科目に属する木には、ライラックやジャスミンなど、同様に良い香りを放つものが多い。この花は、中国南部の亜熱帯地域、ベトナムと国境を接する広西チワン自治区・桂林地方が原産。そのため、中国では桂花、あるいは丹桂と呼ばれている。日本には江戸時代に持ち込まれ、東北南部を北限として、九州まで栽培されている。

香りを放っているオレンジ色の小花は、陽射しを受けると金色に輝く。けれども花は脆く、雨や風にあたると簡単に落ちてしまう。考えてみれば、香りが漂っている期間はせいぜい一週間程度で、突然香り始め、突然終わる。

 

秋の訪れを、香りで告げる金木犀。漂う時期は毎年微妙に違うが、10月半ばの丁度今頃かと思う。我が家の庭にやって来る匂いは、近所の木から漂ってくるものだが、バイクで走っている時でさえ、香りを感じることがあり、どこで咲いているのかと、つい辺りを見回してしまう。

どこからともなくやってくる芳香は、花が香りを強く放つために、誰もがさりげない日常の中で、感じ取ることが出来る。その意味でも、金木犀ほど秋の訪れを強く意識させる花は無いかもしれない。

 

さて、金木犀の花が咲く頃は、夏の名残が完全に消えて、心地良く過ごせる季節となる。そしてそれは、気軽にキモノを装う気持ちを高めてくれる。暑さや湿気を気にすることなく、そしてまだ、防寒のために羽織るものは必要ではない。キモノと帯だけの、いわゆる「帯付き」の姿で、街歩きを楽しめるのも、今の時期ならではであろう。

今日は、前回の続きとして、飛び柄小紋の帯合わせ・染帯編を御紹介するが、少しでも、皆様の秋の装いの参考にして頂ければ、有難い。

 

前回もお話したが、飛び柄小紋と名古屋帯は、どちらもカジュアルとフォーマルの隙間を埋める品物だが、双方を組み合わせてみると、やはりそこには遊び心と規律が同居しているように思える。

カジュアルで合わせるキモノと帯の図案や色目に、堅苦しい規則など無く、着用する方が自由に選べば良いのだが、たとえ気軽な場でも、少しでもフォーマルを意識すると、そこに何がしかの制限が掛かる気がする。つまりは、晴れと褻の間に位置する今回の組み合わせは、ある程度範囲を限った中で、自分の個性を表現することになるだろうか。

前回の織名古屋帯もそうだったが、合わせる品物により、フォーマルに傾いたり、カジュアルに寄ったりする。では、染帯でも同様なのか。図案や加工によって、着姿がどのように変化するのか、そこに注目しながら個々の品物に帯合わせをしてみよう。

 

(生成色地 花窓に花菱模様 塩瀬染名古屋帯・トキワ商事)

染帯と一口に言っても、その加工の仕方で雰囲気がかなり違ってくる。例えば、型絵染の通し柄などでは、かなりカジュアル色が強くなるが、一方で、箔や刺繍をあしらっていれば、フォーマル的な雰囲気が出て来る。中でも、金銀が使ってあると、その傾向は顕著になる。

この帯も、お太鼓の模様の一部に、金駒刺繍が見られる。図案は、唐草で囲んだ窓枠の中に花菱が入るモダンで個性的なものだが、金の繍いで模様を強調しているところを見ると、フォーマル使いの意識があるようだ。こうしたちょっとした加工の有る無しは、意外に帯の使い道に影響する。

前姿は、かなりシンプル。帯模様の配色は、窓枠の深緑と花菱の白と金だけで、かなりおとなしい。キモノの地色も優しいので、こうした組み合わせだと、柔らかで上品な着姿になる。水玉と花窓の図案を見ていると、何となく洋装的な雰囲気も見受けられ、堅苦しくはならない。

では、織りと染め双方の名古屋帯を並べてみよう。飛び柄でも、少しだけカジュアル的な要素がある葡萄小丸小紋に対して、織帯・染帯双方とも、いかにも名古屋帯らしい遊び心を含む図案になっている。地色は、織帯が白で染帯が生成色。同じ白系でも、並べて見るとその違いがよく判る。パステル系の薄ピンクのキモノを可愛く見せるためには、こうした白系の帯を使うと、効果的である。

 

(黒地 松波に雪輪模様 塩瀬染名古屋帯・トキワ商事)

前のモダンな意匠と異なり、松波に雪輪という何とも堅い古典図案の帯。加工の方法でフォーマルさを演出することもあれば、このようにかっちりとした古典模様を使うことで、格を上げることも考えられる。

この飛び柄小紋は、図案がほとんど目立たず無地に近い品物なので、こうした古典的な図案を使うと、よりフォーマル感が感じられる。これだと、袋帯を使わなくても、茶席の装いなどに十分使えるように思える。

松と牡丹を入れた雪輪だけの、あっさりとした前模様。お太鼓の波模様には、金砂子をまぶして濃淡を付け、松や雪輪の糸目には、金加工を施す。模様の堅さと相まり、このように金を入れ込むことで、少し重い名古屋帯となる。

染・織双方ともに黒地を使ってみたが、かなり雰囲気は違う。左の織帯は、模様が密なので地の黒場が消えているが、染帯は黒地が強調され、模様が浮き立つように見える。このような無地に近い飛び柄小紋は、使う帯により自在に変化が付く。選択の幅が広いので、何を選ぶかが難しいが、その分多様な着姿を楽しむことが出来るアイテムとも言えよう。

 

(クリーム色地 疋田壺垂れに大菊模様 塩瀬染名古屋帯・菱一)

小菊手鞠の小紋と大菊の染帯で、「菊尽くし」の着姿を作ってみた。また、模様だけでなく、キモノ地色と染疋田で表現された帯の壺垂れ模様が、サーモンピンク色でリンクしている。

同じモチーフと同じ色を基調にしたキモノと帯を合わせると、双方が一体となって着姿が統一される。また帯の大菊は、金箔と白い胡粉により加工されており、その強調された色合いから、フォーマルさも感じられる。そして、疋田の可愛さも十分窺える。

壺の淵から釉薬が垂れた姿を表した「壺垂れ」模様。キモノ地色とほぼ同じ色だが、疋田加工が変化のある帯姿を演出している。菊の豪華さが目立つ帯だが、キモノと図案が重なることにくどさを感じさせない。着姿全体に漂う優しい色合いが、上品さを印象付けるだろう。

キモノと帯二点、どれもサーモンピンク色が、ポイントになっている品物。有職文の織帯で、スタンダードな合わせにするか、それとも旬が前に出た染帯で、個性的に装うか。好みが分かれるところだが、いずれにせよ、柔らか味のある着姿となることに、変わりはない。

 

染帯は、織帯よりも加工の上で制約が少ないので、意匠の自由度が高く、その分個性的な品物が多い。友禅の技法を駆使し、そこに箔や繍、絞りを加えて図案を凝らす。

染帯の多くは塩瀬生地を使い、模様もお太鼓と前だけにあしらわれている。そのため、締める時に生地が垂れたり、模様の位置をきちんと合わせる必要が生じ、多少の扱い難さはある。けれども、染帯特有の優しい雰囲気や質感に馴染んでくると、自然に締める機会が増えてくる品物になるだろう。そして、色や図案で「旬」を表現しやすいアイテムだけに、着姿で四季折々の表情を出す時には、どうしても出番が多くなる。

最後に、今日御紹介した染名古屋帯との合わせを、もう一度見て頂こう。

 

さて、二回に分けて、飛び柄小紋と染・織名古屋帯を使い、様々な組み合わせを試してみたが、如何だっただろうか。晴れと褻を行き来する品物は、用途に応じてコーディネートを工夫する必要があり、それが着用する方を悩ませる。

けれども、この二つのアイテムを上手に使いこなすようになると、着姿の幅は格段に広くなる。ご覧に入れた組み合わせは、あくまでバイク呉服屋の好みであり、一つの例に過ぎない。皆様には、時には、品物に対する視野を広く持ち、自分なりのエッセンスを取り入れて頂きたい。飛び柄小紋や名古屋帯のような、多様な着姿を演出出来るアイテムは、使えば使うほど面白くなり、着用の場はどんどん広がっていくと思う。

 

小さくてはかない金木犀の花。もしかしたら、今年はこの匂いに触れないままに、秋を終えてしまうという方も多いのではないでしょうか。

日常の、ふとした時に感じる季節のうつろい。これこそが、美しい四季を持つ日本の良さなのですが、それが年々薄らいでいくことに、寂しさを禁じ得ません。激しい気候の変動は、こうした日本人の繊細な心持ちを、奪ってしまいます。困難な現実を止める手段が、どこかに残っていると良いのですが。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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