バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

12月のコーディネート パーティでさりげなく目立つ、黒絞り訪問着

2016.12 23

今年のクリスマスは、曜日の並びが良く、三連休。年末を彩るイベントが週末と重なり、街はなお、賑わいでいることだろう。

特にクリスマス・イブは、世のカップルにとって、特別な夜かと思われるのだが、最近はそうでもないらしい。我々世代では、いつもより少しだけおめかしして、イルミネーション輝く街を二人で歩き、レストランでゆっくり食事をとりながら、語り合う。そんな光景が何となく想像出来るのだが、多くのカップルは、普段と同じような過し方をしているようだ。

 

試しに、うちの娘の一人に、「どんなクリスマスを過したいか」聞いたところ、やはり、家でまったりするのが理想だそうだ。わざわざ混雑する街に出掛け、特別料金になっているレストランで食事をする意味は全く無い。コタツに入って、鍋でもつつき合う方が、よほど経済的で、ゆったり出来ると言う。

「特別なこと」などかけらもなく、何とも現実的で、醒めている。今の若者達は、自分の身の丈を知り、無駄なことはしない。なるほどこれでは、消費が伸びない訳だ。

 

クリスマスで思い出す曲といえば、やはり山下達郎の「クリスマス・イブ」。1988(昭和63)~1992(平成2)年、クリスマスの時期に限定して作られたJR東海のCM・「クリスマス・エクスプレス」の挿入曲として使われ、大ヒットした。

このCMは、クリスマスイブの夜に駅で再会する、遠距離恋愛のカップルを描いたものだが、どの年も、甘酸っぱさ満載のシチュエーションだった。携帯電話もメールもない時代、「会う」ことが、気持ちを確かめ合う唯一の手段。「クリスマスという特別な夜だから、なお会わずにはいられない」、そんな気持ちが凝縮されていたように思う。

人と人がリアルに向き合うからこそ、様々なドラマが生まれる。そんな風に考えるのは、もう40代以上かもしれない。

 

さて、今年最後のコーディネートは、パーティなどで着用すると、さりげなく目立つ、個性的な絞りの訪問着をご紹介することにしよう。

 

(黒地 束ね熨斗模様 総絞り訪問着  白地 葡萄葉模様 袋帯)

今年は、福原愛さんが婚約発表の席で着用した、白地の総絞り振袖が話題になった。絞り独特の、生地に表れる凹凸のある立体感。そこから着姿に現れる、フワっとした柔らかな優美さ。そして、優しい配色による上品さ。改めて、絞りの良さが再認識されたのではないだろうか。

絞りとは、人の手により、生地の一部を糸で括ったり縫いしめたり、また、道具を使って、締めたり押したり挟んだりして、染料が入り込むことを防ぎ、そこを染め上げた時に、一つの模様として表現する技法である。

 

絞り技法は、「纐纈(こうけち)」として、すでに天平期には確立しており、正倉院に収蔵されている様々な染織品の中に、その姿を見ることが出来る。これは、この時代の文様染技法、三纈(さんけち)と呼ばれるものの一つ。

なお、残りの二つの技法であるが、一つは「夾纈(きょうけち)」と呼ばれ、板締めによる文様染。これは、同じ文様を彫った二枚の板の間に生地を折り挟み、それを締めて動かないようにしたところに、染料を注ぎ込む。こうして染められた生地は、折り目を境に左右対称に文様が表れる。

もう一つの「﨟纈(ろうけち)」は、文様部分に蠟を付けて防染し、生地全体を色染めした後で蠟を抜くと、模様だけが残る。文様は、刷毛を使って描いたり、木の型に文様を彫り抜いたスタンプ状のものを押し当てたりして、付けられていた。

三纈のうち、夾纈は江戸期に板締めとして復活するまで、また﨟纈は、室町後期に南蛮渡来の更紗が伝来するまで、平安期以降その技法は廃れていたが、纐纈だけはずっと続いており、近世・桃山期以降は、縫や箔、さらに友禅などと併用して、贅沢な文様を演出していた。

ひとくちに絞りと言っても、技法は多様であり、そのあしらい方によって、表現される模様も異なる。今日ご紹介する品物にも、様々な絞り技が駆使された跡が見える。どのように人の手が入れられているか、その辺りを説明しながら、見て頂くことにしたい。

 

(黒白総絞り 束ね熨斗模様 訪問着・藤娘 きぬたや)

訪問着なので、模様をわかりやすくご覧頂くために、衣桁に掛けた画像を使ってみた。

模様は、上前身頃から後身頃にかけての裾模様と、左前袖から肩にかけて、束ね熨斗模様があるだけの、きわめてシンプルな柄行き。色も、黒白だけのモノトーンで、絞りで表現された模様が、なお立体的に見える。

 

この品物の見どころは、熨斗の中に付けられた様々な絞り模様。鳥、椿、梅、花菱などが、技法を変えながら巧みに表現されている。また、模様以外の無地場は、全て疋田絞りを使っている。では、どのような絞りが使われているのか、個別に見ていこう。

 

束ねられた熨斗が、放射状に広がる。一枚一枚の模様は全て異り、様々な絞り技法を組み合わせることで、生まれている。白と黒だけで、これほど豊かな表情を作ることは、他の技法では難しいだろう。そしてまた、かえって余計な配色がないからこそ、この姿が演出出来る。

 

椿の花 疋田絞り・縫い絞り・小帽子絞り

画像の椿の花で、花弁を表現しているのが、疋田絞り。「鹿の子(かのこ)」の名前で知られるこの技法は、生地を指先で小さくつまみ、糸を巻いて括る。この括り方次第で、疋田も様々に分類される。

もっとも白い地が鮮明に浮かび上がる本疋田は、巻きつける糸の回数は、7~8回。中疋田で4~5回。きぬたやの製品には、10回以上も巻くものがある。また、小さな粒を連続して絞る「一目絞り」は、線状に模様を表現する時に使われる。この場合は、本疋田や中疋田よりも生地を小さくつまみ、括りは2回だけ。

キモノ全体に広がる疋田。人の手を使い、一粒一粒丁寧に糸を括ることで、これだけの模様が生まれる。見事なまでに、同じ大きさの粒が揃うが、よくよく見ると微妙に形が違う。手仕事の跡は、こんなところに表れる。糸を括ることだけでも、一体どれほどの手間が掛かるのだろうか。気の遠くなるような仕事である。

疋田絞りは、遠目から見た姿が、鹿毛の斑点のように見えることから、「鹿の子」の名前が付いているが、纐纈といわれた天平の昔から、多用されてきたものであり、いわば絞りの原点とも呼べる技法の一つである。

 

鳥模様 縫い絞り

丸い粒を連続させて、鳥の輪郭を表現しているのは、縫い絞り(ぬいしぼり)という技法によるもの。これは、生地に青花の液で模様の線を描き、それに従って縫い、その糸を引き締め、縮めた状態で染め上げると、上のような模様となる。この技法も、古くから使われているものの一つで、この品物のように、文様の輪郭を表す時などに、よく使われている。

花菱模様 小帽子絞り 縫い絞り

菱の中にある四枚の白い花びらは、小帽子(こぼうし)という技法によるもの。帽子絞りには、この小帽子の他に、模様の大きさにより大帽子や中帽子などがある。絞り方は、模様の輪郭を縫い、その中に芯を入れ、根元に糸を巻きつけて引き締める。さらにその生地を、ビニールで包んで固く縛ってから、染液に浸す。

この括り上げた形が、帽子をかぶっているようにも見えるために、この名前が付いた。なお、小帽子で使う芯は新聞紙を巻いたもの、中帽子より大きいものには、木製の芯を使う。

 

手を尽くした様々な絞り技法で表現された、束ね熨斗。熨斗とは、鮑を薄くスライスして、スジのように伸ばして乾かしたもの。最初は、儀式の酒肴として使われていたものが、のちに進物となり、それが長じて飾りとなった。

現代でも、当たり前のように使われている「熨斗袋」だが、元を正せば、鮑の肉である。熨斗文様は、代表的な吉祥文様の一つであり、おめでたい席に使うフォーマルモノの文様として、良く使われる。特に、この訪問着のような、熨斗を束ねた模様は、江戸期の小袖や振袖にも、よく使われていた。

 

この、少しお洒落で個性的な黒白絞り訪問着。気軽なパーティの席などで着用されることが、一番ふさわしいように思う。単純な色と模様だけに、使う帯次第で、着姿がかなり変わる。

なお、絞りを「フォーマルの場にはふさわしくない」とするご意見も世間にはあるようだが、これはなかなか微妙だと、私は思う。総鹿の子の無地絞りなどは、「小紋」の範疇に入るので、カジュアルモノの扱いになる。では、今日の品物のような「訪問着」になっているものは、どうだろうか。

「絞りの振袖」が世間に認知されていることを考えれば、単純に、訪問着もフォーマルとして使っても良いことになる。未婚者が使うフォーマルなら絞りが認められ、既婚者が使う訪問着は駄目というのも、何だか釈然としない。

だが、模様のほどこしとして、箔や刺繍、などと併用されている場合はともかく、生地全体が絞ってある総絞りの場合には、少しカジュアル感が漂う気がする。フォーマルに使うもので、絞りのように、生地そのものにほどこしを加える品物は、まず無いからだ。ただそれでも、紬の訪問着がフォーマルに使えないのとは、少し違うだろう。織物は、そもそもカジュアル着だけに使われてきた経緯がある。

私の結論を言えば、絞りの場合は、少し猶予されるように思う。例えば、絞りの振袖の袖丈をつめて、訪問着として使うような場合は、使って良いだろう。ただ、フォーマルと言っても、主賓ではなく、招待された側として列席するような場合なら、ということになる。「絞りの訪問着をどのように見るか」、というのは判断が分かれるところで、実に難しい。だから、「パーティ着」として使うのが、もっとも無難なのである。

少し話の方向が逸れたが、どんな帯でこのキモノを引き立たせるか、コーディネートを考えてみよう。

 

(白地 葡萄葉模様 袋帯  白綾苑・大庭織物)

キモノそのものがシンプルな色と模様であること、こういう場合には、帯一つで、着姿に変化が付けられる。絞り特有の立体感と、柔らかさを生かし、全体に明るい印象が持てるような品物を選んでみた。

帯模様は、葡萄の葉をモチーフにしているが、大胆に図案化されており、配色にもメリハリがある。一つ一つの色に個性があり、帯には珍しい蛍光的な色使いも特徴的。

 

帯には、一目でどこの織屋か判るものがある。紫紘・龍村・捨松など、模様は違えども、雰囲気にそれぞれの織屋の個性が出ている。それは、各々が、使う織糸や織り方に独自の工夫を凝らしていることや、その織屋が得意とするモチーフ、また配色の癖などで、特徴ある織姿が生まれている。

そういう意味で、この帯を織り出した白綾苑大庭(おおば)も、一目でここの品物と判るような、特徴を持つ織屋である。まず、目に付くのは、大胆な図案と配色。今日の帯を見ても、他の織屋には見られないような、グラデーションの付け方が見られる。また、模様にも伸びやかさがあり、主張が感じられる。

お太鼓を作ってみると、なお、帯の迫力が判る。それぞれの葉に色の主張があり、模様が前に飛び出してくるような印象を受ける。

大庭の帯としては、この品物などおとなしい方で、もっと大胆で個性的な雰囲気を醸し出している帯が、いくらでもある。ほとんど地が見えないくらい、帯幅一杯に模様が織り出されているものや、普通の帯より図案を長く付けているものも多い。

また、手にした時の風合いも、この織屋独特のものがある。編み込むような構造の葛籠糸(つづらいと)や、二本以上の糸を引き合わせ、下撚りと逆方向に撚りあわせた諸撚糸(もろよりいと)を帯によって使い分けることで、大庭ならではの、しなやかで柔らかい質感が表現されている。

では、手を尽くした絞りの訪問着と、個性的な帯を組み合わせると、どうなるのか。

 

こうしてみると、訪問着の束ね熨斗・裾模様はかなり大胆でインパクトがあるが、帯の模様も決して負けていない。疋田絞りは、着姿に優しい印象を残すが、明るい白地の帯を使うことで、より効果的になると思う。

前の合わせ。モノトーンのキモノに、少し強すぎるようにも思える配色の帯。色の鮮烈さは、単色のキモノほどイメージに残りやすい。だから、無地系のキモノ(色無地や江戸小紋など)ほど、使う帯の図案や配色で印象が変わって行く。

(帯揚げ 赤紫色飛び絞り 加藤萬  帯〆 桃色ぼかし金散し平組 龍工房)

小物は、華やかさを出すために、葉の一つに配されている赤とピンクを基調にしてみた。このようなキモノと帯だと、小物の色を限定することは難しく、逆にどんな色でも対応出来ると思う。芥子や濃紫、蛍光的な緑や空色を使えば、また違う雰囲気になる。小物を自在に使いながら、範囲を広げて楽しむことが出来る組み合わせになるだろう。

 

友禅の糸目や、小紋の型紙、そして絞り。これらの染モノには、職人の仕事が、そのまま品物の表情となって残されている。どれもが、人の手のぬくもりや心遣いを、そのまま感じることが出来る。

そんな個性的な品物を、自分らしくコーディネートして、自由に楽しんで欲しい。パーティの席などは、自分を表現出来る格好の場所なのだから。

最後に、今日の品物をもう一度、どうぞ。

 

今年も、毎月一度ずつ、全部で12回のコーディネートをご覧頂いた。それぞれの月にふさわしい品物を選んだつもりだが、いかがだっただろうか。使う帯の雰囲気や小物の色などは、どうしても自分の好みが出てしまい、偏ってしまう。

ただ、そんな私のコーディネートが、少しでも皆様の参考になっていれば、嬉しい。来年も、様々なアイテムを使いながら、この稿を続けて行きたい。

 

JR東海のCM・「クリスマス・エクスプレス」は、「シンデレラ・エクスプレス」の別バージョンとして、作られたものでした。

シンデレラ・エクスプレスとは、日曜日の最終下り新幹線のこと。当時の新大阪行最終列車は午後9時に東京駅を出発。このCMでは、遠距離恋愛のカップルが、週末を東京で過し、東京駅の新幹線ホームで別れ行く風景を、ドラマ仕立で描いています。

実際に、このシンデレラ・エクスプレスで、東京と関西を行き交う遠距離恋愛のカップルも、数多く存在していたようで、当時このCMは、大きな反響を呼びました。

 

バイク呉服屋夫婦も、結婚前は遠距離。月に数度しか、会うことは出来ませんでした。我々にとってのシンデレラ・エクスプレスは、新宿発午後9時の最終特急あずさ。ホームで少しせつない思いをしたことを、懐かしく思い出します。

しかし、結婚して30年もたつと、あずさ号は「シンデレラ・エクスプレス」などではなく、「ダマサレタ・エクスプレス」だったと、家内は感じているでしょう。私の甘言に惑わされ、何の所縁もない地方都市に、引っ張ってこられてしまったのだから、無理もありません。

どこからか、「バイク屋~、おぬしも悪よの~」という声が、聞こえてきそうです。

 

今日も、長い話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

日付から

  • 総訪問者数:483078
  • 本日の訪問者数:107
  • 昨日の訪問者数:700

このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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