バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

仕入に悩むバイク呉服屋 「洋花文様」の織名古屋帯を選ぶ

2015.10 09

呉服問屋の売り出しや新作発表会などは、だいたい月初めの第一週に、三日間ほど行われる。毎月ではなく、年5.6回ほどで、夏の閑散期には開かれないことが多い。

新作として出品されるものは、半年後に需要期を迎える品物。例えば、浴衣や薄物などは、年明けの1月に新しい柄が並ぶ。小売屋の方も、その年にどれくらい夏物が動くか予測して、仕入れを起こす。前年の実績や、店の在庫を見ながら品物を選ぶのだが、これがなかなか難しく、毎年思うようには行かない。

 

冬物の新作発表は、毎年5月初め。最近の各メーカー問屋では、アイテムごとに数をかなり絞って、モノ作りをしている。昔のように、沢山作ったところで、右から左へと売りさばけていく訳ではないからだ。

昨今では、特にフォーマルモノの動きが鈍く、留袖や訪問着類で、思い切った上物を製作するのは勇気が必要になる。職人へ発注された品物は、メーカー側が買い取り、その工賃は、納入されてから短期間のうちに支払われる。仕上がった品が、すぐに小売屋に売れればよいが、残ってしまうような時は、多額な製作費用だけが出て行き、儲けが出るどころではない。

だから、メーカーは保守的なモノ作りになってしまう。少しの間売れ残っていても、いつかは必ずさばけていくような、ありきたりで平凡な模様の品(例えば、茶屋辻とか、宝尽くしのようなスタンダードな文様や、春でも秋でも使えるような、春秋の花を散らしたような模様)へとモノ作りがシフトする。これはある意味、品物に対する保険のような意味合いになっている。

しかし、現状の消費動向を見れば、こうした動きもやむを得ないだろう。季節ごとにフォーマルの上物を使い分けるような方は、ほとんどおられず、また個性的な模様を好む方が、どのくらいおられるかもわからない。呉服というものの量的な減少が、モノ作りの現場にもこんな影を落としている。

 

フォーマルに比べて、カジュアルはまだ動きがある。紬や小紋、さらに名古屋帯などである。日常の中で、キモノを楽しみたい方々は、自分の個性を大切にして、品物を選ぶ。バイク呉服屋でも、売れていく品物は7:3でカジュアルモノの方が多い。

特に最近は、若いお客様が増えたこともあり、より個性的な色や模様の品物から動いていく傾向にある。仕入れる時に、クセのある品物なので、売り難いだろうと思いつつ選んだ品物の方が、早く売れていく。一方で、万人受けするような堅い模様で、足が速いと思っているような品物の方が、いつまでも店の棚に残っている。

という訳で、近頃は品物を仕入れる時の考え方が変わった。平凡なモノとクセのあるモノで迷った時には、個性的な色や模様の方を選ぶようにしている。もちろん、品物の質は守らなくてはならないが、カジュアルには遊び心が必要だ。それがひいては、店そのものの個性にも繋がる。

 

このひと月ほどの間に、名古屋帯を求められる方が続いたので、棚がかなり寂しくなってしまった。本来ならば、西陣へ出向いて品物を仕入れなければならないのだが、忙しくてなかなか京都まで行っている時間が取れない。

そこで、西陣のアンネこと、帯問屋・やまくまさんの女主人に一声かけ、少し個性的な織名古屋帯を送ってもらい、その中から数本を仕入れることにした。各織屋では今、来年用の新柄を織っている最中だが、その中ですでに仕上がっている帯を送って頂いた。

今日は、消費者の方があまり見ることはない、バイク呉服屋が店で仕入れをする姿を、少しだけ御紹介してみよう。

 

八寸2本と九寸1本。悩んだ末に、今回の仕入れで選んだ帯。

今回の仕入れでは、3本程度と予め数を決めている。当然ながら、バイク呉服屋に資金の余裕がそれほどある訳もないので、取捨選択をしていかなければならない。一度でいいから、支払いを考えずに品物選びをしてみたいと、いつも思う。呉服屋というものは、お金は残らず、品物が資産として残るだけだと、じーちゃんから聞いたことがあったが、まさにその通りだと実感する。

仕入れをしたはいいが、問屋への支払いが滞るようでは、経営者としては失格である。売り手と買い手がお互いに納得できるような取引でなければ、長続きはしない。だから、自分の店の身の丈にあった額や量を考えなければ、自分で自分の首を絞めるようなことになる。

そうかといって、問屋から品物を借りて(委託・あるいは浮き貸しと言う)展示会などでその場しのぎの商いをしていたら、小売屋としての質が問われる。いつまでたってもモノの良し悪しを覚えられず、まして品物に自分の個性を出すことなど出来ない。

小さな店でも、商品を買い取ることでリスクを背負わなければ、責任を持ったモノ選びなど出来ないし、お客様にも自信を持って品物をお勧めすることなど出来ないだろう。自分の目を信じ、それまでの商いの経験を生かしながら仕入れをする。これは小売屋として、最低限持つべきモラルかと思う。

 

(イスラエル花文様 九寸・織名古屋帯  西陣 斉城織物)

今回、やまくまさんが送ってくれた品物は、斉城織物の九寸帯と捨松の八寸帯。双方ともに、外国の花をモチーフに使い、「和」よりも「洋」の感覚を意識させる模様。そこには柔らかい色が使われ、若々しくモダンな図案になっている。カジュアルとして、楽しみながら使うものなので、明るく優しい雰囲気のものが多い。

洋花は、なかなかキモノや袋帯の図案としては使い難いものである。どうしても民族衣装という意識の中では、和花が使われる。その点、名古屋帯ならば、図案に自由度が増して、使いやすくなる。ただし、写実的に使うよりも、花を図案化し、一つの文様のように表現する方が、柄として収まりやすい。

イスラエル花文様と名付けられた帯。この花が何故「イスラエル花」になるのか。それは、上の画像を見て頂くと、左下に五枚の花弁の花文様が見えると思うが、これがイスラエルの国花・オリーブの花を模して形作られているからである。

イスラエル花文様=オリーブ文様ということになるが、この花は、イスラエルでは平和と勇気の象徴とされ、ユダヤ教の儀式にも「聖なる油」として使われている。また、ご存知のように、オリーブ・オイルは地中海沿岸の諸国では重要な農産品であり、ヨーロッパの食卓には、欠かすことのできないものだ。

このオリーブの花を蔓で繋いで、図案化している。正倉院文様の蔓唐草を思い起こさせる表現の仕方である。特に、上の黒地の帯では、模様がはっきり浮かび上がり個性的な図案になっている。

この帯は、最近織り上げられた斉城織物さんの新柄。最初の画像でわかるように、同じ柄で色違いのものが5本ほど送られてきた。同じ模様を使っていても、地色と模様の色の配色により、かなり雰囲気の違うものに見える。織屋が小売屋に品物を見せる場合、このように、一つの柄でも複数の色違いの品を、同時に見せてくれる。

この黒地のイスラエル花文様の帯は、最後まで仕入れるかどうか迷った品物。かなりインパクトのある図案なので、淡い色の小紋などに使えば、引き締まる着姿になるだろう。また、洋花を意識させず、うまく文様として図案化されている点も、評価出来る。

 

(フランス花文様 九寸・織名古屋帯  西陣 斉城織物)

イスラエルに続いて、今度はフランス。織ったのはやはり斉城織物。一昨年の正月、やまくまさんの案内で斉城さんの仕事場を訪ねたことがあった。上京区役所の裏手の新町通にある、家族経営の小さな織屋さん。すぐ南側には、同志社大学の新町キャンパスが広がる。西陣の町家らしく、間口は狭いが、中は鰻の寝床のように奥行きがある。

この織屋は、規模は小さいながらも糸を厳選し、丁寧に織り上げる技術で知られている。お伺いした時、織られる柄の種類の多さに驚いた。また同じ柄でも、全て配色が変えられていて、全く同じものはほとんどない。これは、一本一本の帯をきちんと作っている証であり、数を売ることが目的ではないことがわかる。

こちらの帯も、フランス花文様と名付けられた理由を考えてみよう。上の画像を見ると三種類の花が見える。確固たる自信はないが、おそらくヤグルマギク・アイリス・ひなげしだと思う。画像の右上の花が、ヤグルマギク、その隣がひなげし、一番下の花がアイリスだろうか。

なぜこのように考えたか。アイリスの別名は白百合で、フランスの国花。この花は、ブルボン王朝の家紋であり、花の色の白は、平等を表現している。ヤグルマギクの青い色は自由の色、さらにひなげしの赤い色は友愛を表す。この青・白・赤の三色がフランス国旗の中に組み合わされている。つまり、この三つは、いずれもフランスを代表する花ということになる。だから、「フランス花文様」となるのだろう。

この帯は、花同士を繋ぐ蔓がないせいか、それぞれの花文様が写実的に見えて、かなりリアルな洋花になっている。私には、もう少し図案化されている方が、使いやすいように思えるのだが、これは趣味の問題である。要するにこの帯が、バイク呉服屋のツボには、当てはまらないだけである。

 

(ダッカ花文様 八寸・織名古屋帯  帯屋捨松)

この捨松の帯も、仕入れにかなり迷った。画像で判るように、レモン・イエローの鮮やかな地色に、目が止まる。黄色でも、こんな大胆な蛍光色はあまりお目にかからない。品物を選ぶ時には、地色と模様のバランスが重要なのだが、地色そのものに魅力があり、惹きつけられることは、珍しいことだ。

画像の上の模様は前、下はお太鼓になる。どちらも縦に模様が付けられていて、花を繋いでいる蔓が上に伸びるような印象が残る。この帯の図案で気になったのは、花模様の両側に付けられている白い三本の縞。これが無い方がより模様がすっきり見える気がするのだが、どうだろうか。結局、ここが気に入らないので、仕入れを止める。

捨松がこの図案の花をダッカと名付けた理由は何か。ダッカは、バングラディシュの首都なので、この都市と関わりのある花をモチーフに使っていると考えられる。そこで少し調べてみたのだが、梅のように見える五枚花弁の小花は、ラングーンクリーパーではないだろうか。

この花は、ダッカの街角では良く見かけられていて、小さく可憐な花。花弁も、この帯に表されているように五枚。さらにこの国では、この花の種を乾燥させて虫下しや解熱剤として使っており、薬草という位置づけにもなっている。

もう一つ、真ん中に大きく二つに開いた花が見えるが、これは睡蓮を図案化したものではないか。スイレンはバングラディシュの国花である。捨松の帯模様は、意識的にモチーフを極端に図案化することも多いので、そのようにも見える。

ただし、イスラエルやフランスの花文様の帯と比べれば、その由来は推測の内に過ぎず、自信は全く無い。今度、捨松に聞いてみようと思う。

 

今回は、御紹介した品物を含めて、8種類30本以上の帯が送られてきた。悩みつつ選んだ3本の帯は、どのように売れていくのだろうか。長く棚に残ってしまうのか、それともあっけなく売れていくのか、見当は付かない。

今日のブログを読まれて、バイク呉服屋の選んだ品ではなく、別の帯のほうが良いと感じられた方も多いだろう。カジュアルに使うものは、人それぞれに、色や模様の好みが違い、売り手と買い手の趣味が、ある程度重ならなければ品物は動かない。

フォーマルモノにも売り手の個性は出せるが、そこには少し制限があるように思える。その点カジュアルは全く自由であり、どんな色でもどんな模様でも、受け入れられる余地がある。だからこそ仕入れは難しいが、自分が選び抜いた品物が、お客様に受け入れられた時には、喜びも大きい。

うちの品物の回転率など、1年に1回転しない。つまり仕入れたものが、1年以内にさばけないということになる。これは、バイク呉服屋の仕入れの腕が良くない証拠である。だが、悩みぬいて選んだ品物は、いつの日か必ず誰かに目を留めて頂けると信じている。

その時が来るまで、ゆっくり待つこともまた良しと、自分では思っている。

 

今週は、今日御紹介した3本の織名古屋帯のほかに、4本の染名古屋帯の仕入れをしてきました。来年の春先に使って頂けるような、季節が前に出ている品を選びました。またこのブログの中で、追々御紹介して行きたいと考えています。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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