バイク呉服屋の忙しい日々

職人の仕事場から

補正職人 ぬりや 塗矢さん(4) 『補正』が難しい汚れ

2014.04 05

「直し」の仕事を受けても、全てが上手くいくということはない。特に、「しみ」や「変色、ヤケ」などの依頼では、品物を預かった時点で、「かなり難しいのでは」と思えるモノも多い。

ただ、その場の自己判断だけで、お断りすることはまずなく、とりあえず「職人さん」の下へ送り、そこで可能かどうか、見てもらう。今までにも、「駄目かも」と思った品物が、見事に直ってきたことが何度もあった。

しかし、中には職人さんの手に余る品があるのも事実。今日は、そんな「修復が難しい品」を例に挙げ、その汚れの原因を探りながら、キモノの保管に関し、注意しなければならないことを、お話してみたい。

なかなか、「直せないしみや汚れ」がどのようなものなのか、具体例をお見せすることも少ないので、「こういうものが直りにくいものなのか」と認識して頂ければ、と思う。

 

直しを依頼された品は、青磁色の無地紬(米沢あるいは十日町)。

上の画像でわかるように、黄土色のように変色したしみが広範囲に広がっている。画像は、上前おくみと前見頃の部分だが、袖や胸にも小さな変色が見られている。

依頼されたお客様によれば、この紬はお母様のもの。亡くなられた後、箪笥整理をした際に、見つけたもので、何とか直して使えないかということだった。私も今まで、様々な汚れを見てきたが、このような「黄変色」のしみは、最も厄介なものの一つ。

これが直るかどうかは、「ケースバイケース」であり、職人さんの手で試して見なければわからない。これよりもっとひどいケースでも、見事に直ったこともあり、何とも判断が付きかねる。お客様から、とりあえず「預からせて」頂き、補正職人のぬりやさんのところへ送った。

 

「しみ」や「変色」部分には、白い絹糸で「印」をつけておく。一通りは、自分で「しみ」部分を確認して、印の箇所を「補正仕事の請け台帳」に記載する。これは、品物が戻ってきた時に、付いてた汚れがどのように補正されたのか、改めて再確認するためである。これで、「汚れ」の見落としや、「直し残し」を防ぐことが出来る。

 

さて、この品物、残念ながら直らなかった。「ぬりや」さんは、「直らなければ」工賃を請求して来ない。「直し」がうまく出来て初めて、賃金を貰い受けられると考える人である。

「直らないのに代金を請求された」という話を聞くことがあるが、「直す試み」を代金に入れるのは、如何なものだろうか。もし請求するならば、品物を「預かる際」に、「直らなくても、試み代は頂きます、それでもよいでしょうか」と、仕事を請ける側が、断りを入れるべきである。このような仕事の基本は、「直った分だけ」代金を貰うのが、誠実な仕事なのではないか。

当然、ぬりやさんが代金を請求しないので、私が依頼されたお客様から、代金を頂くことはない。このような、「姿勢」の職人さんがいるからこそ、「試して見なければ、直るかどうかわからない」と思われるような難しい仕事でも、私が気軽に請け負うことができる。もし「直らない」時にも、お客様が代金を負担するような心配がないからである。

 

では、「直す」ことが難しかった理由は何か。ぬりやさんに聞いてみた。

このような「古い黄変色」は、まずその汚れが、ある程度「しみ抜き」で薄くなるかどうか、が問題になる。「しみ」が完全に抜けきらなくても、「生地の地色」に近いところまで薄くなれば、「地直し」により、地の色に合わせて色を引いてやり、「しみ」部分をわかりにくく、隠してやることが出来る。

しみはまず水洗いを試し、それでうまく抜けない場合に「しみぬき用の溶剤」を使う。ただ、品物が古いと、その「溶剤」に生地が耐えられず、痛んでしまうことがある。こうなると、しみを薄くすることは最初から困難だ。

上の品物は、生地は仕事に耐えられるだが、「水洗い」にも「しみぬき溶剤」にも反応せず、「薄く」出来なかった。こうなると、「生地の青磁色」に近づけることが出来ず、「地直し」は難しくなる。

ぬりやさんは、この紬の色が「茶系」のものなら、何とか出来たかも知れないと言う。「茶」なら、たとえ「黄変色」がそのままでも、上手く色を刷いて茶に近づけることが出来るそうだ。地色により「変色」が隠せるものと、この品物のように隠せないものがあるということだ。

「変色」が薄く出来なくても、隠せる地色は、「茶系」の他には、「絹の生成色=ベージュ系」がある。難しい黄変直しは、「生地の色目」にも左右されるということになる。

 

「衿」部分の黄変色。これは、「化粧」のファンデーションの汚れを、そのままにして置いて、それが、長い時間の経過でこのような状態になったと思われる。「衿汚れ」は、キモノを着る方にとって、どうしても付いてまわる悩みでもあるが、「こまめ」に直せば(ご自分でベンジン等の薬品を使い、直す方もいる)、ここまで色が変色することはない。

やはり、「汚れが付いたまま」の時間の経過というのは、キモノの状態を悪くしてしまう「最大の要因」であろう。最初の画像の、「上前部分」のひどい変色も、「何かを落として、しみになったところ」を放置したため、そこに「カビ」が発生し、大きな「黄変色」の広がりが出来てしまったのである。

これは、「何かで付けたしみ」だけでなく、「汗じみ」でも放置すれば、このような「変色の広がり」になることがある。やはり、「早めの手当て」が何より大事で、早い段階なら、「酒類」でも「油類」でも「血液」でも、「抜けないしみ」はほぼないと言っていい。

また、以前にも書いたが、あわてて「しみを落とした」部分を「擦ったり」、「水でぬらしたタオルなどで拭いたり」しないことが大事である。これは、「しみ」をむやみに広げ、生地に食い込ませてしまう結果になる。

とにかく、「しみが付いたそのままの状態」で、職人のところへ持ち込むのが最善である。早く手を付ければ、簡単な作業できれいになり、代金も安く済む。

 

箪笥の中にしまわれているもので、もっとも長い期間、外に出されないものは、「喪服類」と「留袖類」です。両方とも、きまった時にしか使われないもので、「思い立って」虫干しや風を入れない限り、使ったそのときのままの状態になり易いものの代表です。

私が預かる直しモノの中で、「カビ」による変色や「黄変色」が起こる品物の代表は、やはり「喪服」と「黒留袖」。「喪服用の帯」などは、「汗をかいたまま」の状態にしておくと、「カビ」が発生しやすくなります。

このように、特に「フォーマル」で使う「黒関係」の品物は、使う度に、「目を通しておく」ことが、大切になります。「いつまた使うのかわからないモノ」ほど、「仕舞う時には注意深く」ということを、心掛けておくとよいのではないでしょうか。

「よい品物を、長く使う」には、どうしても、このことは欠かせません。もし「汚れ」に気づいたなら、なるべく早く信頼できる呉服屋にご相談を。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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