バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

振袖は何歳まで着ることが出来るか

2013.10 25

キモノというものには、それを着用する時の基本的な「ルール」というものが存在する。常識として知られているのは、例えば「織のキモノ=紬類」はいかに高価なものでもフォーマルには使えない。「式服」の場合など、当然着るアイテムが決まっていて「結婚式」で母親が着るモノは、「黒留袖」であり、親族であれば「黒または色留袖」になる。

帯合わせにおいても、「キモノの格」に応じた選択が必要で、訪問着や留袖類に「名古屋帯」を締めることはありえない。また、以前にもお話したが、季節により着るものが変わる(袷・単衣・薄物)ことや、着て行く場所や雰囲気を察して「アイテム」を変えていかなければならない。

このような「ルール」を無視して、着用することは、「非常識なこと」として「目を顰められるような」結果になりかねない。様々な、「キモノというものについてまわるルール」を理解しなければならないことが、一般の人々から「キモノは縁遠いモノ=面倒なモノ」にしている側面があるようにも思える。

 

先日、「振袖は何歳まで着れますか」とお客様に尋ねられて、少し迷った。長年この仕事をしていても、はっきりとした「答え」が出ないことがある。今日は、明確に「ルール」がないこのテーマについて私なりに考えてみたい。

振袖が「未婚女性の第一礼装」であることに異論はないだろう。そして、「成人式」だけに着用するものではなく、「結納の席」や「兄弟、親族、友人等の結婚式」、「大学などの卒業式」などの「フォーマルな席」で使われるものというのは言うまでもない。

問題になるのは「年齢」である。ただ「未婚」ということであれば、「年齢は無制限」ということになるのだが、一般的にはある程度の「制限」がかかっているような気がする。それは、人により「30歳」までとか、「25歳くらいまで」とか、結婚年齢が上がっているのだから「35,6歳くらいは大丈夫」とか、「年齢関係なく着る本人の自由」などと様々な考えが出てくるだろう。

また、「袖の長さ=袖丈」が大振袖(3尺程度)でなく、中振袖(2尺3,4寸程度)ならある程度の年齢まで許せるという考え方や、その振袖の色や柄行きにより使えるものと使えないものがあるという意見もある。

このように、確固とした「ルール」はなく、判然としないものになっていると言ってもよいだろう。では、どのように考えれば、「常識的な」答えになるだろうか。これは今の社会の中で「結婚」というものが置かれた状況や、変遷を少し振り返り、客観的な資料も見ながらお話して行かなければならないと思う。

 

まず、手元にある資料「人口動態調査」の中の「平均結婚年齢」を見てみよう。これは厚生労働省の統計調査部によるもので、1950(昭和25)年から2010(平成22)年まで60年間を追っているものだ。

この調査が始まった1950(昭和25)年は、まだ戦争の爪あとを色濃く残していた時代だが、男性25.9歳、女性23.0歳が平均結婚年齢である。これが、高度経済成長真っ只中の1970(昭和45)年になると、男性26.9歳、女性24.2歳。バブル景気末期の1990(平成2)年では、男子28.4歳、女子25.9歳。資料直近の2010(平成22)年、男子はついに30歳代になり30.5歳、女子28.8歳。

ついでに「未婚率」の資料を見ると、1950(昭和25)年、30歳男子未婚率は8.0%、女子5.7%、50歳男女の未婚率はそれぞれ1.5%と1.4%である。それが、60年後の2010(平成22)年になると、30歳男子未婚率47.3%、女子37.5%、50歳男女の未婚率はそれぞれ20.1%と10,6%になっている。

この資料から読み取れるのは、「結婚適齢期」の変化(適齢期という言葉自体なくなったと考える方がよいかも)と、未婚化の急激な膨張であろう。今の社会では、30歳男子の半分弱、女子の三分の一強が「未婚」である。特に1970(昭和46)年から1990(平成2)年の間の変化が急激で、この20年間で、男子の未婚率は3倍、女子は2倍に増えている。

原因は、「社会状況」の変化によるものであり、「お見合い」等の慣習が急速になくなったことにもその要因がある(昭和25年当時、結婚の半分以上が見合いによるものだった)。そして、女性の社会進出、高学歴化や「共稼ぎ世帯」の増加とリンクするものであり、昨今はまた別の要因である、若者の経済格差(正規と非正規就業)による非婚化もそれに拍車をかけている。

 

このように「30歳代」の未婚女性は、当たり前のように存在して、決してめずらしくない。とすれば、この世代の女性達が「持っている振袖」を着るかどうか悩むこともあるだろう。

ただ一般的に、30歳を過ぎて「振袖を着る」ことが「非常識」だと考える人は多い。特に、年齢が上の世代(55歳以上)はほぼそう考え、自分の娘には「着せることを躊躇」するだろうし、「着るものではない」と嗜めるだろう。またそんな「親の常識」に影響を受けた女性達は、もし、他人が30歳をすぎて振袖を着ている姿を見れば「目を顰める」ことに違いない。

しかし、「親世代」が「非常識」とする根拠は、自分が結婚した年齢とリンクしているように思える。資料を見れば、今の30歳の娘の親が結婚した30~40年前の女性の平均結婚年齢は25歳程度で、この時代の30歳女性の未婚率は10%以下であった。つまり「30歳を過ぎた独身女性」は十人に一人もいなかった時代の「常識」といえる訳で、そもそも「未婚」であるはずがないという前提に立ってのことだ。

とすれば、現代の30歳代未婚女性の高い割合を考えた時、年配者が持つ「常識」は時代にそぐわないと見た方がよい。

 

では、今の時代なら、「大手を振って30歳過ぎても振袖を着てもらいたい」と呉服屋の立場でいえるかというと、思わず考え込んでしまう。ある人はその独身の娘さんそれぞれの「容姿」にもよるなどというが、「年齢より若く見える童顔」なら許されて、「落ち着いた感じの方」なら無理というのならば、話がおかしくなるし、失礼にも当たる。

振袖の色が「赤やピンク系」なら駄目とか、柄行きが大胆なものなら駄目、ある程度落ち着いた雰囲気の品ならば「着るのもアリ」という人がいるが、そもそも「振袖に初めて手を通すのが20歳」なので、そんな「後のこと」まで考えて品物を選ぶことはほぼありえないだろう。

ここまで色々考えてみたが、結論には至らない。ただ、目安になる年齢はやはり「30歳」ではないかと思う。先の資料にもあったが、現代女性の平均結婚年齢が約29歳であることなども考えれば、30歳プラス1,2歳が、未婚女性が振袖を使える「上限」あたりなのかなという気がする。もちろん「ルール」ではなく、あくまで私が考える「許容年齢」である。

「振袖」を着ることが難しくなった方には、「訪問着」や少し重厚な柄行きの「付下げ」をお勧めするのだが、今度は「新たに購入」してまで「キモノを着るか」という別の話になってゆく。これはこれで、お客様の方でまた悩んでしまうことになるだろう。いっそのこと、フォーマルドレスの方がこの先「使い勝手」がよいので、そちらを、ということにもなる。「呉服屋」としては、誠に悩ましい話である。

 

ここ何年かはお母さんの振袖を娘さんに直す仕事を多く請け負っていますが、お母さんに何回振袖を着たのか聞いてみると、多い人で5回程度で、だいたい2,3回くらいのようです。呉服屋とすれば、せっかく誂た品なので一度でも多く「袖を通して」頂きたいと願うばかりです。

また「振袖」を「訪問着」に直して、使い続けることもあってよいと思いますが、その際できれば「袖」を裁ち切ってしまわないで、袖の中に「縫い込んでおく」方がよいと思います。そうしておけば、将来「振袖」に戻すことが出来、次の世代の娘さんに使うことが出来るからです。「縫込み」で少し袖が重くなるかもしれませんが、そこは我慢して頂き、いつかまた自分の振袖を使う日が来ることを思い浮かべて欲しいと思います。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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