バイク呉服屋の忙しい日々

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バイク呉服屋女房の仕事着(1)三度洗張りした結城紬と格子帯

2014.11 18

「うちの奥さん」が「仕事着」として使うキモノや帯などは、ほとんどが使い回された古いモノで、新しい反物を「誂える」ようなことは滅多にない。

今、家内が着ているモノは、以前私の母親が使ったものであり、それを洗張りして仕立て直したり、しみ汚れを直したりと「手を入れながら」着回しているものばかりである。

そんな何気ないようなキモノでも、銀行へ用事を足しに行ったり、街中を歩いていると、「知らない方」から声を掛けられることが多いようだ。もちろん「顔」ではなく、「キモノ姿」を見てのことだろうが、それだけ日常の中で「キモノ」が目立つものになっているということであろう。

 

私は、家内に対して「呉服屋のおかみさんだから、キモノを着ていなければいけない」という意識はない。呉服屋さんの中には、「扱っているものを自分で着ない者が、商いをするのは如何なものか」などと仰る方もおいでになるようだが、私は、呉服屋の「あるべき姿」などを「決め付ける」のは、あまり好きではない。「職業的意識が欠如している」と言われれば、その通りかも知れないが、元々「非常識なバイク呉服屋」なので、「形式」にとらわれることなどない。

街に出れば、家内がどんな仕事をしているのかは誰も知らない。また、「うちは呉服屋ですので」などと、わざわざ「つまらぬ説明」をすることも不必要である。何も店の「宣伝」のために「着てもらっている」訳でもない。あくまで自分が「着たいから着ている」のだ。

大切なのは、キモノを着ていることが「意識的」ではなく、日常生活の中で「自然な姿」として映っているかどうかだと思う。当然、着ている本人にとって、キモノは「特別」なものではなく、「普通」のことである。

ということで、着る着ないは、家内の気分次第なのだが、寒くなると「キモノ」を着る日が多くなる。理由は、単純に「暖かい」からだ。そんな着姿を見ていて、このブログの中で、その日の家内の「仕事着」を皆様にご紹介しようと以前から考えていた。

うちの家内は、もともと目立つことが嫌いで、おとなしい性格である。「顔は絶対写さないこと」を条件に、ようやくお許しが出た。「呉服屋の奥さん」が普段着として使っているものはどのようなモノか、ご参考までに見ていただきたい。

 

(藍地鏡文様結城紬・クリーム地格子模様横双大島紬名古屋帯)

着ている藍地の結城紬は、以前「胴ハギをして身丈を直す」稿でご紹介しているもの。(詳しくは、5・14 「和裁職人 保坂さん・6」の記事をご参考にされたい)

私の母と家内では、身長が10cm以上も違うので、そのまま使うことが出来ず、どうしても「ハギ」を入れなければ「身丈」が出ない。幸い「残り布」を取っておいたので、和裁職人の保坂さんに頼んで、「帯の下」に入るところに「ハギ」を入れてもらった。

このキモノは、元々母の姉(つまり私の叔母)が使っていたもので、それを母に譲られ、今回家内に回ってきたものである。ということはこの品物を使うのが「三人目」ということになる。叔母がこの結城紬を購入したのが(もちろん当店から)昭和40年代なので、すでに50年近くが経っている。

細かい「十字絣」で模様付けされた、「手の込んだ」品物。「鏡文様」の中に「唐花」があしらわれているような「正倉院的」な模様だが、どちらかと言えば「地味」な印象。

この紬は、すでに「三回の洗張り」がなされ、その都度使う人の寸法に合わせて仕立て直しをしてきたものだが、結城のような紬は、「洗張り」される度に生地が柔らかくなり、着心地もよくなる。一番最初は、「湯通し」をしても、なかなか「糊」が抜けきれずに、生地が「硬い」ため、少し「ゴワつく」ような着心地がどうしても残るのだ。生地をいじめればいじめるほど、「着やすいキモノ」になる「代表格」のものである。

 

家内は、どちらかと言えば童顔で、実際の年齢より「若く」見える。実際は私より2歳年下だけなのだが、かなり「得」をしている。私など実年齢より10歳ほど「老けて」見えるらしく、一緒に並んでいると、「かなり年の離れた夫婦」に見えるようだ。

キモノそのものは、家内が着るには「地味」なものなので、帯で年齢を下げて、若々しい着姿にしている。もともと「明るい色」が好きな人なので、優しいクリーム地色で、少し大胆な「格子模様」の帯を合わせた。

この「格子帯」は、元々「帯地」ではない。「横双絣の大島紬着尺」で作ったものである。つまり「キモノ用反物」から「帯」を作ったということになる。「着尺」の反物の要尺(長さ)はおおよそ3丈3尺ほど、「名古屋帯」ならば、長さは1丈3,4尺もあれば十分なので、一反からは二本の帯を作ることが出来る。

「横双大島」には、このような大胆な格子柄のものが多く、キモノとしてだけでなく、防水加工を施し「雨コート」として用いる場合もある。この帯も私の母の「お譲り」。20年以上前に、あるお客様と反物を折半して、二本の帯に仕立てたものである。

「帯〆と帯揚げ」は、少しアクセントを付けるために「柿色」に近い「錆朱色」にしている。帯地色が薄い色なので、小物使いで印象が変わる。季節が「晩秋」なので、「柿」をイメージしたのだろうか。

振りからのぞく「薄いピンクの星梅鉢柄」の友禅襦袢。

「紬や小紋」などのカジュアルモノに使う襦袢には、このように柄が染め出されているものを使うことが多い。少し「遊び心」のある柄物を自由に使えば、着る楽しさも増す。家内の使うモノとしては、「派手」に思えるが、これも、「襦袢」であれば許される柄行きであろう。

 

これは「昨日」の帯合わせ。キモノは同じでも「帯」を変えることにより、印象が変わる。「呉服屋の女房」は、「使い回す」ことで、着姿を変える。そのために、キモノよりも帯の数を多く持とうとする。

やはり紬地の帯だが、動物や鳥をモチーフにした「遊び心」のある図案である。古代エジプトの「洞窟壁画」に描かれていそうな模様だ。こうして「合わせ」を見ると、やはりうちの奥さんは、柔らかいピンク色などの「優しい色」で、明るくキモノを着ることが好きだ。

この帯は、個性的であるがために、長い間うちで売れ残ってしまった品物で、今から20年ほど前に作ったもの。ということは、彼女が30歳代前半の時の帯だが、こんな「地味な紬」に使えば、まだまだ利用価値はある。カジュアル帯というものは、「キモノ次第」で長く使うことが出来るものだ。

 

彼女にとって、「キモノ」は仕事着であるが、そのコーディネートで「自分らしさ」を出し、小物合わせや襦袢の柄行きを楽しんでいるように思える。これは、「呉服屋の女房」だからお客様に恥ずかしくないような「良質」なものを着るというより、こんな「楽しみ方もある」ということをお目にかけられるような着姿なのだろう。

キモノの楽しみは、カジュアルな場所で、いかに自分らしく「楽しむか」である。「フォーマル」には、ある程度の「制約」があり、個性を表現するには限界があるが、普段着なら、自由だ。

呉服屋の女房は、何よりまず「自分が楽しんで着ること」ことが大切だと言えそうだ。

 

家内が着るものは、ほとんどが「織」のものである。紬類はもとより、時には「ウール」や「木綿」のものも使う。キモノで「車を運転」し、「店の掃除」もする。何より「動きやすくて」、汚れの目立たないようなものが良いと言う。

暑くなれば、5月でも単衣を着て仕事をする。また、下に使う「襦袢」の素材を変えたりすることで、体温調節をしている。そして何より大切なのは「楽に着ること」。下紐を締めすぎずに、「ゆったり」着ることで、長時間キモノで過ごすことが苦痛でなくなる。

これからも、「不定期」ではあるが、時々「女房の仕事着」をご紹介したい。あくまで「仕事着」なので、価格や質をあまり意識しないようなカジュアルモノや「譲り受けた品物」ばかりではあるが、「楽しみながら着ている姿」を見て頂きたいと思う。

 

家内は私が仕入れたものを見ると、「たまには新しいものを作りたい」などということがあります。しかし入荷したばかりのモノを、自分の奥さんが使うということはあり得ず(お客様のための品なので)、大概は「買い手」が付きにくいような「個性的な長く残った品」を、家内が使うことになります。

つまりは「バイク呉服屋」が仕入れに失敗した品の、「尻拭い」を奥さんにさせているということになるのでしょうか。

それでも、私と家内は「柔らかい色」や「優しい雰囲気のもの」が好きなところは共通しているので、「残った品」でも、それがどうしても「家内の趣味」に合わないというものは少ないようです。性格はまるで違いますが、コーディネートのセンスは似ているところがあり、それで随分救われているのだと思います。

一度くらいは、取引先で「好きなモノを自由に選べば」などと、言ってやりたいと思いますが、まあ、そんなことは当分ないでしょうね。

 

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。なお、12月が近づき仕事が忙しくなっているので、これから少し更新間隔が空くかも知れません。お許し下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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