我が最愛の「バイク」が重態である。もしかしたら「あと数ヶ月」の命かも知れない。
「スーパーカブ」は「ギアチェンジ式」になっているため、起動の時は「ニュートラル」で、その後「ロー」、「セカンド」、「トップ」とギアを変速させてゆく。その「変速機」が壊れたのだ。
「井上モータース」で「診察」の結果は、長年使い続けたために、「変速機」が「磨耗」して動かなくなったのだという。社長の話だと、「変速機」の交換は「エンジン本体」を解体しなければ出来ず、「バラした」時に他の部品も「イカレテル」可能性もある。だから、「変速機」だけを変えれば「治る」ことは考えにくい。早い話が「寿命が切れた」という話なのだ。
私は「諦め」が悪いので、「どんな方法でもよいので、出来る限り乗らせて欲しい」と訴えた。井上社長は「究極の手段」があるという。それは、「変速機を溶接する」ことにより、可能になるが、それをすれば、「エンジン関係」の「部品交換」が不能になるらしい。
私とすれば、「何でもよいから、生きながらえさせたい」、この一点である。そして、この「溶接」することをお願いした。これで、今後何らかのトラブルがあった時点で「ご臨終」である。さて、どのくらい持つか「神のみぞ知る」ということになってしまった。
今日は、「寸法直し、ここを見る」でお話した品(絽の黒留袖)が、どのような経過をたどり完成に行き着いたのか、順を追ってお話したい。この仕事を請け負ったのは「和裁士の保坂さん」である。
預かった品物の「トキ」をする。この品の直しは「裄」と「身巾」を広げることである。そのため、「袖付け」部分と「身頃の両方の脇」の「トキ」をしなければならない。「トキ」をする時は専用の「道具」を使う。
「トキ」に使う「道具」。上の画像は実際使っているところを撮ったもの。長さは5,6センチほどの小さいもので、ご覧のように「二股」に先が分かれている。この「溝」に「糸を引っ掛けながら」縫い目を解いて行く。この「トキ方」が雑であったり、生地を傷つけてしまうと、後々の作業に影響し、「きれいな寸法直し」にならない。
「トキ」を終えたあとの状態。「前身頃」と「後身頃」は両方の脇で解かれている。これは、「身巾」の寸法を「前と後の両方とも」広げるための処置。袖は「袖付」部分から切り離されている。
身頃の「トキ」をした後の「すじ」。このすじは「縫い目」がそのまま出てしまう。上の画像で見ると、すじを挟んだ上が「縫いこんであった所」である。このすじを消さないと巾を広げたときに以前の「縫いあと」がそのまま表面に出てしまい、不恰好である。
この「すじを消す」のは、「すじけし職人」の仕事だ。「すじけし」は「洗い張り職人」が請け負うことが出来る。うちがお願いしている「太田屋」さんももちろんこの仕事が出来るので、「トキ」をした状態のまま品物を送る。
「すじ消し」後の「身頃の脇」と「袖付けのところで解き離された肩」の部分。ご覧のように「縫い跡のすじ」は見事に消されている。これで、中に縫いこまれていた生地と表面に出ていた生地が「フラット」な状態になった。
ここで、もういちど保坂さんのところに戻り、初めて依頼人の寸法通り直していく。一枚のキモノを直すために、職人の間を「行ったり来たり」するのだ。
この寸法の裄出しは「5分」。身巾出しは「前巾5分、後巾5分」である。縫込みが十分あったので、依頼人の「寸法通り」直すことができる。
直した後の「前巾」。以前の6寸3分から6寸8分に広がった。もちろん以前の「縫い跡」のすじは、まったく見えない。
直した後の「後巾」。以前の7寸5分から8寸に広がった。
直した後の「裄」。以前の1尺6寸3分から1尺6寸8分に広がった。「袖付」のところにも「肩」の方にも以前の「縫い跡」が見えない、きれいな仕上がりである。
上前全体を写した「仕上がり品」。これで、安心して使って頂けるようになった。この品の直しを依頼されて、約三週間ほどで仕上がったが、急げば半月ほどで出来る。
「寸法直し」の仕事は、どの部分をどれだけ直せばよいのか、それをまず見極めることが大切で、それにそって「一番工賃がかからない方法」で「一番上手く直す」ことを考えてゆく。
このように「部分トキ」と「部分すじ消し」で仕上げることが出来れば、キモノ全部を解く必要はなくなる。従って最初から全て「仕立て直し」をすることもない。当然かかる「工賃」は安く抑えることが出来る。
「直しモノ」はなるべく「安く」仕上がることに越したことはない。だが、この例でわかるように、「手間をかける」ということに何ら変わりはないのである。「職人たちの連携プレー」で品物は再生していくということがわかって頂けたと思う。
このブログを読んで頂いている方々の「箪笥の中」にも、「まだ一度も手を通していないモノ」や「母や祖母から譲られた品」が沢山入っていると思います。
キモノも帯も、「全く使い物にならない」と言うモノはほとんどないと言ってもいいでしょう。時間のある時に、一度ゆっくり見直されることをぜひお奨めします。
ひとつひとつの品には、それぞれ「歴史」や「思い出」が息づいているはずですから。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。