バイク呉服屋の忙しい日々

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余韻を残す仕事とは  4年目に入る、バイク呉服屋のコラムブログ  

2016.05 17

石の上にも、三年と言いますが、このコラム・ブログを書き始めて、今日で丸三年が経ちました。稿の数も、今日が丁度300回目です。

ブログを開設した当初、まずは三年間、同じようなリズムで書き続けることを、目標にしておりました。毎日の仕事に追われながら、何とかここまで辿り着けたのも、読んでくださる方が、沢山おられたからだと思います。

最初の年は、一年間で18.000人、二年目が64.000人、そしてこの一年では100.000人もの方が、このつたないブログを訪ねて下さいました。節目を迎えたこの場を借りて、改めて感謝致します。

 

私が、このブログで一番伝えたいこと。それは、呉服屋の暖簾の内側では、どのような仕事がなされているか、その「情報を公開する」ということに尽きるでしょう。

きれいな店舗の姿を写し、品物と価格を並べ、時折催し物の案内をする。そんな上っ面だけの情報を知らせるHPでは、呉服屋の本来の姿は見えてきません。呉服屋での一つ一つの仕事が、どのように取り組まれているか、ここを知って頂かないと、お客様に本当のことは理解されないと、考えました。

 

店に置いてある品物は、どんな場所で、どのような職人の手により、どのような方法で生み出されているか。仕立てや紋を入れるような、加工に携わる職人は、どのような技術を持ちながら、工夫を凝らしているのか。洗張りや補正などの、手直しや再生に関わる職人は、品物を長く使うために、どのような仕事をしているのか。

ブログのトップには、「モノを作る職人とモノを直す職人、その心意気を伝えたい」と掲げてあります。人の手でなされている仕事には、技術的なことだけではなく、どのような気持ちで取り組んでいるのか、その心情というものが必ずあります。この職人達の心構えや、一つの仕事に臨む時の姿を紹介することが、呉服屋としての自分の姿を知って頂くことにも、繋がるのです。

 

毎回の稿でお話していることは、毎日の仕事の中から題材を見つけているので、取り立てて特別なものではありません。私の「日常の姿」そのものと言えるでしょう。

旬を意識したような、新しい品物を仕入れた時には、自分のセンスでコーディネートした姿をご紹介し、寸法直しの仕事を依頼されれば、消費者の参考になるように、直し方を伝える。仕立ての難しい品物を依頼された時には、模様の裁ち方をお話し、上質な品物が里帰りしてくれば、それをご覧頂いて、昔の仕事の素晴らしさを理解して頂く。

それに、呉服屋が毎日の仕事で使う道具や、ある日の家内の着姿、また業界に蔓延る様々な問題等々、毎回の稿で取り上げる題材は、あちこちに転がっています。

普段の仕事を、ありのまま見せる。これこそが、本当にお客様の知りたい呉服屋の姿ではないでしょうか。

 

今日の店先。バイクが新車になったことが、この三年の間では大きな出来事。相変わらず、活躍してくれています。

今日のウインド。小さいドット模様の単衣向きの型小紋・不思議な抽象文様の手織り夏八寸帯・赤城の節糸を使ったモダンな夏の格子紬。写し方が下手なので、小紋の模様などはほとんどわかりませんね。今の季節、店内には、単衣モノと夏薄物が混在して置かれています。

今日の店内。キモノは、単衣向きの十日町紬・米沢草木紬・薩摩木綿。帯は、二本ともに、山城機業店の真綿素材の紬帯。店の中を見渡せば、飾ってある品物は、全部カジュアルモノ。

 

大変有難いことに、このブログを通して仕事を依頼される方が、かなり多くなりました。掲載されている品物を気に留めて頂き、連絡を下さる方。仕立職人の姿や、手直しについて書いた稿を見て、品物を持って来られる方。コーディネートを見て、小物の組み合わせの相談をされる方。

遠方から、わざわざ訪ねてこられる方もあり、私の方から、県外の方のお宅へお伺いすることも、よくあります。お客様は、ほとんどが私より若い方ですが、「呉服に関わることを、きちんと知りたい」という意識の高さには、驚かされます。

 

カジュアル着を自由に楽しみたい方、自分に似合う上質なフォーマル着を、丁寧に選びたい方、娘さんのために、飽きのこない長く使える品物を求めたい方。私に求められることは、お客様それぞれによって異なります。

その一つ一つに寄り添って、仕事をするためには、きちんとお話を聞かせて頂くところから、始めなければなりません。

 

しかし今では、簡単に品物を買うことができるしくみは、いくらでもあります。消費者側も店側も、面倒な人間関係を排除して、品物と代金のやり取りさえ出来れば、それで良しとする取引の姿が、主流になっているとも言えましょう。

HPに組み込まれた「買い物カゴ」のボタンをポチッと押せば、次の日には宅急便で品物が届きます。消費者が、欲しいモノを自己責任で自由に手に入れられるのは、非常に便利なこと。また、店側も販売の経費を省略して、商いを成立出来るというのは、これもまた大変楽なことです。

 

けれども、過程を省略し、結果のみを求めることでは、欠けてしまうことがあります。それは、品物を間に置いて、気持ちを通じ合わせるということに、他なりません。

人によっては、余計なことと思われる方も多いでしょうが、この意思疎通を望まれる方が、多く存在することも事実です。特に、呉服のような消費者にはわかり難い品物の場合、それが顕著かとも思います。そして、質というものを理解して頂く時、人と人との関わりを避けては通れません。

 

品物をお売りするときも、直しの仕事を依頼された時も、お客様が望むことを理解した上で、最も良いもの(価格が高いということではなく、その方に相応しいものという意味)や、最善の直し方を考え、選択する。仕事を受ける時に、この過程を疎かにしたら、きちんとしたものにはなりません。

そして、品物が出来上がった時に、心から満足して頂く。丁寧に、お客様に向き合った結果として、良い仕事が出来た時には、私の中には、心地よい余韻が残ります。おそらくお客様の方にも、同じような余韻が残るのではないでしょうか。

商いですので、品物を扱って利益を上げることは、もちろん大切なこと。けれどもそれは、「余韻が残る仕事」が出来た上での、結果に過ぎないように思います。

 

今日は、コラム・ブログの節目にあたり、私の仕事に対する思いのようなものを、少しお話させて頂きました。

やはり仕事というのは、人と人が関わり合うこと。私には、省くことなど出来ません。縁あって出会うことが出来た方々は、関わりになることが、予め決められていた「定め」であると信じ、大切にしたいと思います。

このブログが、様々な方々に興味を持って読んで頂き、縁を繋ぐきっかけになるように、これからも書き続けるつもりです。

 

商いというのは、相撲の様式に似ています。力士は、土俵に上がっていきなり取り組んだりはしません。必ず、仕切りというものがあります。そして、地位が上がれば上がるほど、仕切りの時間は長くなります。幕下以下は2分で、十両は3分、幕内は4分と、それぞれ制限時間が決まっていますね。

仕切っている間に、お互いに気持ちを高めていき、時間一杯待ったなしとなって、取り組みが始まります。相撲の立会いは、相手の呼吸に合わせなければ、同時にぶつかり合うことは出来ません。

商いも、まず、店の者とお客様が向き合って話をし、気持ちを通じ合わせます。これが、仕切りですね。そして、お互い納得した上で、仕事にかかること。これは、呼吸を合わせた立会いになるでしょうか。

お互いが全力を出し切ったような、観客を沸かせた相撲には、余韻が残ります。それは、見ている者だけでなく、戦うそれぞれの力士にも残るでしょう。勝ち負けよりも大切なことが、ここにもありますね。

 

なお、毎日の仕事の量が少し増えているため、今月から毎月の更新の回数が、1.2回少なくなるかも知れません。情けないことですが、バイク呉服屋の体力も、徐々に落ちてきているようです。申し訳ありませんが、ご了承下さい。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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