バイク呉服屋の忙しい日々

その他

羊年の終わりにあたり

2015.12 28

バイク呉服屋も、今日が仕事納め。毎日手抜きしていた店の掃除を、少し丁寧にすると体にこたえる。いつもバイクばかり使い、歩くことが少ない。運動不足は歴然である。

 

さて、年の瀬のせわしなさというものが、年々薄れてきているように思える。街を行き交う人々を見ても、昔のように湧き立つような慌しさというものが感じられない。

最近では多くの人が、新年を迎える準備を簡単に済ませている。たいそうな正月飾りをほどこすこともなく、おせちも出来合いのもので間に合わせる。年々、年賀状を書かない人も増えているらしい。節目を意識した習慣が消え行くのも、時代の流れかと思う。

 

呉服屋の年末も、様変わりした。昭和の時代には、仕立て職人の家のコタツで、除夜の鐘を聞いたらしい。正月用のキモノを新調する人が多く、仕立てが終わらなかったためである。新しい年に何とか間に合うように、店の者も職人も一生懸命働いた。

そんな時代に生きた祖父や父からは、こんなに早く仕事を終えることを叱られそうだが、何とか暖簾だけは守り続けていることで、許されるように思う。

 

最後の稿は、昨年同様に今年の干支・羊にちなんだ文様を御紹介して、終えることにしよう。

 

(山羊花卉文錦 光波帯・龍村美術織物)

昨年の「午」文様と同じように、龍村の光波帯の中で表現されている羊。

正倉院文様の中で様々に表現される動物達。鹿・獅子・鳥類(サンジャクや鴛鴦、孔雀など)と並び、羊は代表的な動物の一つ。

中でも有名なものが、北倉の調度品「羊木臈纈屏風(ひつじきろうけちのびょうぶ)」。木の下に佇む羊が、型押しの蝋防染と顔料による彩色を使って、描かれている。この他、花樹双羊文様として、ペルシャの聖なる木・ナツメヤシの下に佇む一対の羊を描いた、「樹下鳳凰双羊文白綾(じゅかほうおうそうようもんしろあや)」も、よく知られている。

そもそも、日本に羊がやってきたのはいつのことか。それは、次の日本書紀の記載で知ることが出来る。「推古天皇七(599)年秋九月、癸亥朔、百済貢駱駝一匹、驢一匹、羊二頭、白雉一隻」。羊と一緒に、ラクダやロバ、白いキジが、朝鮮半島の国・百済(くだら)から贈られて来たと書かれている。

当時の朝鮮半島では、百済・新羅・高句麗の三国が覇権を争っていたが、百済は、日本と同盟関係を結んでおり、ここから様々なものがもたらされた。

百済が滅亡したのは、660(天智天皇3)年だが、その三年後に、百済の残存勢力へ援軍を送り、唐・新羅の連合軍と戦うことになる。これが、白村江(はくすきのえ)の戦いで、日本軍は大敗を喫する。

 

日本では、羊が生息していなかったため、あまり馴染みのない動物であったが、世界では古くから親しまれ、また神への捧げものともなっていた。洋の東西を問わずに、羊を描いた文様が多いことからもそれがわかる。遠くヨーロッパやオリエントからシルクロードを経て中国へ、さらに朝鮮半島を通って、日本にも羊の文様がもたらされた。

帯の中の羊を拡大してみた。

龍村が、この帯のモチーフとした正倉院の収蔵品は、南倉に収められている「紫地錦几褥(むらさきじにしきのきじょく)」と思われる。褥とは、机の上に使う敷物のことだが、実際の品には、龍村のこの文様とは少し異なり、羊ではなく獅子が描かれている。

中に付けられている花文様も、帯では一対のナツメヤシだが、正倉院の褥の模様では、これとは異なる唐花であり、雲の代わりに菱型の花文様も見られている。

つまりこの帯は、龍村が正倉院文様をアレンジしたものと見ることが出来る。龍村の作る帯には、ほぼ原品の模様に忠実なものと、このように少しオリジナリティを持たせたものとがある。

中にあしらわれる模様の違いはあるが、左右対称の様式美(シンメトリー)がはっきりと印象付けられるような、「奈良・天平期」特有の文様となっていることに、違いは無い。

 

羊という動物は、優しくて穏やか、そして平和なイメージがある。しかし、羊年の今年を振り返ってみれば、世界にテロが頻発し、紛争による難民が各地に溢れ返っている。日本でも、憲法解釈が変えられ、何やらキナ臭さが漂う。

世界の人々の間で、古来より尊ばれてきた羊。それに習い、もう一度穏やかさを取り戻せる日が来ることを、願うばかりだ。

 

月に7回、合計84回のコラムブログを、今年も何とか書き終わることが出来ました。

今年は、約9万人もの方々にこのつたないブログを読んで頂きました。本当に感謝申し上げます。書き始めた当初には、これほど多くの人が読まれることになるとは、まったく想像していませんでした。毎回内容を変えて、しかも毎月一定の回数を書くことは、私にとってかなり厳しいことですが、沢山の方に読んでいただけることこそが、最大のモチベーションになっております。

来年も、今までと同じように、様々な角度から呉服屋に関わるお話をしたいと考えています。歩みを止めず、毎回、淡々と書くことが、理想ですね。

 

最後に、今年このブログがご縁となり、実際にお会いすることが出来た方々、改めてお礼申し上げます。やはり人と人は、リアルに向き合うことが、心を繋ぐことになりますね。これは、アナログと言われようと、どんな時代になっても変わらないことと思います。

来年も、より多くの方とご縁が出来ることを祈りつつ、今年の稿を終わることにします。一年間、ありがとうございました。来年も、どうぞよろしくお願い致します。

皆様、よい年をお迎え下さい。

 

なお、来年のブログは、1月5日から再開する予定です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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