バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート  青と白のストライプで、爽快な単衣姿を

2024.06 18

涼やかに見える色の組み合わせを考えてみると、それはやはり青と白になるだろう。青をイメージするものは、空や海や水であり、我々が住む星・地球の色もまた青である。青は、常に人の傍らにある自然な色として、存在していると言えるだろう。その一方で白は、最も明度の高い無彩色。どんな色にも染まることから、清らかで汚れの無い意味で使われている。色のイメージとしては、純粋さや清潔さになるだろうか。

青と一括りにしても、その色味や明度、濃度は様々に異なっている。藍の色素を含んだ葉で青い色を作る技術が伝わったのが、5世紀頃。そこから生まれる青みは、時を経て無限に広がり、今日に至る。そしてそれは、「ジャパンブルー」と称されるように、日本を象徴する色となった。そんな自然色・青と清潔さが売り物の白を合わせれば、否応なく、涼やかさや爽快さが生まれ、見る者に心地よい印象を与えるはずだ。

 

日本における青と白のコンビネーションの歴史は古く、遥か遠く国の創成期にまで遡る。古事記の神代紀・第7段には、榊の上枝に玉を、中枝に鏡を、下枝に青和幣と白和幣を取りかけたものを、太玉命(ふとたまのみこと・司祭者)が捧げ持ち、神を称賛したと記されている。以前にもお話したが、和幣(にぎて)とは、神へ祈りを捧げる時に使う道具で、榊の枝に麻の布を取り付けたもの。

この古事記に記された和幣の色、青と白こそが、日本の文献に見られる最初の色である。つまりこの組み合わせこそが、最も古いカラーコンビネーションであり、これをクラシカルトラッドと呼ぶことが出来るように思う。

6月も半ばを過ぎたというのに、梅雨には入らず、ここ数日は梅雨を通り越して夏の空気に包まれている。そこで今月のコーディネートでは、青と白を基調とする品物を使って、爽快な着姿を考えてみたい。

 

(白地 青細縞・本塩沢  白紬地 南風原花織・九寸名古屋帯)

色には、各々に相応しい季節がある。ざっと考えただけでも、春は淡いパステル色、秋は少しビビッドな枯れ色、冬は落ち着いた深みのある色が思い起こされる。そして夏はやはり、クールで爽やかな気分にさせてくれる色。その中心が青と白であることに、異論はなかろう。

例えば、夏を彩る浴衣を考えてみよう。今でこそ浴衣は、地色も配色もカラフルなモノが多く見られるが、基本は、白地に青の模様染め抜きか、紺または藍地に白く模様を染め抜いた品物であった。そして白地は夜に、青系地色は昼に装うことを良しとする。明るいうちは地の青が、暗くなれば白が、着姿に映えるという訳である。この例に洩れず、青と白二色だけというシンプルさが、装いの在りようを判りやすくしている。

 

日本において木綿の栽培が普及したのは、桃山後期から江戸初期にかけて。温暖な愛知の三河や大阪の河内・摂津が作付けの中心地であったが、染料として最も多く使われたのが、藍である。藍は、麻と言わず綿と言わず、植物素材にはどれにも上手く染まったことから、様々な品物に用いられた。将軍や大名家などの上層階級は、麻生地に藍の濃淡だけで描く御所解文様の小袖を装い、町人や農民は、藍で染めた木綿生地を日常着や野良着として使った。このように、日本人全てが身にまとった色が藍の青であり、それ故に明治初年に来日した外国人が、この色姿を「ジャパンブルー」と称したのである。

この藍青は、絣や型染の技法によって生み出された文様により、一層の美しさを醸し出すようになる。江戸期の庶民の間で普及した、縞や格子、小紋などに使えば、青と白のコントラストが着姿から鮮やかに浮かび上がった。先に述べた青白の浴衣も、この時代からの産物である。そして、職人や商人が使う半天や前掛けさえも、藍のひと色で染められていた。

日本の服飾史の中で、特に輝きを放つ青と白のコントラスト。現代の品物を使ってコーディネートすると、どのような装いになるのか。いつもながら前置きが長くなってしまったが、ご覧頂くことにしよう。

 

(白地 片子持ち細縞 本塩沢お召・太田和オリジナル 製織 中田屋織物)

日本の伝統織物は、産地ごとに工程が異なり、その素材も絹・麻・木綿と様々である。その中にあって、絣を用いずに、無地や縞、格子を織姿(図案)とすることがよくある。いやむしろ、縞柄を織らない織物というのは、ほとんど無いはずだ。特に木綿の場合、縞モノは庶民の日常着として欠かせない品物であり、農村では女性たちが、家で自家用の縞モノを織った。これが「内織(うちおり)」である。

この当時の縞見本・縞帳(しまちょう)を見ると、縞の太さも間隔も筋姿も色も豊富で、その模様の特徴から、子持ち縞とかよろけ縞、あるいは鰹縞、勝手縞などと名前が付いている。各々のデザインに定型はなく、織り手が自分のセンスで織りあげたものであり、全てがオリジナルと言っても良いだろう。

今日取り上げる塩沢お召は、ご覧のように、間隔の狭い細い縞姿である。縞の込み入った「万筋」とまではいかないが、縞と縞の間が均一に短く空いた「千筋」的な模様になっている。そして縞の色は青だけで、地には色が入っていない。つまり青と白のコントラストが、縞という模様を通して、着姿に表れる品物なのである。

織物の中には「お召」と呼ばれる品物があるが、これは経糸・緯糸共に先に精練してセリシン(繭を構成するタンパク質)を除去し、繊維の光沢を出してから、経糸は甘く緯糸には強く撚りをかけて織ったもの。古くから西陣で織られていたが、紬産地のお召モノとしては、置賜紬(山形)として伝統工芸品に認定されている白鷹お召と、新潟の塩沢地方で織られている塩沢お召がある。

塩沢お召は、経糸1mあたり600回程度、緯糸には2000回以上の撚りをかける。そして右に撚った(S撚り糸)と左に撚った(Z撚り糸)を交互に組み合わせて織り込み、後に湯の中で揉みこむと、撚りが戻って生地の表面にシボが生まれる。この凹凸こそが、この織物最大の特徴になる。

生地面を見ると、小さなでこぼこがはっきりと表れている。このシボがあることで、独特の風合いが生まれる。それはシャリシャリとした気持ちの良い質感で、肌離れの良いさらりとした着心地を生み出す。この独特の生地質こそが、暑く湿気のある季節の装いに最適と評価される、大きな要因である。

これだけ「単衣向き」に作られている品物は、なかなか無いのだが、そもそもこのお召は、何より着る人の感覚=心地良さを主眼に置いて作った織物であり、だからこそ、このような「風合いを重視する織姿」となった。それはおそらく、このお召が麻モノ・越後上布の技法を広く応用したものであり、着姿に涼やかさを生み出すという目的は、素材が麻と絹の違いはあるものの、最初から一致していた。

細く青い縞を拡大してみると、縞の隣にはもう一本、極細縞があしらわれている。このように太い筋の片側だけに細い筋を持つ縞のことを、「片子持ち縞」と呼ぶ。これは近づかないと判らない施しだが、やはり一本だけの縞よりも、その青いラインが僅かながら強調されているように思う。

本塩沢の証紙。伝統的工芸品の証・伝産マークが付いていないのは、縞モノだから。本塩沢における伝産品告示(基準要件)は、絣モノであることなので、組合の証紙はあるもののマークは無い。かといって、風合いは絣モノと何ら変わることはなく、従って着心地も変わらない。なおこの品物は、紬問屋の太田和が色やデザインを企画し、産地の中田屋織物に製織させたもの。つまり「止め柄」と呼ぶ、問屋のオリジナル品。昔は問屋がリスクを背負って、こんなモノ作りをしたものだが、今では本当に少なくなった。

単衣で装うこと、これを目途として織られた本塩沢。しかも色は青と白のツートン。生地質にも色合いにも、涼やかな装いを演出する仕掛けが含まれている。では、この単衣をさらに爽やかな姿にするには、どのような帯を合わせれば良いか考えてみよう。

 

(白紬地 緯浮織 南風原花織・九寸名古屋帯 手織工房おおしろ)

沖縄の澄み切った空と海を思わせるような、清々しい色の花織帯。模様には、伝統的な琉球文様の扇花(オージバナ)や、風車花(カジマヤーバナ)が見られる。地は白だが、模様の織り糸には水色や紺の青系を主体として使い、それが浮織の表情となって、帯を立体的な姿に見せている。

二つの模様パターンが規則的に並ぶが、花織の間に白と水の色が入ることで、華やかさと同時に涼やかさをも感じさせる。これは夏帯では無いのだが、見る人をスカッとさせる爽快な帯。まさに単衣向きと言えよう。

輪繋ぎ模様と菱繋ぎ模様の連続だが、細部に沖縄特有の図案が見られる。これは、琉球王府時代のデザインブック(御絵図帳)で定められた図案を参考にしたもので、それを現代風にアレンジしながら、模様としてあしらっている。一見して幾何学模様に見える各々の図案も、その基礎は植物や動物、気象や生活用品をモチーフにしたもので、それは沖縄に生きる人々の生活と、密接に結びついたデザインと言えるだろう。

花織を拡大すると、そこには鮮やかな色糸を組み合わせた織姿が、浮かび上がる。遠目からはひと色に見えるところも、きちんと濃淡が付いている。そしてほんの小さな図案にも、丁寧に色を施す。手間のかかる手織の仕事ぶりが、帯の表情からも伺える。

帯の裏側を見ると、糸がわたっているのが見て取れる。この織技法は「緯浮織(よこうきおり)」と呼ぶものだが、これは、花綜絖(緯糸を通すために経糸を上下に開く道具で、足踏み式)の足を上下させて経糸を浮かせ、その上に緯糸を通して模様を織り出している。この時、緯糸に色糸を使うと、この帯のような模様姿になる。また、経糸に色糸を使う「経浮織」という織技法も別にある。

あしらわれた模様範囲が広いため、お太鼓にすると上から下まで、全て花織で埋まる。涼しさを感じながらも、優美な琉球らしい帯姿が強く印象に残る。これを、シンプルな細縞の塩沢お召に合わせれば、どうなるのか。間違いないコーデとは思うが、試すことにしよう。

 

無地に近い、白が際立つ細縞のキモノなので、合わせる帯により表情が変わる。キモノの印象は確かに涼やかだが、シンプルすぎるきらいもある。もしあまり特徴のない帯を使えば、キモノの良さそのものも、消えてしまうだろう。だがこの帯なら、単衣に真向きな塩沢お召の魅力を、十分に引き出せるはずだ。

塩沢の縞に色の気配が無いので、刺繍のように浮いた花織の模様が、より以上に着姿の前に出てくる。しかも、十分に優美さを感じさせる図案なので、決して平板な装いにはならない。

細い縦縞のキモノに対して、帯模様は横段。対照的な模様配置の組み合わせは、バランスが良い。また、どちらも青(水色)と白を基調としており、涼やかな色のイメージを持つ、いわば「同質」な品物。このように、似た雰囲気のキモノと帯を合わせれば、当然装い全体が同じ方向を向く。

前姿は、キモノも帯も模様が縦となるが、帯は縦区切りながら、個性的な花織の姿ゆえにほとんど違和感が無く、むしろすっきりとした感じになる。キモノも帯も白場が多いので、着姿には明るい印象を残す。

小物も、青と水色だけを使ったものを選ぶ。全体の色を統一することで、単衣の装いをより強調出来る。キモノ素材も、帯図案も、単衣に真向きな品物。小物でその雰囲気を壊す訳にはいかない。(二色遠州組帯〆・龍工房 二色暈し絽帯揚げ・加藤萬)

 

今日は、「颯爽とした、涼しげな単衣姿」を着姿のテーマとして、青と白を基調とするキモノと帯を使ったコーディネートを試してみた。ここ数年来の気候の変化で、夏が長くなり、それに呼応する如く単衣を装う期間も長くなった。以前は6月・9月の二か月だったが、ひと月前倒し・後倒しをして、5月と10月に使うことも多くなってきた。この季節、とても「裏付きのキモノ」など、着ていられなくなってしまったというのが、現状であろう。

毎年6月のコーデネートでは、様々な浴衣姿をご紹介してきたが、今年は発注した品物の一部が、まだ入荷していないこともあり、爽やかな単衣のカジュアルモノに視点を置いてみた。浴衣は、毎年それほど図案や色目が変わらず、帯合わせのパターンも大きく外れることは無いので、昨年まで紹介してきたブログ記事を、品物選びの参考にして頂ければと思う。

「誰から見ても、爽やかな単衣姿」は、暑い日盛りの中で、また鬱陶しい梅雨空の下で、一服の清涼剤になるはず。皆様にもぜひ一度は、チャレンジして頂きたい。   最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

青と白の国旗と言えば、思い起こすのがフィンランドとギリシャです。フィンランド国旗は、白地に青の十字だけというシンプルなデザインで、とても清々しい印象を受けます。青は湖と空を、白は雪を表し、十字は他のスカンジナビア諸国と同様に、キリスト教国を象徴しています。いかにも、美しい森と湖を持つ北国らしいデザインですね。

ギリシャ国旗は、フィンランドとは逆の青地に白十字と、横に青白9本のストライプをつけた図案。こちらも色は青と白だけで、青が海を、白が空を表しています。そして、白十字がギリシャ正教への信仰を象徴し、9本の縞は、独立戦争時の鬨の声・9音節に因んでいます。美しいエーゲ海をバックにして掲げれば、とても映えるデザインです。

名は体を表すと言いますが、国の旗もまた、その国の風土や歴史を示しています。そこで日本の国旗・日の丸(日章旗)ですが、真ん中の赤い丸は、太陽を表現したもの。そしてこの太陽を司る神・太陽神が天照大神(あまてらすおおみかみ)であり、この神様こそが、天皇の基・皇祖神なのです。つまり太陽・日の丸は天皇を象徴していることになりますね。こうして国旗を深堀すると、様々な思惑や主義主張が交錯しますが、そうしたことを横に置き、図案だけを見れば、日の丸はすっきりした良い旗と思います。

今日も、長い話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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