バイク呉服屋の忙しい日々

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バイク呉服屋ブログを、分析する  最も読まれている記事は、何か

2024.06 25

普段、ほとんど呉服関連の情報には触れていない。同業他社を始め、問屋やメーカー、作家や職人、そして消費者の中のキモノ愛好家など、様々な方々が様々な形で情報発信をしている。最近の主流はSNSだが、私自身は、Xにもフェイスブックにもインスタグラムにも無縁なので、業界の今の話には全く疎くなっている。この先も、こうしたコミュニケーションツールを、仕事にもプライベートにも利用するつもりはないので、新鮮な情報に疎いまま、この先も仕事を続けることになるだろう。

とにかく私は、他人と頻繁にやりとりすることが面倒で仕方がない。沢山の人と仕事で繋がろうと思わないし、もちろん仕事以外の趣味のことでも、意気投合したいとは思わない。迅速な情報収集も不要、交友関係の拡大も不要なのだから、SNSは自然に不必要になる。そもそも、スマホと始終にらめっこしているような毎日は、後免被りたい。この道具が不要とまでは言わないが、振り回されたくはない。

 

とはいえ、WEBサイトを持ってブログの運営をしているのだから、ネットという便利なツールを仕事で使っていることに間違いない。但しこのブログは、直接商いに繋がるシロモノではなく、あくまで呉服屋の仕事の内容、あるいは扱う品物の内容を書き連ねているだけ。もちろん読んだ方から仕事を振って頂くこともあるが、実際にはお会いしなければ、モノは売らず、手直し依頼も受けない。つまり商いそのものは、昭和アナログのままなのである。

「商いをする前に、知って頂くことがある」というのが、ブログ開設時の目的。それは、呉服屋の暖簾の内側では、毎日どんな仕事がなされているのか、その情報を消費者に開示することだ。ただ、そう意気込んで書いてはいるものの、果たしてその記事は、どこまで読者に受け入れられているのか。そしてそれは、確かに有用な内容なのか。私自身が、よく理解している訳ではない。

早いもので、ブログ公開から丸11年にもなる。遅きに失した感はあるが、改めて内容を検証してみる必要があるように思う。そこで今日は、読者はどのような記事に興味を持っているのか、そして何がこのブログの検索キーワードになっているのか、読者のアクセスを分析し、呉服屋に求められる消費者のトレンドを探ろうと思う。

 

サイトの解析ツールで、ブログの様々なアクセス分析が可能になっている。私は、この統計を常に見ることはできるのだが、原稿を書く上で役立てているとは言い難い。

このブログの開設は、2013年・5月。以来閲覧人数は、延べ180万1千人で、PV(ページビュー)は約330万に達している(2024年・6月現在)。なお現在の統計画面上では、総閲覧数が54万余りになっているが、これは3年前に機能をリニューアルした際に、新たにカウントを開始した数で、それ以前までのPV数280万余りを足して、総数を330万とした。

直近の一日の閲覧人数は、300~400人の間で安定しており、ほとんど変わりがない。またPVの数は、600~800だが、日によってそれを超える日もある。PVの多い日でも、特に特定記事のアクセスが増えることが原因ではなく、幾つもの記事が満遍なく読まれていることがほとんど。ただ毎年、正月が明けて成人の日が近づいてくると、振袖関係の記事へのアクセスが多くなる傾向は伺える。

 

開設以来、このブログの認知度が上がるにつれて、閲覧人数もPVも年ごとに増えていき、コロナ前の2019年12月には、閲覧人数が一日800人、PV数は1300近くに達していた。しかし、これをピークに下がり続け、この4年間で半減してしまった。ただ、これ以上は下がる傾向はみられないので、一応下げ止まったと見ることが出来よう。なお、閲覧人数は、同じ人が一日に何回閲覧しても、その都度数がカウントされることは無いので、純粋にその日の訪問者の人数が表示されている。

閲覧者減少の原因を考えてみると、コロナ禍の中で、フォーマル・カジュアル共に、着用する場面が激減したことにより、和装への興味や関心が薄れ、それがひいてはブログサイトへの訪問数に影響したように考えられる。そして現在、SNSが情報発信の主流であり、また検索されるWEBは動画サイトへと流れる傾向にあることから、以前の閲覧数に戻ることや急速な伸長は望めないだろう。この先和装の需要が増えていく見込みはなく、ましてこのブログは、重箱の隅を突くようなマニアックな内容であることから、訪問者は増えるどころか、漸減していくだろう。

 

とは言うものの、冷静に考えてみれば、こんなに長々しくて内容が理解し難いブログを、日に300人以上も訪ねていること自体が、不思議にも思える。他の和装サイトのことは判らないが、呉服屋のブログとしては、結構な数ではなかろうか。

では訪問者の方々は、小さな地方の呉服屋が書くこのブログの何に対して、関心を抱いているのだろうか。それはアクセスを解析することで、はっきり見えてくるはずだ。そしてそれこそが、和装に対して消費者が最も知りたいことであり、どのアイテムに興味を示しているのか、潜在的な需要を探る大きなヒントにもなり得ることである。

それではこれから、よく読まれる記事やアクセスの契機となるキーワードを分析しながら、このブログが果たす役割とは何かを考え、その結果として、これから何に注目して稿を書けば良いのかを、考えることにしよう。

 

記事別にPV数が表示されるので、どの稿がよく読まれているのか、簡単に判る。

これまでブログ・コンテンツとして発表した記事は、今日の稿を含めて742回。その内容は、8つのカテゴリーに分かれているが、最も稿数の多い「今日の仕事から」は、依頼された仕事の中からテーマを見つけて記事にしたもの。また月に一度は在庫の品物を使い、各々の季節に相応しいコーディネートも試みている。

「にっぽんの色と文様」では、キモノや帯にあしらわれている伝統色や文様を取り上げ、「ノスタルジア」は、過去に扱った品物の中で、特に上質と思われる作品を選んで、ご紹介している。そして「職人の仕事場」では、加工に関わる職人の技術を中心に話を進め、「現代呉服屋事情」は、今呉服屋や呉服業界が抱えている問題点を明示して、論評を加えている。「その他」に分類されるのは、家内や娘たちの装いを紹介した記事や、年末年始、あるいはブログ開設月の所感など。さらに、呉服屋の仕事とは全く関りのない、「むかしたび」と「出張ひとり飯」の記事もあるが、その数は多くない。

それでは、バイク呉服屋ブログの中で、多く読まれている記事は何なのか。まずは、アクセスランキング・ベスト10を作ってみよう。

 

1位 手描きか型か、本物はどちら 加賀友禅を見分ける(前編) 2013.7.28

2位 江戸庶民のファッション事情 奢侈禁止令と呉服(前編)  2015.6.30

3位 本当の桜の色はどんな色                 2014.4.9

4位 裄は長いか?短いか? 寸法意識の変化と対応の難しさ   2016.10.21

5位 キモノ生地の裁ち方と柄あわせは、どうなっているのか   2014.6.24

6位 呉服屋の道具(8) 衣桁・御簾・撞木          2014.7.8

7位 友禅を比べてみよう(1) 京・加賀・江戸 黒留袖編   2015.11.3

8位 おはしょりの謎(前編) 江戸の法令が女性の着姿を変えた 2018.9.16

9位 初夏を待って咲く、追憶と不老不死の花 橘文様      2019.5.8

10位  和裁職人・保坂さん(3) ぐししつけとしつけ      2013.12.11

 

1~3位のアクセス数は3万~5万ほどで、他と比べても飛び抜けた数になっている。後は10位までがだいたい2万前後で、1万アクセスを超えた記事が50ほど。開設3年以内の記事の中に、アクセス数の多い稿が目立つ。初期の頃は、ひと月の更新回数も7回以上と多く、取り上げる内容も多彩で、書いている本人も納得できる記事が多い。その辺り読み手は敏感で、充実した内容の記事には、やはり沢山の読者の足跡が残る。

ではこのアクセスの多い記事から、何が見えてくるのか。そちらに話を移してみよう。

 

最もアクセス数の多い、友禅見分けの記事(第1位)

この稿はブログ開設から二か月後に書いたもので、もう11年も経つ。画像のように、押田正義の手描き加賀友禅(左)と一般的な型友禅の色留袖(右)を並べ、糸目糊置きや色挿しの方法を比較しながら、手描きと型の違いを解説している。友禅の技術を説明しつつ、品物それぞれの価値の違いを理解してもらおうと考え、記事を起こした。

これも、友禅の技法を説明した記事(第7位)

上質な黒留袖を使って、加賀・京・江戸の三大友禅の特徴を説明している。多くの消費者は、本物の友禅に触れる機会が少なく、技法の差異について理解することが難しい。こうした記事にアクセスが集まるのは、仕事の本質に関わる記載がWEB上に少ないからか。なお、同質の記事として、「江戸小紋を見分ける(2013.11.1)」があるが、こちらもかなりアクセス数が多い。

 

キモノを分解して、裁ち合わせ方を説明した記事(第5位)

内容としてはかなり地味な、キモノの構造の話が上位に来ているのは、意外な感じがするが、キモノを解いて分解し、その柄合わせを画像で説明することなど、これまでほとんど無かったこと。基本的な「キモノや帯のしくみ」について、よく知りたいと思う方は多いのだろう。

「ぐし」と「しつけ」という地味な和裁の技にスポットを当てた記事(第10位)

ぐしとしつけ、この二つの施しの意味と対処方法を述べた記事で、これもこれまであまり取り上げられていない内容。上の柄の合わせ方同様、こうした「和装の隙間的なこと」について、読者の関心が高いことが理解出来る。

 

日本の代表花・桜の色を深く掘り下げた記事(第3位)

「にっぽんの色と文様」のカテゴリーで、一番アクセスが多かったのが、この桜の記事。これだけでも、桜という花が多くの人の心を掴んでいることが判る。毎年春になると、必ずアクセスが増えてくる記事。姉妹記事に「本当の楓の色はどんな色」があるが、こちらも1万近いアクセスがある。

文様として、桜に次ぐ支持を集めているのが橘の花(第9位)

文様としてスタンダードであり、紋としても馴染みのある橘の花だが、これほど多くの人に読まれているのは、少し不思議な感じがする。追憶と不老不死というテーマで稿を進めたのが、読者の興味を惹いたのかも知れない。他に文様の記事としては、「異国の薫り・パルメット唐草文様(2015.3.31)」がアクセス数が多かった。

 

裄寸法の長さに注目した記事(第4位)

寸法に関わる記事は、どれも満遍なく読まれていて、関心の高さが伺える。これは、このブログを訪ねて来られる方が、総じて「キモノを直すこと」に対する意識が高いことを示している。最初の頃は、集中して悉皆の記事を書き、加工職人の仕事ぶりも紹介していたが、最近手直しに関する記事が少なくなっている。呉服屋にとって最も基本となる仕事なので、話す機会は多く作らなければと思っている。

幕府が、江戸庶民に禁じた色と加工は何か(第2位)

江戸時代、鹿の子絞りや豪華な刺繍、箔置きなどは、庶民があしらうことの出来なかった技法。今は何事もなく使っている色や文様にも、各々歴史的な経過がある。そうした視点の中で、奢侈禁止令を取り上げ、読者には品物に対する理解を深めて頂こうと試みた。目の付け所が斬新だったためか、多くの方に読んで頂いている。

「おはしょり」とは何かを考える記事(第8位)

女性の着姿の中に、必ず表れるおはしょり。和装を嗜む方なら、おはしょりのことを知らない人はいないが、いつどこで生まれたのか、その歴史的な経緯を知る人は少ない。奢侈禁止令もおはしょりのことも、和装の基本的なことを題材にしているだけに、関心も高かったように思われる。

10回にわたる呉服屋の道具シリーズは、総じてアクセス数が多い(第6位)

衣桁と撞木は、呉服屋のディスプレイには欠かせない道具。初期の人気記事の一つが、「呉服屋の道具シリーズ」。尺さし、たとう紙、呉服札など、ありとあらゆる道具を紹介している。これぞ「呉服屋の日常」であり、逆に読者にとっては馴染みの無いこと。だからこそ面白いと感じ、大勢の方に読んで頂けたのだろう。ブログ初期にこうした記事を書いたことが、全体のアクセス数を増やすことに繋がったのではないだろうか。

 

雑駁ではあるが、アクセス数の上位・ベスト10のブログ記事を取り上げて、各々の関心を持たれている理由を探ってみた。読者数が増えた要因は、私が想起していることだけでは無いと思う。このブログの読者は、様々な検索を経てこのページに辿り着いているので、思わぬことが契機となり、アクセス数が増えることもあるかも知れない。

読み始めてすぐに、ブログから出ていく方もあれば、内容がツボに入って、常連となる方もおられるだろう。多くの方が関心の持てる内容を、出来る限り判りやすい言葉で、そして時にはユーモアを交えながら、堅苦しくならないよう書き進めているつもりだが、万人向けの話では無く、またバイク呉服屋自身の筆力も伴わないので、なかなか難しくなっている。

いずれにせよ、ブログを訪ねて来られる方とは、一期一会の出会いとなる。今回の記事分析を踏まえて、少しでも長く滞留して頂けるよう、これからも内容に工夫を凝らしていきたいと思う。但し、話が長くなることはどうしても避けられないので、SNSのように、簡潔に早い情報提供とはなり得ない。だから、この先それほどアクセス数が増えることはあるまい。ただ私としては、それでも良いと思っている。

 

カテゴリーの中で、私のわがままな旅のお話・むかしたびの記事がありますが、どの稿にも一定のアクセス数があり、割と支持されていることが判ります。内容は非常にマニアックであり、一般の方が、おいそれと足を運べるような場所では無いのですが、だからこそ興味深く読んで頂けるのかも知れません。

本業に関わることも、趣味的なことも、一般向けではなく、ニッチな読者を想定して記事にする方が、長い目で見れば良さそうです。一寸の虫にも五分の魂と言いますが、小さな店には小さな店なりの生き方があるように思えます。

今日も、長い話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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