バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

装いの名脇役・帯揚げ その用途と種類  前編・フォーマル編

2024.03 26

皆様は、日本の俳優の中で「名脇役」と言えば、誰を思い浮かべるだろうか。私は、大滝秀治さん。朴訥な好々爺だったり、一徹な頑固者を演じてみたり、時にはコミカルな一面も見せたりする。70年代には、社会派と呼ばれた日本映画・金環蝕や不毛地帯などで、政治家の役回りを務め、脇役としての存在感が光っていた。また80年代以降では、ドラマ「北の国から」での開拓農家の主人役や、伊丹映画「タンポポ」の老人役などで見せた個性的な演技が、強く印象に残っている。

脇役がきらりと光れば、その映画やドラマの魅力は、否応なく上がるはず。それは主役の演技が、脇役によって引き出され、それが作品全体に波及するから。つまり、脇役が作品のキャスティングボードを握っており、誰がどのように演技するかが、とても重要なのである。だから個性的なバイプレイヤーの存在は、いつの時代でも求められる。

 

この脇役という役割を、和装に当てはめてみると、それは間違いなく帯〆と帯揚げになるだろう。装いの主役・キモノと帯を引き立て、着姿をより美しく、時には華麗に演出する。この小物を抜きにして、装いを作ることは出来ず、絶対に必要なアイテムである。だから、ここにどのようなモノを使うかで着姿が変わり、それこそが、装いを上手く決めるか否かの分かれ道になるのだ。

考えてみれば、帯揚げはキモノと帯の間で使われており、着姿の主役となる二つのアイテムを繋ぐ、いわば緩衝的な役割を果たしている。また帯〆は、前姿の真ん中に位置するため、着姿の中で最も目立つポイントになっている。いずれにしても、この二つの小物の果たす役割は大きいが、何をどのように使うのかは、装う品物によって変わってくる。フォーマル、カジュアル各々に相応しい品物があり、特に格の高い礼装の場面では、予め使う品物は限られている。また使う小物の色やあしらいは、一緒に装うキモノや帯の色や図案とも大きく関り、何を選択するのか悩ましいことも珍しくはない。

そこで今日は、装いの脇役である小物に注目してみたい。帯〆については、以前稿の中で取り上げたことがあったので、今回は帯揚げにスポットを当てることにする。帯揚げの種類や、用途別に何が相応しいのか、さらに品物選びのポイントをどこに置くかなどを中心に、話を進めていく。なお長くなりそうなので、内容は、今回のフォーマル編と次回のカジュアル編の二回に分けることにした。

 

在庫の帯揚げを出してみたら、畳一杯に広がってしまった。色も細工も様々だが、ここにはフォーマル用とカジュアル用、そして夏モノと冬モノが混在している。但し、この画像を見ただけでは、その種類を見極めることは難しい。

 

そもそも帯揚げは、帯の垂れを背に背負い上げるためのもの。これは、江戸の文政年間に深川の芸者が考案した「太鼓結び」が、それまで主流だった結び余りの帯を結ばず、紐で押さえて結ぶ方法をとったために、帯が下がらぬように結ぶ布・帯揚げと、締めた帯が解けないようにする紐・帯〆が、装いには必要な道具となったのである。

初期の帯揚げは、友禅染の小さな裂を使っていたが、太鼓結びが広まるにつれて、「帯揚げ」というアイテムで品物が作られるようになり、明治末期には、淵に耳の付いたものが生産されるようになった。

 

帯揚げは、太鼓の形状を保つ帯枕を包むようにかぶせ、前で結ぶ。そしてこれを、キモノと帯の間に挟み入れて、帯の上に覗かせる。一般的な使い方は、前で結び目を作る「本結び」になるが、振袖の装いでは、結ばずに前で大きく帯揚げを見せる「カモメ結び(内いりく)」を使うこともある。

本来帯揚げは、お太鼓姿を美しく整えるという機能的な役割を持つのだが、同時に着姿のアクセントとして、装飾的な意味合いがある。特に最近では、「飾り」としての役割の方が重要視されている。と言うのも、装いにはトータル的な美しさが必要であり、そのためには、各々の着姿に応じた帯揚げを選ぶことが大切になるから。特にフォーマルの装いでは、装う場面ごとに小物を工夫して、着姿の格を高めていくことになる。

それでは、フォーマルで使う帯揚げは、どのようなものなのか。そして何を基準にして、品物を選べば良いのか。これからアイテムごとに、説明していくことにしよう。

 

鬼シボちりめん地 桜刺繍帯揚げ(加藤萬) 振袖・訪問着・付下げ向き

鬼シボ(別名・鶉)ちりめんには、独特の柔らかみと光沢があり、使ってみると重厚さが装いの中に表れてくる。色は、赤や橙、黄に鶸など原色が多く、あしらわれている桜の刺繍が、可愛さを引き立てている。華やかさが前に出せるので、振袖や若い人の訪問着や付下げに合わせることがほとんど。

深い茜色地・梅笹模様の振袖(菱一)と黒地・松文様袋帯(紫紘)のコーデ。

間に橙色の鬼ちりめん帯揚げが入ることで、着姿からキモノの茜色と帯の黒を柔らかく抑えている。ビビットな色のキモノと帯を合わせると、どうしても全体の色が強くなってしまう。そんな時にちりめん帯揚げを挟むと、落ち着きが生まれてくる。帯〆はポイントになるので、少し強い紅色に金通しのものを使っている。

 

エメラルドグリーン・菜の花色 総疋田絞り 帯揚げ(加藤萬) 振袖向き

一般的に振袖の帯揚げと言えば、絞りになるだろう。全体を絞り粒で埋め尽くす「総疋田(そうひった)を使うことが多いが、時には輪出しや飛び絞りなど、絞り技法で模様を表現したものも用いられる。

茜色・御所解模様振袖(菱一)と黒地・流水に松竹梅文袋帯(梅垣)のコーデ。

赤の補色・緑を小物に使って、着姿を際立たせている。帯揚げ・帯〆・伊達衿すべてを緑系にして、小物の間で僅かに濃淡に差を付ける。伊達衿は若草色、絞り帯揚げは少し蛍光的なエメラルドグリーン、そして帯〆には、はっきりした苗色を使う。帯〆の色が和らいでしまうと、豪華な黒地の帯の中に埋没してしまい、帯〆の存在感が薄れてしまう。だから、緑でもビビッドな気配の色を使わなければ上手くまとまらない。

朱・黄・黒の紫紘袋帯と絞り帯揚げ・帯〆の組み合わせ。いずれも、振袖に使うことを想定して、帯に合う小物の色を選んでいる。

 

ちりめん金駒繍・紋綸子 礼装用白帯揚げ(加藤萬) 留袖専用

黒留袖を着用する第一礼装の時には、必ず白地の帯揚げを使う。模様の色も金銀と白だけに限定される。同時に使う帯〆も、同様の色の縛りがある。

駒刺繍で小さな円を表現した模様。このように、金の駒繍いで模様を縫い詰める方法を「駒詰(こまづめ)」と呼ぶ。小さく散らされた金の刺繍が、控えめながら華やかさを醸し出す。

桐に仕覆模様・黒留袖(北秀)と橋に四季花文袋帯(紫紘)のコーデ。

実際に留袖の合わせで使うと、こんな感じになる。帯は、松と楓、桜をあしらった柔らかい金引き箔帯(紫紘)。帯揚げがすっきりとした金刺繍の施しなので、帯〆も金糸を短く組み込んだ貝ノ口組を使う。小物には金が目立ちすぎない、あくまで白を基調としたものを選びたい。やはり第一礼装なので、品の良さが何より大切になる。

 

ちりめん横段・一越霞 暈し帯揚げ(加藤萬) 訪問着~無地までフォーマル向き

優しい色の暈し帯揚げは、癖が無く、装いの前に出過ぎることが無いので、フォーマルの装いに最も使いやすい品物。無地から付下げ、訪問着あたりまで、様々なシーンで選ばれている。時には、小紋あたりでも利用される。特に淡い色は、帯の色や意匠を選ばずに合わせられるので、一枚持っていると便利。

遠目からは、橙とベージュの二色暈しに見えるが、色の境界には白いグラデーションが施され、なおかつ、そこだけ地紋の織り出しがある。単純なようでも、よく見ると手を掛けた帯揚げと判る。

桜色・天平花華文付下げ(松寿苑)と黒地・彩花連珠文(龍村)のコーデ。

キモノの地色が上品な桜色、帯が黒金地でインパクトの強い意匠なので、キモノ地より僅かに色の気配がある橙色系の段暈し帯揚げが、帯との間で緩衝的な役割を果たしている。帯〆には、同じ橙色系でも、明度の高いサーモンピンクを合わせて、若々しい着姿に仕上げている。

所々を白く暈し、その中には金を砂子のように蒔いている。ほとんど目立たない施しだが、帯揚げの格を上げる試みになっている。

藤袴色・貝桶模様色留袖(北秀)と白地・花帯繋ぎ文袋帯(紫紘)のコーデ。

優しい藤袴色のキモノと清楚な白地の帯を繋いで、上品な着姿をより印象付けられるように、淡い桜色暈しの帯揚げを使う。帯〆も桜色と薄藤色二色の貝ノ口組で、帯揚げと添い合わす。小物にインパクトを付けず、キモノと帯に寄り添うようにすると、品の良さが増幅できる。

 

斜め段違い・鱗重ね 暈し帯揚げ(加藤萬) 付下げ、無地、小紋向き

同じ暈しでも、斜めや鋭角な三角・鱗型に色があしらわれた帯揚げ。配色にもよるが、暈し特有の優しい雰囲気があるので、染モノ系の装いでは使いやすい。ただ軽さも目立つので、あまり重厚な品物には使い難いかもしれない。フォーマルでは付下げや無地など、江戸小紋や飛び柄小紋にも向きそう。

帯揚げを本結びにして使う時は、まず両端を三分の一ずつ折り、それをさらに半分にたたむ。そうすると上の画像のような幅になる。これを帯枕に巻いてから、前で結ぶ。そして結び目と残りの両端を帯の中に入れる。前に出す帯揚げの巾に決まりはないが、およそ1寸程度(3.75cm)か。振袖に使うカモメ結びなどでは、かなり巾を取ることがあるが、一般的な本結びの場合は、それほど目立たない着方になる。

黒地・飛び柄梅鉢小紋(千切屋)と蒔糊・梅模様染帯(足立昌澄)のコーデ。

先月のコーディネートの稿で使った、梅模様同士の合わせ。キモノが深い鉄紺色、帯は芥子色の蒔糊と、どちらも割と強めの地色なので、優しい帯揚げで色を宥めて着姿を和らげることを試みる。この鱗暈しの帯揚げには、白とパステル色が交互に入っているために、色の柔らかさが前姿からもよく表れてくる。帯〆には、ユニークな横段の橙色を使い、オシャレなカジュアル感を前に出す。

 

小菊唐草 紋織喪用帯揚げ(加藤萬) 喪服専用

最後は、お葬式の時に使う黒の喪用帯揚げ。紋織されている図案はほとんど目立たないが、菊や蓮、流水、雲などをモチーフにすることが多い。もちろん帯〆も、黒を使う。なお以前は、白無地の帯揚げを使うこともあったが、最近ではほぼ黒になっている。

 

今回はフォーマルに限定して、各々に相応しい帯揚げをご紹介してきた。礼装と言っても様々な場面があり、装いもそれに応じた格式を執る必要がある。そうした中で、着姿の脇役・帯揚げにも、格に応じた品物がある。

帯揚げを選ぶポイントは、やはり装いの雰囲気を見極めることが必要になるが、それはつまり、「着姿を、どのように見せるか」ということになるだろう。そこで、キモノと帯の色や模様を勘案し、小物に何を使うと、理想とする着姿に近くなるのかを考える。こう書くと難しいことに思えるかも知れないが、とりあえずキモノの地色や帯地色、また模様配色の中心となる色から考えて、小物を探し始めると良いだろう。

脇役である帯揚げと帯〆が、ピタリとキモノと帯にマッチすれば、装いの美しさは限りないものになる。脇役次第で、主役の魅力がより引き出されることは、間違いない。 ぜひ皆様も、様々なコーディネートを参考にしながら、小物選びに挑戦して頂きたい。 次回の稿では、カジュアルな装いに使う個性的な帯揚げの数々を、今回同様にコーディネートした画像を参考にしながらご紹介してみよう。

 

これはあくまで私の好みなのですが、振袖の装いにおいて、帯揚げを強調する着方はあまり好きではありません。中には帯の上に大きくかぶさったり、また帯の横で花をあしらった姿を見かけることもあります。振袖ですから、普通の本結びよりも目立つ結び方で構わないのですが、それでも、ある程度限度があるように思います。

着姿の主役は、あくまでキモノと帯であり、帯揚げや帯〆、伊達衿や刺繍半衿など小物類は、あくまで引き立て役・脇役です。昨今の振袖姿を見ると、それが「今風」かどうかは知りませんが、小物が必要以上に目立つような気がします。脇役が主役を越えるようでは、装いのバランスが崩れてしまいます。それはやはり、本末転倒になりますね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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