バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

11月のコーディネート  兎の丸小紋で、愛らしい七歳祝着を誂える

2023.11 26

ランドセルの色は、ついこの間まで、男の子が黒、女の子が赤と決まっていたように思えるのだが、最近街で見かける色は、水色や薄紫の優しいパステル色あり、鮮やかな緑やビビッドな黄色あり、中にはキャメル色とか銀鼠色のような、大人っぽくオシャレな色を背負う子もいる。

一体いつから、こんなにカラフルになったのかと調べてみると、どうも20年ほど前かららしい。それまでにも、赤黒以外の色が何色かはあったようだが、2001(平成13)年、大手スーパーのイオンが、色鉛筆並みに一挙に24色のランドセルを販売したことが、多色化の先駆けとなった。以来徐々に、男子はこの色、女子だからあの色というような、性別によりイメージする色が固定される意識は薄くなり、自分の好きな色を自由に選ぶようになった。つまりランドセルの色には、一足先に「ジェンダーの意識」が表れていたのである。

 

それでは今、どんな色のランドセルが好まれているのだろうか。一昨年、手作りでランドセルを製作している鞄メーカー・中村鞄製作所が調査したところ、男の子は、黒35%・青29%・緑15%で、グレー・薄茶・濃茶と続き、ピンクも1%あった。一方女の子は、薄茶28%・紫22%・ピンク12%で、以下赤・濃茶・グレー・白・水色・緑・紺と続いている。

男の子は、従来からある黒や青の「らしい色」を選ぶ傾向にあるが、女の子は実に多彩だ。まず上位に、薄茶とか紫のような「大人の色」が並んでいることに驚かされる。そして、「らしい色」とされてきた赤やピンクを選ぶ子が意外に少ない。また男の子に比べて、選んでいる色の幅が広いことから、色に対する鋭敏さも伺える。

 

ランドセルを選ぶのは、小学校入学前なので、六歳から七歳になろうとする頃。丁度同じくらいの時期に、女の子は通過儀礼・七歳の祝いを迎える。果たして祝着も、ランドセルのように、自分の個性を発揮して、気に入った品物を選んでいるのだろうか。そこで今月のコーディネートでは、大人モノから離れて、七歳になる女の子が装う祝いのキモノについて、ご紹介することにしたい。果たしてどのような愛らしい姿になるのか、ご覧頂こう。

 

(紅色 兎の丸模様・七歳祝着小紋  白地 花の丸模様・唐織丈二帯)

バイク呉服屋が七歳祝着の用事を請け負う時には、二つのパターンがある。一つは、初宮参りの産着・八千代掛を、誂え直して使う場合。すでに一度、三歳の祝着として使っているので、ここでは一度解いて、仕立直しをする。襦袢も三歳時に作ることが多く、同様に仕立直す。なので、新しく用意する品物は帯と小物類だけになる。

一方で、一から全て新しい品物を用意することもある。この場合では、まず装いの基本となるキモノ選びから始めることになる。この時、装う本人・つまり七歳になる女の子の希望が重要になるのだ。先述したランドセルの色選び同様、この年頃になれば、ある程度「好きな色」や「好きな模様」を自覚しており、やはりキモノを選んで頂く際にも、そこを避けては通れない。

 

だからまず、品物を提示する前に、お母さんを通して「どんな色が好きなのか」を聞く。そしてその色の品物は、必ず用意しておく。とは言っても、もちろん他の色も、そして同色系で模様違いの品物も数点は入れる。多数の色や柄を準備する理由は、母娘で「着たい色、着せたい色、好きな模様」が異なることが多く、また商いの経験上として、当初希望していた色と、全く異なる色柄を選択することが多いからである。

では何故、想定外の色や模様の品物が選ばれるのか。これはランドセルのように、単純に色映りだけで判断出来ないからだろう。キモノは地色の上に模様があり、模様には挿し色がある。つまり全体の雰囲気を見て、着てみたい品物か否かが判断されるのだ。そして「可愛い」と思えたなら、地色などはあまり関係なくなる。この「子供目線で見た可愛さ」が、選択の際には重要になる。そしてその時、傍らで一緒に選ぶお母さんも愛らしいと同意されれば、求める品物が決まる。

今日ご紹介するコーディネートは、こうした過程を経た上で、今年あるお客様に選んで頂いた品物。どのような視点で、私がこの組み合わせを提案したのか。そしてお客様に、何処を気に入って頂いたのか。色と模様を中心に、これから話を進めていこう。

 

(紗綾型紋綸子 紅色地 春秋兎の丸模様 四つ身小紋・一文)

キモノや帯のモチーフとして、鳥や動物を用いることは珍しくない。正倉院系の外来文様には、獅子や馬、象、そして孔雀や鸚鵡など、どちらかと言えば大型の鳥獣が使われ、その上に鳳凰や麒麟、花喰鳥など空想の獣も登場する。時代が下がって、日本固有の和模様が現れると、モチーフの主役は身近にいる小動物が中心となる。福良雀や千鳥、揚羽蝶や鶴の丸など、特定の図案に意匠化された鳥類や、楓や月などの旬な図案と一緒に描かれる鹿や兎がある。

しかし、子どもモノに使われる動物文は、それほど多くはない。一般的な子ども向きの動物キャラクターは、沢山ある。犬や猫を始めとして、クマ、キツネ、鼠、ライオン、キリン等々。けれども、最もポピュラーな犬や猫は、キモノの文様としてほとんど登場しない。せいぜい犬が、玩具文の中で魔除けの道具・「犬張り子」として登場するくらい。クマ模様のキモノや帯など、一度も見たことは無い。そうした中で最もよく見かけるのが、揚羽蝶。その姿が優美なことや、子どもの装いとしても愛らしいことから、四つ身小紋や祝帯の主役となる。

 

兎の丸の中に描かれた植物は、桜・梅・菊・笹の四種類。兎の向きも、各々違う。

兎模様のキモノや帯は、たまに見かけることがある。秋草や月と一緒に写実的にあしらわれたり、角倉文のように、名物裂の文様として図案化されているものもある。だがこれは、いずれも大人向けの品物である。モチーフの可愛さを考えても、子どもモノに相応しい図案に思えるが、意外に使われていない。

そんな中で見つけたのが、この兎の丸小紋。丸みを帯びた兎の体型を、そのまま文様化した「兎の丸」は、ありそうで無かった斬新な図案。そして丸の中には、桜や菊など四種類の春秋花を入れ込んでいる。前回のブログで、能川光陽が描いた「花の丸文様」の加賀訪問着をご紹介したが、この兎の丸も、伝統的な円形文・花の丸に準じた模様であり、だからこそ、こうした花のあしらいがある。

手毬のようにも見える兎の丸。地色が鮮やかな紅色だけに、白い兎の姿が映える。中の挿し色は、四つの兎の丸とも共通で、紅色・山吹色・鶸色・スミレ色。赤、黄、緑、紫と四つの色をバランス良く挿しているので、とても可愛い兎の姿になっている。モチーフが可愛い上に、地色と模様と挿し色がピタリと決まっているとなれば、目を惹かない訳が無い。

 

七歳祝着として仕上がった、兎の丸の小紋。袖丈は、1尺8寸と長くなっている。

当初、この女の子はスミレ色のキモノを希望していたので、予め紫系地色の品物を3点ほど探しておいた。そしてそれ以外に色を違えて、10点ほど品物を準備する。この兎の丸も、その中の一点。他の小紋の図案は、オーソドックスな四季の花模様や、宝尽し、玉熨斗、糸巻、玩具など。子どもモノの定番を一通り揃えつつ、現品で見つからなかった場合に備え、千切屋治兵衛の小紋柄見本帳も用意する。

もちろん最初は、スミレ色の品物が気になっていたが、反物を広げるうちに、この兎の丸小紋が目に留まった。やはり、子どもの目からも可愛く映ったのだろう。私が見ても、鮮やかな紅色と丸まったうさぎさんは、他の品物と比べて目立って可愛い。お母さんにも、すっかり気に入って頂いたので、もう迷うことは無い。こうして、最初に想定していた色や模様とは、全く違う品物を求めて頂くことになった。

こちらは誂えた後姿。兎の丸は、大きからず小さからず。そして図案は、バランス良く配置されている。出来上がった姿を見れば、この意匠も、江戸の図案帳・ひいながたに載っている丸尽し文・花の丸を踏襲していると判る。さて、こうして飛び切り可愛い衣装になった祝着には、どのような帯を合わせれば良いのか。兎の丸の可愛さを引き出せるような、帯の色と文様を考えてみよう。

 

(白地 花の丸文様 唐織手織丈二帯・奥田織物)

紅色地のキモノに対した時、帯の色は白で清楚にまとめるか、黒で大人っぽく印象付けるか、それとも補色の緑で個性的に装うかと、様々なコーディネートが考えられる。他に、柔らかな水色や黄色でも良いかもしれない。今回は、まずキモノを決めておき、日を改めて帯を選んで頂く二段階方式を採ったが、こうするとお客様にじっくりと考える時間が生まれ、納得のいく品物選びが出来る。

 

今回、キモノに合わせて用意した五本の帯。全て唐織の手織で、通し柄の丈二帯。製織したのは、いずれも西陣の奥田織物。白地が二本と、若緑色・水色・黒が一本ずつ。図案は、花の丸・鈴・手毬・貝合わせ・吹き寄せと、いずれも古典の可愛いモチーフ。

丈二帯とは、帯の総丈が1丈2尺(約4m55cm)あることからその名前が付いたが、裏に生地を張り、巾7寸にして七歳の祝帯として使う。最近ではめっきり少なくなったが、以前はこの帯が七歳用の主流であった。

今回用意した丈二帯は、通常よりも1尺5寸長い、1丈3尺5寸(約5m10cm)。実はこの帯は、舞妓さんが使う「だらり帯仕様」になっている。ご存じのように、舞妓さんの帯は後ろを「だらり」と下げる姿に結ぶことから、5m以上の帯丈が必要になっている。この舞妓用の帯には、古典模様を使った可愛い意匠の品物が多く、七歳用帯としても使いたくなる。丈の長さは誂えの段階でどうにでもなるので、今回はこれを代用することにした。

 

白地の丈二帯は、どちらも丸文で手毬と花の丸。娘さんとお母さんが気に留めたのは、白地。紅色のキモノに合わせてみると、白地は清潔感があり、清々しい。毬図案は、所々に金糸使いの小さな宝尽し文が入っていて、細かい花菱の地紋が織り出されている。一方花の丸は、毬より少しだけ図案が大きく、地紋の花菱文も一回り大きい。

二点で迷われたが、結局花の丸の方を選ぶ。理由はおそらく、花の丸のきっちりした配色。特に毬に入っていない緑とスミレ色が、帯姿のアクセントとなって目立つ。そしてこの二色はキモノの兎の丸にも挿してあり、その色がリンクしてコーデが決まる。

 

地の組織の上に、多彩な絵緯糸を浮き上がらせ、模様を表現する唐織。

絵緯は図案に応じて、色糸を縫い取るように織り込むため、模様は立体的になる。手織の場合、上の画像に見えるように、絵緯糸が文様の部分だけに通る。それが機械機だと、帯幅いっぱいに糸が通っている。そして織る時に使う杼は、使う色糸の数だけ必要になる。唐織帯が手織か機械機かを見分ける際には、このように裏を覗いて、糸の通り方を見ればすぐ判別できる。七歳の祝帯として、こんな手織唐織を使うのは、とても贅沢なことだ。さて帯が決まったので、これからコーディネートした姿をご覧頂こう。

 

キモノも帯も、丸尽し文様を基本とした意匠。丸文は、兎の丸と花の丸と内容は異なるが、丸文の散らし方や大きさはほぼ同じ。このように、キモノと帯の図案が同じ方向で重なると、大人モノのコーデでは着姿にくどさが出てしまうことがあるが、子どもモノではその懸念はほとんどない。こうして合わせてみても、わざとらしい感じは全くせずに、可愛い姿だけが印象に残る。

先述したように、似通っているのは図案だけではなく、挿し色も共通する。赤・黄・若草・スミレ・白の五色を使い、挿し分け方までよく似ている。

見て頂きたいのが、合わせた帯〆。本体は高麗組の白い紐なのだが、そこにアップリケのような刺繍が施されている。図案は、お手玉やかんざしなど。紐の両端は、赤・黄・緑三本の丸い房。昨年龍工房の展示会で見つけ、可愛さのあまり思わず仕入れてしまった紐だが、まるで今回のコーデのために用意したように、うまくマッチしている。画像には無いが、帯揚げは若草色の総絞り。

 

こうしてキモノと帯、そして小物も含めて、色と模様を統一したコーディネートが完成した。娘さんが子ども目線で見ても、またお母さんが大人の目線で見ても、納得できる愛らしい、そして個性豊かな七歳の衣装にすることが出来た。装ってお宮参りに行く日も、もちろん良き思い出になるだろうが、悩みつつ一生懸命に品物を選んだことも、長く記憶に残ってくれるのではないか。

うさぎの年に相応しい、可愛い兎の丸の祝着と花の丸の唐織帯。品物選びのお手伝いをしたバイク呉服屋も、今年の誂えの中で、特に印象に残る装いとなった。最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度ご覧頂こう。

 

うちの三人の娘たちも、ついこの間まで、赤いランドセルを背負って小学校に通っていたような気がしますが、もう卒業して20年が経ってしまいました。もぬけの殻となって久しい娘たちの部屋を見ると、時の流れの速さを感じざるを得ません。

子育て中の両親は、早く大きくなれと願うのが常ですが、過ぎてしまえば、懐かしい日々です。そして、子どもモノの仕事をさせて頂くと、その子が元気に育つようにと、いつも思います。大切なのは、「産んで良かった」、そして「生まれてきて良かった」と心から思えること。そんな社会にならなければ、この国の未来はありません。   今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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