バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

コーディネートに必要な視点は、何処にあるのか  

2023.11 12

このブログでは毎月一度、一つのテーマにそって、キモノと帯と小物を合わせたコーディネートをご紹介している。出来るだけ季節に相応しい品物を用意し、取り上げるアイテムにも偏りが無いように気を使いながら、その月の組み合わせを考えているが、この稿は、読者の方に楽しんでもらうのと同時に、少しでも装いの参考になればとの思いから始めた試みである。

ブログ稿を辿ってみると、コーディネートの初回は、2014年の2月。もう10年近く前になるが、それから先月まで一度も欠かすことなく続けており、数えてみると109回にもなっている。初回に選んだ品物は、桶絞りや切箔を駆使した京友禅の振袖。これに梅垣の松竹梅柄帯と龍村の正倉院柄帯を組み合わせ、二回に分けて紹介している。ここ数年、振袖をテーマにすることなどほとんどないが、コーディネートで紹介しているところを見ると、10年前はまだ「振袖を捌く気持ち」が少しはあったように思う。

 

コーディネートには、正解が無い。特にカジュアルの装いでは、装う人が各々に組み合わせを考えれば良いことで、だからこそ個性が出てくる。例えば、10人が同じキモノを使って帯と小物合わせを試みたとすれば、おそらく10人ともに違うコーデになるはずだ。色を見る感覚や模様に対する意識が、一人一人違って当たり前だからである。

そして一枚のキモノに対して、なぜこの帯を、またどうしてこの小物を選んだのか、各々に理由があるのではないか。つまりそこが、コーディネートに際する視点に当たるのだろう。私も、コーデの稿では、組み合わせをした理由を書くようにしているが、その時々で視点は異なっている。キモノの地色をヒントに、帯と小物を選ぶ時もあれば、季節を加味して全体を相応しい姿に作ることもある。そして、最初から着用する場面を想定して、品物を提案するようなこともある。おそらく、時々の気分次第でコーデの内容は変っているのだろう。

 

そこで今日は、「コーデの視点をどこに置くのか」ということを、改めて考えてみたいと思う。実は先日、あるお客様に総柄の小紋を求めて頂き、そこで帯合わせの依頼も受けた。今回はこのキモノを使い、具体的に何が決め手となって、合わせる帯の選択に至ったのかを検証する。皆様にはそこから、何かしらコーディネートのヒントを見つけて頂ければ、良いのだが。

 

(ティールグリーン色 唐草模様・総柄小紋 千切屋)

この小紋の地色は、青みが掛かった深い緑色だが、これはカモの頭の羽毛色に近いことから、ティール(小鴨)グリーンという名前が付いている。図案は大きめの唐草で、それがほぼ反物巾一杯に総模様としてあしらわれている。唐草の種類だが、江戸元禄期に記された唐草分類集・装束図式に照らし合わせてみると、桐蔓(きりつる)という形式に似ている。よく見ると、花の形には、その原型が桐と思わせる図案が含まれている。

ティールグリーンは、キモノの地色としては珍しい色で、少し洋っぽさを感じる。しかもそこに、淡いパステルで色を挿した唐草を全体にあしらったことで、かなりモダンな小紋姿になっている。このような小紋は、キモノとして仕上がると、反物で見ている時より、華やかさが増す。その辺りのところを、次の誂え終わった画像で見て頂こう。

唐草模様が、隙間なくキモノ全体を埋めている。同じ総柄でも江戸小紋とは違い、模様が大きくしかも蔓で繋がっていることから、かなりインパクトのある着姿に映る。しかし、挿し色はかなり控えめで、画像からは色の気配がほとんど出てこない。このように、模様が着姿に大きく出てくるキモノに対しては、意外と帯合わせが難しい。

着姿の中心になる上前衽・身頃を写してみた。八掛は、キモノの唐草に挿してある色の一つ・桜色を使っている。小紋に付ける八掛は、地色の系統ではなく、模様の中から別のひと色を選ぶケースがよくある。この小紋も、着姿に優しさを出すために、はんなりしたピンク系にしてみた。この八掛の色が、帯や小物合わせのヒントとなり、実際に色をリンクさせてコーデに使ったりもする。

さてそれでは、この小紋を使って、二通りの帯合わせを考えてみよう。各々のコーデでは、何処に視点を合わせて、帯や小物を選択することになったのか、その理由も含めて説明していくことにする。

 

(合わせた帯:ミモザ色 間道模様 引箔手織袋帯・山城機業店)

優しい黄色・ミモザ地色の横段袋帯を合わせてみた。帯姿を見ても判るように、袋帯と言っても全く仰々しさは無い。色も図案も軽やかで、カジュアル着の小紋に合わせても違和感はない。このキモノのように、模様が全体に溢れている場合、やはりシンプルな帯を合わせた方が、すっきりとまとまる。もし、帯まで模様が立て込んでしまうと、どうしてもキモノの図案とぶつかってしまい、着姿がクシャクシャする。特にこの小紋のように、縦横無尽に蔓を伸ばした唐草であれば、帯のモチーフは抽象的な幾何学文様を選びたくなる。

間道(かんとう)というのは、室町期に伝来した縞模様の一種で、縞の太さや模様の間隔も違い、様々な種類がある。この袋帯にあしらわれた間道=縞は不均一で、そこに若草色やサーモンピンク、クリームといったパステル系の色を使って変化を付けている。また、所々に箔が浮いていて、光が当たると僅かに輝きを放つが、柔らかな金色なのでそれほど目立たない。

六通袋帯なので、間道模様はお太鼓が横縞で、前姿はご覧のような縦縞になる。キモノの淡い挿し色と帯のパステル色がリンクし、柔らかい表情となる。キモノ地色に深みがあるので、それを生かすためにも、出来れば優しい雰囲気の帯を合わせたい。

小物には、着姿にアクセントを付ける意味で、帯の縞配色の中で一番目立つサーモンピンクを選んだ。帯〆は、所々に金を散らした貝ノ口組。合わせた帯が袋帯で、キモノが華やかな総柄小紋。ほんの少しだけ、フォーマルっぽくさせたが、如何だろうか。

誂えた小紋に、袋帯と小物を載せてみる。キモノ地色のティールグリーンと帯地色のミモザ色。どちらも、洋っぽさを感じさせる色目なので相性が良く、とてもモダンな色映りになっている。このコーデの視点は、ボリュームのある総柄唐草を、いかにすっきりと着姿に収めるかであり、そのた目的を持って、相応しい帯と小物を探した。

 

(合わせた帯:クリーム色 唐草タイル模様・九寸染帯 トキワ商事)

キモノと帯のモチーフを揃えるコーデは、模様が重なることで「くどさ」が着姿に出ることがあり、注意を払う必要がある。特にこのキモノのような唐草模様では、蔓で繋がる同系図案の帯は、出来るだけ避けた方が良いように考えられる。何故ならば、キモノも帯も模様が密集していて、メリハリのない姿になってしまうからだ。

けれどもこのコーデでは、あえてその唐草帯を選んでいるが、それには理由がある。それは、この帯の構図が幾何学的であると同時に、唐草が主模様ではなく、図案の区切りに使われているから。帯の中には地空きの部分が多く、蔓が絡まりあう唐草の特徴は消えている。だから画像からも、キモノと帯で唐草が重なる鬱陶しさを感じない。

デザイン豊かなタイルを重ねたような図案だが、このように四角を組み合わせた文様には、古くは石畳文や市松文がある。ただこの模様は、そんな伝統的な和文様ではなく、かなり西洋っぽい。四角に区切られているのは、タイルというより窓枠のように見え、その唐草で囲まれた窓の中に、白と金で描いた花菱文があしらわれている。

前を合わせてみると、より帯の幾何学的な姿が表に出てくる。図案の嵩はかなり控えめで、無地場が多い。そのため、総模様の唐草小紋と合わせても、違和感なくすっきりした帯合わせになる。そしてここでは、モチーフを唐草でまとめた統一感が、着姿の中に自然な形で表れてくるように思える。

帯がよりすっきりと映るのは、挿し色のシンプルさがあるから。枠の唐草は緑だけ、中の花菱は白と金だけと単彩。余計な色を使わないことで、引き締まった姿になる。そして、小紋地色のティールグリーンと帯唐草の色がリンクする。となれば、ここで使う小物の色は緑系になる。帯〆は深緑の無地冠紐で、帯揚げは深緑と若草の絞り柄。こうすると、模様と色とで着姿が一体となる。

コーデイネートを考えるにあたっては、着姿をどのような雰囲気でまとめるかが、ポイントになる。元々唐花や唐草は、飛鳥天平期に伝わった外来文様であることから、モチーフに使うと、どうしても何となくモダンになる。だからこの小紋には、あまりに日本的な帯図案は見合わない。文様のミスマッチは、やはりコーデ全体のバランスを崩すことに繋がってしまうだろう。ということで、この唐草同系のコーディネートの視点は、図案の出自と色目を統一することで、着姿に方向性を作るということであった。

総柄の唐草小紋に対しては、違う視点から、袋帯と染帯を用いて二通りのコーディネートを試してみた。各々に異なる帯と小物によって、着姿から受ける印象は変わるが、これにより、どこか着用する場面に違いがあるようにも感じられる。もちろん同じ総柄小紋でも、色目やモチーフ、そして全体から伺える雰囲気によって、コーデの視点は変わっていく。その辺りのことがよく分かる例を、最後に簡単にご紹介しよう。

 

(鳩羽紫色 楓散し模様・総柄小紋 千切屋治兵衛)

品物のすみ分けとしては、最初と同じ総柄小紋になるが、地色もモチーフも、そして模様の大きさも違っている。小さな楓の葉がキモノ全体に散りばめてあるが、芥子色が主体の挿し色が、晩秋の風情を醸し出している。着姿から季節そのものが伺える、大変個性的で贅沢な品物。こんな小紋では、コーディネートの視点として、旬を尊重することが第一義となる。この楓姿を生かし、深まりゆく秋が感じとれる帯を選びたい。

使った八掛の色は、楓葉にあしらわれた枯色・朽葉(くちば)色。帯や小物だけではなく、チラリと覗くだけの八掛にも、旬の意識を持たせる。この総柄小紋は、唐草小紋よりかなり図案が小さく、遠目からではモチーフが楓とは判らない。だが、地色や挿し色の深みや落ち着きから、秋という季節を十分に感じる。これは品物の雰囲気全てが、一定の方向を向いていると言えるだろう。

(合わせた帯:紅葉色 格子模様・紙布八寸織帯 米沢スワセンイ)

と言うことで、季節に視点を合わせて帯を選ぶと、こんな紅葉色の織帯になる。キモノが写実性の高い楓散し模様なので、幾何学的な図案の帯を使う方が、腑に落ちる着姿になる。朽葉の芥子色と朽ちる前の朱色を合わせた、まさに色で晩秋を表現するコーディネート。着姿を目にした人にも、判りやすい旬の装いになるはずだ。

 

今日はコーディネートの視点をテーマに、話を進めてきた。どんな装いでも、着用するに当たって、各々の品物を選んで組み合わせた理由がある。そしてそれは、どれもどこかに視点を置いて、決められている。そして人には、それぞれの感じ方や捉え方があるため、装いの視点は一人として同じにはならない。

人の個性が、装いに反映される。これが和装の醍醐味であるが、反面では、難しさや悩ましさにも繋がっている。しかしどんな着姿になろうとも、それは装う人が、自分の視点に立って考えた結果である。皆様も、様々な視点からコーディネートを考えて、個性的な装いを試して頂きたい。答えの無い面白さが判れば、キモノはもっと楽しくなる。

 

人工知能・AIが苦手なことは、人の気持ちを汲み取ることや、創造的なことと言われています。これまでのデータの蓄積を基にして、答えを導き出す。これが、AIの特徴なのですが、人それぞれが持つ感性を学習し尽くすことなど、まず不可能であり、だからこそ人の感情を慮ることが出来ないのです。

装いの形は、その日のちょっとした気分で、変わっていくもの。この先の社会生活では、AIが出来ないことを楽しむことが、リアルな生きがいに繋がるように思います。蛇足ですが、私は何があっても、AIに話を投げかけることはしないつもりですが、もしもヒグマの出没場所が100%判るようになるなら、その時だけは使わせて頂きます。 まあ、人の気持ちも判らない機械に、獣の気持ちが察知できるはずはありませんがね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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