バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート・華風編  浴衣姿で、忘れていた夏に出会う

2023.06 27

毎年、その年に仕入れる浴衣を見分けるのは、正月明けから3月初旬のまだ寒い時。うちで扱っている浴衣のメーカーは、主に竺仙と新粋染だが、どちらの品物も布見本帳の中から、夏に扱う品物を選んで、染め出しを依頼する。竺仙には浴衣だけではなく、麻の半巾帯や琉球木綿の帯も、色や模様を指定して制作を依頼する。季節を限定する商品だけに、やみくもに染めて在庫に残ってしまうより、品物が確実に捌けていくこの誂え方式を採る方が、効率的であり、経営的にも理に適っている。

 

竺仙は、公式オンラインショップを開いて、自ら消費者に品物を提供しているが、それでも現品として在庫に持つ品物は、色や生地、図案を厳選したモノに限られ、数はそれほど多くない。やはり、竺仙のメイン商いは小売りではなく、専門店や有名デパートを相手にした卸。なので、消費者が竺仙の品物を求めるのであれば、やはり品数豊富に扱っている店を覗くのが、ベスト。そのため竺仙では、HP上で全国の取扱専門店を紹介している。

この扱い店リストに掲載されているのは、もちろん、竺仙の品物を毎年きちんと仕入れて棚に置く店であり、扱う品数も一定以上で、しかもそれを何年も継続しているところ。つまりそれは、竺仙が「得意先」と認識している店であり、だから消費者に向かって、「ここで、うちの浴衣を求めてください」と推奨出来るのである。

 

有難いことに、バイク呉服屋も「取扱店」として載せてもらっているが、毎年仕入れる数はそれほど多くないので、竺仙にとってはそれほど良い得意先ではないはず。ただ付き合いは古いので、これまで様々な品物を扱うことが出来た。このところ仕入れる数は、前年に売れた数と同じだけという、「鰻屋の継ぎ足しタレ方式」を採用しているので、夏の始めに店先に並ぶ浴衣は、大体70~80反くらいだ。

毎年ブログでは、その年に新たに仕入れた品物を、取り上げるようにしているが、どうしても、自分の好みを優先したモノ選びになっているので、当たり前のように同じ柄(例えば万寿菊)を見て頂くことがあり、モチーフや色が偏ることも多いと自覚はしている。そんなワンパターンのコーデではあるが、今回も引き続きご紹介していこう。 今日は、様々な色を取り入れた浴衣で、華やかな装いを演出してみたい。

 

伊藤園のCMで、有村架純さん(右)と松本穂香さん(左)が着用している浴衣。

春前に染を発注していた浴衣が届くのは、5月の連休前後で、今月の始めには仕入れた品物すべてが、店頭に並んだ。毎年丁度その頃、竺仙からその年のメディアに掲載されたもの、あるいはCMで着用された浴衣のリストが送られてくる。これは、どの浴衣が、誰にどのように装われたのかを小売店に知らせて、これから浴衣を誂えるお客様への話題作りに、役立ててほしいとの思いからである。

上の画像の浴衣は、現在放映中の伊藤園「お~いお茶」のCMの中で、女優の有村架純さんと松本穂香さんが着用している品物。有村さんが、右のレモンイエロー色・かげろう生地の萩模様、松本さんが、左の藍色・綿絽斜め格子の萩模様。お二人とも涼やかで可愛いと、その着姿の評判も上々のようだ。

 

このような人気女優の着姿は、多くの消費者の目に留まるようで、ひとたび放送が始まると、竺仙には問い合わせが数多く寄せられる。先に述べたように、竺仙では在庫に限りがあるので、注文が集中しても、応じることはなかなか難しい。そもそも浴衣CMが放送され始める6月には、すでに今年分の染め出しは終わっているので、時すでに遅しという訳である。

では現在、どこがこの品物を持っているかと言えば、これを仕入れていた専門店、あるいは商品委託を受けているデパートになる。だが、専門店が見本帳から染める浴衣を選ぶ春先には、どの品物が何のCMに使われるのかは、全く判っていない。だから、現在在庫で持っている店は、偶然仕入れていたに過ぎず、バイク呉服屋も同様である。そして意外なことに、その浴衣が今年の仕入れとも限らない。有村さんの浴衣は今年だが、松本さん着用の藍色綿絽などは、仕入れてから3年ほど経つ品物で、売れずに残っているから、こうして画像をご覧頂ける。

毎年同じ型紙を使いながらも、生地や配色を工夫しながら、染め続けられる竺仙の浴衣。だが仕入れてから何年経とうとも、全く古さを感じさせない。今年染めた浴衣も、5年前のものも、変わらずに自信をもって、お客様に奨めることが出来る。今日は、そんなスタンダードな浴衣の中で、華やかで可愛く明るい着姿を考えることにしよう。

 

鉄線唐草模様 白地 綿紬浴衣・桔梗唐草模様 グレー地・綿紬浴衣 共に竺仙

絣糸を、木綿の中に打ち込んで織りなす竺仙の綿紬生地は、コーマ生地に比べると少し厚みがあるものの、触ってみるとさらりとしていて、いかにも肌離れの良さそうな特有の質感を持っている。地色は白、グレーのほかに、茶や紺がある。白地以外の綿紬は、生地の所々に白い擦れのような色ムラが見られ、それがこの紬生地の自然な表情となって現れている。

上の二点は、浴衣モチーフとしては定番の鉄線と桔梗に唐草を絡めて、全体に動きのある図案として仕上げている。どちらも、鮮やかな挿し色を使っているので、明るく個性的な着姿になる。

 

この大きな鉄線浴衣も、今年のCMに登場している。アサヒ飲料・「和紅茶」のCMの中で、姉妹に扮している西野七瀬さんと石井杏奈さんが着用しているのが、いずれも竺仙の浴衣。西野さんは白コーマ地挿分けの花の丸模様、そして石井さん着用の浴衣が、この白紬鉄線唐草。どちらも白地で大きめの模様に、はっきりとした挿し色を施しているので、爽やかで元気な印象を残すCMの着姿になっている。

鉄線の花色は、赤・黄・緑の明るい原色で、模様を繋ぐ唐草がブルー。所々についている擦れのような暈しが、アクセントになっている。着ている人の周りがパッと明るくなりそうな、大胆で若々しい模様姿。

(合わせた帯 イタリアトリコローレカラー 絹麻半巾帯・博多西村織物)

あっと驚くイタリア国旗の三色・トリコローレ帯を、鉄線の色に合わせて使ってみた。そもそもこのような、赤・白・緑と横に三等分された半巾帯は珍しい。浴衣だけでも目立つ柄なのに、この帯を使えば、なお注目を集めそう。帯の材質は、絹8割・麻2割の混紡。きりりとした配色なので、紺白や藍白のシンプルな浴衣に合わせても面白い。

 

白い擦れが、グレーの地から浮き上がって見える竺仙独特の綿紬生地。鉄線と比べると、この桔梗唐草は模様が細やかで、少し落ち着いた着姿になりそう。桔梗の花色を、本来の紫ではなく橙にしたところが秀逸。この色を挿したことで、装う人の範囲はかなり広がった。葉や蔓の所々に付けられた若草色が、模様の表情を豊かにしている。

(合わせた帯 朱色 木綿八重山ミンサー半巾帯・あざみ屋ミンサー工芸館)

桔梗の花色にリンクさせて、ビビッドな朱色のミンサー帯を合わせてみた。浴衣の模様が総柄的なので、帯はシンプルな幾何学図案の方がすっきりとまとまる。この帯は木綿で、石垣島のミンサー工芸館で織られている八重山ミンサー。綿素材だが、割と柔らかく締めやすい。

浴衣の挿し色を帯の色に生かした、綿紬浴衣のコーデ。色の華やかさが前に出ているので、夏キモノ的な要素も十分に伺える。涼やかなイメージだけではない、夏を楽しむ浴衣姿になっている。

 

変わり萩模様 薄梔子色・秋草模様 水浅葱色 共に竺仙かげろう浴衣。

生地の中には、等間隔に縞状の透かし織模様が入り、それが見た目にも涼やかな姿に映る。余分な毛羽を除去した上に、強い撚糸を使って織っていることから、サラッとした生地感が生まれて、着る人に心地良さをもたらす。この生地には、陽炎のような「はかなく優しい雰囲気」があるところから、「かげろう浴衣」と命名されたようだ。

萩の方が柔らかい黄色・梔子色、秋草が水を想起させる浅葱色。どちらの地色も、浴衣地色ではあまり見かけないパステル色。萩と秋草はどちらも、ポピュラーな浴衣モチーフだが、このかげろう浴衣では、デザイン化された萩に対して、秋草は写実的に描かれていて、好対照の二点になっている。

 

竺仙ではこれまで、萩という植物を多様に浴衣であしらってきたが、ここまでモダンに図案化した模様は、お目に掛ったことが無い。三枚の葉を六角形に組み立て、一つの図案としている。これを反物の巾いっぱいに埋めることで、幾何学的でユニークな葉模様となる。そして、地色の優しい黄色と葉の若草色が、明るく爽やかな姿を印象付ける。実際にCMで有村架純さんを拝見したが、光が降り注ぐ庭先で、着姿が明るく輝いているように見えた。

(合わせた帯 コバルトブルー 博多半巾帯・森博多織)

CMでは、同じ竺仙のミント色の麻市松帯を使っていたが、少し大人しすぎるように思ったので、ここでは、蛍光的なコバルトブルーの半巾帯で、着姿にポイントを作ってみた。いずれにせよ浴衣の萩模様が大きくて密なので、帯はシンプルにした方が良さそう。判り難いかも知れないが、帯の地紋には猫の遊ぶ姿を織り出している。

 

涼やかな水浅葱地色に、秋草文を白抜きしている。地色が深い褐色(かちいろ)でも、鮮やかな藍色でもなく、こんな柔らかな浅葱色だと、着姿がとても優しく映る。模様に挿し色が無いことが、効果的。秋草の向きが、上下逆さまになって並んでいるので、図案が単調にはならない。こうした意匠は、誂えると面白い模様姿になりそう。

(合わせた帯 ブルー細縞 紗博多半巾帯・西村織物)

水の色が印象的な浴衣なので、白に細いブルーのラインだけのシンプルな帯で、目にも涼しげな着姿を作ってみた。色を極力抑えることが、コーデを考える上で一番大切になることもある。

どちらもかげろう生地の浴衣だが、こうして帯を組み合わせて見ると、かなり雰囲気が違う。挿し色の有無で、浴衣姿はかなり変わり、当然帯も違ってくる。多色を選ぶか、単色を選ぶか、それは着る方のお好み次第。

 

藍紬地 向日葵模様 奥州小紋・茶紬地 琉球紅型模様 奥州小紋 共に竺仙

先染めした綿紬糸を使い、さらにそこに細番手の絣糸を織り込んだ浴衣生地。奥州小紋は、この生地に引染で模様付けがされており、地色は藍と茶の二色。そして細部は、手を使って色を挿しているので、リアルで写実的な模様になっている品物が多い。ただ挿し色は多色ではなく、基調はほぼ藍の色だけなので、着姿から落ち着いた大人の雰囲気が伺える。浴衣の範疇には入るものの、上級者向けの凝った夏キモノと言えそう。

 

浴衣の向日葵図案としては珍しく、リアルな花の姿で描かれている。中心にある筒状花の細かい点を見ると、丁寧な型紙のあしらいがよく判る。上に枝が向かう図案なので、着姿は伸びやかになるはず。向日葵は、元気な夏姿を演出するのに最適なモチーフだが、この奥州小紋は、大人の向日葵。

(合わせた帯 レモン色細縞 木綿首里道屯半巾帯・起田奈津子)

向日葵をより目立たせるためには、やはり帯に黄色を使う他はない。地色と違う二色の経糸一組に、四本の緯糸を差し込んで織りなすのが、道屯(ロートン)織。表裏両面に、同じ模様が現れる。この帯の黄色は、本来の向日葵の花色よりも、かなり抑えられているので、この浴衣の持つ大人っぽさが、そのまま着姿に反映されているよう。

 

茶色の紬地に、琉球紅型風の桜と枝垂れ藤に鳥(トゥイグァー)の模様。浴衣というより紬小紋のように見える。藍の濃淡や桜の花芯に挿された赤茶色が、よりこの図案を紅型っぽくしている。どちらかと言えば、渋めの色合いなので、帯でアクセントを付けたいところ。

(合わせた帯 茜色花菱模様 木綿首里やしらみ花織半巾帯・比嘉麻南)

紋に違う色の糸が入る、両面浮織のやしらみ織。道屯とはまた異なる、立体感のある帯の模様姿。紅型調のこの奥州小紋には、やはり沖縄の手織帯がピタリと収まる。色は、桜の花芯に挿した赤を使うと、着姿に華やかさが出てくる。

型紙をきっちり使って染められた奥州小紋は、どうしてもキモノ的な要素が強くなる。ただこうして、琉球の立体的な浮織帯を使うと、少し浴衣に近い姿になる。藍と茶が中心の渋い色合いなので、帯を明るくして、着姿に彩を持たる工夫を試みたい。

 

蘇芳色 菊唐草綿麻紅梅・サーモンピンク 大唐草綿麻紅梅 共に小千谷紺仁

最後に、赤やピンクを地色にした珍しい綿紅梅を、簡単にご紹介しよう。着姿に涼やかさが求められる浴衣では、紺や水色のような寒色を地色に使い、模様を白く抜いてすっきりと見せることがほとんど。やはりそれは、暖色だと暑苦しく見えるからだろう。けれども、木綿のキモノと考えれば、このような明るい小紋柄もありかも知れない。

二点とも、江戸の宝暦年間から藍染を始めた新潟・小千谷の紺仁の織物。綿が75%で麻が25%。紅梅生地を使っているので、表面に畝状の凹凸があり、それが心地よい風合いを呼び込んでいる。どちらもモチーフは唐草で、蘇芳色の方は小紋柄だが、サーモンピンクの方は大胆な大紋柄。

(五色細縞 麻絹博多半巾帯 西村織物・格子模様 麻八寸名古屋帯 竺仙)

赤レンガ色の菊唐草は、五色の細い縞が付いた半巾帯で、少し粋っぽくキリリとした着姿に。大きなピンク唐草は、大格子の名古屋帯で、パステル調の優しい着姿にしてみた。どちらも模様が密な小紋柄なので、帯は単純な図案の方がまとまりやすい。

 

今日は「華やかな夏姿」をテーマに、8点の品物を使いながら、彩のある浴衣姿を考えてみた。浴衣は和装の中で、最も気軽に楽しめるアイテム。涼やかさを選ぶのも良し、華やかさを求めるのも、また良しである。装う人各々が、自由に、そして個性的に、久しぶりの夏姿を楽しんで頂きたいものだ。二回の浴衣コーディネートが、少しでも皆様の参考になれば良いが。

 

やはり社会の空気は大切なようで、今年はこれまでに、割と多くの夏モノ依頼をお客様から頂いています。ただ冬モノとは違い、着用の時期が限定される浴衣や麻織物なので、どうしても納期が短くなって、和裁士の仕事が結構タイトになっています。出来る限りは、お客様の予定に間に合うよう、急ぐ必要があるのですが、さりとて手を抜くことなど出来ません。一点一点を装う方の寸法に合わせて、丁寧に誂えることは、どんなキモノでも同じです。

和装の第一歩として、求められる方が多い浴衣。そこで、「着やすいキモノ」を経験して頂くことが、とても大切。楽に街歩きが出来るなら、また着たくなりますから。いつでも、どこでも、自分が着たいときに着る。カジュアルな場面の装いこそが、キモノの醍醐味でしょう。浴衣をきっかけにして、誂えの楽しさを、多くの方に知って頂ければ良いと思っています。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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