バイク呉服屋の忙しい日々

その他

ブログ開設10年  これまでのこと、これからのこと

2023.05 18

「バイク呉服屋の忙しい日々」と名付けた私のコラムブログも、今日の稿で689回。2013年5月17日に開設して以来、丸10年を迎えることが出来ました。これまでこのブログサイトを訪れた方は164万人を越え、閲覧頂いた原稿数は250万以上に上ります。今日の節目に当たりまして、読者の皆様方に、改めて感謝を申し上げます。

「十年一日のごとし」と申しますが、呉服屋としての私の仕事は、この十年ほとんど変わることなく、過ぎてきたような気がします。自分の感性で選んだモノを一点ずつ丁寧に売り、手直しの要望をこまめに受ける。この仕事の基本を、まったくブレることなく続けられたことは、それだけで幸せなことと言えましょう。そして何より私自身、大きな病気やケガをすることが無かったことは、本当に幸運でした。

 

最初の頃は、月に10回以上も更新していたブログですが、最近はおよそ週1回ずつの月4回に落ち着き、皆様にお話する情報の量は、以前よりも少なくなりました。けれども、一つのテーマでその日の原稿を書き、ある程度話を完結させるという形式は、変わることはありませんでした。いずれにせよ10年の長きにわたり、こうして情報を発信し続けられたのも、読んで下さる方がおられたからであり、その方々の存在があったからこそ、私のブログに対するモチベーションが保てたとも言えましょう。

今日は区切りの日に当たりますので、呉服屋の仕事として、これまでのことを振り返りつつ、これからのことを少しお話しようと思います。とりとめのない内容になってしまうかと思いますが、お付き合いを頂ければ有難いです。

 

連休後に衣替えした店先。夏モノへの入れ替えは、年々早まっています。

皆様はブログトップの右上に、虫めがねが付いていることをお気づきでしたか。ここにブログ内で検索したい語句を書き入れてクリックすると、その内容にそった稿がズラリと出て来ます。試しに「紫紘」と入れてみると、稿の数は109もあります。これでは、探している帯にはピンポイントで辿りつかないので、「紫紘 モリス」とか、「紫紘帯 振袖用」などと複数の言葉を並べたほうが良いですね。また手直しの方法を探るとすれば、「裄直し」とか「胴ハギ」と言葉を入れると、参考になる稿が見つかります。ちなみに裄直しに関する稿は14、胴ハギに言及した稿は13ありました。

ブログを開設した当時、私はこの検索エンジンが「果たして必要あるのか」と思いましたが、今にしてみれば、設計者の先見の明に感心するばかりです。このブログの設計者は、呉服業界とは全く関わりの無い若い男性ですが、彼は私がここまで原稿を書きまくるとは、予想してはいなかったと思います。けれども設計を依頼する段階で、内容が多岐にわたると伝えておいたので、おそらくそれが念頭にあって、検索機能を付けることにしたのでしょう。

 

先日、長くブログを読んでいる方から、こんな話を聞きました。「品物のことでも、直しのことでも、何かを調べる時にはバイク呉服屋のブログを使います。中には、何度も繰り返して読んでいる稿がありますが、以前は理解出来なかった内容でも、時間が経ち、キモノを装う機会が増えるうちに、次第に判るようになってきました。このブログは、自分の和装知識を測るバロメーターの役割を果たしていますね。」

多くの方に、まず知って頂くこと。そして関心を持って頂くこと。これが、和装への第一歩であり、呉服を商う者であれば、絶対に避けて通れない消費者への情報の伝達。これを怠っていては、本当の呉服屋とは言えない。ブログを書き始めたきっかけは、まさにこの思いがあったからです。10年が経ち、読者の方のこうしたブログの利用法を聞くにつけて、自分の目標が少しは達成できたのかなと思います。

呉服に関わる内容は、どうしても難しい言葉の羅列となり、その上私の文章能力が優れている訳でも無いので、読者にとってはかなり理解し難い読みモノ。そして稿は必要以上に長くなっていますので、読み続けること自体が「苦行」かと思います。書いている本人が自覚しているので、それは間違いありません。けれども、理解するまで読み返す方の存在が、私に襟を正させます。徒や疎かに書くことは許されず、きちんと調べ、判りやすく伝えなければ、読み手に迷惑をかけてしまう。このことは、情報を発信し続ける限り、肝に銘じて置かなければなりません。

 

ウインドの撞木は、単衣に向く生紬琉球絣・希少な木綿丹波布帯・竺仙の麻型絵帯。 浴衣は、定番の菊唐傘綿紬と麦の穂模様綿絽。半巾帯は、山吹色の木綿首里道屯。

私の方では、原稿別の購読数が判るのですが、良く読まれている稿の一つが、毎月のコーディネート。これは、バイク呉服屋の独断と偏見によるものでしかありませんが、小物まで一通りトータルに組み合わせた姿が、着姿を考える上で、何らかのヒントになるのでしょう。カジュアルモノを使った月の購読数が多くなる傾向がありますので、日常着に関心のある方が、このブログをよく訪ねて下さっていることが判ります。

ここ三年、コロナ禍でほとんど出番が無かった浴衣。今年は、少し需要が回復しますかね。また来月のコーディネートで、幾つかのパターンをご紹介しようと思っています。

以前にも少し触れましたが、10年間変わることのない形式で、このブログを書き続けることが出来たのは、この間にお客様からの様々な依頼が、途切れることなく続いたことが、最も大きな要因でした。例えば「直す仕事」を考えても、部分的な寸法直しから、完全な誂え直しまで幅広くあり、その仕事の中では、様々な職人の手が入ります。そして、直す品物の状態は千差万別であり、その状態に応じた各々の補正が必要になるので、どんな時も通り一遍の仕事にはなりません。

つまり、多くの依頼があったからこそ、多岐にわたる直しの仕事内容をブログ記事にすることが出来た訳で、当然その稿の中では、悉皆に携る職人の仕事ぶりやその姿を描くことになります。こうした、縁の下で呉服屋の仕事を支える人々のことは、これまであまり消費者の方々に認識されず、知る機会もほとんど無かったように思われます。和の装いに隠れた仕事とは何か。それを判って頂く機会を提供出来たことだけでも、このブログを立ち上げた意味があったように思います。

そして読者の方からは、「バイク呉服屋なら、何とかしてくれるかも」と期待を込めて依頼された誂えの仕事も、数多く頂きました。私にとって、これまで試みたことのない仕事は、時には頭を悩ませましたが、新たな品物を生み出す「モノ作りの喜び」を、職人さんと共に感じ得ることが出来ました。そして、この仕事の様子も記事として取り上げることになり、これも、ブログの内容に厚みを持たせることに繋がりました。

 

ブログでお話してきたことは、取り立てて特別なことでは無く、日常の中で仕事として行っていること。つまりそれは、「リアルな呉服屋の姿」であります。呉服屋は、暖簾の向こう側で、普段何をしているのか。この消費者からは判り難い仕事の内容を、少しだけでも、知って頂けたのではないかと自負しております。

もちろん、こうした評価は私のひとりよがりに過ぎないかもしれません。しかしながら、全ての稿に心を込め、一人で書き上げてきたことは間違いなく、ブログと向き合う時間は、私にとってはとても貴重で、呉服屋人生を送る中でも充実した時間になりました。ブログを始めた当初は、「毎日5人でも、いや1人でも良いから読んでくれる方がいれば」と思っていましたが、この初心を忘れず、この先も頑張りたいと思います。 では、この先呉服屋として、私の仕事がどうなるのかを、少しお話してみましょう。

 

小さな吊り棚のショーケースには、小千谷縮と捨松の夏帯。ブログでは、たまに店内ディスプレイの様子を画像で紹介していますが、飾ってある品物からは、店主の色と模様の好みが判ります。なので、ブログをご覧になって来店された方からは、「思っていた通りの商品構成ですね」との言葉を、多く頂くことになります。

さて、現在後継者がいないために廃業する中小企業は、全国で年に数万社にも及びます。うちのような個人家業店はなお、跡継ぎがいなければ辞めていくのが、自然の流れになりましょう。現在自治体や金融機関は、こうして廃業する会社や店が続出することは、地域の衰退そのものに繋がるとして、継承者探しに躍起になっており、マッチング支援も盛んに行われています。

無論長く継続する会社や店では、お金で換算できないような「暖簾=信用」を有していることになり、辞めてしまうことを勿体ないと感じることは、当然かと思います。しかもそれが黒字を計上しているなら、なおのことでしょう。顧客にとっても、当たり前のように存在していた会社や店が無くなれば、おいそれと代わりを見つけることは難しく、何とか仕事を続けて欲しいと思うはずです。

 

しかしながら、跡継ぎは誰でも良い訳では無く、名前が残ったとしても、店の形態が大きく変わってしまうことを本位としない経営者も多いと思われます。そして事業を継承しても、よほど仕事に精通していなければ、立ち行かなくなることが目に見えている業種もあります。

これまでブログの中でも度々お話してきたように、バイク呉服屋には後継者がおりません。そして私自身、この先継承者を探すことは無いでしょう。今お付き合いを頂いているお客様方、また先代、先々代と長きにわたって贔屓にして頂いているお客様方には、誠に申し訳なく思いますが、時代に抗って、これまでのように専門性の高い仕事を続けることは、この先困難と予想されます。ですので、私の限りでこの仕事は終わることになります。

 

では具体的に、どんな困難が待ち受けているのか。それは多岐にわたりますが、最も大きいことは職人の欠乏でしょうか。特に和裁士や補正、悉皆など加工に関わる職人たちは何れも年齢が高く、後継者も育っていないことから、呉服仕事の基本である「直しと誂え」がこの先難しくなることは間違いありません。一定以上の質の品物を扱う専門店では、しっかりと人の手で誂えをし、手入れをしなければなりません。そうでなければ、依頼されるお客様が納得されず、また店側も自信を持って品物を提供する事が出来ません。ですのでどうしても、信頼できる職人と密接な関係を持つことが求められるのです。だから職人がいなくなり、探すことも難しいとなれば、当然これまでのように、様々な仕事を請け負えなくなってしまいます。

そして、加工ばかりではなく、モノの作り手の枯渇も深刻です。和装に対する一般的な消費者の考え方は、購入からレンタルに傾斜しており、その度合いはこの先なお進んでいくと考えられます。レンタル業者やいわゆる振袖屋が扱う品物には、ほとんど質が求められておりません。ですので、多くの職人が携わる手描友禅や手機袋帯の需要は、本当に限られてくると思います。これまで長く続いてきた呉服需要の凋落は、次々に職人の仕事を奪い、またこの三年のコロナ禍により、それは決定的な段階を迎えるに至りました。

つまり専門店が扱うべき質の高い品物は、この先どれほど市場に出て来るのか、その見通しが立たないことになります。そしてこれはフォーマルモノに限らず、カジュアルモノでも同様のことが言えましょう。ただ、これまでも生産数が限定されてきた特色ある織物や、個人の作家モノなどは、何とか残るかも知れません。これは、「作る品物も少ないが、求める人も少ない」という、需要と供給が低いレベルでバランスが取れる「縮小均衡」という現象になるからです。ですので、カジュアルモノを中心に扱ううちのような店では、個性豊かな希少品を探しながら、仕事を続けることになるでしょう。

 

ネガティブな話ばかりで本当に申し訳ありませんが、こうした現状を突き付けられれば、呉服屋の未来に希望を見いだすことはどうしても難しくなります。10年前、このブログを書き始めた当初、すでに数々の問題は、呉服業界内で認識されていたはずです。しかし、全く有効な対策を取ることなく、無為な時間だけが過ぎていきました。それは業界内の川上から川下まで、誰もが自分の頭の上のハエを掃うことだけに懸命で、とても将来のことまで考える余裕が無かったと言うことになりましょうか。いや、すでに10年前でも手遅れの状態であり、今は症状が進んで、瀕死の状態になっただけなのかも知れません。

こんな私の危惧が、この先外れれば、それに越したことはありません。後継者を持たず、事業継承もまるで考えない不埒な店主・バイク呉服屋は、自分が仕事をしている間だけは、出来る限りの自助努力をして何とか頑張り続けますが、辞めた後では、「あとは野となれ山となれ」となってしまうはず。呉服という仕事の未来に対して、残念ながら私は、全く見通す自信が持てません。

 

ということで、開設10年を記念して書いた今日のブログは、最後に来て「呉服屋は、お先真っ暗」と認識するに至ってしまいました。お祝いの席が、一時にしてお通夜に成り変わったみたいです。ただ私のような絶望感を持つ店主とは別に、呉服屋の未来に希望を見いだす経営者もおられることでしょう。そんな店にはおそらく、立派な後継ぎさんが育っていることと思います。

ただ、それでもあと何年かは、今のスタイルで仕事を続けられると、私は考えています。いつまでと言えば、それは支えてくれる職人がいる限り。そして思わず店に置きたい、扱いたいと思わせる品物がある限り。そして仕事をする限りは、リアルな呉服屋の日常を、このブログで発信していくつもりです。

この先の職人と品物の行方は、バイク呉服屋そのものの存続に直結し、それはまたブログの存続ともリンクすることになります。絶望的と口で言いながらも、結構頑張ってしまうだろうなと、自分では思っています。最後に、この10年の間、つたない私のブログを読んで頂いた全ての方に、感謝申し上げます。これからも、どうぞよろしくお付き合いくださるよう、お願い致します。

今日も、長い話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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