バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

10月のコーディネート 渋い秋色小紋を、個性的な型絵帯で着こなす

2022.10 27

人それぞれには好む色があり、それによって行動や心のあり様が判る。色彩心理学とは、色を使って人間の心を研究する学問。色は各々に特徴があり、そこには様々な意味合いを含んでいる。だから色からは、性格や特質を知ることが出来るという訳だ。

明るい色、暗い色、強い色、弱い色、硬い色、柔らかい色など様々に分別される色。だが好む色を聞かれても、何故その色が好きなのかを、理路整然と答えられる人は少ない。すなわち、色に関わる好き嫌いはあくまで直感的なモノで、それこそ人の心理に関わることなのだろう。

 

ネットには、色を使って性格診断をしてくれるサイトが沢山ある。それは性格だけでなく、色の好みによる相性の良し悪しや、その色を好む時の心理状態にまで言及しているものも多く見受けられる。ただし、それが当たっているか否かとなると、あまり信用できそうもない。

パステル系地色の品物を好んで扱うバイク呉服屋は、薄いピンクや柔らかい黄緑、そして目に優しい水色などが、好きな色の範疇に入る。これを某性格診断に照らしてみると、ピンクを好む人は母性的で思いやりがあり、黄緑は好奇心が旺盛、そして水色は繊細で思慮深いとある。独善的で意固地で、適当極まりない自分の性格を考えれば、この診断は、いかにもかけ離れたものに映る。

 

だが性格はさておき、色の特性が人に与える影響を考えると、人が色を好む背景のようなものが見えてくる。例えば、パステルカラーを色の強弱から考えれば弱い色で、硬軟で考えれば柔らかい色になる。このことからは、インパクトは無いが、さりげなく優しく、柔らかい印象を持つことが判る。そして陰陽を考えれば、明度の高い陽性の色なので前向きな印象、また赤や橙のような華やかさは無いが、落ち着きを感じさせてくれる静かな色に分けられる。控えめで明るく、上品な着姿を理想とするコンセプトがあるから、パステルを選ぶ。こうした自分の色の好みが、何となく理由付けされて、理解出来たような気がする。

確かに店の棚に並ぶ品物は、パステル系が多い。ただ、全てと言う訳では無い。私だって、同じパターンの品物ばかりでは、飽きが来てしまうので、たまには変化球も荒れ球も投げる。そこで今日は、パステルから離れた面白いコーディネートをご紹介してみる。イメージチェンジとまでいかないが、何時もと違う雰囲気を感じ取って頂きたい。

 

(黒地 葡萄唐草模様・小紋  白地 クローバー模様 岡田その子製作・型絵染帯)

いわゆる「無彩色」と呼ばれる色は、色に含まれる三つの属性(色相・彩度・明度)のうち、色身を特徴づける色相を持たず、それに従って彩度の無い、明度だけを持つ色。これに定義される色は、黒と白、そして黒と白を混合することで得られる灰色。灰色は黒白の調合具合により、色に濃淡が出るが、いずれにせよ無彩色である。

その昔は、白黒テレビや白黒写真が当たり前だったが、これこそが無彩色・モノクロームの世界。今も時代を回顧するような場面では、故意に映像をモノクロ化することがあるが、画像から受ける特有の暗さは、見る者を一気に過去に引き戻す効果がある。彩度が無く、また明度も低いとなれば、どうしても重厚で沈みがちな印象になってしまう。

けれども、無彩色でありながらも、色の乏しさを感じさせない品物がある。それは、モチーフの取り合わせとデザインの工夫によってカバーされており、明度の高い有彩色の品物ではまず感じ得ない、独特の雰囲気を醸し出している。今回のコーディネートでは、そうしたモノトーンの気配の中に、可愛さや楽しさを合わせ持つような、重さを消した軽やかなカジュアル姿を演出してみよう。

 

(一越黒地 葡萄唐草文様 小紋・トキワ商事)

唐草文様のモチーフ・その原点とされる植物は幾つかある。アカンサス(アザミ)やナツメヤシ(棕櫚)、蔦、蓮などが挙げられるが、中でもキモノや帯の図案として「特に文様化」しているのは、牡丹と葡萄であろう。古来より富貴の象徴と見なされていた牡丹、そして聖なる植物として認識されていた最古の栽培植物・葡萄。植物として特別視されているこの二つが、唐草文の中心的存在になるのは、歴史的経緯から考えても、当然のことと言えよう。

ヨーロッパで葡萄栽培が始まったのは、およそ紀元前3000年とされ、葡萄酒はそれ以前に存在していたと確認されている。酒を飲むことで得られる陶酔や快楽が、次第に葡萄という植物そのものを特別視し、尊ぶことにも繋がっていく。後に古代ギリシャやローマで、神への捧げものとなり、キリスト教の聖餐式(キリストの体を信徒が分け合う儀式)において、葡萄酒がキリストの血として認識されていることなどを考えると、葡萄が人々にとっていかなる植物だったかが、よく理解出来る。

 

であるから、いち早く装飾デザインのモチーフとなり、古代建築物における様々な柱や壁に描かれてきた。そしてこの唐草文の様式は各々の国で異なり、それぞれが混在しながら、シルクロードを通り中国から朝鮮半島、そして日本へと伝わった。その過程では、複数の様式にさらにアレンジが加わり文様の幅が広がる。正倉院の宝物や法隆寺の献納品を見れば、この文様のあしらいが多岐な品物にわたっていることが見て取れる。

葡萄唐草文は天平期を盛りとして一旦は姿を消すが、南蛮貿易により葡萄酒が輸入された桃山期頃から、写実的な葡萄文様として意匠化されるようになる。現在キモノや帯の中で表現される葡萄は、やはり多くがその唐草文。伸びやかで流れがあるだけでなく、装飾性も高い。その上に季節を問わないことから、実に使い勝手の良い文様として、フォーマル・カジュアル問わずに様々な品物に登場する。今回の小紋も、その一つ。

小紋の地色はほぼ黒なのだが、僅かに茶色味を残す「深い褐色」のように見える。唐草の配色は柿渋のような茶色。葡萄の実だけが白い。そのためこの小紋は、本来の葡萄とは違う渋い印象を残している。流れのある唐草文で、反幅いっぱいに文様は広がっているものの、黒や茶を中心とする彩度の低い小紋。こうして画像を見ても、如何にも地味である。

パステル系の地色や配色が中心で、明るく優しい雰囲気の品物を至上とするバイク呉服屋の好みからは外れてはいるが、それだけに棚の中では目立つ。私としては「変化球の仕入れ」と言えるが、これはキモノ用だけでなく、羽織用とも考えて選んだ小紋だ。ではこの落ち着いた葡萄唐草を、お洒落に、そして少しだけ可愛く演出できる帯を探して、個性的なコーディネートを試してみよう。

 

(白地 クローバー模様 型絵染 紬九寸名古屋帯・岡田その子)

白紬地の帯幅いっぱいに描かれた、大きなクローバーの葉。見ようによっては、ポピーにも蝶のようにも見えるデザイン。配色はほぼ黒とグレーだけで、地の白を、図案の挿し色としても生かしている。僅かに花の蔓に緑が覗くが、モノトーンの帯と言っても良いだろう。

この帯は、作家・岡田その子さんの手による型絵染で作られている。従来の型染とは、江戸小紋や長板中型のように原則は単色。これに対し紅型は、型紙で糊置きをし、糊を置いていない文様部分に色を挿す多色染である。この紅型の技法を基礎として、分業で行われていた作業工程・型紙彫、型付、色挿し、地染を一人でこなす独創的な作家が現れた。それが芹沢銈介氏である。1956(昭和31)年、芹沢氏の仕事を重要無形文化財に認定する際、従来の型染と差別化するために、一人の作家が一貫して仕事を行い仕上げた品物に対して、「型絵染(かたえぞめ)」という呼称を与えたのである。

お太鼓の図案は黒とグレーの二葉で、前は少し小さい黒の葉模様。明るい挿し色は無いものの、地色が白なのですっきりした印象が残る。それに何と言っても、図案が可愛くデザインされている。締める人が思わず楽しくなるような、そんな遊び心のある葉模様。シンプルでモノトーンな色使いが、かえって若々しく斬新なイメージを持つ。

幅を一杯に使った大胆な花葉。黒とグレーの花弁、黒と白の花芯、白く繊細な蘂。単純な挿し色だけに、インパクトがある。図案の個性が、そのまま着姿の表情となるような、クセのある可愛い帯。作者の岡田その子さんは、花だけでなく、楽器やアメ玉、雪だるま、猫などのユニークなモチーフを次々と帯模様にデザイン化している。これはいわば、和装における「ファンタジーアート」と言えるかもしれない。

それでは、渋い葡萄唐草小紋にこのファンタジア帯を合わせると、どのようになるか。試すことにしよう。

 

こうして合わせて見ると、キモノも帯も一つも明るい挿し色が無いのに、それほど暗さを感じさせない。キモノは地味なのだが、帯の大胆な意匠がそれを消している。ポイントは、帯が白地であること。明るい白地が大胆な葉模様を浮き上がらせ、それがキモノの渋みを消している。そして双方のシンプルな色使いは、着姿全体に相乗効果を及ぼし、落ち着きの中に大人可愛さが感じられる。

キモノは流れのある図案で、帯は大きなポイント柄。そしてキモノは文様で、帯はデザイン。どこまで行っても対照的な組み合わせなので、とても面白く、それが個性的なコーディネートを演出している。

これこそ、ワンポイントのシンプルな前姿。小紋の黒地と帯の黒花弁、葡萄柄の白と帯の白地がリンクして、ピタリと収まっている。キモノの雰囲気は、帯でいかようにも変えられる。それが良く判る組み合わせかと思える。

帯〆と帯揚げは共に、色は茶が基調。全体を同じ雰囲気にする意図で使ってみたが、赤とか黄色など、思い切った原色を合わせても面白いのではないか。この帯は、帯〆の色一つで雰囲気が変えられるはず。イメージを広げ、装う人が多様に楽しむことが出来る組み合わせになりそうだ。(帯〆・龍工房 帯揚げ・加藤萬)

 

今日は、バイク呉服屋らしからぬ「モノトーン・コーデ」を試してみたが、最後は、ある程度「らしく・可愛く」まとまったように思える。先述したが、やはり「キモノは帯で決まる」のではないだろうか。キモノの渋い色も、堅い図案も、帯次第で着姿の印象が変わっていく。カジュアル姿では、そこに何をどのように合わせようと、自由にして自在だ。

何よりも、楽しんで着こなすことが大切。カジュアルのコーディネートを試す時には、いつもそう思う。毎回お目に掛ける私の勝手な選択が、少しでも皆様の参考になれば良いのだが。最後に、今日ご覧頂いた品物を、もう一度どうぞ。

 

自分に馴染みのない色を装うというのは、なかなか勇気が必要です。人それぞれが持っている「自分のイメージカラー」は、そう簡単に変わりません。何故ならば、好む色の背景には、その人の心が反映されているから。ですので、自分が好きな色はやはり安心出来て、違う色だと何とはなしに不安になってしまうのです。

ただ、キモノや帯を選ぶ時には、この図式が少し外れることがあります。お客様からも、「洋服では絶対に選ばない色でも、キモノや帯だと装ってみたくなる」という話をよく耳にします。おそらくそれは、和装はキモノと帯を組合わせた全体像が、色のイメージに繋がっているからで、洋装とは違う「複合的なもの」だからなのでしょう。

和装だからこそ、試せる色がある。ぜひ皆様にも、自分の殻を打ち破って、多彩なコーディネートを楽しんで頂きたいと思います。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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