バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート(後編) 今年こそ、浴衣の装いを 新粋染編

2022.06 26

とうとう、店の空調機が壊れた。数年前に暖房が効かなくなり、クーラーだけは何とか動いていたのだが、今月初め試運転をしたところ、すぐに止まってしまい、何も反応しなくなった。もう駄目とは思ったものの、メーカーの修理担当の方に来てもらって、一応様子をみてもらう。そして、もうどうやっても直らないことが確認された。店のビルを建てた時に設置したので、36年間動いたことになる。メーカーの方に言わせれば、もう十分元は取ったのではとのこと。今まで壊れなかった方が、不思議であった。

厳しい甲府の夏に、冷房無しで店を営業する訳にもいかず、新調せざるを得ない。店の空調は天井埋め込み式で、しかも室外機は屋上設置。商店街の中にあり、スペースが限られているので、家庭用の壁掛け式は使えない。業務用で工事の手間もかかるとなれば、どうしても高額になる。出費はかなり嵩むが、致し方ない。しかも、今年は半導体不足で、品物が枯渇しているとのこと。設置に迷っていれば、夏の間クーラー無しになりかねない。そこで、早々に機種を決めて発注してもらい、先週工事が終わった。

 

今回依頼した設備会社の方によれば、今の機械の使用年限は10年程度。部品の供給も同じくらいが目途なので、それ以降は壊れても直せない。昔の製品は作りが単純で、修繕も容易かったらしいが、新しく生み出される製品は、尽く多機能化され、仕組みが複雑になっている。だから当然部品も多岐にわたるため、直すことは難しくなっている。

私に言わせれば、冷房は冷えれば良く、暖房は暖かくなれば、それで良い。温度や湿度の自動設定機能や、空気清浄機能、無論タイマーやリモコンも必要ない。機能は、単純にして明快でなければならないと思う。俗に「白物家電」と呼ばれる家庭用の電化製品も、同様に多機能化され、壊れたら直すのではなく、壊れたら新しく購入するという意識が、消費者の間に定着しつつある。痒いところに手が届くような利便性が、皮肉にも、使い捨てを助長している。

 

電化製品に限らず、服飾品も安価なファストファッションが社会を席巻し、人々の間では安く買って、飽きたら捨てる習慣が常套化している。その結果、丁寧に作ったモノを、大切に長く使う意識が消え、品物に対するぞんざいさばかりが、目立つようになってしまった。

しかし、そんな風潮が蔓延している社会にあっても、きちんと和装を嗜む方々は、品物を慈しむ心を持っている。汚れたらしみを抜き、体型が変わったら寸法を直す。しかも、自分だけではなく、受け継ぐ人のことも考えて優しく使い続ける。そして、作り手のこと、直し手のこと、職人それぞれの仕事を理解し、尊重する。バイク呉服屋が仕事を続けられているのも、そうしたお客様に支えられているからこそ、である。

さて前回に引き続き、浴衣コーディネートをご覧頂くが、今日は素材と型紙にこだわった「夏キモノ的浴衣・絹紅梅」を取り上げる。浴衣の範疇にあるとはいえ、こだわりを持って作られた、専門店の棚に並ぶに相応しい、美しい夏モノ。それは、きちんと作ったものを、きちんと着たいという、キモノ愛好者の心を捉えて止まない品物かと思う。では、始めることにしよう。

 

(左から、風車蘭・微塵鱗・蝶連ね いずれも新粋染の絹紅梅)

浴衣と言えども、手彫りされた型紙を使い、型付けして地を染めていく手順は、絹モノの小紋染めと何ら変わりはない。だがそれは、使う生地の違い、染め方の違い、またあしらう模様やその大きさによって、品物の雰囲気は大きく変わってくる。

そんな浴衣のルーツは、平安時代に入浴着として使った、麻素材の湯帷子(ゆかたびら)。これが、町に風呂屋が出現した江戸初期になって湯上り着となり、次第にちょっとした外歩きにも用いられるようになった。現代では、夕涼みに着るだけでなく、お祭りや花火大会など、夏のイベント着としても定着している。また、夏のお出かけ着に相応しい「高級浴衣」もある。こうして着用の場が広がったことで、浴衣の使い分けも、様々に考えられるようになった。

ただそんな中でも面白い位置付けなのは、お相撲さんが、普段の生活着として使う浴衣。相撲の中継では、出番を待つ花道の奥で、廻しの上に浴衣を引っ掛けている姿をよく見かけるが、このような、稽古や取組の前後に着用する浴衣のことを、相撲の世界では「泥着(どろぎ)」と呼ぶ。浴衣は、体に付いた土で汚れても構わない生活着であり、それはこの衣が、力士の生活の一部になっていることを端的に示している。

 

話が少し逸れてしまったが、これからご覧頂く絹紅梅は、最もキモノ的で、高級感に溢れた品物。綿コーマ、綿紬、綿絽、綿紅梅と多様な浴衣生地はあるが、軽やかさ、涼やかさ、しなやかさ、そして着心地の良さにおいては、他の浴衣素材の追随を許さない。そして精緻な技を駆使した型紙を使い、模様には趣向を凝らす。その意匠はどれも、とても浴衣とは思えない、垢抜けた美しい姿が見受けられる。

今回コーディネートに使う絹紅梅は、春先に送ってもらった型紙見本帳から選んだ「新粋染」の品物。先月8日の稿では、見本帳を前にして、仕入れに悩むバイク呉服屋の姿をご紹介したが、その時の答えが、これからご覧頂く三点の絹紅梅ということになる。

 

(白地 風車蘭模様 絹紅梅・新粋染  苺色 横段更紗模様 麻九寸帯・竺仙)

反巾いっぱいに蘭の花をあしらった、モダンな絹紅梅。夏帯には珍しい、鮮やかな苺地色にチューリップのような唐花を横段に三つ並べた、麻の九寸名古屋帯。

蘭の五弁花が立体的に模様付けされており、それが見方によっては、風車の羽に見える。配色は葉が白で、花が藍と黒。花芯に使っている黒がアクセントになり、風車蘭の姿を引き締めている。ここが違う色だったら、全く違う雰囲気になっているだろう。そして花弁と葉の中にあしらわれた波紋のような筋により、流線的な図案の姿が強調されている。

白い生地面から、ワッフル状の畝が浮き上がる。細い絹糸を地糸に使い、太い綿糸を勾配糸に使う。この勾配糸を何本おきかに織り込むことで、こうした四角い畝が表面に表れてくる。この絹紅梅は、絹52%・綿48%の糸比率。この僅かに付く畝のでこぼこが、さらりとした風合いを呼び込む。実は6年前に、これと同じのモノを扱っている。型紙染なので、紙が破損しない限り何回でも染められるが、年を経て同じ柄を仕入れることは珍しい。それだけこの風車蘭が、私のツボを捉えていることになるのだろう。

帯地には市松状に織り込んだ麻生地を使い、模様は横に蔓を伸ばした唐花。伸びやかで、優しい色使いで、地の苺色も夏帯には珍しい。風車蘭と横段唐草を組み合わせて、現代的な可愛い着姿を作る。伝統的な江戸っぽい夏姿と対称的な、こんなコーディネートも人の目を惹く。

帯の前模様は、長方形の囲みの中にすっきりと描かれている。ピンク唐花が優し気で、キモノと合わせた時に、全体を柔らかみのある姿に映す。帯〆は、白とピンク二色のレース組紐。絽の帯揚げは、白に赤楓の飛絞り。小物にも、帯の可愛さを引きたてる色を使う。(帯〆・翠嵐工房 帯揚・加藤萬)

 

(藍色地 蝶模様 絹紅梅・新粋染  カナリア色 蔓唐草模様 紗八寸帯・捨松)

白抜きと二色の藍濃淡で染め出した、重ね蝶模様の絹紅梅。カナリアの羽のような明るい薄黄色地に、縦に真っすぐ蔓が伸びるシンプルな紗の八寸帯。

最初の風車蘭に比べると、各々の図案が小さくなった蝶模様。下の地がほぼ空いてない連続模様で、いかにも小紋的な紅梅。白抜きの蝶と、紅梅生地の畝格子をそのまま羽模様に使った二種類の蝶を、バランスよく配置しているので、模様が平板になることなく、メリハリが付いた面白い意匠になっている。

白抜きの蝶、紅梅格子を使った蝶、そして錐彫を使って模様を起こした蝶。図案をよく見れば、型紙の精緻さがよく判る。これはもう浴衣と言うより、絹と綿の混紡小紋と呼ぶ方が相応しい。色が藍目なので、深紺よりも軽やかで爽やかな印象を残す。また、蝶の図案がそれほど写実的でなく、しかもぎゅうぎゅうに密集している。なので、誂えてキモノの形にしてみると、蝶模様としての意識が薄くなりそう。

蝶の黄色をイメージして、帯合わせの色に使ってみた。そして、最初の風車蘭の帯合わせと同様、キモノの模様が密なので、すっきりした着姿を目指し、あえてシンプルな模様の帯を用意した。地色は黄色でも、カナリアの羽のように柔らかみのある優しい色。図案は、縦に伸びた一本の唐草があるだけ。地が大きく空いているので、カナリア色が前に出て、明るい着姿になるはず。

帯の前模様は、お太鼓と反対で横並びになる。ちょっとモダンな唐草図案が、前の着姿からは覗く。密集した紅梅の蝶とのバランスも、上手く取れているように思う。小物の色に、黄色より少し濃い橙色を基調にしたものを使い、アクセントを付けてみた。帯揚げは、白地に橙色の小さな撫子模様、帯〆は白と橙色の平源氏組紐。(帯〆・帯揚共に加藤萬)

 

(白地 微塵鱗模様 絹紅梅・新粋染  銀鼠地 細組紐模様 紗八寸帯・滋賀喜)

極めて小さい鱗文が行儀よく並ぶ、江戸小紋的な印象が強い絹麻紅梅。帯は浅い鼠色地に、細かい五色の糸を織り込んで、組紐のような筋を模様にした紗の八寸帯。

反巾いっぱいに、逆三角形の小さな鱗模様が整然と並んでいる。配色は水色と黒で、一段ごとに分けられている。前の二点が通常の小紋的図案とすれば、こちらはまさに、武家の裃柄的な江戸小紋図案。特にこの鱗文は、魔除けの意味を持つ文様として、武具や戦陣服にあしらわれてきたので、なお渋い模様姿になっている。

この型紙は、刃の先が鱗の形になっている刃物を使い、模様が彫り抜かれている。こうした連続した小紋柄を、模様刃一突きで表現する技法が「道具彫」である。鱗だけでなく、小菊や小桜、亀甲、菱などの様々な小紋柄が、この道具で形作られることになる。

紅梅生地の上に、整然と並ぶ鱗。三角形は対角にも並んでいるので、一つ一つの小さな鱗が連なり、大きな鱗文にも見える。文様を長く眺めていると、様々な大きさの鱗文が入っているような錯覚を起こす。遠目からは無地にしか見えないが、近づくと、こんな型紙の面白さを理解出来る。

そしてこの鱗紅梅のもう一つの特徴は、素材が絹と麻で出来ていること。通常の絹紅梅では、絹と綿の混紡だが、これは畝を表現する勾配糸に、麻を使っている。そのため綿よりも畝が細く、余計に生地が軽くふわりとしている。比率は、絹61%・麻39%。絹に合わせた素材が麻なので、当然その分通気性が良い。これは紅梅として、もっとも着心地の良い贅沢な品物になるはず。

帯の表情からは、縦に細い金糸や多色の糸が、まだら状に織り込まれていることが見て取れる。この織り込まれた糸を組紐に見立てて、模様にしている。製織した滋賀喜織物は、上質な箔糸や色糸を使い、手機にこだわって帯を織り続けている老舗。この正倉院平組と称した図案も、シンプルでありながら、涼やかさが感じられる良品。

江戸小紋的な鱗模様だが、あくまで薄物の紅梅なので、夏らしさが実感出来るような帯合わせを考える。模様に主張は無く、斑状の色のグラデーションがこの帯姿の全て。だがシンプルさが、品の良い夏のお召モノとして印象を残す。どちらかと言えば、少し大人の合わせ方になるだろうか。小物は、鱗文に付く薄水色を使って爽やかに。帯揚げは、紗の薄水色の暈し、帯〆は薄鼠に水色を挟んだ畝打組紐。(帯〆・龍工房 帯揚・加藤萬)

 

今夏、バイク呉服屋が悩んで仕入れた三点の絹紅梅を、帯と共にご紹介してきた。新粋染と竺仙は、それぞれに型紙に趣向を凝らし、個性豊かな浴衣や紅梅モノを染め続けてきたが、今回ご覧頂いた品物でも、染屋の個性を感じて頂けたように思う。

そして、どうして絹紅梅が、浴衣の範疇を越えた夏キモノとして認識されているか。それが型紙の精緻さや模様のこだわりに基づいていると、皆様は理解されたのではないだろうか。型紙を使って染めた美しい浴衣。これを次の時代に残すためには、作り手である染屋と、売り手である小売屋が、一体となって努力していく必要がある。ホンモノが消えて、コピーされたプリント浴衣だけになれば、それはもう浴衣は、呉服屋が扱う品物では無くなる。最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度ご覧頂こう。

 

安く求めて、飽きたら棄てて、また次に新しいモノを安く求める。浴衣も、ファストファッションのサイクルの中で扱われることが多くなりました。模様はプリント染で、ミシン縫いされたプレタ浴衣が、今は主流になっています。価格が安く求めやすい、だからこそ、毎年違う色や模様のモノが着用出来る。確かにその利点はあるのかもしれませんが、それでは見た目と価格だけが、購入する時の判断材料になってしまいます。

簡単に買えて、簡単に着用できることは、もちろん否定するものではありませんが、呉服屋としては、そうでない品物も存在することを、どうしても伝え続けなければなりません。職人が手で型紙の模様を起こし、また別の職人がその型紙を使って、手で染める。そして出来上がった反物を、職人の手でキモノに誂える。「手を施す」ことが無くなってしまえば、もう呉服屋の存在価値はありません。端折ることばかりに気を取られ、本質を見失う。すべての事象に蔓延しているこのことが、社会や人の心を、歪めているように思えて仕方がありません。

便利さ、あるいは簡単に出来ることに慣れることが、一番危ないのかもしれませんね。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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