バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

3月のコーディネート  可愛い春小紋で、陽光溢れる街へ

2022.03 13

ブログを書き始めて、8年10か月。今日のこの稿が、634回目になる。日付の履歴を見ると、最初の年・2013年には、月平均で13回も投稿している。ほぼ2日に1回のペースで、よくこれだけ速く記事を起こせたものだと、我ながら感心する。おそらく、書きたいネタを沢山持ち合わせていて、その思いが原稿に溢れたのだろう。

ここ数年は、ひと月に4回の更新になっていて、ほぼ一週間に一度の割合。昔と比べれば発信する情報量が少なく、筆の進みは遅い。前なら3時間で仕上げた原稿も、今は倍以上の時間を費やさないと終わらない。年齢のせいにはしたくないが、集中力が持続しなくなった。

 

一度の原稿で書く文字数は、平均4000~5000字なので、400字詰原稿用紙だと、10~12枚になる。とすると、これに更新回数を掛け合わせてみれば、今までに7000枚もの原稿を起こしたことになる。その上、ブログには必ず画像を掲載している。多い時で10枚、少なくも3枚程度はある。

この画像が問題で、キモノや帯の地色や挿し色は、本当の色が上手く写せない。写す光の角度によっては、全く別の色になることも珍しくない。読者の方はお気づきかと思うが、原稿の中で同じ品物の画像を数点載せていても、色の気配が全部違ってしまうことがある。私の写す技術が、一向に上がらないのが大きな要因だが、どうしたら改善できるのかと、撮るたびに試行錯誤を繰り返している。

 

一つの記事に使う画像は数枚だが、実際に写しているのは十倍以上。特に毎月掲載するコーディネートの稿では、使うキモノと帯それぞれや、小物合わせの画像など、だいたい200枚以上は撮ることになる。そして、この中から使えそうな画像を毎回20枚ほどピックアップし、ブログサイトの方へアップロードする。

こうしてサイトには画像が溜まり続け、それがサーバーへの負担となる。結果ここ数年は処理能力が低下し、速度は限界まで遅くなっていた。このままの状態では、いずれ読者の方々もイライラさせてしまい、編集作業にも影響が出る。こうしたことから、ブログを管理している会社に相談して、容量の大きなサーバーに切り替えることにした。

 

今月から来月にかけては、この切り替え作業のために、原稿がアップ出来なくなる。読者の方が記事を読む分には、何の影響も無いのだが、3週間ほど(3月20日~4月10日)は新しい稿が出せない。これだけ休むのは、ブログ開設以来初めてのこと。更新が止まると、何かあったのではと思われても嫌なので、この場を持ってお知らせした。

ということで、この稿が今月は最後になるかも知れないが、やはりコーディネートの稿は欠かせない。春らしい可愛い小紋を取り上げて、帯合わせを考えてみたい。つまらない前置きが長くなったが、始めることにしよう。

 

(クリーム地小紋・二点  葉繋ぎ小花模様と露芝にチューリップ散らし模様)

考えて見れば、小紋ほどバリエーションに富んだアイテムは無い。その使い道は、江戸小紋や飛柄小紋のように、無地代わりや茶席に使ったりと、準フォーマル的な役割を持つ品物がある一方、気軽な街着として楽しめるもの、そして模様によっては長羽織として着用されるものもある。

そして作り方も、精緻な型紙を使って手染めする江戸小紋や型絵紅型小紋、模様の色挿しを手で行う加工着尺、蠟で模様部分を防染するローケツ小紋などがあり、模様の中に絞りや箔、刺繍のあしらいを併用することもある。そして、以前このブログで紹介した桜と桃の小紋のように、糸目糊を置く手描友禅で作ることも出来る。その一方で、ロール捺染やスクリーン捺染、インクジェット等、機械で簡単に染める小紋もある。徹底的に人の手を尽す品物から、全く人を介入しない品物まで、作り方は千差万別である。

 

あしらう模様も、日常の装いを念頭に置いているだけに、非常に自由度が高い。遊び心に富む楽しい模様や、特定のモチーフを使って旬を意識させる図案など、小紋ならではの意匠も、数多く見つけることが出来る。そして帯次第で着姿が変わり、コーディネートの楽しさが実感できることも、小紋の大きな特徴と云えよう。

そこで今日は、柔らかい陽ざしの下で装いたくなるような、優しく明るい雰囲気の小紋で春姿を考えることにしよう。使う二点の品物はいずれも、生成色に近いクリーム地。

 

(クリーム地 葉繋ぎ小花模様・小紋  紅色イカット縞・経錦名古屋帯)

今日のテーマは、心浮き立つような明るい春姿。そこで選んだのは、地色に色の気配の無い小紋。真っ白の地だと逆に目立つが、こうした生成のクリーム色ならば落ち着きと柔らかみがあり、その上模様の配色も生きてくる。そして帯は、明るさがより引き立つような、可愛い品物を選んでみた。

昨今では、地味な小紋はあっても、若々しい小紋は少なくなったとされている。だがバイク呉服屋の棚は逆で、渋い色や地味な柄行きは少なく、パステル系のはんなりした品物が目立つ。どちらかと言えば、秋よりも春を感じさせるものが多く、今回のような組み合わせは十八番(オハコ)である。

 

(一越生成色 葉繋ぎ小花模様・小紋 菱一)

散らした小花を、葉が付いた蔓で結び合わせた可愛い模様。地色は乳脂を感じさせる柔らかなクリーム色。模様の配色は、ピンク・黄・水色で、葉は若草。全体がパステル系でまとまり、春の雰囲気を匂わす。花はデザイン化されていて特定出来ないが、図案も挿し色も若々しい。

模様をよく見ると、四枚の花弁を等間隔で繋いであり、一定の規則性が感じられるが、蔓が波打っているので、図案に柔らかみが出て堅苦しくない。四隅に小花を置いた菱形にも見えるが、模様が込み入らず、地空きの部分も目立つので、総柄ながらもすっきりとした印象を持てる。

このままブラウスとして使っても、違和感のない模様。そんな和洋兼用的な図案だけに、気軽な街歩きで装いたくなる。どこから見ても、春らしい小紋と思う。

 

(薄桜色地 紅色イカット縞模様・経錦九寸名古屋帯 木屋太今河織物)

パステル調の小紋を、より春らしく演出するためには、ピンクを主体とする色の帯を使うのが手っ取り早い。がしかし、ピンク系の帯色は極めて少ない。その上、あまりビビッドな色の気配では、小紋のはんなりさが消えてしまう。求めるのは、柔らかみのあるピンクや赤である。

そこで見つけたのが、この木屋太のイカット縞。等間隔にある三本の太縞の中に、絣を模した図案を織り込んでいる。地色は薄桜で、縞は濃ピンク、絣はその中間的な色。地色を含めて全てピンク系の配色だが、模様ごとに上手く濃淡が付いていて、くどさを感じさせない。全体として、柔らかいピンクに包まれる珍しい帯姿。では、双方をコーデネートしてみよう。

 

キモノがデザイン化した小花模様で、帯は幾何学的な絣図案。組み合わせを考えた時、片方が写実の時は、もう一方を抽象にすると、まとまりやすい。流れのある小紋柄を、帯のイカット縞が上手く抑え込んでいる。ピンクの小花と帯の色合いをリンクさせたことで、間違いなく春らしくなる。

前模様でイカット縞が横になると、より着姿がすっきりしてくる。総柄小紋の場合では、無地場の多い帯の方が締まる感じが出る。特に前模様では、その傾向が強い。

ピンクを基本としたコーディネートなので、小物も同系でまとめる。可愛さを前に出すと、こうなる。ただ帯揚げと帯〆は同系ながら、色の気配を変えている。少しずらすことで、映りにアクセントが付く。帯〆・帯揚げ共に今河織物の品物なので、帯も含めて三点同じメーカーの製作になる。だからであろうか、全体の色の気配が統一され、ピタリと収まっている気がする。

 

(クリーム地 露芝にチューリップ散し模様・小紋 小格子花菱模様・織名古屋帯)

春のモチーフを考える時、植物図案では、その多くを日本的な花に求めているだろう。春の始めには梅や椿、彼岸前の今頃からだと桜、花見が終わる4月中旬から藤、夏近くの晩春には葵。一口に春と言っても、その時期によって、相応しく感じる春花がある。

日本の伝統衣裳、キモノや帯の意匠なので、和花が多くなるのは当然だが、中には洋花を使った図案も見られる。この傾向は、明治中期辺りから始まり、大正から昭和初期に流行となって現れる。これは明らかに、アールデコの様式に影響を受けたもので、日常着の銘仙や小紋の図案として採用されることが多かった。

模様となった春の洋花は、バラを始めとして、ダリア、カーネーション、ヒヤシンス、アイリス、プリムラなどが見られる。特にバラは、流麗な花姿や洗練された色合いから、様々に文様の中に取り込まれ、大正時代には先端を行く流行模様の一つとなった。

 

(一越生成色 露芝にチューリップ模様・小紋 トキワ商事)

チューリップは、その花姿の可愛さや多彩な色合いから、一本でも群れても絵になる。写実に描いても良く、またデザイン化もしやすい形状から、洋花ではあるものの、モチーフとして使いやすい植物と思われるが、現代のキモノや帯の図案としては、意外なほど使われていない。

この図案は、小さく束にした赤や橙色のチューリップを、若草色の露芝の中に散らしてある。草いきれの中で咲いているような可愛いチューリップは、柔らかい配色もあって、春の息吹を感じさせてくれる。最初の小紋は、デザイン化した花を使っていたが、こちらは模様の表情そのものに、季節が表れている。

模様の繋がりはないが、チューリップの花色にアクセントが付き、その他の配色がおとなしいだけに目立つ。着ている人も、着姿を見いている人も、春を実感する。そんな小紋かと思う。模様が装い全体を埋め尽くし、それが印象となって強く残る。総模様の小紋でしか表せない特別な演出であろう。

 

(白地 小格子にダイス型花菱模様・織名古屋帯 川島織物)

前の木屋太・イカット縞帯は、小紋図案の小花のひと色を合せたものだが、この川島の帯とチューリップ小紋の地色はほぼ同じ。ただ、帯地にチェックが入っているので、ある程度キモノとのコントラストは付く。チェック地とは珍しく、それだけでモダンな感じを受ける。

ダイスの5の目のように、正方形に切り取られた図案。中には形を変えた多彩な花菱文様があしらわれている。どことなく唐花っぽくもあり、図案の面白さが目を惹く。織り方はモール織のような浮織で、地から模様が浮き上がるように立体的に見える。花菱や格子模様の配色が春らしく、優しい帯姿に見える。

 

色の雰囲気がほぼ同じの、似た者同士の組み合わせ。クセの無いクリーム色は、やはり春の温かみを感じさせる色。そして、全体から見れば小さいチューリップだが、きちんと春の着姿としての役割を果たしている。

前模様を合せると、思いのほかに帯地の小格子が目立つ。このチェックの色と露芝の草色がリンクしているので、コーディネートしても違和感が無い。キモノは植物文、帯は幾何学文と、こちらも対照的な図案の取り合わせ。

小物には、ほとんど色のアクセントを付けない。帯〆には、帯模様の中にある橙色など、少しビビッドな色を使っても良いが、あえて淡いオレンジにした。全体をふわりと見せるように意図した組み合わせだが、果たして上手く映るだろうか。      (帯〆・近江 藤三郎紐 帯揚げ・加藤萬)

 

今日は、暖かい陽光を感じながら街歩きを楽しめる、春の小紋コーデネートを二組ご紹介してみたが、如何だっただろうか。ここ二年は、蔓延する疫病に苛まれて、春を自由に満喫することも叶わなかった。残念ながら三年目の今年も、然りである。

今はまだ大手を振って、どこへでも出かけていける状態にはなっていない。だから、「キモノで街に出よう」と呼びかける今日のタイトルは、現状にはそぐわないだろう。けれどもキモノファンの方々には、日常の中で装う楽しさを持ち続けて頂きたいと、切に思う。この先、いつの日か春が巡り来ることを信じて、呉服屋として情報を発信し続けたい。そんな思いを込めながら、今日はコーディネート原稿を書かせて頂いた。

最後に、ご紹介した品物をもう一度ご覧頂こう。

 

 

サーバーの切り替えに伴い、今月はいつもより早めに、コーディネートの稿を書かせて頂きました。あと一週間ほどは、原稿をアップすることが出来るようなので、もう一回稿を起こすつもりでいます。

ここ数日は水も温み、朝晩の冷え込みが緩まる気配を感じます。本来の春ならば、明るく前向きな気持ちになるところですが、聞こえてくるのは、銃声に怯える無辜の市民の悲痛な叫びと、一向に収まらない疫病に対する怨嗟の声ばかり。出口の見つからない暗闇で、多くの人がもがき苦しんでいます。

平和の尊さと健康であることの有難さが、身に染みる毎日。何事もなく過ごせることが、どれほど大切なことか。これを考えれば、厳しい仕事の現状など、大したことではありません。これからも、自分が今出来ることを考えながら、本当の春が訪れる日をじっと待ちたいと思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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