バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

11月のコーディネート 甘いスウェーデン刺繍の帯で、初冬の街へ

2021.11 18

女性のファッションとして、「甘い服」なるものがあるらしい。果て何ぞやと思って調べて見ると、それは着用するだけで、女性の可愛さが引き出される服のこと。フリルの付いたスカート、リボンのあるブラウス、レースや花柄プリントも「甘い要素」となる。色目は、明るいパステル系が中心。つまりは、女性らしい優しい雰囲気を着姿から醸し出すことが、甘い服となる条件なのだろう。

世の中にはこうした甘い服を好む女子は多く、年齢を重ねても、この趣味からなかなか離れられない人もいるようだ。私が思うのに、女性が可愛いさを求め続けるのは、ある種本能的なことで、理屈ではない気がする。

 

女性だけではなく、男にも「甘い服好き」は多い。バイク呉服屋も、その一人である。うちの奥さんも、若い頃から「甘服」を選ぶことが多かったが、その趣味は、私の好みと合致していた。しかし年齢が上がるにつれて、可愛いだけの雰囲気は自然と避けるようになる。「娘達から、イタイと言われないようにしなくては」とよく言っていた。

けれども女性として、可愛さを追求することを止める必要は無いと思う。例えば、プリーツスカートやフレアスカートには、ふわふわした女性らしい、可愛い印象が残るが、色目をモノトーンや深い色にすれば、年齢が上がっても「イタイ姿」にはならない。こうした可愛さと大人っぽさを、センス良く融合すると、ちまたで「大人可愛い」と呼ばれる姿になるのだろう。

 

さて洋装だけでなく、和装においても、可愛い色や図案を好む方は結構おられる。そしてバイク呉服屋自体が、「極端に顔と反比例する可愛いモノ好き」なので、扱う品物は当然「甘いキモノや甘い帯」が多くなる。うちのような小さな店でも商いが成り立つのは、こうしたお客様と店主の「趣味の合致」があるからこそ、である。

そこで今月のコーディネートでは、大人でも装いたくなる「甘い姿」をご紹介してみよう。クリスマスも近いので、そのイメージもコーディネートに取り入れてみた。

 

(スウェーデン刺繍模様 紬八寸帯・帯屋捨松)

キモノや帯の文様には、年齢を制限するものは何も無い。しかしながら、あしらわれるアイテムによって、偏りのある図案は、ある程度存在するように思われる。例えば、手鞠や糸巻のような玩具や特定の器物モチーフは、子どもの祝着や祝帯に用いられることが多く、玉熨斗や揚羽蝶などは、振袖の意匠としてよく使われる。

だがこうした可愛い印象を持つ図案でも、配色や構図を変えたり、文様をデザイン化することによって、落ち着いた雰囲気を持たせることが出来る。なので文様そのものは、着用する年齢に関わりなく、何でも使えるのだ。

 

だから、基本的には年齢によって、使えない文様や色は無いのだが、一昔前までは、着用する本人が「年相応の色や模様」を自分で決めてしまい、選ぶ品物の範囲を狭めていたケースが多かった。だが最近では、そうした制限を取り払い、自分の意思に従って、自由にモノ選びをする方が大多数を占めている。特にカジュアルモノには、その傾向が色濃く表れている。

ということでお客様方からは、可愛い色や図案の品物でも、年齢に関係なく求めて頂けるようになった。うちの棚に増えた「甘いキモノや帯」も、着用する方々の「モノ選びの意識変化」によって、求められる機会が格段に上がったのである。そんな「可愛いモノ好きの方」を意識したコーディネートを、これからご覧頂くことにしよう。

 

今日のテーマ、可愛い着姿を構成するために用意したのが、帯屋捨松の紬織八寸帯。この織屋の品物は、一目でここと判るほど、個性的な図案や配色のものが多い。以前捨松の社長から、意匠草案の中心となるのが、30代や40代の若い人だと聞いた。帯デザインのモチーフ選びや大胆な配色は、若い感性に裏付けされたものと言えようか。そしてそれが、捨松という織屋の「モノ作りの自由度の高さ」を示している。

今回選んだ帯は、スウェーデン刺繍を題材にした図案。同じ模様の白地と黒地。このように、同柄の色違いを仕入れることがたまにある。地色や配色が変われば、合わせるキモノも変わる。ただ白でも黒でも、これが「甘い帯」であることに違いは無い。

 

基本的なスウェーデン刺繡は、浮いている生地の布目を針ですくい、そこに糸を刺しこんで通して模様を作る「ダーニング」という方法であしらわれる。そして、布目の段を一段、二段と違えてすくうことにより、模様の表情を変える。布の目を数えながら、縦、横、斜めに糸を渡していくことで、左右対称の山型やフック型、さらに大小のクロス模様が生まれる。

刺繍でありながら、布に糸を刺すのではなく、すくって糸を通して模様を形成するために裏に糸が出ず、その作業は織物に近い。この布目すくいの場合、糸が抜けやすいので、失敗しても簡単にやり直しが出来る。そして図案は、単純なパターンの繰り返しなので、初心者向きの刺繍とされている。

模様は、二つのパターンで構成されている。一つは格子で、もう一つは風車や星を模した三つの図案によるもの。これを交互に帯巾いっぱいに織り込んでいる。配色は、ピンクやパステル系の明るい色。スウェーデン刺繍に用いる色も明るい原色が多く、規則的に付いているグラデーションが、模様の特徴にもなっている。

黒地の方は、模様の色が浮き上がって見えて、赤と緑のクリスマスカラーが前面に出てくる。地色が変われば、当然模様の配色も変わり、従って帯の雰囲気も若干変わる。白は清楚さが、黒は華やかさが際立つ。

いずれにせよ、こうしたピンクや赤を中心とした帯の配色は、着姿を明るく元気に映す。そして北欧的な図案からは、冬ならではの暖かさや楽しさが伝わってくる。これは否応なく、クリスマスが意識される意匠と言えるだろう。

では、可愛さ満載の甘い帯には、どのようなキモノを使えば良いのか。ある程度、装う方の年齢を広げられるような品物を選び、コーディネートしてみよう。

 

(薄ピンク色地 手機縞大島紬・奄美 伊集院リキ商店 廣田紬扱い)

(薄ピンク地 飛柄十字絣大島紬・奄美 伊集院リキ商店 廣田紬扱い)

華やいだ冬の街着に相応しく、しかも「甘さ・可愛さ」を印象付ける着姿とするには、キモノには、ポップな軽さと明るさが必要になるだろう。もとより、帯は目いっぱい可愛いデザインなので、これを思い切り生かしたい。

そこで思いついたのが、上の画像にある二点の大島。大島と言えば、泥染めの精緻な絣がまず思い浮かび、それはキモノに長けた方が好む渋い品物というイメージが付いて回る。けれども従来の大島とは異なる、都会的で軽やかなデザインや色目の品物がある。これなら若い方にも、気軽に着てもらえる。そして、大島独特の滑るような生地感と、着心地の良い軽い風合いを楽しんでもらえる。こんな品物なら、きっと大島紬を身近に感じてくれると思う。

どちらも、奄美の組合証紙が付いている本場の大島紬。織屋は、モダンで明るいデザインの品物を多く織り上げている伊集院リキ商店。扱いは廣田紬である。甘い品物好きのバイク呉服屋にすれば、伝統的な柄行きの大島は好みではない。従来のイメージを離れた、こんな軽やかな意匠ならば、自分のコンセプトに合う。では捨松の帯と合わせて、甘い着姿を作ってみよう。

 

少し太さのあるストライプの大島には、白地のスウェーデン刺繡帯。選んだ二点の大島のうち、こちらの方が地色が濃い。また、縞が強調されているキモノなので、帯地は白の方が着姿がすっきりとまとまる。

前姿。通し柄なので、中心に格子を出すか、あるいは三つ並んだ模様を出すかは、自由に調節出来る。可愛い着姿ではあるが、かといってそれが若い人に限定されるものでもなさそう。甘い姿を好むなら、年齢は問わず装えるだろう。洋服では難しいことでも、キモノ姿では許される。和装には、そんな不思議な力があるように思える。

小物は、より甘さを強調することを考えて、赤を基調にしてみた。また、クリスマスっぽいコーディネートでもある。これを、もう少し色を抑えた藤紫あたりにすると、落ち着きが出てくる。小物の色を調節することで、甘さを抑えることが出来る。ここは、工夫次第。(真紅色冠帯〆・牡丹色帯揚げ どちらも今河織物)

 

大きく地を空けて飛んでいる十字絣なので、地色の薄いピンク色が着姿の中心。優しくておとなしいキモノなので、黒地でインパクトを付けると、可愛さが出てくる。無地っぽいキモノだと、なお帯の華々しさが生かせる。いずれにせよ、このスウェーデン刺繡帯だと、キモノは単純な図案や、無地感覚の方が合わせやすい。

甘さの残る大島の薄いピンク地には、黒地に濃いピンク格子の前模様が、良く合う。また、キモノの所々にあるピンク十字絣と帯の色がさりげなくリンクしているので、それもお洒落に映る。

こちらもクリスマスカラーを意識して、緑を使ってみた。帯〆は深みのある松葉緑で、帯揚げは蛍光カラーの黄緑。白地帯と同じように、赤系の小物も使いたくなる。   (松葉緑色冠帯〆と黄緑色帯揚げ・どちらも今河織物)

 

今日は、冬に楽しむ街着をテーマにした、甘い帯のコーディネートをご覧頂いた。

カジュアルモノを選ぶ時、最も重要なのは、「着たいか、着たくないか」であり、自分の感覚として持っている「好き嫌い」で判断すべきと私は思う。派手とか地味とかを意識せず、そして年齢的に相応しいか否かの問題でもなく、とにかく「着てみたい」と思うモノを選ぶことが全て。皆様には、他人の意見に左右されず、自分の意思を貫いて、それぞれのキモノライフを楽しんで頂きたい。

では最後に、今日ご紹介した品物を、もう一度どうぞ。

 

酒の飲めない下戸のバイク呉服屋は、当然甘いモノ好き。そして同時に「甘いキモノ」も、大好きです。

家内によれば、「あなたほど、品物とミスマッチな人はいない」そうです。そしてそもそも、「呉服屋の中に坐っているから、呉服屋の主人と判るけど、そうでなかったら、何を生業としているか判らないほど、怪しさ満載」だそうです。

人は、見かけによらない「意外性」こそが面白く、ありきたりになってはつまらない。私は、そう思うのですがね。今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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