バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

大胆な鬼シボちりめん小紋で、秋羽織を誂えてみる  菊と葡萄模様

2021.11 03

霜は、放射冷却によって地表の温度が零度以下になった時に、空気中の水蒸気が固体化し、氷の結晶となって降りてくる現象。これは気温が氷点下ではなく、3~5℃程度であっても、風のない良く晴れた日では、地表の熱が奪われて霜が降る可能性がある。

農作物に霜が降りると、中の水分が凍って栄養が行き渡り難くなり、果ては枯れてしまう。だから、翌朝に霜が予想されそうな時には、霜注意報を出して農家に注意を促す。朝の冷え込みが厳しくなるこの時期には、霜の降りる頻度もより高くなる。

今年は先月の23日が、二十四節気の「霜降(そうこう)」にあたり、暦の上で、朝霜が降り始める時期。そして11月の別名は、霜月(しもつき)である。これから季節は、足早に晩秋から初冬へと移り、都会の街中でも街路樹が色づき始める。

 

東京の11月の平均気温を調べて見ると、初旬が17℃前後で、下旬が12℃。平均すると15℃くらいに落ち着くが、このあたりの気温が、コートを必要とするか否かの目安になるようだ。

和装にあっても、11月の声を聞くと上に羽織るものが欲しくなる。特に街歩きでは、帯付き(羽織やコートを着用しない姿)だと、どことなく寒々しく感じられてしまう。そこで今日は、最近依頼を受けて誂えた「秋冬向きの羽織」をご紹介してみよう。今回の品物の特徴は、ぽってりとした鬼シボちりめん生地を使っていることと、思い切りの良い大胆な図案で構成されていること。羽織の格好良さを、少しでも皆様に感じて頂けると良いのだが。

 

考えて見れば、昨年の12月の稿でも、大胆な小紋で作る羽織姿を提案している。やはり寒くなってくると、カジュアルの場で羽織は、欠かせないアイテムとなる。今年も昨年同様、世の中は自粛ムードに満ちていて、様々な場面で和装を嗜む機会が削がれていたが、昨今ようやく疫病の蔓延が下火となり、外へ出掛けることに対する躊躇が少し弱まった。

ようやく親しい人に会ったり、食事を共にすることも出来ると思えるが、そこで久しぶりに、キモノの袖に手を通す方もおられるだろう。今年は10月に入っても、夏の延長のような暑い日が続いていたが、先月中旬から急に冷え込みが強くなり、季節は一足飛びに冬へと進んでしまった。そしていつか知らぬ間に、羽織姿が似合う季節を迎えた。

 

昨年の稿にも書いたが、小紋の中にはキモノよりも羽織に向く意匠がある。向くというよりも、「羽織でなければ装うことが難しい柄行き」と言った方が良いだろうか。今回ご紹介するのは、そんな飛び抜けた図案の羽織。生地は重みのある大シボちりめんで、羽織るとぽってりと、そしてゆったりとした質感を感じ取れる。

こうした羽織姿を見た人は、その後姿の格好良さに魅かれることが多い。また前姿からは、合わせるキモノや帯の組み合わせにより、季節の深まりを感じ得ることもあるだろう。今回ご紹介する品物のモチーフは、菊と葡萄。どちらも、木枯らしの季節に相応しい羽織姿を演出出来るように思う。

 

(鬼シボちりめん 黒地 大菊葉飛柄 小紋羽織・トキワ商事)

一口に羽織向きの小紋と言っても、特別に定義や規則がある訳ではないが、やはり目安となるものは、模様の大胆さかと思う。キモノで着用するには、少し気が引ける大きな図案、あるいは思い切った位置取りや配色。この「少し飛び抜けた意匠」こそが、インパクトのある羽織姿を生み出す。

この小紋は黒地で、モチーフは大きな菊の葉だけ。一枚あるいは二枚の葉を切り取り、ランダムに配置。飛模様だけに地の黒が目立ち、模様が引き締まった感じになる。キモノとして着用するには、かなり躊躇される個性的な意匠である。

大きな葉は、型染疋田であしらわれている。色は柔らかみのある黄土。葉脈と伸びた蔓は白で、極めてシンプルな配色。だからこそ、黒の地から模様がいっそう浮き立つように見えて、大胆な意匠がなお強調される。模様だけを見ていると、その個性に圧倒されてしまう。

けれども羽織として使ってみると、後姿でも前姿でも、その存在感は群を抜く。見る人が、思わず振り返りたくなる斬新な模様。キモノ姿では、玄人筋にしか使えそうも無い意匠も、羽織であればこそ、一般の方にも使えるようになる。

羽織として誂えた後姿。一枚葉と二枚葉を対角線に配し、模様の間隔もほぼ等しく取って、全体のバランスを取る。もちろん両袖にも、位置取りを変えて葉模様を出す。飛柄だけに、仕立てる際の模様設計によって、見え方が変わる。飛柄小紋は、キモノにしても羽織にしても、模様の位置取りが難しく、呉服屋の誂えのセンスが最も問われるアイテム。こうした品物を上手く作るには、和裁士との連携が重要になる。

こちらは前姿だが、後ろと同様に、たて衿や身頃、袖にバランスよく葉模様を置いている。一つの図案がかなり大きいので、模様と模様の間を等しくしておかないと、重苦しい姿になってしまう。黒の地を生かすために、どのように模様を置くべきか。かなり悩んだものの、こうして改めて画像を見た限りでは、何とか上手く出来た気がする。

羽裏の地色は、葉の黄土色に近いベージュで、萩や波、また兎に青海波を丸文で取り込んだ面白い図案。着姿から見えないが、羽裏には、着る人のこだわりが表れると思う。裏がピタリと収まる図案なら、誂えの出来映えはより美しくなる。

先日、この羽織を誂えた方が、着用して店を訪ねられた。合わせたキモノは黒地に赤い胡麻柄の江戸小紋で、印象は、小粋にして洒脱。とにかく「格好良さ」が光る着姿だった。個性的な図案とともに、重みのある鬼シボちりめん生地が、羽織る姿をより美しくする。そして、他の色では醸し出せない黒地特有の重厚さも、十分に感じられた。

 

(鬼シボちりめん 銀鼠地 葡萄模様京紅型 小紋羽織・栗山工房)

以前、「呉服屋女房の仕事着」としてもご紹介したことがある、栗山工房の紅型小紋による羽織。反巾いっぱいに広がった模様のあしらいと、思い切りシボを付けたちりめんを生地に使うのが、この工房が作る「羽織向き小紋」の特徴。

先ほどの菊葉小紋同様、こちらの葡萄模様にも、葉や実を白い点で表現した型染疋田の加工が見られる。どうやら、大模様に染疋田のあしらいを組合わせると、羽織の装いに相応しい品物となりそうだ。

画像を大きくすると、ちりめん生地のシボ感がよく判る。柔らかい銀鼠の地色だけに、表面の小さな波状の凹凸が光に反応して、特有の表情となっている。このような生地をキモノで使うと、時によれば着姿が「重すぎる」ようにも感じられるが、羽織では、重みで下へと垂れる姿が自然に受け入れられる。大シボちりめんと羽織の相性の良さは、こうした生地の特徴も関わっている。

誂え終えた後姿。出来上がってみると、総柄と飛柄の中間のような模様姿に思える。緑・青・紫の葉と実、白抜きの疋田で描いた葉と実、双方を蔓で繋ぐ。挿し色のある図案だけだと飛模様に見えるのは、疋田が白だから。

地色が銀鼠色なので、そこに白く抜けた模様あしらいを加えると、やはり雰囲気は優しくなる。最初の黒地菊葉羽織とは、対照的な風情。

地色と模様の配色のバランスが良いので、合わせるキモノの地色や模様は、小紋でも紬でも、選ぶことなく使えそうな気がする。「使い勝手の良い羽織」とは、こうした意匠なのだろう。

全体に明るさの残る意匠だけに、羽織としても寒々しさを感じさせない。秋冬なので、深みのある重い図案も良いが、少し軽やかさを残す優しい小紋も、また違った良さを着姿に見せる。なおこちらの羽裏は、クリーム色地に少し大きめな薄茶の染疋田雪輪。表の雰囲気と同様、裏地も柔らかみのある柄行き。

 

最後にもう一点、昨年12月にご紹介した大菊小紋が、やはり羽織として誂えられたので、簡単に画像でご覧頂こう。(鬼シボちりめん 団栗色地 大菊柄小紋羽織・菱一)

団栗色の地が、秋らしい。ほとんどが白抜きで、所々に朱と芥子の菊花が見える程度。この小紋にも、前の二点同様に型染疋田を一部の模様に使っている。反物で見れば、反巾を大きく使ったかなり大胆な図案に思えるが、羽織で誂えると、「大きすぎて困る」という感じは全くしない。

この羽織は一つ一つの図案が大きいこともあり、総模様の華やかさがよく表れている。模様の少ない渋い泥大島とか、無地感覚の強い江戸小紋や飛柄小紋に合わせると、よりこの大きな羽織模様が印象付けられるだろう。仕上がった姿を見ると、やはり地色と模様双方で、季節の深まりを感じとれる羽織かと思う。

これからの季節、カジュアルの場で大いに活躍する羽織。その模様姿には、様々な個性があり、羽織でしか着用出来ないと思える図案も沢山ある。皆様には、「羽織る楽しみ」を見つけられて、寒い季節の装いの場を広げて頂きたい。今回の小紋羽織姿が、少しでも着用される方の参考になれば、嬉しい。

 

先月下旬に一週間仕事を休んでいたために、少しブログの更新が遅れてしまいました。毎年、この間はほとんど携帯電話も繋がらない隔絶した場所にいるので、旅から戻ると現実の生活に馴染むのに、少し時間が掛かります。家内によれば、毎年半月程度は、ほぼ「抜け殻」になっているそうです。

11月は霜の降り始める月ですが、北海道の大雪山系では、すでに冬。今日は最後に、そんなモノトーンの世界を、下手な写真でご覧頂くことにしましょう。こんな風景の中で佇んでいれば、きっと誰もが、現実の生活を忘れてしまうと私は思います。    今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

北海道・旧国鉄士幌線 幌加駅跡。

同じく士幌線遺構 第5音更川橋梁。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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