バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート(前編) 花火鳴らぬも、浴衣掛け・不易編

2021.06 20

夏のスタミナ食といえば、何を差し置いても鰻。ビタミン類や鉄分、亜鉛など、夏バテを解消する栄養素を豊富に含む。鰻屋の軒先からは、たれを浸けて焼く香ばしい匂いが漂ってくるが、この脳天を突き刺すような食欲をそそる香りには、思わず暖簾をくぐってしまいたくなる「強烈な力」がある。

夏に鰻を食す日となれば、江戸の昔から「土用の丑の日」と決まっている。土用とは、二十四節気の立春・立夏・立秋・立冬の前の18日間を指すが、つまりは、この時期が季節の変わり目に当たる。丑とはもちろん十二支の丑のことだが、土用18日の中で丑にあたる日は、一日か二日。ちなみに、今年の土用の丑は7月28日。季節ごとに土用はあるのだが、鰻を食べるのは「夏の土用」に限られている。

 

では何故、この日に鰻を食べるようになったのか。夏の土用の頃は暑さが最も厳しく、体の消耗が激しい。現代のように空調設備も整っていない時代、人々はその解消策として、「う」の付く食べ物=瓜や梅、鰻などを摂るようにしてきた。そんな風習が、今に伝わって生きていると言われている。

また江戸の中頃、流行らない鰻屋の主人が、江戸の奇才・平賀源内に「どうしたら店が繁盛するようになるか」と相談に行ったところ、店先に「本日丑の日」と書いて貼れば良いと指示を受けた。すると、それを見た人が次々に店に入り、この鰻屋は繁盛店になったと言う。蘭学者、医者、天文家、発明家、浄瑠璃脚本家、俳人と幾つもの顔を持つ天才・平賀源内が絡んでいるだけに、この逸話は、あながち嘘とも言えないだろう。

 

ひと夏に、一度くらいは食べずにはいられない鰻。だが、少し不思議に思うことがある。それは、鰻を焼くたれのことだ。鰻屋の中には、「創業以来継ぎ足してきた」と、熟成度を売りにする店があるが、何故、何十年もの間、衛生状態が保たれるのだろう。

店によれば、たれは、頻繁に火を入れて加熱しているため、自然に殺菌されていくと言う。また焼いて高温になっている鰻を浸すため、それだけでもたれの温度が上がる。そしてそもそも、糖分や塩分を多く含むために、腐り難い性質がある。こうした様々な理由から、「継ぎ足しのたれ」を使い続けることが出来るらしい。たれの味は、鰻の味を左右する大事な要素。店にとっては、たれを守ることが、店を守ることにも繋がる。

 

さて「継ぎ足す」ものは、鰻屋のたればかりではなく、バイク呉服屋にもある。それは、浴衣だ。毎年浴衣の仕入れは、前年に売れた分だけ、継ぎ足して入れるようにしている。在庫は、コーマ、綿絽、綿紬と竺仙の主要な浴衣だけで、70反。その他に綿紅梅・絹紅梅・中形小紋・奥州小紋など、夏キモノの範疇に入る高級浴衣を15反ほど。夏前に棚に並ぶ数は、毎年ほぼ変わらない。

昨年までは、年により上下はあるものの、コンスタントに浴衣を仕入れてきた。しかし、である。昨春から始まったコロナ禍は、夏モノの売り上げを簡単に吹き飛ばし、昨年の品物は、ほぼそっくり残ってしまった。私としても、やみくもに在庫を増やす訳にも行かず、今年の浴衣仕入れは、本当に「申し訳程度」になってしまった。

 

毎年6月にご覧頂く、浴衣のコーディネート。使うのは、その年に仕入れた新しい品物が中心だが、残念ながら今年はそれが無い。そこで、継ぎ足し続けた浴衣在庫の中から、品物を選んでお目に掛けようと思う。中には、一度ご紹介したものもあるが、合わせる帯を変え、コーディネートとして再登場させることとした。

言い訳がましくなったが、そんなこんなで今年も、浴衣コーディネートを楽しんで頂こうと思う。昨年は「祭り止むとも、浴衣掛け」だったが、今年は「花火鳴らぬも、浴衣掛け」。こうした後ろ向きのテーマは、何とか今年限りとしたいものだ。前置きが長くなったが、始めることにしよう。

 

紺抜き・白抜きは、竺仙の伝統的浴衣。模様も、江戸以来の図案を踏襲している。

継ぎ足しで仕入れている浴衣ではあるが、基本的に模様の雰囲気が変わることは無い。そもそもモチーフになるものには、限りがあり、また図案のあしらい方も、ある程度定型化されている。そして、白地に褐色の染抜きか、その逆の褐色に白の染抜きが、伝統的な江戸浴衣の基本。もちろん挿し色の入る「玉むし(竺仙での、多色使い浴衣の呼び方)」もあるが、スタンダードな品物にこだわれば、どうしても、色の気配のないシンプルな浴衣が多くなる。

そして型紙とは便利なもので、同じ図案でも、生地目をコーマから綿絽、あるいは綿紬に変えただけでも、また地を白から紺に変えただけでも、品物の雰囲気は大きく変わる。もちろん、挿し色を入れることも出来る。先ごろブログで取り上げた江戸小紋の型紙同様、破損しない限り、いつまでも使うことが出来る。浴衣を染めるにあたっても、型紙は命である。

例年のように、浴衣のコーディネートは二回に分けてご紹介する。ワンパターンではあるが、江戸の伝統を深く感じさせる粋な意匠と、古典模様を少しデザイン化して若い感覚に寄り添った意匠とで、品物を分けてみた。今日は、江戸クラシカル編。

 

(褐色地 アザミ模様・綿絽浴衣  萩色 琉球ミンサー・木綿半巾帯)

浴衣は、こじんまりした図案よりも、大胆にあしらった模様の方が、着映えがする。通常では気が引けるが、浴衣なればこそ、着たくなる大きな模様もある。この大アザミの意匠も、その一つ。

アザミがキモノのモチーフとなったのは、江戸以降のこと。夏秋に使う植物文の中では、比較的新しい。刺のあるギザギザした葉と、針のような花弁が特徴的で、どんな描き方をしても、一目でこの花と判る。花弁は鮮やかな赤紫で、夏花としてはとても目立つ。目立つがしかし、人を寄せ付けない。そんな、凛とした女性の夏姿に相応しい図案だろうか。

帯色は、アザミの花色と同じ系統のピンク色だが、少し色を押さえた萩色(萩の花色)にしてみた。浴衣が大きな植物模様なので、帯は無地場の多いシンプルな琉球帯で。真ん中の「五つ玉ミンサー絣」が、前姿のポイントになる。

 

(白地 雪輪連ね・綿絽浴衣  生成色地 縦縞に横段・麻八寸名古屋帯)

竺仙の昨年の代表柄、綿絽の雪輪模様。いつもの年なら、ポスターに採用された品物が売れ残ることは、ほとんど無いのだが。もちろん昨年の稿でも取り上げているが、今回は帯を半巾から八寸に変えて、改めてコーデネートしてみた。

ほぼ同じ大きさで、連なっている雪輪。紺染と白抜きになっている雪輪だが、その数はおよそ4:6で白が多い。そして二つの雪輪の配置が、あまり規則的にならず、うまく散らされていることで、模様のバランスが取れている。

雪輪や雪華(せっか)文のような雪の文様は、江戸期から盛んに、夏の意匠とされてきた。雪模様をあしらえば、着姿に涼しさが漂うという意味で始まったもの。それは現代でも、お洒落で小粋な夏模様となって続いている。

均等な細い縦縞に、二色の青磁色と芥子色で横段を付けた麻帯。横段を繰り返すだけのシンプルな名古屋帯だが、爽やかな夏色を上手く使っている。この浴衣も模様が密なだけに、帯は単純で良い。

綿絽のアザミと雪輪は、生地目からも図案からも、涼やかさが感じられる。江戸浴衣のシンプルさが、そのまま着姿の表情となって表れてくる。飽きの来ない、大人の浴衣と言えるだろう。

 

(褐色地 団扇に秋草・コーマ浴衣  白地 五弦献上縞・博多八寸帯)

団扇と秋草文という、浴衣図柄としてはまさに「鉄板」のスタンダードな意匠。団扇は夏に欠かせない道具だが、浴衣以外では、ほとんどお目にかからないモチーフ。

この組み合わせに、挿し色はいらない。そして地色は白ではなく、深い褐色に白抜きだ。なぜならば、着姿をキリリと見せたいから。こんな浴衣を上手に着こなせる方は、普段からキモノ姿が板に付いている方であろう。

古典的な浴衣を、より古典的に装うためには、定番化された帯を合せる他は無い。浴衣と献上博多帯は、まさにそんな組合せ。けれども、こうして試してみると、他の帯にはみられない「風情」が感じられる。最近は、古くさいような気がして、あまり提案してこなかったが、やはりピタリと収まっている。まさに、温故知新である。

 

(白地 萩流水に源氏車・コーマ浴衣  ベージュ地 荒磯模様・博多半巾帯)

コーマの白地は最も浴衣らしい浴衣で、「湯上り着」の雰囲気を醸し出す。昔はこれを日常的に寝間着として使っていたが、今そんな方は、まずいないだろう。夜具っぽくなりやすい白地は、帯の選び方次第で変えることが出来る。

流水と源氏車を複合させ、空いたスペースに萩をあしらう。画像を見ても、流れのある模様になっている。萩や流水は、薄物のモチーフとしては定番。そこに貴族的な車文・源氏車を加えることで、模様に古典的なイメージが生まれる。

そこで合わせに考えたのが、この「荒磯文」の半巾帯。この文様は、15世紀初頭に中国・明からもたらされた、名物裂・緞子生地の中であしらわれたもの。鯉に似た魚が、波の上で飛び跳ねている図案は、季節を問わず、様々な品物の意匠として使われている。ただ水に関わる図案だけに、やはり薄モノに使うことが多い。

昔ながらの浴衣を、昔ながらの帯で合わせたコーディネートだが、安心して装える組み合わせ。最近、こうした落ち着きのある浴衣姿は珍しく、逆に新鮮に映る。

 

(白地 桔梗流水・綿絽浴衣  空色濃淡・麻無地半巾帯)

浴衣に限らず、流水は薄モノには欠かせない図案で、様々な夏植物や鳥、魚と複合させて文様を形成する。どの意匠も、水の流れにそって模様をあしらうので、自然と全体に動きが出てくる。この桔梗図案にも、それが感じられる。

桔梗の色は、白と少しグラデーションの付いた藍。褐色より柔らかい青を使うことで、雰囲気は柔らかく優しくなる。同系色のほんの少しの違いで、模様姿が変わってくる。この辺りが、キモノの挿し色の面白くて不思議なところ。

涼し気な桔梗流水を、よりスカッとみせるためには、水色系の帯が効果的。それも、余計な模様の無い無地モノを使うと、着姿が潔くなる。シンプルイズベストの典型。

 

(生成色地 雪輪に千鳥流水・綿紬浴衣  藍色 横段濃淡・博多八寸帯)

流水とタッグを組む図案の中で、最も愛らしい千鳥模様。しかもこの浴衣は、生地全体の背景に雪輪を連ねている。水と雪と鳥の複合文で、これでもかというくらいに、涼やかさが強調されている。

地が生成色の綿紬で、模様が密になっているため、浴衣というより「夏キモノ」っぽく見える。配色が紺系の色だけなので、それに準じた色使いの名古屋帯を合せると、よりキモノらしくなる。

キモノも帯も、ほぼ同じ色の雰囲気を持つ。同系で合わせると、色が重なることで、着姿が少しくどく見えることがあるが、涼色グラデーションは、そんなしつこさを感じさせない。

流水模様と紺濃淡の配色。共通項のある二点のコーディネートだが、着姿の印象は異なるだろう。ただ、どちらも「青みのもたらす涼感」は同じだ。

 

(白地網代文・コーマ浴衣  赤茶地グーシハナウィ<串花織>・木綿首里織角帯)

最後に、男モノを一点。伝統的な男モノの意匠としては、直線や曲線を組み合せて作る幾何学文が主流。縞や格子の他に、籠目文や卍繋ぎ文、桧垣文などがあるが、この浴衣のように、竹や檜の皮を縦横斜めに交差させた姿を模した「網代(あじろ)文様」も、ポピュラーなもの。

幾何学文をあしらった男モノの色目は、女モノと同様、白に紺染め、紺に白抜きなど、白と紺の組み合わせが多いが、こうした明るい茶系の配色は珍しい。目立つ色なので、網代がお洒落な図案に見えてくる。

合せる角帯の色目は、網代の色と同系の赤茶。串花織とは、綜絖を使わずに、竹串を挟んで糸を浮かせて織り上げるもので、ご覧のように花織の図案は、帯地の上から立体的に浮き上がっている。コーディネートの考え方とすれば、模様が密なので、やはり帯は無地系のシンプルなものを使うと、きれいに収まる。

 

模様の基本は江戸トラッドだが、それぞれの色に、現代的なセンスが見受けられる二組の浴衣。少しだけ品物に凝った、個性的で大人の装いと言えようか。お洒落なご夫婦やカップルに、装って頂きたい組み合わせである。

今日は、七点の品物を使って、粋な江戸浴衣コーディネートを試してみたが、如何だっただろうか。次回は、若い方に向く品物を中心に、古典とモダンを融合させた、現代に相応しい組み合わせを試すことにしたい。

 

今年は、ほとんど継ぎ足されていない浴衣ですが、昨年に比べれば、まだ動きがあります。また浴衣に限らず、小千谷縮や絽小紋、そしてそれに付随した夏のカジュアル帯なども、求められる方がポツポツとおられます。

もちろん今年も着用の機会は見通せず、いつ出番が来るのかは判りません。しかしそれでも、薄モノの着姿に魅力を感じる方は、少なくないということです。夏モノを仕入れることは、リスクがあり、勇気も必要になりますが、専門店と名乗る限りにおいては、どうしても店先に欠かせないアイテムです。

来年は、少しでも浴衣や薄モノを継ぎ足せるように、何とか頑張りたいものです。今日も、長い話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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